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不況に弱い日本漁業と、不況に強いノルウェー漁業

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こちらにて、私のブログの記事を引用していただいているようだ。

勝川氏は書きます。「(ノルウェーの)労働者の流動性は高く、OECD諸国でも失業率は最低レベルであり、長期失業者も少ない。社会構造として、漁業を離 れても生活の不安が少ないのだ。」これはどうでしょうか?ノルウェーの失業率は確かに低いですが(3.1%),日本も長い間、同程度の水準でした。このと ころ上昇して4.4%にまで上がりましたが、100人あたり失業者が3人というのと4.5人というのは、漁業就労者について考える場合に有意な差とは言え ないと思います。(失業率が15.5%のスペインや11.2%のベルギーならば・・・。)

漁業のみならず、日本社会全体に重要なテーマだとおもうので、少し詳しく説明しよう。日本とノルウェーの失業率が同じぐらいでも、中身が全然違う。日本は、一度座った椅子にしがみつくことで、失業率を下げているのに対し、ノルウェーは、新しい椅子に異動しやすくして、失業率を下げている。

この違いを簡単なモデルで説明しよう。時代が変わると、会社の中で、不要になるポスト(赤)と、新しく必要になるポスト(青)ができるとする。不要なポストに人をつけておくと、コストがかかるし、必要なポストに人がいないとビジネスチャンスを失う。どちらも組織にとってマイナスだ。
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日本型組織の自己改変

日本組織が外的な変化にどのように適応してきたかというと、不要なポストの人間を窓際として維持した上で、必要なポストには新卒をあてがうことで、不要人員のクビを切ることなく、組織改編をしてきた。窓際のコストを、ほかの人間の労働力で補填することになるので、組織には無駄が出るけれど、路頭に迷う心配が無いので、労働者が安心して働けるというメリットがある。効率の面で最適ではないかもしれないが、それなりに悪くないシステムといえるだろう。ただ、この方法では、必要なポストの数だけ、新卒を採る必要がある。このシステムには、大きな問題がある。このシステムが機能するのは、組織が持続的に成長している場合のみであり、一度、組織の成長が止まると、このシステムは硬直化し、自滅に向かうのだ。
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縮小局面では日本型組織は硬直化する


日本型組織は、不況になると新卒の採用を控える。ビジネスチャンスを失うばかりか、体力の落ちた既存の組織(黄色・緑)で、不良債権化した窓際(赤)を維持しないといけない。ますます業績が悪化して、ますます新卒をとれなくなる。硬直化した組織の生産性は落ち続ける。椅子に座った人間の既得権を守るために、組織が死に向かう。中高年の高い給料を捻出するために、一人で何人分もの仕事を若者がこなしているような組織も珍しくはない。何人分もの仕事をしても、若者には、現在の中高年のような未来はあり得ない。なぜなら、若者を支える次の世代がいないからだ。また、組織がさらなる縮小を余儀なくされるときに、まず犠牲になるのは、中高年ではなく、若者だろう。
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新陳代謝が低下し、生産性が下がる。するとますます、新陳代謝が低下するという悪循環に陥る。これが現在の日本の根本的な問題である。バブル期以降、多くの日本型組織が、このスパイラルをたどって、自滅の路を歩んでいるように見える。

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社会の流動:再雇用制度

日本以外のほとんどの社会では、不要になったポストを整理し、必要なポストに、外から人を引っ張ってきます。ここでは仮に米国型と呼ぶことにする。この方法は、素早く組織改編ができるメリットがあるが、放り出された人間は(一時的に)失業者になります。失業者が増えると社会不安になり、結局は社会として大きな損失を被る。
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組織内の流動性:多能工方式

終身雇用制度と再雇用制度の中間として、多能工方式というものもある。不要なポストの人間を必要なポストへと、組織内で配置転換しようという考えだ。トヨタが組織内で採用している。これなら、終身雇用を維持しつつ、ある程度柔軟に組織改編を行うことができる。ただ、この方法でも、自動車産業自体が不況になると、アウトになる。組織の椅子が減ってしまうと、どうにも対応ができない。
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ノルウェーは、不要になったポストを維持するために無駄なコストを払わない。かといって、自己責任と切り捨てもしない。不要なセクターから、新しいセクターに、スムーズに異動するための、再教育やワークシェアリングに力を入れている。席を立った人間が、新しい椅子に座れるように、公的な投資をしているのだ。リストラされた人間を、自己責任と切り捨てるのではなく、彼らが新しい職を得て、生産性を発揮できるように社会がサポートをする。国を挙げて、多能工制度を導入しているようなものなので、特定の産業が構造的に縮小しても、他の成長している産業へと人を素早く異動させることで、時代の変化に適応して、社会全体の生産性を保つことができる。社会全体が生産的であれば、十分な椅子は確保できる。ノルウェーは、日本とは全く違うシステムで、時代の変化に柔軟に適応しながら、失業率を最低水準に維持している。

Comments:3

kato 09-05-07 (木) 8:13

うーん。
これは経営学の中でも正解が無い分野ですな。
確かに今の日本はうまく機能していませんが、社会情勢や時代にも関係するので
そう単純な話ではないと思いますよ。

もしノルウェーが突出して「不況に強い」のであれば
世界中がモデルケースとするはずですよね(実際はそうではない)。
ここまで言ってしまうと、ノルウェー礼賛というか偏向しすぎに見えてしまいます。

枝川二郎 09-05-07 (木) 14:52

ご丁寧にありがとうございます。私自身、アメリカの企業にもフランスの企業にもドイツの企業にも勤めた経験があり、それぞれの功罪はそれなりに理解しているつもりです。

ただ、企業の雇用制度と漁業就労者数とに関係はほとんどありません。特に、日本のいわゆる終身雇用制は大卒男子を中心に全労働者の十数パーセント(エリート?)に適用されているだけのものです。彼らと漁業就労者とは雇用の世界で影響を与えあうことはないです。

何か考え違いをされているのでは?

枝川二郎 09-05-07 (木) 15:08

ご丁寧にありがとうございます。でも、漁業就労者の雇用情勢についての説明ではないですよね、これは。

日本のいわゆる終身雇用制度は大卒男子を中心にする十数パーセントの労働者に適用されるだけです。漁業就労者の雇用状況と影響しあう問題だとは思えません。

日本では漁獲高も漁業就労者数も着実に減少しました。つまり経済原理が教科書通りに働いているのではないですか?

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