- 2015-08-21 (金) 16:08
- クロマグロ
今日は親魚が減った原因について検証します。水産庁は次のように答弁しました。
○政府参考人(本川一善君)
太平洋クロマグロの未成魚の発生につきましては、親魚の資源量にかかわらず、環境要因に左右されるところが非常に大きいと認識しております。
先ほど申し上げましたように、北太平洋まぐろ類国際科学委員会、ISCという科学者の方々の集まりの場では太平洋クロマグロの親魚資源が減少していることについては、漁獲のほとんどがゼロ歳から二歳までの未成魚が大半を占めております、近年、この漁獲が増大したこと、それから一方で、未成魚の発生が少ない年が頻発をし、その結果、親魚まで生き残る魚が少なかったことが主な原因であるというふうに科学委員会が分析をしております。このように、ISC、科学委員会は日本海の産卵場での漁獲が親魚資源の減少につながったということは言っておりませんで、ウェッジに記載のあるような、〇四年から始まった日本海の産卵場での漁獲の影響により成魚の資源量や漁獲量が減少してきたという指摘は、事実とは異なるんではないかと考えているところでございます。
親が減った理由は、① 未成魚の発生が少なかったことと、②未成魚の漁獲圧が上昇した結果であり、③日本海産卵場の漁獲の影響では無い、という主張です。③については、この前の記事で検証をしたので、今日は①と②について検証します。
まず、最近の未成魚の漁獲圧がどれぐらい上がったかを見てみましょう。北太平洋まぐろ類国際科学委員会ISCの最新のレポートのデータをつかって、2002-2004年の漁獲率と2009-2011年の漁獲率を比較したのが次の図です。
値が1を上回ると最近の漁獲率が上がっていることになります。0-2歳の漁獲率はほとんど増えていないし、高齢魚の漁獲率はむしろ減少していることがわかります。漁獲率が大きく上がっているのは、日本海の産卵場巻網が漁獲している3-5歳のみです。「近年、未成魚への漁獲圧が増大したから親魚が減った」という水産庁の主張は、根底からおかしいのです。
北太平洋まぐろ類国際科学委員会ISCの最新の資源評価をもとに、未成魚(0-2歳)、日本海産卵群(3-5歳)、高齢魚(6歳以上)の資源量(トン)を図示しました。
未成魚(0-2歳)と日本海産卵群(3-5歳)は、徐々に減少しているのに対して、高齢魚(6歳以上)が激減しています。もし水産庁の主張が正しいとすると、まず未成魚(0-2歳)が激減し、数年遅れ日本海産卵群(3-5歳)が激減し、さらに数年遅れて高齢魚(6歳以上)が減少していくはずなのですが、そうはなっていません。このデータを素直に解釈すると、「3-5歳まではマグロはいたけど、そこで獲っちゃったから、6歳以上の親魚が減っているんだな」となります。
日本海産卵場でクロマグロ産卵群を漁獲している山陰旋網組合は、Wedge(9月号)の取材に対して、「あまりクロマグロが減少しているといった感覚はない。去年も今年も自主規制の上限に達したので漁獲を止めたが、規制が無ければ、もっと獲れていた」と答えています。実際に漁をしている人達が「マグロは減っていない」というのだから、日本海の産卵場まではマグロは生き残っているのでしょう。
各地の定置網の水揚げを見ていても、3-4歳ぐらいまでは、それなりに漁獲されていますが、そこから上のサイズのマグロがほぼ消滅しています。先日、岩手県の定置網漁業者と話をしたのですが、昔は200kg以上のクロマグロが沢山獲れたそうです。最近は、10kg~30kgぐらいの未成魚は時折まとまって獲れるけど、そこから上のサイズは全く獲れないということです。
次に高齢魚を見てみましょう。日本海産卵場を卒業した6歳以上の魚は太平洋の沖縄産卵場に向かい、沿岸延縄漁業によって漁獲をされます。 ISCのこちらのレポートに太平洋の延縄漁業の漁獲データが整理されています。
http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/PBF/ISC12_PBF_1/ISC12-1PBFWG08_ichinokawa.pdf
こちらの図は、大型の親の産卵場である太平洋の延縄の漁獲量です。針1000辺り何本のクロマグロが漁獲されたかが図示されています。×印は漁をしたけれど、クロマグロが捕れなかった場所です。日本海産卵場の操業が2004年に本格化してから、クロマグロの魚群が急激に減っていることがはっきりと読み取れます。
これを数値化したのが、下のグラフです。2005年から親魚が激減しています。
30kg(3歳)以下のマグロはそれなりに捕れている。でも、80kg(5歳)以上のマグロは激減している。ということは、「3歳から5歳の間に、誰かが獲っちゃった」と考えるのが妥当です。このサイズのクロマグロを大量漁獲しているのが日本海産卵場の旋網なのです。
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Comments:1
- 通りすがりの元磯釣り屋 16-10-17 (月) 15:56
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サイト面白く拝見させていただきありがとうございます。
個人的な経験と感想なのですが
磯釣りが長年にわたり全面的に禁止されていた地域があったのですが
ある年、半分程の区域で磯釣りが解禁されて大型の石鯛やメジナが釣れ続け大層賑わったそうです
ところが2年目に入ると状況は一変、あれ程釣れていた大型の魚は影を潜め
釣れるの小型~中型の魚ばかりになってしまい大型の魚が釣れる頻度は
長年磯釣りが行われていた他の地区と変わらなくなってしまいました。
磯釣り客は正直なものであれ程賑わっていた釣り場も潮が引くように釣り人は去っていきました。
数年後、残っていた禁漁区が解禁され再び釣り客は戻ってきましたが
その賑わいも長くは続かなかったそうです。小笠原諸島も長く石鯛釣りをする釣り人からはその距離故に敬遠されていましたが
大型の石垣鯛がいとも簡単に大量に釣れることが分かり日本全国から釣り人が殺到したそうです
小笠原の場合は魚の持ち出しに制限を掛けていたそうですが
金を払えばその制限を解除できたようで資源保護のためリリースする割合が多い関東の磯釣り客とは違い
関西の磯釣り客などが漁協に金を払いこぞって持ち出したそうです。
その結果、小笠原でも大型の石垣鯛は数が減ってしまい以前ほどは釣れなくなってしまったそうです釣りをしていた身としてこのように言ってはいけないのでしょうが
なぜ生殖能力の無い若しくは低い未成熟魚のリリースを(釣り団体等が)呼びかけて
生殖能力の高い成熟魚の規制を呼びかけないのでしょうか?不思議でなりません
取れば減るのは当たり前だと思います。減らさない為の努力がなぜ無いのでしょうか
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