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公的資金による巻き網船の大型化には、慎重であるべき その2

  • 2010-09-13 (月) 23:59
  • 日記
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現在の資源状態で、巻き網漁船を大型化しても、利益が出るとは思えないのだが、水産庁は、どのようなビジョンに基づき、漁船の大型化を進めているのだろうか。例として、すでに進行している波崎地区の取り組みを見てみよう。これらの取り組みをまとめているのは、白須敏朗前事務次官の駆け込み天下りを受け入れた「大日本水産会」である。大日本水産会のウェブサイトの片隅に、北部太平洋大中型まき網漁業地域プロジェクト改革計画書がひっそりと公開されている。

http://www.suisankai.or.jp/gyogyou/hasaki-keikaku.pdf

この取り組みの主目的は、網船に探索船と運搬船の機能を持たせることで、4隻の船団を3隻に減らしてコストを削減することとなっている。船の数は減るのだが、網船の大型化により、船団規模は、696トンから、734トンに増加する。今ある運搬船をそのまま温存し、大型化した網船にも運搬船機能を付加する計画なので、港に持ち帰れる魚の量は増える。計画書では、水揚げ重量を5%減らすことになっているので、船倉を拡充する必要は無いはずである。これでは、省エネを名目にした、漁獲能力の拡大ではないだろうか。

取り組みの効果としては、「高付加価値製品の生産に取り組むことにより、販売、加工等流通関連産業と一体となった改革が期待される」、「高鮮度漁獲物等ブランド製品の流通により、消費者に対し安心、安全な食材の供給が図られる」と、記述されている。計画書の水揚げ量と水揚げ高から、水揚げの単価を計算してみると、現状で1kgの単価が54.6円に対して、改革後の単価は54.9円。たったの0.3円の改善でしかない。改革後の魚のkg単価が55円というのは、養殖の餌にしかならないような最低の品質の魚の相場である。高付加価値やブランド化など論外である。この計画に27億円もの公的資金を投入する価値があるとは思えない。むしろ、この船団を減船すれば、日本の食卓にも並ぶ500g以上のサバの水揚げが増えるだろう。

現状 改革1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
水場量(t) 15,000 14,250 14,250 14,250 14,250 14,250
水揚高(千円) 819,000 780,000 781,000 782,000 783,000 783,000
単価(円/Kg) 54.6 54.7 54.8 54.9 54.9 54.9

儲かる漁業創業支援とあるが、いったい誰が、どの程度のスパンで儲かるのだろう。すでに採算がとれていない乱獲漁業を税金で延命しているだけではないか。今もとめられている水産政策は、魚の価値を高めることで、資源管理による一時的な漁獲量削減に耐えられるような経営体の創出である。薄利多売をしている船団が、漁獲量で勝負をするのをアシストしても、長い目で見れば、漁業の衰退を早めるだけである。

Comments:3

kuro 10-09-28 (火) 16:50

マグロについて勉強している者です。今回の記事とは関係ないのですが、どうしても疑問に思ったことがあるので、もしご存知でしたらご教授いただけたら幸いです。

iccatの大西洋クロマグロの漁獲枠(約3万)の倍の漁獲(約6万)がなされていて、その無報告部分の多くが日本に流れてきているとの報告がなされていますが、日本の貿易統計では、せいぜい報告された漁獲量の重さくらいの量しかありません。

本当に日本に流れてきているのでしょうか?ということは密輸となると思うのですが、数万単位の密輸など、ありえないと思うのですが…。

統計が杜撰なのでしょうか?それか、単純に外国に流れているだけなのでしょうか?

長々と失礼しました。

勝川 10-10-01 (金) 11:23

kuroさん

自分で統計を調べるのはとても良いことだと思います。

大西洋クロマグロに関して、密輸はないでしょうね。
密輸をする必要も無いぐらい、日本市場は違法漁獲に対してオープンです。
また、税関の統計は正確ですよ。

大西洋クロマグロは日本まで運ぶときに、頭とはらわたを取り除いて冷凍します。
運送コストを削減するためです。
その際の、歩留まりは6割程度と言われています。
3万トン輸入と言うことは、原魚に直せば5万トンぐらいになりますね。

kuro 10-10-04 (月) 18:47

質問への返信、ありがとうございました。お礼が遅くなって申し訳ありません。

なるほど、輸送コスト削減のために頭とはらわたをとりのぞくのですね。勉強不足でした…。
しかし、違法漁業に対して寛容な市場とは…日本の責任も考えなくてはなりませんね。マグロ法、形だけ。

これからも、勝川先生の漁業に関するブログ、楽しみにしています。

本当にありがとうございました。

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