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とある関係者さんへの返答

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勉強会を聞きました。

岩崎氏の講演は大変感情的で、会場の多くの人の評価も低いものだったと思います。
残念だったのは、これに対する先生の反論も感情的になってしまったことです。
ダメダメな主張に対して冷静に反論されていれば、
ダメさがもっと浮き立ってさらによかったと思います。
あれでは、同じレベルの人と思われてしまい先生にとって損です。

アドバイスをありがとうございます。
日本の漁業者は皆こまっています。その状況に対して責任を負うべき人間が、
無責任な自己弁護をしているのをみると、とても腹が立ちます。
ただ、それをストレートに表現するのはマイナスでしかないのはご指摘の通りであり、
自分自身の未熟さ故の過ちとして、反省しております。

議論を聞いていて感じたのは、先生の御提言は理論的でわかりやすいのですが、
どうも具体的イメージがわきにくいのです。
海外の事例だけではなく、これを国内の地域でどこかをモデルとして
シミュレーションし、そこの漁業がどうかわるのか、
所得はどれだけ増えるのかを定量的に示していただければ
実感がさらに湧きます。

経済学の専門家と一緒に、具体的な経済分析をこれから進める予定です。
豪州は、個々の漁業にITQを導入した場合の効果を分析し、
黒字のめどが立った漁業からITQを導入していきました。
彼らの手法を参考に日本の漁業に対応した形で進めていこうと思っています。
現在の課題は、その日の水揚げ量と魚価の関係を明確にすることです。
一日ごとの水揚げ量と魚価のデータが長期的に得られる漁業を探しています。
また、競争のための無駄なコストをどのように試算するかも難しい問題です。
統計データでは出てきませんので、現場の協力が欲しいところです。

このあたりは鶏と卵ですね。
具体的な話をするには現場の協力が必要で、
現場の理解を得るためには具体的な話をする必要がある。

また、それを漁業者に実際にお話していただく機会をもっと作って下さい。
マスコミや行政(規制改革会議も含めて)に訴えるだけでは、
現場はなかなか動きません。
逆に、現場が動き出せば社会は変わります。
どなたたかが言っていましたが、全漁連が反対すれば法は通らないのです。
でも、現場の漁業者がメリットを感じ、大きな声となれば政治は無視は出来ません。
ぜひ分かりやすい例を作って漁業者を洗脳してください。
そうではなく、漁村社会への新規参入者を主な担い手として考えているなら、
現在の漁業者への啓蒙は何の役にも立ちません

漁業者との直接対話の重要性は、ご指摘の通りです。
漁業を変えるには、漁業者サイドに味方を作らないと話になりません。
漁業を持続的に利益が出る産業に変えて、一番メリットがあるのは漁業者ですので、
利益と理屈で、現場を説得できるように準備したいと思います。
規制改革がらみで、かなり警戒されているようですが、
話を聞いてもらえるなら、どこへでも行くつもりです。

その前提として確認しておきたいのは、
先生は漁業2.0の担い手として誰を考えているかです。
私は、先生は現在漁業をしている人とその後継者に担っていただきたいと
考えているのではないかと思っています。
そうであるなら、上記のように今漁業を担っている者を
どんどん揺さぶってください。結構道は近いかもしれません。
ただ、これは規制改革会議の新規参入論とは相容れないところも
あるのではないかと思います。

私の講演を聴いていただければおわかりだと思いますが、
漁業は家業であり、子が親を継いでいくのが自然な姿だと考えています。
漁師の子供が漁業を継がない(継げない)現状で、
外から人を連れてきて解決というのは、あり得ません。

子供が後を継げるようにするには漁業が持続的に利益を出すことです。
今までのように、獲れるときに獲れるだけ獲るのではダメです。
「今年は良いけど、来年はわからないなぁ」というレベルでは、
短期的な利益しか得られず、漁船の減価償却もままならないでしょう。
漁業者は「子の代、孫の代まで」と良く言いますが、
今のやり方で、孫の代まで漁業が続くわけがないだろうと言いたい。

私はいろいろなところでノルウェー漁業を見習うべきと論じてきました。
ノルウェーでは、漁業が家業として、代々受け継がれています。
漁業者は、漁業から安定した収入を得て、豊かな生活を送っています。
日本の漁業をこのような状態にするのが、水産資源学の専門家の使命です。
ノルウェーのやり方を学んだ上で、日本にもそれを取り入れていくべきです。
一方、NZ漁業は、元手をかけずに、経済行為としての漁業を活性化して、
漁業から多くの税金を得るために良い方法です。
漁業の大規模化、大企業化が進み、全く違う姿になりますが、
資源の持続性は維持できるし、都市生活者にはメリットは多いでしょう。
本当に、漁業全体をスクラップアンドビルドをしないといけないし、
既存の漁業にとっては、失うものが多すぎます。
日本の国家財政が厳しくなるなかで、待っているのはNZ型の改革でしょう。
そこまで追い詰められる前に、ノルウェー型に移行すべきです。

規制改革は、多方面から現状への問題認識を集約したものであり、
その中で私が関わったのは資源管理の部分のみです。
公的な意味では部外者ですが、資源管理の部分については責任を負うつもりです。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2008/11/post_416.html

規制改革にせよ、高木委員会提言にせよ、「資源管理をちゃんとやれ」という
以外の部分では、「正直、これはどうなんだ?」と思う点もあります。
参入自由化というのは、今すぐに、議論をすべき課題だとは思いません。
もちろん、後継者が途絶えたところは、外部からの参入も考えるべきですが、
まずは、既存の漁業が利益を出せるようにするのが先でしょう。
漁業2.0化と過剰努力量の削減が優先課題です。
ただ、参入プロセスの透明性を高めるのは、重要な課題だとおもいます。
ドアを開けっ放しにしろとは言いませんが、ドアを開けるか閉めるかの基準を明確にした上で、
第三者にもわかるようにすべきでしょう。

マスコミなどでさんざんあおっていただければいいのでしょう。
そしてその結果として改革がなったなら、それは現在の漁村社会を
破壊し多くの者の職を奪うことになります。

今まま、世代交代もままならないまま、漁村社会が衰退すれば、
同じ結末しか待っていないでしょう。
これをどう避けるのかを、議論していきたいですね。
現状を維持するための名前だけの改革では駄目なのです。

それでも日本国全体と見ればその方が得であるからそうしたほうがよい、
という主張も当然ありですし、規制改革会議を通じて何かを企んでいる
人たちの考えなのかなと穿っております。
(ただ、小松先生はその人達とは違うとも感じています。)

漁業政策の重要なポイントは、資源が持続的に有効利用されることです。
漁業が、産業として自律した上で、食糧の安定供給機能を果たすべきであり、
既存の漁業にそれが出来ないならば、他の道も模索すべきでしょう。
ただ、優先権は現在の漁業者にあるし、どうなるかは漁業者次第でしょう。

EEZ時代に漁業が産業として生き残るには、漁業2.0化は必須です。
私としては、数ある漁業2.0化の方法論の中から、
既存の漁業者がもっとも有利になる方法を提案しているつもりです。

政治的な部分に関しては、私はノータッチですので、
規制改革陰謀論については、否定も肯定も出来ません。
私はあくまでボランティアの協力者ですので、
規制改革会議が、漁業を破壊するような方向に進むのであれば、袂を分かつまでです。
(そういう風にはならないと、思っていますが・・・)

Comments:3

とある関係者 08-12-17 (水) 8:22

お返事ありがとうございます。
私などが考えつくことは既にご計画のようで、ぜひお考えの方向でご活躍を期待しています。

また急速な門戸開放論には危惧をお持ちのようで、これについても同感です。
どうも改革派の急先鋒のように喧伝され、本来の主張が門前払いされているような感じがします。規制改革会議でひとくくりにされてしまうと、誤解をされやすい部分があると思います。また、IQはよいのですがITQになると譲渡性の部分で、情報の受け手が新規参入論と混同しているのかもしれません。

先生もNZよりもノルウェー型の方が日本社会に向いているとのお考えです。牧野先生とは導入の規模やスピード感の違いはありますが、現状認識は同じなのかもしれません。もっと議論が聞きたいです。

勝川 08-12-18 (木) 7:38

>私などが考えつくことは既にご計画のようで、
>ぜひお考えの方向でご活躍を期待しています。
業界の方からの意見は貴重なので、
今後もアドバイスをいただけるとありがたいです。

>また急速な門戸開放論には危惧をお持ちのようで、これについても同感です。
急速な門戸開放は、副作用が大きいですから、
避けられるなら、避けたいものです。
ただ、今のままで暢気にしていても良いわけではありません。
ぐずぐずしていたら、それだけ状況が悪くなり、
残せるものも残せなくなります。

>どうも改革派の急先鋒のように喧伝され、
>本来の主張が門前払いされているような感じがします。
>規制改革会議でひとくくりにされてしまうと、
>誤解をされやすい部分があると思います。

ネガティブキャンペーンは組織ぐるみですが、私の体は一つです。
いちいち反論をしている暇はないので、ある程度の誤解は仕方ないと思ってます。
ただ、既存の漁業への配慮については、私も説明不足であり、
この点については、今後、改善していく必要があると考えています

>また、IQはよいのですがITQになると譲渡性の部分で、
>情報の受け手が新規参入論と混同しているのかもしれません。

譲渡は重要な課題です。
たとえば、ミナミマグロはIQを導入しましたが、
すべての船が一律17tで、譲渡は不可です。
これでは、誰も利益を出せません。
漁業2.0どころか、集団自決ですよ。
「利益がでる規模まで漁獲枠をどうまとめるか」という視点は必要です。
新規参入ではなく、既存の漁業者が生き残るために、
譲渡についても議論をしないといけないのです。

>先生もNZよりもノルウェー型の方が日本社会に向いているとのお考えです。
>牧野先生とは導入の規模やスピード感の違いはありますが、
>現状認識は同じなのかもしれません。もっと議論が聞きたいです。

牧野さんとは、非公式に雑談をすると話が合うのですが、
公式な場では議論をしたことがないですね。

ただいま勉強中 08-12-22 (月) 22:56

初めまして。
最近、水産業に関心を持ち、6日の水産学会の勉強会に参加させていただきました。
日本の漁業に何も問題が無いとは、とても思えないと感じましたが、昨日の読売新聞で三重県内の漁業組合が自己破産する記事を読み、不漁や高齢化が原因であるなら、相当に深刻ではないかと思いました。

http://chubu.yomiuri.co.jp/news_top/081221_6.htm

他の漁協に加入できても、問題は何も解決しません。改革が進まなければ、衰退していくしかないと思います。

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