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無責任発言時代か 岩崎寿男 その2

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業界紙速報 08-05-16 (金) 17:57

4月28日、自主TACで資源保護という題目で、全国近海かつお・まぐろ漁業協会の明神会長が講演された記事が水経、通信に掲載されました。

これは高知、静岡、三重、宮崎の4県72隻のカツオ一本釣り漁業者が、自主的にTACを設定し漁獲量の総量規制を実施しているもの。一昨年までの5年平均の水揚五万二千トンを基準に、今年はTACを五万トンに設定。(ただし、昨年の水揚げは二万九千トンだという。)
明神会長によれば「(カツオ資源の現況は)データだけからは痛みがみえにくい。だが、現場では、ここ5年ほど一昼夜船を走らせても、群れにあたらないという話を聞くことも珍しくなくなった。… 水産業は通常の経済的常識と違い、採算を度外視した投資が必要な場合も多い。せっかく航行スピードの速い船を新造しても、少しでもそれを上回る船が出てくれば、投資の効果がゼロになるから。しかし、過剰なまでの設備投資競争が繰り返された結果、利益率は低下、燃油高騰も相まって、今はいくら獲っても採算が合わなくなっている。… 例えば、ある船は3年前の燃油費がオイル込みで年7000万円だった。一昨年は1億5000万円に急上昇。昨年は1億3500万円かかった。19年はムダに燃油を炊くと元が取れないことが分かり、船頭の判断で航行速度を落とした効果が出たもの。厳しい状況には変わりない。われ先に漁場へ急行するのではなく、10ノット程度に航行の速度を落とせば、燃油は3分の1程度の消費量で済む。エンジントラブルも少なくなるし、現場から過剰な競争を排除することで、コストダウンが図れる。」
そのため、本来なら譲渡性個別割り当て方式(ITQ)を導入し、「過度な競争」の早期排除を目指す予定だった。だが協会所属船の中から、「積極的な反対はなかったものの、消極的には反対の声が出ていた」「まずは全員が納得できる総量規制を実施。そして、将来のITQ導入も見据え、段階的に検討を行いたい」と、今後の方針を話した。

このような内容で、TAC有識者懇談会よりも大切な記事だと思っていましたが、氏に引きずられる形で懇談会について書いてしまって忘れていました(わたしが馬鹿でした)。
ところが、昨日ときょう、みなと新聞に「カツオ一本釣 IQ制度時代へ」というコラムで、明神会長に話を聞くと銘打って、同じ話が掲載されました。

昨日の記事のなかでは、「漁業者の漁獲努力、漁船機能の向上により、近年の水揚量の数字は目に見えて落ちておらず、研究機関などはカツオ資源が減っていないというが、漁場ではカツオの減少を目の当たりにしている。」という表現に、実に新鮮な驚きを感じました。きょうの記事では;
カツオがいれば獲れるだけ獲ってくる現行の操業のあり方を見直す必要がある。盛漁期になると、多い時で1隻当たり50~60トン水揚げする。… “大漁貧乏”は、オリンピック方式で獲る操業法の産物だ。漁師の仕事は、狩猟産業の側面が強く、現行法では漁業者同士で群を奪い合う。最も早く群にたどり着いた船は多く魚を漁獲できるが、2番手では全く獲れない時がある。速度など性能の高い船が漁獲競争で優位に立つため、漁師は採算を度外視し、船の設備に過剰投資する。見た目の生産効率は向上するが、利益率は低下していく。… 今後、漁船の速度を10ノット前後にすれば燃費は現在より半減できる。現在のように15、16ノットで走行していたのでは、そのうり経営が成り立たなくなる。漁船ごとに漁獲枠を設定すれば、限られた枠内で効率的に漁獲せざるを得ないため、今までのような無駄はなくなる。経営維持のためにも、IQ(個別割当)、またはITQ(譲渡可能個別割当)制度導入が不可欠だ。

先月28日にはわかりにくかった「過剰なまでの設備投資競争」のところがストンとわかりました。やはり、大変重要な内容であったと改めて認識し、お知らせする次第。まき網でも、「昔は巻くだけ大きなものが獲れたんだけど、ここんとこ、いくら頑張っても獲れるのはローソクみたいのばかりで儲けになりゃしない。」という風にはならないもんでしょうか?(カツオも一網打尽にしているんでしたっけ?)

ユウラ 08-05-20 (火) 11:16

>業界紙速報様
いつもコメント拝見させていただいております。
大学で合意形成の重要性という課題で研究しているユウラと申します。
毎回有意義な情報に関心いたしております。
だんだん日本にもITQの時代が来そうなニュースですね。

さて、ちょっと質問させていただいてよろしいでしょうか?

今回ITQの導入しようとした際に消極ながら反対があったということでしたが、その反対の一番の原因となったのはなにかはわかるでしょうか??
また、なぜ、TACだったら全員が納得言ったのでしょうか?

この記事だけではその部分が読み取れなかったのでその部分をご存知でしたらお答いただきだいです。

過去5年の平均をTACで行っているのでTACなら一番水揚げする両市には影響が少ないからでしょうか?

お読みであればお答頂いたら幸いです。

業界紙速報 08-05-21 (水) 18:11

ユウラ様え

ご質問にお答えできるような身分ではありませんが、業界紙のなかから書き出していないところを調べてみました。果たして答えになっているかどうかわかりませんが、明神会長(高知、明神水産会長;近かつ協の近海かつお漁業問題検討会の会長)のコメントを報告いたしましょう。

5月15日付みなと記事中のコメントに次のような件があります:
カツオ一本釣り漁業・明神水産で船頭を務める弟の話によると、近年5年くらいは一昼夜走行してもカツオの群れが見つからないこともあるという。シーズンになれば接岸してくるが、その来遊量は年々減り、漁期も短期間になってきている。
漁業者の漁獲努力、漁船機能の向上により、近年の水揚量の数字は目に見えて落ちておらず、研究機関などはカツオ資源が減っていないというが、漁場ではカツオの減少を目の当たりにしている。現場で働く漁業者からの要望もあり、近かつ協では資源管理措置に乗り出した。
ただ、カツオを釣るということは、漁業者の一つの心意気のようなもので、目の前のカツオを釣るなといわれると損得抜きにして抵抗があることも事実。今年は、漁獲枠設定とともに、IQ制度を提案したが、全員の賛成には至らず、総量規制で終わった。

以上で如何でしょう?お知りになりたかったところを小子が削ってしまったということでしょうか。

ところで、別の業界紙での会長コメントに次のようなものがあります:
近かつ漁船72隻で今年から5万トンのTACを始めた。18年までの5ヵ年の平均漁獲5万2千トンを基礎とした。しかし昨年の漁獲実績は2万9千トンだから獲れないと思う。
TAC設定には2回公取委に説明した。公取はやれともダメとも言わなかった。ただ消費者等から不都合があると言って来れば調査に入る。現実に資源や経営が説明通り悪いのなら国が対応しなければならない。これは行政の不作為と言いましたね。
72隻の中には反対者もいた。でもそう言える雰囲気ではなかった。自分としてはITQまで行きたかったが―
ITQの配分方法は、TACの半分を漁獲実績割。残りの50%を各船の戦闘能力で配分する。船齢、エンジンの馬力、乗組員数です。
加工にも手をつけているが、人間の生きるのに必要な食べ物を生産する仕事が続けられなくなるのはおかしい。そうウチがなくなってもいい。でも漁業、生産力は残ってほしい。だからやりたい人にはやらせればいい。その手段として漁獲枠の売買もいい。
(ちなみに、明神会長は漁獲、経営ともトップ級だということです。そのような人が自分のウチはなくなってもいいという覚悟でやっておられる、ということなのでしょう。)

さて、今回、ユウラ様から指摘を受けて、改めて関連記事を読んでみて思ったことを独りごちますと;
行政の不作為という公取の話は興味深いですが、公取自身も動き出すわけではないということで印象に残りませんでした、同じ穴の狢かと。
近海一本釣りの自主規制という話ですが、どこかでまき網がガンガン獲っているんじゃなかろうか、サバ釣りの二の舞なんてことになってほしくないなあ、と。
ABC算出のための基礎データには漁獲量があるんだろうけど、漁業者のデータから資源量を推定するのは非常に注意深い作業が必要なんだろう、と。≪漁業者は対象種がたくさん獲れるところで操業するものであるし恣意的にデータ操作しないとも限らない、そのほかに技術進歩の影響もあるなんて!だから、ABCを上回る漁獲をしてもなんにも困ることなんかない、なんて開き直られると呆れてしまう。ましてや、漁業団体の指導的立場であられる水産庁OBのお歴々が口を揃えてそんなことをおっしゃっているものだから、絶望してしまうのです。TAC有識者懇談会に(有識者である漁業者なんている訳ないとおっしゃりたいのかも知れませんが、やっぱり)漁業者の名前が見えないのは変だ、と申し上げたのもこういうことがあるからなのです。≫
カツオの資源は磐石といわれていますが本当だろうか、と。

勝川 08-05-26 (月) 16:24

明神会長の記事は興味深く読ませていただきました。
過剰競争のコストが具体的に記述されており、勉強になりました。
ITQの導入に向けて、こういう経済効果を解析する必要がありますね。

カツオも巻き網の漁獲が急増中です。
http://kokushi.job.affrc.go.jp/H19/H19/H19_30.pdf
のP2をみると、
ちょっとやばい感じですね。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/bw_uploads/img08052601.png

確かに漁獲量は高水準なんだけど、
FADsの導入などで漁獲効率が上がっているから、
現存資源量を切り崩している可能性もある。
明神会長の話どおり大型個体の資源量が悪化しているなら、
2~3年後には巻き網も減るでしょう。
その後が、どうなるかですね。
やはり巻き網の規制こそ重要だと思います。

ユウラ 08-05-27 (火) 11:34

>業界紙速報様
ご返答くださったのにお礼の文章を書くのが遅れてしまい申し訳ございません。
やはり興味のある事例ですね。
理解を深めるために後、少し質問を投げさせてください。

反論を言いたくても言えないような雰囲気があるというのは、72隻のうち、大多数が賛成だから言い出す雰囲気がなかったということでしょうか??
それとも明神会長のアツい気持ち(?)のようなものが伝わっており、そのために言い出せなかったのでしょうか?
もし後者なら、明神会長がリーダーシップを取った、という事例になるなと思います。

もう一つは、カツオをとるのは漁業者の心意気、という部分です。カツオ釣りは、いわゆる漁業者の生きがい、というニュアンスでしょうか?
ちょっと意味を間違えて取り違えたくないので質問させていただきます。

最後に、ラストの独り言の、漁業者は対象魚種がたくさんあるところで~~、というくだりについての僕の意見を述べたいと思います。
僕が以前漁業者にTACの意識調査を行った時に、マイワシの減少についての話を聞きました。
その漁業者さんによると、現場にいると、マイワシの減少は目に見えてわかっていたとのことなのです。
資源が本当に豊富な時は、それこそ海一面がイワシの群れのような状態でした。しかし。壊滅的に減少する2,3年前はイワシを探さなければ獲れなくなってきた(ちなみに、探せばいたので、漁獲量はかわらなかったみたいです)

この話を聞いたとき、現場のデータと行政がもつデータの矛盾点を探す重要性を知りましたね。

行政の不作為というのは実にその通りで、それを補うために、漁業者との協力体制の強化が大事だなぁと考えます。

業界紙速報 08-05-27 (火) 17:08

ユウラ様へ

小子は、業界紙を読んで目に付いた記事をお知らせしております。ひとつの事象についてなるべく複数の業界紙の記事を丸のママお伝えするように努力しています。一方、近海カツオ一本釣漁業者の方で小子が存じ上げているひとはおられませんし、もちろん明神会長も存じ上げておりません。したがって、業界紙が書いていないことまではわかりませんので、追加のご質問に小子がお答えすることはできません。

ユウラ 08-05-29 (木) 10:54

>業界紙速報様
あっ、業界紙の内部の方ではないのですね。
申し訳ございません。
自分で勝手に事情を知っている方だと勘違いしておりました。

この事例はとても興味もったので僕も聞き取りに行ってみようかなと思っています。

もし成功したなら、詳しいことをこのブログにも書かしていただきたいと思います。
ご返答ありがとうございました。

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