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日本で資源管理が出来ないのは、科学以前の問題

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IWCやCCSBTはOM的なアプローチは採用したが、資源管理が行われているわけではない。
これらの管理組織はサイエンス以前の問題を抱えており、
その問題を解決しなくては、科学的な管理は不可能なのだ。
IWCは、科学的な勧告に基づき捕鯨を行うという合意形成が必要である。
CCSBTは、各国が合意した漁獲枠を遵守しているかどうかのチェック機構が必要である。
これらのハードルをクリアしない限り、科学的なアセスメントの質を向上させても無駄だろう。
IWCやCCSBTの管理が破綻しているのは、資源評価の不確実性の問題ではない。
そのことを明らかにしたという点で、OMの採用は妥当であった。
OM的なアプローチが採用されていなければ、今でも泥仕合をしていた可能性が高い。

では、日本ではどうだろうか?
日本の国内漁業はIWCとCCSBTを足して2で割らないような惨状である。

科学的な勧告はまるで無視
科学者が設定した乱獲の閾値(ABC)を大幅に超過する漁獲枠(TAC)が慢性的に設定されている。
科学的な資源評価は全く無視されて居るも同然である。
IWCと同じように科学的な勧告に基づき漁業を行うという姿勢が欠如しているのだ。
現在の日本の漁獲枠は非持続的な乱獲を容認するものである。

漁獲枠超過を容認
そのゆるゆるの漁獲枠すら守れないのが日本の漁業関係者のモラルの低さだ。
北部大中巻き網漁業は、去年の2月にTAC枠の上限に達した後も漁獲を続けた。
2月末の時点で、TAC枠を6.6万トンも超過していた。
29万トンの漁獲枠に対して、6.6万トンの超過である。
この無法行為に対して、水産庁は次のような通達を出した。
http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/031401.htm

サバ類の採捕を目的とする操業を自主的に停止するとともに、
今後、このような事態が生じないよう改善措置計画を策定するよう求めた。

自主的な操業停止を求めて、それで終わり。
TAC超過を取り締まる気なんて、さらさら無いのである。
漁獲枠が埋まった時点でサバの漁獲を辞めた漁業者も居た。
その一方で、漁獲枠を無視してとり続ける漁業者も居たのである。
サバにちょっとだけアジを混ぜて「アジ混じり」といって水揚げをしたり、手段はいろいろある。
漁獲枠を超過してとり続けた漁業者には、何のペナルティーも無しでは、
まともにルールを守った漁業者は馬鹿馬鹿しくてやってられない。
日本の漁業者が、資源管理への意識が低く、非協力的なのは当然だろう。
水産庁のやる気の無い対応は、超過を容認しているのも同然である。


1)日本では、科学的な勧告を無視して、乱獲を許容する漁獲枠が設定されている
2)ゆるゆるの漁獲枠さえ、守られることができない
この2点から、水産庁に資源管理をする能力が欠如していることは明白である。
日本で資源管理が出来ないのは、資源評価の不確実性以前の問題なのだ。

この状況を変えるためにOMは何の役にも立たないだろう。 
日本の場合は、研究者の対立はほとんど無い。
科学的な議論をするようなレベルではない。
ほとんどの担当者は、平松さん作成のVPAマクロを使って計算をしている。
やっとやっと、一つのモデルを使って数字を出している現状では、
複数のモデルを比較する必要など無いのである。
モデルの設定は担当者にほぼ一任されており、
他の人は出てきたABCの値について文句をいうだけだ。
その値がでてくるプロセスについての議論はほとんど無いというお寒い状況では、
OMによる科学者の合意形成など必要ないだろう 。

Comments:3

業界紙速報 07-12-17 (月) 17:52

TAC制度に疑問の声

本日みなとのトップ記事です。おおむね、マサバ太平洋群のことが中心で、既報のとおり。と言いたいところでしたが、記事の最後に目を剥いてしまいました。曰く:
今後も北まき船団のTAC消化率が焦点だが、増枠後の北まき分のTACは公表されていない。水産庁TAC班は「参考事項として海区別の漁獲枠、消化率を把握している」とするが、海区別漁獲枠は「全国まき網漁業協会(全まき9が設定するもので、特に公表はしない」と説明。全まきは「団体別の漁獲枠は内部事項」、北部太平洋まき網漁連は「取材には応じられない」としている。

こんなことが罷り通るなんて、信じられません。太平洋広域漁業調整委員会もアリバイ作りに過ぎず、でかい声を出しているグループには追加でもなんでもありということでは、リードにあるとおり『業界の“不透明体質”も問題視』、いや問題視ではなく大問題ではないでしょうか。

匿名甘えヒト 07-12-18 (火) 0:59

科学以前の問題・・・

生活がかかっているからね。

それをなんとかするのが、現場研究者の仕事なんだろうな。

・・・巻き網とか、でっかい漁業はどーにもならないけど・・・大臣許可だから、地方はすっこんでろ、って言われたこともあるって、かつて上司に聞いたこともあるしね・・・

沿岸は、なんとか、理解してもらえるよう、がんばるぜ!

このブログを見てる、地方自治体の仲間たち・・・勝川氏に言いたい放題させないように、がんばろうぜ!!!

勝川 07-12-20 (木) 16:47

業界紙速報さん:
北巻きは、頭の固い研究者の保守的な資源評価の害悪を常々主張しているわけです。
本当にそう思うなら、正々堂々と社会にアピールすればよい。
にもかかわらず、取材拒否をするというのは、相当に疾しいのでしょう。

「都合が悪いことは全部秘密です」が通るわけ無いのが世界の常識です。
多額の補助金を受け取っている漁業では、なおのことです。
しかし、それが通ってしまうのが漁業の常識なんですね。

今までは問題提起すらできなかったのですが、
ようやく問題提起ができるようになりました。
時代は少しずつ良い方向に向かっていますが、
持続的な漁業への道のりは遠いですね。

匿名甘えヒトさん:

>科学以前の問題・・・
>生活がかかっているからね。

資源評価を無視していたら、後で生活が行き詰まるわけですよ。
生活があるからといって、将来を無視して良い理由にはなりません。

>それをなんとかするのが、現場研究者の仕事なんだろうな。

減る前に何とかしないときついですね。
がんばって何とかしてください。

>・・・巻き網とか、でっかい漁業はどーにもならないけど・・・
>大臣許可だから、地方はすっこんでろ、って言われたこともあるって、
>かつて上司に聞いたこともあるしね・・・

資源は共用なのに、ひどい話ですね。
ただ、でっかい漁業を何とかしない限り、
沿岸もじり貧確定でしょう。
地元の特産物と養殖しか残らないんじゃないかな。

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