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7/31の提言に関するコメント(その2)

  • 2007-08-16 (木) 16:09
  • 研究
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(提言2) 水産業の再生・自立のための構造改革をスピード感をもって直ちに実行せよ。

 このため、

1.漁業協同組合員の資格要件とされる従業員数や漁船規模などを見直し、漁業協同組合などへの投資や技術移転を容易にし、地域社会の活性化を図るべきである。

地域内の水産加工業、卸売業、仲買人、小売業、外食産業などや、地域に投資、技術移転する大手水産会社等を、組合員とする資格を与える。
また、漁業協同組合などの経営内容を広く情報開示する仕組みを構築すべきである。

漁協の閉鎖性が生産力を下げる一因になっているという認識のようだが、正直、漁協のことはよく知らないので、何とも言えない。
いろいろと問題を抱えている部分も多そうだし、経営内容を公開するのは、漁業者のためにもなるだろう。

2.併せて、漁業のみならず、養殖業や定置網漁業への参入障壁を基本的に撤廃し、参入をオープン化すべきである。意欲と能力がある個人または法人が、透明性のあるルールのもとで、漁業協同組合と同等の条件で養殖業および定置網漁業などを営めるようにすべきである。

漁業法(昭和24年法律)および水産業協同組合法(昭和23年法律)など漁業関係諸制度を抜本的に改革し、透明性のあるルールのもとで、例えば特区制度の活用も含め、生産段階における新規参入による漁業権および漁場の適切な利用を促進して、沿岸漁業を広く流通、加工、販売関係者および漁業への投資に意欲のある者に開かれたものとすべきである。

「参入をオープン化する」というのは非常にリスキーである。はっきり言って、止めた方がよいと思う。
すでに過剰な漁獲圧がかかるなかで、利益を出せるのは「より乱獲力のある経営体」である。
参入の自由化を進めれば、乱獲によって短期的利益をだし、資源が枯渇すれば余所に移るような
「 焼き畑漁業」を促進することになるだろう。

参入の自由化よりも、漁業をするための資格が必要だと思う。
自由参入で新たな経営体を増やすよりも、 乱獲をしなければ利益を出せない経営体を減らすことが先決だろう。
まずは、資源に優しい漁業で 利益を出せる経営体のみ残すことだ。
参入のハードルを下げるのは、経営体の淘汰が進んでからでよい。

3.休漁と減船による漁獲努力量の削減、漁船の近代化と継続的な新船建造、雇用対策の支援などを総合的に包括した中長期的な戦略政策を樹立すべきである。

漁船漁業については、漁船の減少、老朽化が進み、生産力の低下が著しい。一方で、資源の悪化・枯渇状態の中で過剰な漁獲が続いている。
そのため、単なる新船の建造は漁獲能力の増大につながりかねないため、漁業の再生・自立のための構造改革は、(1)休漁、(2)減船、(3)操業の継続(漁船の近代化及び小型化)と大きく分け、これらをパッケージとして推進し、例えば特区制度の活用も含め、科学的根拠に基づき3~5か年計画を樹立して、資源の回復と経営の改善を図る。

併せて、個別漁業者ごとに漁獲する数量の上限を定め、不必要な漁業活動を排除し、資源の乱獲を防止して、市場ニーズにあった水産物を供給するため、個別漁獲割当(IQ)制度または譲渡可能個別漁獲割当(ITQ)制度を導入する。

また、資源量が膨大な魚種、例えばサンマ(300~800万トン)などについては、その効率的かつ持続的な利用を図り、水産加工業、養殖業の振興と水産物貿易の発展に寄与させる。

 養殖業を、水産物の付加価値を高め、国民ニーズに応える産業として位置づける。

資源が枯渇しているのは、自然の生産力にくらべて、人間の漁獲力が高いためである。
このミスマッチをたださない限り、どこまでも資源は減少する。
船を更新するだけの利益が出ていない漁業を対象に、税金で新たに船を造る必要はないだろう。

「多く獲るための技術」と「高く売るための技術」は違うのだが、
日本の漁業関係者は、「多く獲るための技術」ばかりを導入したがる。
ミニ船団化は、依り少人数で今までと同じ量を獲るための技術である。
これは、より多く獲るための技術であり、今よりも資源が低水準になっても今のペースでとり続けるための技術である。
乱獲競争で有利かもしれないが、資源の減少に拍車をかける危険性がある。

例えば、ノルウェーもサバを巻き網で漁獲するが、、
魚体を傷つけないようにポンプで水揚げをした後、鮮度を保つために船上で急速冷凍をする。
日本の巻き網は「より早く、より多く獲る」ことに特化して、単価を上げるための工夫がない。
単価を上げるよりもむしろ、量を増やすことで利益を出そうとする。
結果として、資源のダメージの割に利益はでない。

では日本にノルウェーの漁船をもってくればよいかというと、そういう問題でもない。
日本では、値段が上がる前に獲りきられてしまうので、せっかくのポンプも船上冷凍設備も宝の持ち腐れであろう。
資源管理によって、適切な大きさの魚が安定供給できてはじめて、高く売るための技術が必要になる。
残念ながら、日本の漁業はその段階まで到達していないのだ。

今の日本漁業には、船を造るよりも、船を減らす方が大切なのだ。
(1)どう見ても採算がとれない経営体→減船
(2)多く獲れるけれど、利益率が低い漁業→資源が低水準なら休漁
(3)漁獲効率は低くとも、単価が高い漁業→操業の継続

採算がとれない経営体を減らすための手段としてITQを導入すべきである。

資源状態が良好なサンマの効率的な利用をはかるのは重要だ。
しかし、サンマは短命で、加入が不安定な、非常に先がが読みづらい資源である。
資源状態が悪化した場合にも対応できるような投資をしないといけない。
マイワシの場合は、高水準期に努力量を増やしすぎた結果、資源量が低水準になっても漁獲にブレーキがかからない。
投資が不良債権化しないように、短期的な減価償却を見込むべきだろう

養殖業に関しては、現在でも投資の価値が無い事業が数多く進行している。
ここの事業の支出と収入のバランスを精査した上で、残す事業と辞める事業を明確にすること。

Comments:3

kato 07-08-17 (金) 8:07

回りくどい言い方をしていますが、結局1と2はマグロ養殖を念頭に置いたものなのでしょうね。
http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=120974

業界紙速報 07-08-21 (火) 13:25

本日付日本水産経済新聞に、日本初の個別漁獲割当てベニズワイ漁に今漁期から導入、の記事があります。導入までの経過も書いてあって、実に感動ものです。

勝川 07-08-22 (水) 8:56

katoさん
なるほど、そういう具体的な事例があるとわかりやすいですね。
マグロ養殖に限らずいろんなビジネス展開があり得る場面で、
既得権益が障害となっているという話は聞きます。
地元が受けざるを得ないような条件を企業が出せるかが鍵なのかな。

業界紙速報さん
速報をありがとうございます。
ついに個別漁獲割り当てが来ますか。そうですか。
賛否両論合って、まだ時間がかかると思っていたのですが、
予想以上に早かったです。
さて、どうなるか楽しみですね。

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