実践マニュアル スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか
アマゾンは品切れだけど、他の店には在庫があるみたいです。出版元から確認できます→こちら
チェルノブイリ事故を経験したスウェーデンは、どのような放射線防護をしているのかは気になるところだ。本書は、スウェーデン防衛研究所を中心に、農業庁、農業大学、食品庁、放射線安全庁が協力して作成した「プロジェクト・どのように放射能汚染から食料を守るか」(1997~2000年)の報告書の翻訳であり、オリジナルのスウェーデン語の報告書はここ。
結論から言うと、超お勧め。放射能の基礎知識から、防護の考えまで、一通り網羅されており、ものすごく勉強になった。ICRPのドキュメントよりもずっと読みやすくて、今まで読んだ中では、一般人に最もお勧めできる。残念ながら、アマゾンは在庫が切れているけど、待っていれば、入荷すると思う。
内部被曝関連の情報が多かったのが、嬉しい。また、食品への移行係数などの情報もあるので、消費者のみ成らず、生産者も読んでおくと良いだろう。
特に重要だと思う部分を抜粋した。より詳しく知りたい人は、本書を手にとってもらいたい。
1章 チェルノブイリ事故からの警鐘
チェルノブイリ事故の当時、スウェーデンではどのような混乱した状況にあったかを読み取ることができる。事前警告・警報システムや汚染対策を迅速に実施できる防災組織が機能しなかったという反省にたち、組織の役割分担などを見直している。3節 の「情報提供の重要性」には、次のように書かれている。
- 行政当局は、ときに、国民に不安をあたえることを危惧して、情報発信を躊躇する場合があります。しかし、各種の研究報告によれば、通常、情報発信によってパニックの発生を恐れる根拠は無く、むしろ、多くの場合、十分に情報が得られないことが大きな不安を呼び起こすのです。とりわけ、情報の意図的な隠蔽は、行政当局に対する信頼を致命的に低下させかねません。
- 行政当局が十分な理由を説明することなく新しい通達を出したり、基準値を変更したりすれば、人々は混乱してしまいます。
まさに、日本政府の対応そのものではないだろうか。過去の他国の失敗に学んでいれば、ここまで致命的に信頼を失うことは無かっただろう。また、十分な説明無く、食品の基準値を370Bq/kgから、500Bq/kgへ引き上げた。この引き上げによって、不信と混乱を招いたのだが、それだけの価値があったかどうかは検証すべきだろう。
2章 放射線と放射性下降物
ここは、放射能に関する一般的な説明。計算をするとこういう数値になるとは書いてある。けれども、「この程度なら無視できる」とか、「~よりも少ない(から、大丈夫だ)」というような、書き手の意見を押し付けるような表現が無い点が良い。驚いたのが、P54-56の食品の検査に関する記述。酪農農家の24人に1人の割合で災害対策名簿に登録してあって、災害の際はその一部から、牧草と牛乳の調査はするようだが、他は無いみたい。
- 放射性物質が降下した直後に放射線被曝をもたらす恐れのある食品は、牛乳のほかに放射能が付着した葉物野菜があげられます。葉物野菜に関してもサンプルを採取し測定するプログラムを整備すれば、放射能汚染の対策や被曝線量の推計を行う上で、役に立つでしょうが、測定費用が高くつく割りに、被曝線量の抑制にも余り繋がらないと考えられるため、実際にそれを行う根拠は乏しいとされています。
- 食肉用の家畜から、サンプルを採取し測定するための特別プログラムも、同じような理由から、国のレベルでは整備されていません。
- 国レベルの測定準備体制には、販売用の食品に含まれる放射能の測定は含まれていません。商品の放射能検査は、業界や食品加工企業が自らの責任で行うべきだからです。
「コストに見合わないから、牧草と牛乳以外は測りません。売り物は勝手に測ってね」というのは、日本で許されるとは思えないのだが、スウェーデン市民はどのような反応をしているのだろうか。
3章 放射性降下物の影響
主に、動物、農作物への移行や、ほこりや外部被曝の説明。
4章 基準値と対策 ~食品からの内部被曝を防ぐ有効な対策
食品基準値の変遷が書いてある。
- 1986年のチェルノブイリ事故後、個人がこの事故のために食品を通じて受ける被曝線量の増加分が年間1ミリシーベルトを越えないようにすることを目標としました。ただし、特定の状況に限り、事故後1年間は、最高五ミリシーベルトまでの被曝も容認するとしました。そして、食品庁はこの目標を達成するために、市場に流通する全ての食品に対するセシウム137の基準値を300ベクレル/kgと定めました。
- この後、スウェーデン人が一般的に少量しか食べないと判断された食品については、1987年に基準値が1500ベクレル/kgに引き上げられました。野生の動物やトナカイの肉とその加工品、野生のベリー類とキノコ類、淡水魚、そして、ナッツです。しかし、この引き上げは各方面から抗議を受けることとなり、その結果、特に食品庁などの行政当局は情報提供に尽力せざるを得なくなりました。
- 基準値引き上げの背景には、スウェーデンで行われた食品購買調査があります。この調査の結果、平均的なスウェーデン人が市販の食品から摂取する放射性セシウムが、1日当たりせいぜい約30ベクレルでしかないことが明らかになりました。つまり、放射線防護庁が定めた目標に比べると、相当低い値だったのです。
放射性物質を除去する方法についても細かい記述がある。
家庭における汚染対策についてのアドバイスでは、「市場に流通している食品を除選する必要はほとんどない」としつつ、自家栽培をしている場合については「実践的なアドバイスが必要となる」と指摘している。
最後に「戦略的行動が必要」であり、一般的な原則として次を挙げている。
- 現行法や国際的な取り決めに反した対策は行わない
- 急性の深刻な健康被害を防ぐために、あらゆる努力を行う
- 対策は正当性のあるものでなければならない
- 講じる対策は、なるべく良い効果をもたらすように最適化する
- 対策の柔軟性が成約されたり、今後の行動が成約されることは出来るだけ避けるべき
- 経済的に費用が高くなりすぎない限り、農作物・畜産物は生産段階で汚染対策を行う
- 一般的に大規模な投資の必要がない汚染対策を実行すべき
まとめ
基準値や検査については、「えー、こんなんで良いの?」と思う部分もあるが、情報公開やコミュニケーションの重要性については頷ける点が多かった。いろんな意味で参考になるとおもうので、一人でも多くの人に読んで欲しいです。
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Comments:1
- 伊藤公紀 12-02-13 (月) 0:54
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「スウェーデンは・・」、アマゾンにありました。さっそく購入しました。ご紹介ありがとうございました。
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