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豊進丸事件のまとめ&続報

  • 2007-08-15 (水) 18:03
  • 日記
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ある水産関係者さんの解説で、背景がよくわかりました。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/08/post_176.htmlのコメント欄を読んでください。
自分でも文書に目を通してみました。その中で、一番まとまっているのはこの文書かな。
http://www.itlos.org/news/press_release/2007/press_release_112_en.pdf

裁判の内容の要約
(日)乗組員を速やかに解放しなさい→(露)最初から拘束してないけど、なにか?
(日)違法操業の保釈金が不当に高い→(判決)1億2千万円から四千八百万円に減額

7月中旬に、船長も船員も拘束されているわけではないことが判明。
拘束されていない事実がわかった後は、日本もそのことは全く言及しなくなります。
裁判の争点は、「日本の違法操業に対してロシアが提示した保釈金が妥当かどうか」です。
要するに、日本漁業者が違法操業をした罰金を値切るための裁判ということですね。
裁判所の文書を見ると、「人道」ではなく、銭の話ばかりです。

気になる違法操業の実態
20トンのベニザケを漁獲し、船上加工していた。
漁獲記録にはシロザケと記載した。
ベニザケの上にシロザケを載せて、隠していた。

魚種の虚偽報告による典型的な違法操業(IUU)ですな。
完全にクロでしょう。この点に関して日本側も争う気はないようです。

この船はベニザケの漁獲枠を101.8トンもっていた。
漁場に着いて一週間で捕まったので、この時点では漁獲枠を上回っていないのです。
ただ、シロザケの漁獲枠をベニザケで埋める気満々で、
最初から計画的に虚偽の記載をしていたと考えられるのが妥当。
「漁獲報告書の虚偽に対する妥当な保釈金はいくらなのか?」が裁判の争点です。
で、裁判所の判決は4600万円ということです。

虚偽の記載はしたけれども、漁獲枠をはみ出してないということで、
情状酌量をされてこの金額です。
漁期終盤に、実際に漁獲枠を超過してから捕まったら、もっと高くなりそう。
外国のEEZで違法操業をすると高くつきますね

国際裁判所はこういう判決なんだが、
コレとはべつにロシアの国内法でも裁かれるみたいですね。
ロシアの証言では、保釈金とは無関係に、
船員は帰国できるはずなんだけど、どういうことだろう?
引きつづき、ウォッチを続けたい。

http://www.kitanippon.co.jp/contents/knpnews/20070814/6550.html

Comments:1

ある水産関係者 07-08-16 (木) 20:14

豊進丸の担保金が8月13日に支払われたようです(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070814ic07.htm)。ロシアも海洋法条約批准国の面子にかけて国際海洋法裁判所(ITLOS)の判決には従うでしょう。このため、船体の解放は時間の問題かも。ただし、ITLOSの判決は、「国 vs. 国」の争いに対する判決であって、「国 vs. 個人(ロシアvs.豊進丸)」の争いであるロシア国内の裁判手続きは報道通り、粛々と進められると思います。
  もっとも、ITLOSの判決通りに被告人が帰国してしまえば、国内裁判は欠席裁判となり、ロシアの言い値で判決が下りる可能性が高いでしょう。船長が残留して裁判で争うことも可能ですが(今後、サンマ等を含め、豊進丸が引き続きロシア水域の操業を希望する場合?)、その場合、日本政府によるITLOSへの提訴は何だったんだ、ということになりますね。

 ① 担保金はロシア提示額から船体没収部分を減額:
  判決文には、「ITLOSは、漁獲報告規則に対する違反は逮捕した国の判断によって処罰されるとの見解にあるが、今回の事件に関する限り、担保金が船主及び船長に課される最大限の罰金を基礎に決められることが合理的とは考えておらず、また、担保金に船体没収を含めて計算することも合理的とは考えていない。ITLOSは、これに関連して、ロシアの関連法令が担保金を評価する際、拿捕した船舶の価値を自動的に算入することを予期していない点に注目している。」とある。
  解りやすく言えば、「最終的な処罰(罰金、船体没収、etc.)についてはロシアが決めることだが、その支払い保証となる担保金については、こと今回の事件に関する限り、船体没収分を加算するべきではない」というのがITLOSの判断だ。実際、ロシアが希望していた2200万R(ルーブル:1.2億円)から、船体没収部分の評価額1135万Rを控除すれば、概ね判決の1000万ルーブル(0.46億円)となる。
  他の判決文や裁判官のコメントなどから、今回、担保金から船体没収が外された最大の理由は「豊進丸がロシアが発行した正規の許可をもって操業していた」ことが大きい。つまり、今回の減額は、意図的な犯行であった違反行為の悪質性は弁解の余地がなかったものの、豊進丸がロシアの発行した正規の許可証を保有していたことが大きく評価された結果である。その一方、「船体没収」以外の罰金や損害賠償金などについては、ロシア側の主張を丸々受け入れており、決して特定の合理的金額をITLOSが独自に判断しているわけではない。
  では、担保金を払ったら船体没収がなくなるか、と言えば必ずしもそうはならない。今回のITLOSの判決は、今後ロシア国内で行われる裁判結果まで拘束するものではなく、あくまでも「担保金に船体没収を加算すべきでない」と言っているのに過ぎない。従って、今後の裁判で船体没収(或いは相当額の罰金等)の判決が下りれば、船主はそれに従う義務が生じるし、従わなければ、様々な不利益を受けることになろう。

 ② 今回の裁判の損得勘定:
  通常、担保金は、食い逃げ(取りこぼし)を防ぐ観点から、予想できる最悪の判決をもとに金額が決定され、従って、実際の罰金等の相場より高額化するのが当然となる。  今回の豊進丸で要求された2200万ルーブルは、富丸の「総計2120万ルーブル+船体」と比較しても遜色ない上、昨年領海侵犯とカニ密漁で銃撃された吉進丸の「50万ルーブル+船体」、今年領海侵犯・密漁で拿捕された羅臼の瑞祥丸の30万ルーブルなど、その他のロシア国内の判例相場と比較すれば「破格」の一語に尽きる。
  ただし、担保金として提示された1000万ルーブルについては、ロシア国内相場でも高額の部類だが、仮に、これで全てが円満に一件落着するのであれば安い買い物だったかも知れない。でも、そうならないのは、その後のロシア国内裁判の動きなどを見れば一目瞭然であり、漁業者にとってはかえって高い買い物になる可能性もある。
  今回のITLOSの裁判そのものが、日本政府がアピールしているように拿捕事件の早期解決に資するかどうか、についても疑問視せざるを得ない。その理由は、せっかく担保金で早期に釈放されたとしても、後々ロシア国内裁判が重くのし掛かってくるからだ。高額の担保金を召し上げられた上、踏んだり蹴ったりの結果になるのなら、正に豊進丸の船主が言うように「悪い前例を残した」と言うことになるだろう。
  ITLOSへの提訴が有効な場合もある。それは、普段、漁業関係を持たない国に無許可操業で拿捕されたような、言わば「後腐れのない」関係の国との場合である。ロシアのように、当事者となった漁業者だけでなく、多くの漁業者が今後とも長く付き合っていかなければならない友好国(?)が相手であれば、やはり揉め事処理の基本は二国間で粘り強く進めるべきであり、そうしないで今回のような裁判を起こせば、二国間の表向き良好(?)な関係に様々な「歪み」をもたらすだろう。
  今回の裁判のように、相手と正面切って議論をせず、不満が極限に達した段階で、突然、「窮鼠猫を噛む」のような突拍子もない行動に出るのは、日本人の行動パターンの大きな特徴だ。同じことは、古くは「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」の太平洋戦争の開戦、最近ではIWC総会の「脱退(するかも)宣言」において見られた。これを読んだ政府関係者は、恐らく「ロシアには繰り返し警告したけど受け入れられなかった」と言い訳するに違いないが、「警告」は相手に伝わる形でなされなければ意味がない。何れにせよ、日本の漁業が今後ともこんなところでも足を引っ張られるかと思うとやり切れない思いがする。
  ITLOSへの提訴が今後の日ロ漁業関係に如何なる影響をもたらすか、引き続き興味深く見守りたいものです。

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