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小松さんから規制改革会議の現状を教えてもらった

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先日フリーになった小松さんと海洋研で打ち合わせをした。
こちらからはノルウェー漁業の情報提供をして、小松さんからは規制改革会議の現状を教えてもらった。
規制改革会議は実に愉快な展開になっております。

本日、内閣府の規制改革会議で第二次答申が公表されました。
粋なクリスマスプレゼントですね。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/index.html#secondreport
その本文 (PDF : 552KB)をダウンロードして欲しい。
この109~121ページ(PDFでは112~124ページ)に水産業分野の規制改革案がある。
【問題意識】と問題解決のための【具体的施策】が整理されている。
【問題意識】に関しては内閣府側(小松さんたち)が独自に作成したのだが、
【具体的施策】に関しては水産庁と合意済みということだ。
自らが合意した文章が閣議決定されてしまえば、水産庁としても公式に約束をしたことになる。
それぞれの【具体的施策】に対して、締め切りが設けられており、その殆どが【平成20年中措置】。
つまり、水産庁は「来年1年で前向きに頑張って成果を出します」と約束させられちゃったのだ。
タフネゴシエーターの異名は伊達ではない。

答申の内容について、本人から「元々はこんな表現だったけど、こういう表現にせざるを得なかった」とか、
「この表現がこう変わると、こういう意味になる」というような解説をしてもらった。
言葉を巡る綱引きも、専門家に解説してもらうとなかなか面白い。
いろいろと譲歩をしながらも、残すべき部分はちゃんと残しているし、
どの法律を使ってどう逃げるかを熟知しているから、予め逃げ道が塞いであったりするわけだ。
まさに餅は餅屋であり、これ以上の人物はいないだろう。

改革案の中身は4つの柱から成る

ア 資源管理の在り方の見直しについて
イ 参入規制の緩和による新規創業の拡大について
ウ 漁業金融の円滑化について
エ 漁協経営の透明化、健全化について

では、俺の関連する資源管理について見ていこう。

【問題意識】
 資源管理型漁業や漁業生産基盤の整備など各種施策の推進及び平成13 年に制定された水産基本法による水産基本計画などの実施にもかかわらず、わが国の漁業生産構造は脆弱化が止まらず、また、水産資源の状態はさらに悪化が進み、我が国の漁業は危機的状況にある。
 そのため、現行の漁業関連法制度を抜本的に見直し、科学的根拠を尊重する水産資源の持続的な利用の原則を確立する水産行政に転換するとともに、資源管理の方策の改革を進める必要がある。既にこうした改革を実施したノルウエーや米国などでは、にしんやたら類などの悪化した水産資源の回復が見られ、水産業が衰退産業から成長産業へと転換した事例がある。
 我が国においても諸外国の好事例を参考に改革を推し進めなければ、我が国漁業の再生・自立が成し得ないと考える。

現在の水産政策は漁業の衰退に打つ手無しであり、
水産資源の持続的な利用の原則を確立する水産行政への転換、
資源管理の方策の改革を進める必要があるという認識はまさにその通りだろう。

では、具体的施策を見ていこう

(ア)生物学的に計算される漁獲許容水準に基づくTAC(漁獲可能量)設定の厳正化、決定プロセスの透明化【平成20 年中措置】
 我が国では、平成8年に国連海洋法条約が発効し、排他的経済水域における海洋生物資源について漁獲可能量を決定するなどの保存及び管理のための措置が義務づけられた。
 このため、「資源管理法」を制定し、従来より実施している漁業の許可、操業に関する諸規制等とともに、水産資源の最大持続生産量を実現すべく、その資源の維持または回復を目的として、入手可能な最良の科学的根拠に基づき対象魚種ごとの生物学的に計算される漁獲許容水準を基礎とし、漁業の経営その他の事情を勘案して、そのTAC数量を決定している。生物学的に計算される漁獲許容水準の算定には、ある程度の不確実性が伴うものの、その科学的な設定プロセスは明らかにされている。その反面、TAC数量の決定プロセスは、漁業経営の事情等を勘案しつつ水産政策審議会の意見を聴いて定められており、漁業経営への勘案や漁場形成の変動に対応するために、調整枠の設定が行われているにもかかわらず、採捕量が生物学的に計算される漁獲許容水準を上回る状況も生じている。
 したがって、科学的根拠の尊重による資源管理を徹底し、水産資源の維持、回復を図るため、TAC設定が生物学的に計算される漁獲許容水準を可能な限り超えることがないよう、TAC設定の厳正化を図るべきである。
併せて、TAC設定の数量的根拠を公表し、TAC数量の決定プロセスの一層の透明化を図るべきである。

現在のABCを無視したTACを何とかするのは重要な課題である。
TACを生物学的に計算される漁獲許容水準に納めるのは当たり前だろう。
また、TAC決定プロセスの透明化は、重要なポイントである。
これらの重要性は、当ブログの読者の皆様には十分理解いただけると思う。
そのことを明記した上で、水産庁に改善の約束をさせてしまったのだから凄いことだ。


(イ)TAC(漁獲可能量)設定魚種の拡大【平成20 年中措置】
 現在、国が資源評価を行っている52魚種のうち、ABC(生物学的許容漁獲量)を算定している魚種数は38 魚種である。一方、ABCを算定している魚種のうち、TACを設定している魚種は、マサバ、ゴマサバという生物学的には分けて資源管理すべき魚種をサバ類としていることから、マイワシ、マアジ、サバ類、サンマ、スケトウダラ、ズワイガニ、スルメイカの7種類に過ぎない。TAC対象となる魚種の基準として、①採捕量が多く、経済的価値が高い魚種、②資源状況が極めて悪く、緊急に保存・管理を行うべき魚種、③我が国周辺で外国漁船により採捕が行われている魚種とされており、これら基準のいずれかに該当する魚種で、ABCが算定されている魚種のうち、資源の将来予測の十分な精度等を有しているものはTAC対象魚種となることが可能である。
 また、先に水産庁から発表された資源評価の結果からは、多くの水産資源の状況が悪化し続けている状況にある。
したがって、水産資源の持続的な利用を実現するため、TAC設定がなされていない31 魚種やそれ以外の魚種も含めて、資源が悪化している魚種など魚種による適性等を見つつ、TAC対象魚種の拡大の検討を行うべきである。
 併せて、平成20 年中に検討状況の中間報告を公表すべきである。

TAC魚種は増やす予定だったんだけど、10年も増えていない。
資源評価自体はかなりの数の魚種をカバーしている。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests18/index.html
出来るところから管理の対象としていこうということだ。

「検討」だけではなく、来年度中にその結果を公表するというのがキモ。
出来ないなら、出来ない理由も挙げないといけない。
「検討しました。以上」ではすまされないのだ。

(ウ)TAC(漁獲可能量)の厳守に向けた合理的操業モデルの樹立【平成20 年中措置】
 平成18 年度漁期におけるサバ類の漁獲において、大臣管理である大中型まき網漁業による6万トン以上の配分枠超過がなされた。水産庁は、当該漁業のTAC管理団体に対して3月上旬に当該漁業の操業自粛を求めたが、こうした事例は、現行のTAC数量に合わせた適切な利用について、漁業者が未だ対応できていない状況を示しており、今後の科学的根拠の尊重による資源管理の徹底のためにも対応が必要となっている。
 したがって、漁業者が毎年の各魚種のTAC数量に対応し、これを有効に活用するための合理的操業モデルを作成し、提示することで、特定の魚種のTACを超過するような操業から、TACをうまく利用できる漁業形態に誘導を図るべきである。

マサバの超過漁獲がお咎め無しだったのは、マサバはTAC法から除外されているからだ。
中国や韓国も獲っているからという理由で、スケトウダラとズワイガニ以外は、
TAC法が適用されていないのである。
何のためのTAC制度だかわからない。
現在の資源管理ごっこから、TACの枠内に漁獲をおさめるようなまともな管理に切り替えていく必要がある。
資源管理の徹底のためにも対応が必要であると言うことを水産庁側も認めた以上は、
20年度ないに、超過できないような仕組みを考えなくてはならないだろう。

(エ)IQ(個別漁獲割当)制度の導入対象魚種の拡大及びITQ(譲渡可能個別漁獲割当)制度の検討【平成20 年中措置】
 TAC設定における漁業の管理方式には、オリンピック方式、個別漁獲割当(IQ)方式、譲渡可能IQ(ITQ)方式に大きくは分けられる。我が国の現行の資源管理制度としては、TACを設定して、その管理方式としてオリンピック方式を基本として漁業管理を行っている。オリンピック方式による漁業管理では、漁業者間の漁獲競争を激化させる傾向が強くなるというデメリットが指摘されている。
 このようなデメリットを緩和するための方策として、多くの漁業国が採用してきているIQ方式またはITQ方式を導入することが考えられる。これらの方式は、漁獲のシェアが確保されているので、過剰な漁獲増大に歯止めをかけ、コスト削減の意欲を引き出す効果など、オリンピック方式のデメリットを緩和するのに効果を持つとされている。さらに、小型魚漁獲にも一定の制限効果があり、計画的な漁業生産や経済的な漁獲方法などが選択できるメリットがあるとされている。
 一方で、経営体の寡占化が進む、沿岸地域社会への影響、監視・取締りコストが高いなどがデメリットとして指摘されているが、この方式を採用している漁業国では、寡占率の制限、地域社会や協同組合への漁獲割当の配分、ランダムな市場検査、違反の厳罰化などの方策を実施することにより、指摘されるデメリットの解消に努めている。
 現在、IQ方式については、我が国において、ミナミマグロ、日本海ベニズワイガニで実施されているが、今後、これら以外の魚種についても、資源管理法に基づくものを含め、IQ方式の導入を検討し、一定の結論を得るべきである
 併せて、ITQ方式についても、そのメリット・デメリットや諸外国における導入事例、導入する場合の条件等について調査、研究、分析を行い、平成20年中に中間報告を行うべきである。

正直、オリンピック制度ではお話にならない。
大臣許可のような大規模な漁業には個別漁獲量配分制度を導入する必要がある。
また、現在の過剰な漁業者を減らすために、譲渡可能性も重要だ。

IQについては、「導入を検討し、一定の結論を得るべきである」
とかなり強い表現になっている。
今年度中に、結論まで出せるように、検討をしないといけないのだから、大変だ。
そして、ITQについては、「調査、研究、分析」→「中間報告」となっている。
今後は、譲渡可能性の導入についても議論されていくだろう。
まずは、IQ、次はITQと段階的に進めていくのである。


ここに書かれている中身は、このブログでも主張してきたことと良く重なっている。
俺としても、全面的に賛成をしたいことばかりだ。
このブログの読者にも、こういった施策の重要性は理解いただけるだろう。
その内容もさることながら、具体的な施策について、水産庁に合意させてしまったことが凄い。
正直、こんなに早くここまで動くとは、予想していなかったよ。小松さん、やるなぁ。
間違いなく、来年はエキサイティングな1年になる。俺もうかうかしている場合ではない。

本ブログ読者の大半を占める水産庁&水研センターの皆様におかれましては、
来年度の業務が増えることが予期されますが、まあ、これもお国のためだ。
俺も頑張る。君らも頑張れ。

新聞記事 自壊するマサバ漁業

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みなと新聞12月21日の記事をおいておきますね。

勝川俊雄の最新の記事をいち早く読めるのは、みなと新聞です。
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Image200712226.jpg

PDFはこちらから(2.3MB)

研究者タイプ論

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乱獲を支える口利きシステム

漁業者は政治家に陳情する。
政治家は票を集めるために水産庁に圧力をかける。
水産庁は、声の大きな政治家がバックにいる漁業に補助金を配る。
この手の口利きシステムは漁業に限らず、至る所で日常的に目にする。

 Image200712211.png

口利きシステムは、漁業者の意見を政策に反映する手段であり、良い面もある。
これをなくればよいというものではない。
しかし、税金で乱獲を支えている現状は、多くの納税者の利益になるとは思えない。

さて、この乱獲漁業に対して、研究者はどのように対応してきただろうか。
ここでは主に3つのタイプに分類してみよう。

1)パラダイス鎖国系

水産学という肩書きを持つ研究者の多くは、実は漁業には関心がない。
魚の生態だとか、海流だとかに関心があり、漁業を口実に趣味の研究をしている。
パラダイス鎖国系研究者の特徴は、漁業について何も知らないことである。
「この研究は漁業の役に立つ」と口にするが、自らの研究費を確保するための方便に過ぎない。
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2)馬鹿正直系

まあ、中には愚直に水産庁や漁業者に諫言をする研究者もいる。
しかし、諫言をした結果、かえって疎んじられてしまう。
馬鹿殿に仕える忠臣のようなものである。
水産庁に諫言をすれば、「そんないい加減なアセスメントは信用ならぬ。
不確実性を撲滅してから、顔を洗って出直してこい」と怒られてしまう。
研究者が、無理難題に四苦八苦している間に、期中改訂でもなんでもやりたい放題だ。
また、漁業者に諫言すれば「俺たちには生活がかかってるんだ。
顔を洗って出直してこい」と怒られてしまう。
そして、今日も一生懸命、顔を洗っているのである。
聞く耳を持っていない人間に対して何を言っても無駄なのに・・・
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3) 御用学者系

例えば、まともに審議をした試しがない某審議会がある。
国を代表する学識経験者を集めたはずなんだけど、議事録を見ればわかるとおり、
官僚からお勉強させてもらっているようなお寒い状況である。
とても政策につっこみを入れられるようなレベルではない。
日本にはそんな専門家しかいないわけではなく、
身辺調査を念入りにした上で、そういう人を選んでいるのだろう。
研究者はこんな感じだし、漁業者は陳情の場と勘違いしているしで、
唯一まともなのは企業から来ている人だが、
彼らの意見は「今後の検討課題とします」といって、完全にスルーされている。

一般人はこのような審議会システムなど知るよしもない。
そこで、「こういう偉い先生がゴーサインを出したなら大丈夫だろう」とコロッとだまされる。
一般人の専門家への信頼を良いことにやりたい放題だ。
審議会に偉い先生を並べておけば、下っ端研究者が批判できないというメリットもある。
あるシンポジウムで、マイワシのTACが資源量を超えていたことを痛烈に批判したら、
審議会の前委員長が、その後、ずーっと俺の方を睨んでた。
彼は自分の役割が、自分たちが無批判に承認した政策にけちがつかないように、
下っ端研究者に「睨みをきかす」ことだと思ってたんだろうな。
批判を受け止めて、よりよい審議をしていこうなんて姿勢はさらさら無い。

審議会の仕事は、審議をすることではなく、
官僚が出してきた案を審議をせずに了承することだ。
審議会は、外部の研究者を黙らせて、水産政策の実像を納税者から隠すための道具である。
一般人に情報を伝えることではなく、一般人への情報を遮断するのが審議会の機能なのだ。

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日本で資源管理が出来ないのは、科学以前の問題

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IWCやCCSBTはOM的なアプローチは採用したが、資源管理が行われているわけではない。
これらの管理組織はサイエンス以前の問題を抱えており、
その問題を解決しなくては、科学的な管理は不可能なのだ。
IWCは、科学的な勧告に基づき捕鯨を行うという合意形成が必要である。
CCSBTは、各国が合意した漁獲枠を遵守しているかどうかのチェック機構が必要である。
これらのハードルをクリアしない限り、科学的なアセスメントの質を向上させても無駄だろう。
IWCやCCSBTの管理が破綻しているのは、資源評価の不確実性の問題ではない。
そのことを明らかにしたという点で、OMの採用は妥当であった。
OM的なアプローチが採用されていなければ、今でも泥仕合をしていた可能性が高い。

では、日本ではどうだろうか?
日本の国内漁業はIWCとCCSBTを足して2で割らないような惨状である。

科学的な勧告はまるで無視
科学者が設定した乱獲の閾値(ABC)を大幅に超過する漁獲枠(TAC)が慢性的に設定されている。
科学的な資源評価は全く無視されて居るも同然である。
IWCと同じように科学的な勧告に基づき漁業を行うという姿勢が欠如しているのだ。
現在の日本の漁獲枠は非持続的な乱獲を容認するものである。

漁獲枠超過を容認
そのゆるゆるの漁獲枠すら守れないのが日本の漁業関係者のモラルの低さだ。
北部大中巻き網漁業は、去年の2月にTAC枠の上限に達した後も漁獲を続けた。
2月末の時点で、TAC枠を6.6万トンも超過していた。
29万トンの漁獲枠に対して、6.6万トンの超過である。
この無法行為に対して、水産庁は次のような通達を出した。
http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/031401.htm

サバ類の採捕を目的とする操業を自主的に停止するとともに、
今後、このような事態が生じないよう改善措置計画を策定するよう求めた。

自主的な操業停止を求めて、それで終わり。
TAC超過を取り締まる気なんて、さらさら無いのである。
漁獲枠が埋まった時点でサバの漁獲を辞めた漁業者も居た。
その一方で、漁獲枠を無視してとり続ける漁業者も居たのである。
サバにちょっとだけアジを混ぜて「アジ混じり」といって水揚げをしたり、手段はいろいろある。
漁獲枠を超過してとり続けた漁業者には、何のペナルティーも無しでは、
まともにルールを守った漁業者は馬鹿馬鹿しくてやってられない。
日本の漁業者が、資源管理への意識が低く、非協力的なのは当然だろう。
水産庁のやる気の無い対応は、超過を容認しているのも同然である。


1)日本では、科学的な勧告を無視して、乱獲を許容する漁獲枠が設定されている
2)ゆるゆるの漁獲枠さえ、守られることができない
この2点から、水産庁に資源管理をする能力が欠如していることは明白である。
日本で資源管理が出来ないのは、資源評価の不確実性以前の問題なのだ。

この状況を変えるためにOMは何の役にも立たないだろう。 
日本の場合は、研究者の対立はほとんど無い。
科学的な議論をするようなレベルではない。
ほとんどの担当者は、平松さん作成のVPAマクロを使って計算をしている。
やっとやっと、一つのモデルを使って数字を出している現状では、
複数のモデルを比較する必要など無いのである。
モデルの設定は担当者にほぼ一任されており、
他の人は出てきたABCの値について文句をいうだけだ。
その値がでてくるプロセスについての議論はほとんど無いというお寒い状況では、
OMによる科学者の合意形成など必要ないだろう 。

日本の捕鯨外交に関する論文を送っていただいた

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日本の捕鯨運動について批判をしたところ、次の論文を著者から送っていただいた。

‘An Alternative Explanation of Japan’s Whaling Diplomacy in the
Post-Moratorium Era’, Journal of International Wildlife Law & Policy, 10:1, 55 – 87
http://www.informaworld.com/smpp/content?content=10.1080/13880290701229911

これは、国際政治学の分野から、日本の捕鯨外交を分析した論文なのだが、
当ブログで主張したことと、殆ど同じ内容のことが書いてあるではないか!!
引用するとこんな感じ。

We further argue that the whaling camp even does not want to lift the moratorium and is only pretending that it is devoted to resuming commercial whaling because it preferes the status-quo which favores the continuation of “scientific” whaling.

あんまりにも結論が同じなので驚いたが、良く考えると一致するのは必然かもしれない。
思いつく範囲で、日本の行動を合理的に説明できるのは、あのシナリオしかないのだから。
俺のブログは思いつきを書き殴りスタイルなので、
莫大な引用文献と論理構成によって構築された論文とは、
比較の対象にもならないのだが、同じような道筋で同じ結論に達したというのは、
それ以外の見方が難しいと証拠だろう。
捕鯨プロレス論に対する確信をさらに強くした。

俺は、無為無策とその場しのぎを繰り返して、
プロレス状態になってしまったのかと思ったのだが、
この筆者らは、現在の膠着状態は意図的に造られたものだと主張している。
メディア戦略の分析は目から鱗であり、かなり説得力がある。
大本営のメディア戦略については、じっくり調べてみる必要がありそうだ。
このあたりの比較手法は、実に、参考になります。

あと、国際法についてもいろいろと教えてもらいました。
捕鯨再開への選択肢として、

3)IWCを脱退して、沿岸捕鯨で細々とやっていく
    →南氷洋調査捕鯨とIWC多数派工作にかかる経費は不要になる

と書いたのだけど、IWCを脱退したからといって、沿岸捕鯨が出来るわけではないようです。
国連海洋法条約によって、地域管理組織の管理下でないと、沿岸であろうと捕鯨は出来ないらしい。
正しくは、

3a)IWCを脱退して、国連海洋法条約を脱退し、沿岸捕鯨で細々とやっていく
3b)IWCを脱退して、新たな地域管理組織をつくり、沿岸捕鯨で細々とやっていく

となります。
ただ、捕鯨ごときで、国連海洋法条約を脱退するのは現実的ではないし、
国際的に孤立した状況で、地域管理組織などできるはずもない。
日本のみ地域管理組織の費用を負担するのは非現実に高くつくだろう。
ということで、この選択肢は現実的ではない。

そうなると、なおのこと、①ノルウェー、アイスランドと組んで、
グレーゾーンを使って商業捕鯨をビジネスの軌道に載せるか、
②米国の理解を得られる範囲で、捕鯨再開を目指すしかない。
沿岸捕鯨ということであれば、後者はIWCの枠組みでも可能だと思う。
米国はたびたび、南氷洋での調査捕鯨を辞めれば、
日本の沿岸捕鯨は認めるというような妥協案を出している。
しかし、日本側が「一切、妥協はしない」と蹴っている状況である。
害獣クジラから日本の漁業者を救いたいなら、
南氷洋の調査捕鯨を切ってでも、沿岸捕鯨の再開を優先すべきだろうに、
ここでも捕鯨グループの自己矛盾は明白である。

日本が本当に商業捕鯨再開を目指すなら、取り得る選択肢は2つ。
日本の行動を見ると、どの選択肢も目指してない。
むしろ、どちらの選択肢も日本側が拒絶しているのである。
日本は、捕鯨国による新しい捕鯨産業の構築しようとしてはいないし、
わざわざザトウクジラの捕獲を宣言したりするのは、
どうみても反捕鯨陣営を挑発しているだけだろう。

日本は、IWCでのクジラ論争を泥沼化し、捕鯨の再開を阻んでいる。
それは、なぜか。というのは、この論文を読んでほしい。
その上で、言っていることではなく、やっていることから、判断をして欲しい。

平成18年(度) 漁業経営調査が出た

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http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/data/gyokei2006/gyokei2006.pdf

個人経営体(全国1経営体当たり平均)

(1) 漁船漁業
主として漁船漁業を営む個人経営の漁労収入は908万円、漁労支出は649万円、
漁労所得は259万円であった。

(2) ぶり類養殖業
主としてぶり類養殖業を営む個人経営体の漁労収入は1億478万円、漁労支出
は9,396万円で、漁労収入から漁労支出を差し引いた漁労所得は1,081万円であ
った。
また、漁労所得に漁労外事業所得を加えた事業所得は890万円であった。

(3) のり類養殖業
主としてのり類養殖業を営む個人経営体の漁労収入は1,804万円、漁労支出は
1,229万円で、漁労収入から漁労支出を差し引いた漁労所得は574万円であった。

2 会社経営体(漁船漁業:全国1経営体当たり平均)

主として漁船漁業を営む会社経営の漁労売上高は2億8,979万円、漁労支出(漁
労売上原価と漁労販売費及び一般管理費の合計)は2億9,878万円、漁労利益はマ
イナス899万円であった。

個人経営は黒字なので良いが、問題は会社経営体だ。
大規模漁業は、資源を痛めつけておきながら、赤字なのである。
大規模漁業は圧倒的に優遇されているのにね。

本来は淘汰されてしかるべき債務超過の経営体を補助金で支えるから、
資源が際限なく減り、日本漁業の生産性は低下する一方である。
魚が減れば、健全な経営体が減っていき、
業界全体が補助金頼みになるのは当然の結果だろう。

こういう漁業を補助金で支えて、
納税者にいったいどんなメリットがあるのだろう。

雑感「メチル水銀のリスク」に対する感想文

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鯨肉の汚染をしらべていたら、中西準子さんのページに辿りついた。
少し前の記事だけど、内容がディープでいろいろと考えさせられます。
こういう問題を社会に提起していくのが研究者の重要な役割ですね。

雑感220-2003.6.9「メチル水銀のリスク」
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak216_220.html

雑感221-2003.6.17「メチル水銀のリスク(2) マグロの水銀値がない」
雑感222-2003.6.22「メチル水銀のリスク(3) メチル水銀の分析値がおかしい-水産庁の発表値」
雑感223-2003.6.30「メチル水銀のリスク(4) キンメダイはscapegoatだと考える理由」
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak221_225.html#zakkan221

「誤解を招きやすい事柄ですので、部分引用はご遠慮ください」とあるので、
内容は原文を読んでください。

その上での感想なのだが、基準が不自然すぎですね。
守りたいものと、どうでもよいものがはっきりしている。
実にわかりやすいです。

もちろん、日本人のリスク感覚の無さも問題ではあるが、
だからといって、外部に隠せばそれで問題が解決するわけではない。

リスクがある→消費者は過剰に反応をする→だから隠す

ではダメ。何かを隠し通すのは実に困難な時代になっているのである。
これを徐々に下のように変えていかないといけない。

リスクがある→消費者は過剰に反応をする→冷静な反応をするように促す

このような変化を促すことこそ、研究者・行政・メディアが取り組むべき仕事だと思う。

「レジーム・シフト―気候変動と生物資源管理」という本が出ました

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レジームシフトに関する本が出たので、忘れる前に紹介しておこう。
レジームシフトに関して、物理現象→プランクトン→魚という具合にレビューしていき、
最後に管理の話もします。
俺もIII-6章で、魚種交替資源の管理理論について書いています。

この本は、執筆者が豪華です。
特に、桜井先生のイカ、帰山先生のサケ、渡邊先生のイワシは、
それぞれの生物の第一人者だけに、内容が濃厚で読み応えがありました。
生態に関しては興味深い知見が蓄積されています。

その一方で、利用・管理に関しては、殆ど何も進展がない。
生態の部分との落差に注目をして読んで欲しい。
「自然変動するから、管理の必要なし」という論調が基本にある。
それが良くあらわれているのが、P194のこの部分。

レジームシフトを前提に置く限り、マイワシにしても、サバ類にしても、資源量が現在の水準から膨大に増加することがある得るということを前提に漁船・漁具等の設備投資を考えなければならない。

減少期にも増えた場合に備えて、設備を整えておけって、過激な意見だな。
設備の減価償却のために小サバまで獲らないと首が回らない現状をどう考えるんだろう。
過剰努力量を整理しない限り、獲り切れないほど増えて増えて困っちゃう心配は無用です。
むしろ、根こそぎ獲ってしまう心配をしないとダメでしょうに。

変動資源の利用・管理に対する議論は、まだ始まってもいない段階ですね。

レジーム・シフト―気候変動と生物資源管理
川崎 健
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動画で見るノルウェー漁業 その3

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その3が目で見るシリーズの最終回です。
魚が冷凍されるまでのプロセスをフォローします。
最後に、日本漁業を立て直すための緊急提言もアリます。

動画を見るには、こちらをクリックしてください。

ノルウェーではサバは一番高い時期に一番高く売れるものしか狙いません。
漁獲枠も科学者の勧告(日本よりずっと厳しいヨ)にしっかり従います。
だから、持続的に価値の高い魚を生産できるのです。
限られた魚を高く売るために、いろいろな工夫をしています。

日本では、「漁業者には生活がある」と言っては、いくらでも獲らせてしまう。
漁業者は、多く獲ることばかり考えて、魚の質は2の次です。
結果として、単価は上がらない。
漁業者は、値段を上げる努力をするどころか、
目先の利益を確保するために、小さい魚まで獲りまくるから、ますます資源は減る。
結果として、自分で自分の首を絞めているのです。

ノルウェーのやり方と、日本のやり方のどちらが、
本当の意味で、漁業者の生活を守ることになるのかは明らかです。
日本のやり方はその場しのぎであり、長い目で見て漁業者の生活を守れません。

もちろん、それぞれの国によって、事情が違いますので、
ノルウェーの猿まねをすればよいという訳ではありませんが、
持続性を大切にすると言う姿勢は見習う必要があります。

 

動画で見るノルウェー漁業 その2

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第二弾はついに建物の中に入ります。

ノルウェーではインターネットを利用したオークション(セリ)を行い、
船上で契約をすませます。
その後、落札者が指定した港に漁獲を水揚げします。

港と工場は一体になっており、
水揚げされた魚を、すぐに処理することができます。

水揚げされた魚を処理する建物はプラントと呼ばれているのですが、
まさに、その通りでした。
工業製品をつくるように魚が整然と処理されていきます。

全てのプロセスにおいて、品質の劣化を抑えるような工夫がされています。
待ち時間がある場合は、冷蔵海水をつかって、鮮度の劣化を防ぎます。

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from 18 Mar. 2009

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