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7/31の提言に関するコメント(その3)

  • 2007-08-17 (金) 18:00
  • 研究
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(提言3)水産業の構造改革のため、水産予算の大胆かつ弾力的な組替えを断行せよ。

(1)予算執行上の優先順位が低い漁港整備などの公共事業予算から、漁業への新規参入の推進と漁船漁業の構造改革予算に大胆かつ弾力的に振り向ける。

(2)これまでバラバラで整備されてきた魚礁、漁場、漁港岸壁、荷さばき場の上屋などの海域と陸域の一体的整備を断行すべきである。公共、非公共、かつ事業主体としての都道府県と市町村などの垣根をとる。

 上記(1)と(2)については、例えば特区制度も活用する。

(3)環境、資源、水産政策などに関する情報を積極的に国民に提供し、国民の理解と認識を高めるとともに、調理技術や水産物の持続性と品質に関する知識の普及などにより、魚食についての食育を促進させるための予算を重点的に確保する。

(1)
現在の予算配分が合理的だとは思わないが、予算配分の内容について議論をするよりも、
行政の役割を明確化するのが先だと思う。
そもそも「国民は水産行政に何を期待するのか」、「そのために幾ら支払うのか」を明確にすべきである。
逆に言うと、「役所は税金を幾らつかって、何を成し遂げるのか」を明確にする必要がある。
その上で、目標達成率を高めるように、予算の最適化をすべきである。

日本にとっての水産業の位置づけは、終戦直後と今とでは全く異なっている。
にもかかわらず、行政の役割について、ほとんど議論がされていない。
「自給率が低い」と騒いで税金をばらまく世論をつくる。
しかし、乱獲を放置しているから、漁業生産は落ちる一方である。
すると「クジラが食べてるから」とか「消費者の魚離れ」とか、外部要因のせいにする。
こういうことが繰り返して、産業規模に不相応な税金が投入され続けてきた。
あげくの果てが、自給率の低迷である。
現在の自給率を維持するために、いったい幾らの税金が投入されているのか。
また、その税金はどのようにつかわれて、どのような結果が得られたのか。
まずは、現在の税金の費用対効果を見直すことから始めるべきだろう。

俺が思うに、今必要な施策は、生物の生産力の範囲まで漁獲圧を下げることである。
つまり、今の疲弊した生物生産力の範囲で食っていける数まで、なんとかして漁業者を減らさないといけない。
確かに、魚は居ないし漁業者も減る中で、漁港整備などの公共事業ばかりしても漁業のためにならない。
その一方で、「漁業への新規参入の推進」、「漁船漁業の構造改革予算」に税金をつかう必要性がわからない。

参入よりもむしろ適正な規模まで漁業を縮小するのが先である。
非常に利益率が高い、新しいビジネスチャンスがあるなら、自己資金で始めるべきだろう。
漁船の老朽化も問題だろうが、 自力で設備の更新ができないような漁業を税金で存続させる意義がわからない。
採算のとれない漁業経営体を税金で支えても、利益は出ないし、資源を傷つけるだけであろう。

(2)
行政の様々なセクションが意思疎通を図るのも重要だが、その前段階に問題ありだろう。
例えば八戸の漁港にしても、漁業者の声が無視されていることが本質的な問題だろう。
地元のニーズを把握した上で、行政のセクション間の連携を強化してほしい。
「民が何を求めているか」を把握できていないのが

(3)
情報公開はとても大切。でも、情報公開への意識は低い。
どうやら、情報公開をプロモーションを混同しているようである。
イメージアップのために、都合が良い情報のみを公開するのがプロモーション。
情報公開とは、都合が良い情報も、都合が悪い情報も、きちんと開示することである。
外郭団体ではない、ひも付きではない、独立機関が必要だろうね。

(提言4)生産から最終消費までの一貫した協働的・相互補完的な流通構造(トータルサプライチェーン)を構築せよ。


(1)
わが国水産業は生産・加工・流通・販売・消費の各段階での制度や仕組みがほぼ無関係に構築されており、それぞれの部門が、自らの制度と機能にのみ配慮する部分最適をめざし、水産業の全体が、それぞれ相互補完し、かつ相乗効果を高める全体最適になっていない。このままでは、世界の大きな流れに立ち遅れるだけでなく、食料安全保障と魚食をまもる使命を果たし得なくなる。

(2)
また、世界の水産業は、水産物需要の増大への対応の一環として、「美味しい」、「安全・安心」に加え、「環境・資源の持続性との調和」がとれている水産物を価値あるものと位置付けようとしている。流通の改革に当たっては、このような水産物の新たな価値の創出を考慮しなければならない。

(3)
特に、この場合において、
水産物トータルサプライチェーンを透明性・信頼性あるものとして構築するため、客観的・科学的な指標に基づく、関係者共通ルールとしての「水産物基礎情報」を導入し、これに依拠した情報の共有・公開を推進する。

(4)
現在は、水産物に関して統一的で規格化された情報がない。水産物基礎情報(注:「提言の補足説明」を参照)は、天然魚、養殖魚及び輸入魚(調整品や加工原料も含む。)ついて、①持続性、②品質(衛生)の情報を内容とする最小限の水産物を評価するための情報である。

(5)
これらの情報が、生産・加工・流通(消費地市場を経由しない市場外流通などの多様な流通形態を含む)・販売・消費の各段階でIT(情報技術)活用などにより、相互に共有されるとともに、広く国民にも提供される制度・仕組みを構築する。

(6)
今後、国民の資源の持続性、食の安全・安心への関心に応えていくには、多様な流通経路に対応するため、産地における漁業者および輸入業者の生産段階からの情報提供の義務化を法制度の整備(注:「提言の補足説明」を参照)により行う。

(7)
 このことにより、水産物流通の合理化・効率化、消費者の水産物の正しい選択などに貢献する。また、市場の透明性が高まるとともに、一部の水産物(例えば、ノリなど)の取引の透明性向上にも貢献する。さらには、日本だけでなく世界の市場において日本産水産物の評価を担保することにもつながる。

(8)
また、水産政策、経営、流通システム、養殖技術(例えば、種苗、飼料、防疫など)、資源評価などに関して、集中的に研究開発予算を投入する。

(9)
提言の確実な実行のため、水産業改革プロジェクトチームおよび監視委員会(オーバーサイト・コミッティー)を設置せよ。

(1)に関しては、全面的に賛成。
生産・加工・流通・販売・消費の各段階は、無関係というよりは敵対関係にある。
取引先の利益を削ることで、自らの利益を確保しようとする。
消費者が値段以外の判断基準を持たないので、小売りには強い価格圧力がかかる。
流通が魚を買いたたき、加工は安価な輸入品へと切り替える。
その結果、漁業の採算が悪化し、帳尻あわせのために獲りまくってしまう。
魚が獲れなくなれば、加工も流通も輸入にたよるしかにない。ここで買い負ければ、共倒れだ。
他人の利益を減らすことで自らの利益を確保しようと言う考えでは、産業が傾いてしまうのだ。
そのためには、資源→漁業→消費を全体としてとらえた上で、
漁業全体の利益を増やすためのビジョンを持たなくてはならない。

(2)に関しても、賛成。
日本の漁業は、非持続的な乱獲を放置している。だから、収益が悪化しているのである。
持続的に獲ってこそ、値段も上がるし、消費者も安心して食べられる。
すでに先進国では「環境・資源の持続性との調和」が高い価値として認識されている。
一方で、日本人は、値段と供給の安定にしか関心がないようである。
ヨーロッパウナギにしても、マグロにしても、値上がりの心配ばかりで、
自分たちが被持続的に食べ尽くしたことに対する道義的な責任は感じないようである。
「環境・資源の持続性との調和」について、情報をもっと流す必要があるだろう。

(3)トータルサプライチェーンって、いまいち良くわからない。
日本語で簡単に表現すると、どういう意味なのだろう?
俺は流通に関する知識が少ないから、この部分は???です。

(4-7)その魚がどこでどうやって捕られたのか。その魚は持続的に漁獲されているのか。
そういう情報を消費者が得ることは重要である。
回転寿司で「関サバ」が安く食べられる現状では、業者のモラルには期待できない。
きちんとした企画で「水産物基礎情報」を行政が準備するのはとても大切。
現在、消費者が価格しか気にしていないのは、それ以外の情報が無いからだ。
きちんと情報を提示すれば、それを基準に選択を変える消費者も出てくるだろう。

(8)養殖技術(例えば、種苗、飼料、防疫など)に関しては、すでに研究開発予算が過剰だと思う。
水産政策に関しては、予算をつけても内容が伴うかは疑問。
むしろ、漁業に関係する様々な立場の人に発言の場を準備した方がよい。
そのためのたたき台として、高木委員の提言が機能してくれた良いのですが・・・
自称「漁業者の味方」の研究者が反論を準備しているらしいので、楽しみにしています。
メンツ的に、内容にはあまり期待できないかな。

(9)に関しても、基本的に賛成ですが、役所がつくった委員ではつっこみ能力に限界がありそう。
水研センターだって、独法化したけれど、発言の自由は減る一方みたいだし。

ネット上に公開された文書を追っていくだけで、政策に関してはいろいろわかります。
専門的な知識を持った個人が、地道につっこみを入れ続けていくことが重要でしょう。
ということで、自分としては、今後もつっこみを入れ続けようと思います。

Comments:6

ある水産関係者 07-08-21 (火) 20:48

提言2については、「水産業自立・再生の構造改革」を「スピード感をもって直ちに実行せよ」と指摘している一方、肝心の「構造改革とは何か(如何なる内容か)?」がはっきりと伝わってこない。まさか「養殖・定置漁業へのオープン・アクセス」や「漁船漁業構造改革計画」が構造改革のための本質的なパーツとは思えないのだが・・・。本当の意味での水産業自立・再生のため、法制度を含む漁業権制度全体の抜本的改革について具体的な設計図を描いていただきたい。

提言3については、やはり予算の仕向け先(方向性)が間違っている気がする。列挙された税金の使途は、「他人の財布」を使って大盤振る舞いしようとする「役人根性」丸出しだ。本当に重要なのは、勝川さんの意見と同じく、漁労設備等の更新のために補助金をばらまくのではなく、漁獲能力(努力量)の削減を如何にして円滑に進めるか、だろう。 

提言4については、協働的・相互補完的「トータルサプライチェーン」が如何なるものか見えないため、まずはその具体像を示す必要がある。また、あくまでも個人的見解だが、日本における水産物の流通、とりわけ国産の鮮魚の流通については現状でもかなり完成度が高いと考えている。もちろん、エコラベリングなどの点で改良は必要である。しかしながら、川上(漁業者サイド)からドッと流れてくる大量の魚介類を短時間で効率的に全国津々浦々の消費者にまで行き渡らせるシステムは、日本独特にして世界に誇れる優秀なシステムと考えて間違いないだろう。このため、改革を考えるに当たっては現在のサプライチェーンについて、もっと冷静に評価すべきと考える。
 消費者が値段以外に判断基準をもたないために流通が魚を買い叩き、漁業者が乱獲に走るという発想は、一見、当を得ているようで、実のところは漁業者の乱獲を消費者に責任転嫁している気がしてならない。流通段階で魚が買い叩かれるのは、漁業者から流通業者や消費者に魅力的な形(数量、品質)で魚が供給されないためである。実際、漁業者が魚を漁獲するときには、出来るだけ丁寧に扱って高く売れるように配慮はするだろうけど、数量については「多ければ多い方がよい」というのが実態ではなかろうか。

勝川 07-08-27 (月) 17:35

提言2,提言3については、
漁獲努力量を減らしたくないのか、減らしたいのかが、定まっていないですね。
このあたりは、立ち位置を明確にしてほしかったです。
まあ、大水から、流通まで、いろいろな立場の人を集めたわけですから、
「アレも大事、コレも大事」となってしまうのは、
ある程度はしかたがないかと思います。

先日、水産庁から高木総裁に説明があったようですが、
役所としての公式な反論を公開してもらいたいものです。
外部の人間にも論点をフォローできるような議論が必要です。

業界紙速報 07-08-30 (木) 11:32

水産庁の反論といえるかどうか、わかりませんが8月14日付水経にそれらしきものがあります。ご覧になれますでしょうか?10日に企画課長さんが会見したようですが、プレスリリースはない模様。EU、米、ノルウェー以外の事例を調査してから、水産庁HPで公開する由。
その後、21日の毎日社説に高木委員会提言に関して掲載され、読売が追従しましたが、業界紙でもぽつぽつ論評が散見されます。

勝川 07-08-31 (金) 10:16

速報をありがとうございます。
水産経済は手元にないので確認できません。
水産庁のサイトで公開されるのを待つことにします。
水産庁の反論にもつっこみを入れていくつもりです。

外部から見えるところで、議論をするがのは実に有益ですね。
ただ、肝心の漁業者が議論の場に見あたらないのが残念です。

ノルウェーの事例を調べた報告書は入手したのですが、
よく調べてあって感心しました。
ますます、ノルウェーを持ち上げたくなってします。

kato 07-08-31 (金) 15:29

水産経済8/14見出し
http://www.suikei.co.jp/newsfile/2007/200708.htm#14

全漁連情報8/22版
http://www.zengyoren.or.jp/news/pdf/joho1553.pdf

水産庁(リニューアルしたので消去されてしまうかも)
http://www.jfa.maff.go.jp/syogaikoku.pdf

こんなところでしょうか。

勝川 07-08-31 (金) 16:08

katoさん
毎度ありがとうございます。
それです。それ。
先ほど探したけど、自力では発見できませんでした。

私の理解では、
高木委員の提言は、欧米の漁業政策と単純比較ができると言っているわけではないです。
1)日本の漁業政策の現状は壊滅的
2)現状を打破するためのビジョンがまるでない
3)諸外国で機能している方法も取り入れるべき
というようなロジックです。

完璧な漁業政策など世界に存在しないわけですから、
欧米のやり方にケチをつけるだけじゃなくて、
日本で機能するような対案を出して欲しいものですね。
EUの共通漁業政策も全体として苦戦していますが、
日本の水産基本計画よりはよっぽどマシだと思います。

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