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高木委員提言のどこが凄かったのか?

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漁業を取り巻く情勢の変化を肌で感じる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

その変化を引き起こしたのは高木委員提言なんだが、その影響はどこまで続くのか計り知れない。
水産関係者のほとんどは、髙木委員のポテンシャルを理解できず、影響力を過小評価していた。
楽にスルーできるはずが、あれよあれよという間に火の手が回り、狐に包まれたような状態だろう。
なぜ高木委員提言がこれほどの影響力を持ち得たのかを、未だに理解できない水産関係者のために、
高木委員提言のどこがどう凄かったのかを分析してみよう。

髙木委員提言の特色
髙木委員提言の意義は、水産系の企業のトップを集めた集団が、現状にNOと言ったことだろう。
名簿をみればわかるように水産関係の大きな企業のトップが集まっている。
組織のトップとしては、組織防衛を一番に考えるので、
こういう委員会として明確な方向性をもった提言を出すのは極めて困難だ。
とりまとめは並々ならぬ苦労があっただろうが、それをやり遂げたのである。

漁業関係者が高木委員提言を軽視した理由
難しい合意形成のプロセスを経てた髙木委員提言にはパッチワーク的な部分がある。
全体の整合性や、細かい部分の配慮などでラフな部分も少なくない。
減点方式でみていくと、提言の評価は低くなるだろう。
漁業関係者は、自分たちに気にくわないものは、すべて減点主義で、あら探しをする習性がある。
あらが見つかれば、それを理由に無視をすれば良いというのが彼らの発想だ。
● ラフな方向性を示しただけで、細かい部分まで詰めていない
● 漁業関係者の合意が得られていない
という2点をもって、漁業関係者は、高木委員提言に全く脅威を感じず、
無視していれば良いと楽観的に考えたようである。

ところが、髙木委員提言は、漁業関係者以外には、全く別の受け入れられ方をした。


漁業関係者以外への高木委員提言の効果
髙木委員提言は、外部の人間に漁業が深刻な問題を抱えていることを示した。
一方、漁業関係者は、提言に文句を言っているだけで、まともな対案ひとつ示せなかった。
これによって、水産庁にも全漁連にも漁業が抱える問題を解決能力が無いことが、
第三者の目にも明らかになり、外部からの改革への流れを決定的にした。
対案も出さずに、無視や反対を決め込んだことで、漁業関係者は墓穴を掘ったのである。 

髙木委員提言の引き起こした連鎖反応
1) 漁業には早急に対応すべき深刻な問題があることを外部に示した
2) 漁業関係者は問題に取り組む意欲も能力も無いことを外部に示した
3) 1)2)によって、外的な圧力によって漁業改革を進める必要性を明らかにした
4) 漁業をどう改革すべきかを議論する段階に突入した ← 今ここ!

髙木委員提言の真の狙いを推理する
俺は部外者なので、憶測でしかないのだが、
今にして思うと、髙木委員提言は漁業者を説得するためのものではなく、
外部から強制的に改革を進めるための仕掛けだったのでは無いだろうか。
そのことを見抜けない漁業関係者は、提言のあら探しをしただけで無視を決め込んだ。
それによって、自らが無為無策であることを示し、外部からの改革の必要性を明示した。
反対意見を出すだけで何もしないという漁業関係者の行動原理を利用して、
改革を軌道に乗せるというのは実に賢いやり方だ。
髙木委員が引き起こした連鎖反応は、偶然にしては上手くできすぎててる。
髙木委員の仕掛け人は、世の中の動かし方を熟知しているキレ者だろう。
世の中、頭のいい人っているもんだ。

高木員提言の価値は、その内容よりもむしろ波及効果にある。
そのことをに気づかない限り、髙木委員の真価は理解できないだろう。
髙木委員が起爆剤となり、すでに連鎖的な爆発が起こっている。
この連鎖がどこまで続くかはわからない。
爆発によって、日本漁業を縛る呪縛が壊れて、新しい漁業が出現するのか?
それとも漁業もまとめて吹っ飛んでしまうのか?
それは今後の漁業関係者の行動にかかっている。
ただ一つ言えることは、爆発前には戻れないと言うことだ。

盛 り 上 が っ て ま い り ま し た !!

Comments:2

業界紙速報 07-12-26 (水) 17:55

第二次答申案まとまる 規制改革会議
初の漁業規制緩和盛込む

またまた昨日の、水経一面トップです。記事の中身がなく、なんのことか皆目見当がつかない代物でした。ただし、記事本文よりも分量の多い【現場の声】なるコラム(署名入り)が付随していて、その論調が、高木委員会の提言が与える大きな影響を危惧するというもの。答申の中身よりも【現場の声】が詳細であるというわからない報道なので、疑問に思っていました。

さて、答申本文に当ってみると、4本柱の1つ「ア 資源管理の在り方の見直しについて」、氏は無邪気に喜んでおられるようであるが、自分で書いておられるこれまでの経緯を見れば、この部分で進展が図れるかどうか懐疑的にならざるを得ません。
次の「イ 参入規制意の緩和による新規創業の拡大について」、このなかの具体的施策のどこが規制の緩和なのか、さっぱり理解できません。特に、(ウ)漁業調整委員会における審議の厳格性の確保、には笑ってしまいます。ただし、(エ)や(カ)で言う漁業権・許可船舶の使用権の行使状況のオープン化(インターネット等で公開するということだと理解しますが)、これは、もし実施されれば、いけます!公開するだけでいいんです。ほかのどの項目より日本の漁業そのものを変えるかも知れません。
残りのウ、エについては理解の外のことで日本語なのかと思いたくなります。ただし、漁協の会計監査は全漁連が行っている、という文章には目を剥いてしまいました。折しも、本件記事の隣に「基金の保険てん補率8割に」という、水産庁の20年度新規予算の目玉である漁協欠損金処理対策についての記事があります。誰が監査をしていてそうなったのか、教えてもらいました。であるならば、本件記事の最後に、「実行力は伴わないが、意見として尊重する≪問題意識≫として、『漁協経営の透明化・健全化』については『漁協経営における監査については、……現在行われているJF全漁連の監査ではなく、公認会計士監査の導入が必要と考える』(尊重閣議対象外)とした。」と、恨みがましく書くことはなかろうに、と思ってしまいます。

【現場の声】にしても、「もともと地元で生活し、当然漁業で生計を立てている漁業者の現実的利害を尊重するという漁業法体系に基づいて、透明で合理的な仕組みが存在している。」だから、外部の企業が自由に参入しやすくする高木提言に危惧を覚えていらっしゃるようですが、おっしゃっているような「透明で合理的な仕組み」の下で明白に漁業が衰退しているわけですから、高木提言を危惧するのではなく、現状を打開する名案を提示しなければならない状況になっているのではないでしょうか?第二次答申にしても、なにがなんでもIQ、ITQにしろといっているわけではなく、メリット・デメリットについて、調査、分析、研究を行うべきだ、としているだけなんですから。

勝川 07-12-29 (土) 0:25

この記事は読んだけど、お粗末ですね。全漁連よいしょの提灯記事。
ニューファンドランドのコッドの崩壊は自然現象だと書いてみたりで、
漁業者にすり寄るのが好きなメディアなのでしょう。

>氏は無邪気に喜んでおられるようであるが、自分で書いておられるこれまでの経緯を見れば、
>この部分で進展が図れるかどうか懐疑的にならざるを得ません。

もちろん、これで全てが解決するとは考えていません。
枕を高くして寝られるような状況では無いことは理解しています。
ただ、これまでは、自滅的な漁業に対して、何を言っても無視されてきました。
気楽に無視できない状況を作れたというのは、大きな進歩なのですよ。
0点から30点になったとしたら、赤点でもうれしいではないですか。
今までの経緯を見ればこそ、赤飯を炊きたくなるような快挙です。

水産庁がここに書かれたようなことを公的に約束するというのは、以前では考えられません。
彼らが約束を守るかどうか、そもそも、約束を守るだけの能力があるかは疑問ですが、
約束を果たさなければ、それを徹底的に追求していきます。
適当な言い訳で煙に巻ける相手ではないことは、向こうも理解しているでしょう。
勝負は始まったばかりです。

>次の「イ 参入規制意の緩和による新規創業の拡大について」、
>このなかの具体的施策のどこが規制の緩和なのか、さっぱり理解できません。

このあたりは、一般の人にはわかりづらいですよね。
実は私も、説明を聞くまで何がなにやらでしたが、
説明を聞いてみると実にリーズナブルだと思いました。

資源管理がまるでできていない状況で、
経済価値が高いサイズの魚を作るには養殖しかないわけです。
その養殖に必要なのが、特定区画漁業権です。
漁業権の優先順位は、①漁業者・漁協等、②漁業生産組合等、
③普通の個人・法人、となっています。
企業が参入したくても、漁協が手を挙げれば参入できません。
「そこの海域はつかいます」と手を挙げるだけで、企業の参入は防げます。
これが極めて不透明な利権の温床になっており、
参入しようとする企業が袖の下を要求されたりという話も聞きます。
特定区画漁業権の98%が漁協によって確保されていますが、
そのうちどのくらいが利用されているのでしょうね。
何はともあれ、まずは、情報公開からです。
たぶん、ふたを開けてびっくりだと思いますよ。

また、世界の大規模化・企業化する養殖のなかで、
企業の参入が漁協によって規制されている日本は取り残されています。
これが果たして国益にかなうことなのでしょうか。
漁協はこのような特権的な地位に見合うような組織なのでしょうか。
この点で、議論を起こしていきたいと考えています。

>ただし、(エ)や(カ)で言う漁業権・許可船舶の使用権の行使状況のオープン化
>(インターネット等で公開するということだと理解しますが)、
>これは、もし実施されれば、いけます!
>公開するだけでいいんです。
>ほかのどの項目より日本の漁業そのものを変えるかも知れません。

もちろんネットでの公開を前提にしています。
特定の役所に行って手続きをしないとみれないのであれば、
公開しないのと大差がありません。
いつでも誰でもみれるようにする。
それによって、議論をしやすくするのが狙いです。
漁業もせずに既得権益を得ている人たちは大ピンチですが、
まじめに漁業を営んでいる人には影響は無いはずです。
なんで、そんなに反対するんでしょうね???

>……現在行われているJF全漁連の監査ではなく、
>公認会計士監査の導入が必要と考える』(尊重閣議対象外)とした。」と、
>恨みがましく書くことはなかろうに

実は一番争点になったのが漁協の経営状況の透明性なのです。
要するに、ここが相手の急所なのですよ。
農・林・漁と全てで強い抵抗にあって、後退を余儀なくされたのです。
恨み節というよりは、「あきらめてないよ」という意思表示です。

漁協には、多くの特権が与えられています。
その上、多額の公的資金が導入されています。
そうであるなら、一般企業以上に業務について報告する義務があるはずです。
当たり前のことをやるように要求しただけです。
ただ、ここまで過剰に反応するところをみると、
当たり前のことができないような内情なのでしょう。
内部のいい加減な監査で何とか帳尻を合わせているので、
第三者的な立場の公平な監査を受け入れられないのだと思われても仕方ないですね。

大量な補助金が漁協経由でばらまかれています。
補助金が適切につかわれているかどうか、疑問の声もあるわけです。
内容については全漁連が監査して終わり、ではお話になりません。
特権的な地位にふさわしい説明責任を果たすべきです。

漁協の経営状態は非常に悪いはずなんです。
信用事業や購買事業等の本業による収益は多くの漁協で赤字です。
これを事業外収入で賄い、全体として黒字にしているのが漁協の経営実態ですが、
その事業外収入はその他でまとめられて、内訳はわかりません。
その他で大きなウェイトを占めるのが、補助金と砂利採取と考えられています。
本業はうっちゃって、特権的なその他の業務にかまけているようにみえます。
そもそもの本業である「地域の漁業をアシストする」という業務に専念してもらいたいものです。

【現場の声】も酷いですね。
「透明で合理的な仕組みが存在している」なら、
情報公開によって世にそのことを知らしめればよいだけです。
なんで監査を身内がやらないといけないのか全くわかりません。
最低限の情報公開は当たり前の義務だと思うのですが、
それすらできないような末期症状だと自ら白状しているようなものです。

>第二次答申にしても、なにがなんでもIQ、ITQにしろといっているわけではなく、
>メリット・デメリットについて、調査、分析、研究を行うべきだ、
>としているだけなんですから。

IQやITQができるのは大臣許可の大規模な沖合漁業だけでしょう。
沖合の過剰漁獲を抑制すれば、
日本漁業全体の問題のいくらかは解決するでしょう。
北巻きの乱獲をしっかり取り締まって、
サバやイワシが沿岸でもとれるようになれば、
沿岸漁業の経営はずいぶん楽になるはずです。

何のための改革で、どのような漁業を目指しているのか。
その点を明確にしていく必要がありますね。
こちらには優秀なスポークスマンがいますので、
今後に期待していてください。

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