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海洋の放射性ストロンチウムの放出について

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ストロンチウムは、ヨウ素、セシウムと並ぶ主要な被曝源です。海洋に排出されたストロンチウムは、主に魚の骨や貝殻に吸収されます。ひとたび吸収されたストロンチウムは、なかなか排出されません。成長期の子供が食べると骨に取り込まれるので、注意を払う必要があります。

福島から放出されたストロンチウムの量は?

海洋にどの程度のストロンチウムが流れたかを知るのは重要なことです。そのために必要な情報は2号炉の地下の高濃度汚染水です。海洋中の放射性セシウムと、放射性ストロンチウムの主な汚染源は2号炉の地下溜まり水と考えられています。2号炉の地下溜まり水のセシウム(Cs)とストロンチウム(Sr)の比がわかれば、ストロンチウムがどのぐらい海に放出されたかを類推することができます。

5/22の夜になって、ようやく東電が地下溜まり水のストロンチウムの情報を出しました。ストロンチウムはγ線を出さないので、化学処理でストロンチウムだけを分離した上で、β線を計測する必要があります。これらの処理に1~2週間の時間が必要になります。水のサンプルを取ったのが3/24、測定を開始したのが4/13ですから、計測にかかる時間を考慮しても、ストロンチウムの値が出てくるのが遅すぎます。

東電が発表した核種の情報はこちらです。

放射性ストロンチウムは、Sr-89とSr-90の2種類が検出されていますが、検出されたこと自体は大きな問題ではありません。セシウムが高濃度ならばストロンチウムが検出されるのは自明であり、検出出来なかったらそっちの方が問題です。問題は濃度の比です。ストロンチウムの合計8.4E+5(Bq/ml)は、セシウムの合計5.4E+6(Bq/ml)の15%程度ですが、ストロンチウムは半減期が短いSr-89が多いのが救いです。

それぞれの核種には半減期という物があります。ヨウ素131の半減期は8日です。これは、8日後には1/2、16日後には1/4に放射性ヨウ素131が減少することを示しています。Sr-90, Cs137の半減期は30年と長くなっています。それぞれの核種の半減期を考慮して、減少を図示すると次のようになります。ヨウ素(I131)、バリウム、ランタンのような半減期が短い核種は最初の1月でほぼ姿を消します。その後、Cs134とSr-89が徐々に減少していきます。半減期の長いCs137とCs90は、ほぼ横ばいです。

 


放射性物質の総量を年単位で図示してみました。最初の1年で短命の核種は姿を消すので、放射性物質の量は半分になります。その後は、残った長寿命の核種がなだらかに減少していきます。着目してほしいのがSr90とCs137の比です。Sr90/Cs137はおおむね5%で安定しています。

 

放射性ストロンチウムの生物濃縮について

IAEAの魚のストロンチウムの濃縮係数は3です。海水の3倍程度に濃縮されると言うことです。この3倍というのは、骨を含めて丸ごと測定した場合であり、筋肉中の濃度は1を下回るとされています。日本の調査でも同様の結果が得られています。魚の濃縮係数は、軟組織(筋肉内蔵)で0.4倍、骨部で25倍となっています。濃縮係数をざっとまとめてみるとこんな感じです。

魚丸ごと 3.0
魚の身 0.4
魚の骨 25
イカタコ 0.3
二枚貝の身 0.4
貝殻 130
エビカニ 55
棘皮類 21
褐藻 17

ストロンチウムは特定の生物の、特定の部位に濃縮される傾向があるので、そういった部位を食べるのを避ければ、内部被曝のリスクは大幅におさえられそうで す。ストロンチウムはカルシウムと同じような挙動を示すので、「カルシウムたっぷり」な食品は、「放射性ストロンチウムたっぷり」になりやすいと思われま す。シラスのように代謝が早くカルシウムの吸収が早い魚では、素早く、蓄積される可能性があります。IAEAの推奨値では、魚は丸ごとでも海水の3倍程度の濃縮ですし、骨だけみても25倍ですから、むしろ、甲殻類(エビ、カニ)の方が濃縮されるようです。甲殻類のカルシウム(およびストロンチウム)はおそらく殻に多く分布すると思いますので、殻ごと食べる場合は要注意。地味に濃縮係数が大きいのが、褐藻(昆布、わかめ、ひじきなど)です。貝殻もストロンチウムが濃縮されるのですが、直接食べる機会はあまりないと思います。

放射性ストロンチウムの人体への影響について

緊急時における食品の放射能測定マニュアルの36ページに「経口摂取による実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数」があります。それぞれの放射性物質を含む食品を食べた場合の内部被曝の影響を、我々に馴染みの深いSvに変換するときの係数です。

長期的な影響が大きなSr-90とCs-137について、1Bqあたりの実効線量をまとめたのが下の図です。Sr-90の影響は、骨が形成される乳児および成長期の子供に大きな影響を与えることがわかります。小さい子供が口にする食べ物については、ストロンチウムについて注意を払う必要があります。

魚を丸ごと食べる場合、ストロンチウムの影響は、セシウムよりも深刻?

ストロンチウムを単独で計測するのは難しいので、計測が容易なセシウムとの比で考えていくのが良いと思います。では、セシウムと比べてどれぐらいの影響が予測されるかを考えてみましょう。長期的に残るSr-90とCs-137の比は1:20です。魚(骨ごと)の濃縮係数はそれぞれ3と100なので、Cs137が100Bq/kgの魚のSr90は0.15Bq/kg程度となります。それぞれの実効線量への換算係数をかけると、内部被曝の影響評価が出来ます。

最も影響が大きな乳児に魚を骨ごと与えた場合でも、ストロンチウムの内部被曝の実効線量は、セシウムの2%に満たない水準です。成人については、セシウムと比較すればほぼ無視できる水準と言えるでしょう。幸いにして、ストロンチウムが突出して危険ということはなさそうです。内部被曝の防護は、量が多く、計測が容易なセシウムを対象にしっかりやれば良さそうです。高濃度の放射性セシウムで汚染された魚をしっかりと避けていれば、放射性ストロンチウムについても避けることができます。成人については魚の骨を過度に恐れる必要はなさそうです。俺的には、むしろ骨粗鬆症の方が心配かも。

影響が(比較的)大きな乳児~青年(第二次成長期が終わるまで)について、高濃度の放射性セシウムが検出されている場所の、カルシウムが豊富な水産物を予防的に避ければ、ストロンチウムの被曝リスクを大幅に削減できます。

関連記事:「魚を骨ごと食べたときに、心配なのはセシウム。ストロンチウムじゃないよ」も読んでください。

注意:このページの情報は現在までの断片的な情報を整理したものに過ぎません。新しい情報が出てきたら、内容が変わる可能性はあります。また、個々に書かれているのは一個人の見解ですので、過度に信頼せず、様々なところから情報を収集して、自己責任で判断をしてください。

Comments:4

ちょっと気になったので 11-05-24 (火) 23:33

この記事で使われている「経口摂取による実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数」表のCs137の成人のところは1.3E-04 → 1.3E-05 と訂正されていたように思います。つまりCs137による成人の被曝は10倍小さいはず。子供よりも成人への影響が強いのはおかしいです。ご確認下さい。

ritsuka 11-05-26 (木) 10:48

貝殻と甲殻の数値を見て恐ろしくなりました。
肥料に「カニガラ」カニの殻を粉砕・乾燥し粉末化したもの「カキガラ」牡蠣の殻を同様に処理、
というものがあります。ストロンチウムは水溶性ですよね。直接食べなくても肥料経由での間接
的な農作物への影響はあるかもしれないと思います。
また、鶏には卵殻の強化のために貝殻を砕いて食べさせます。おそらく卵殻に出てくるでしょう。
家庭では卵殻は捨てますが、マヨネーズ工場などで大量にでた卵殻は捨てられず、乾燥・粉末化
して「卵殻カルシウム」という商品になり、お菓子(ボーロ、ビスケット等)に混ぜられています。
量的には、主食の米や麦に比べると少ないですが、蓄積すること、幼児に与えることを考えると
不安になります。これらの商品の検査もきちんとなされるべきだと思います。

dedicatus0216 11-07-03 (日) 16:35

ストロンチウムがセシウムに比して、人体に対して脅威なのは生物的半減期の長さにあるのではないでしょうか?
セシウムが100日と言われるのに対して、ストロンチウムは50年とのことです
人間の寿命からすると、一度とりこんだストロンチウムが排出されることは無きに等しいといったら言い過ぎででょうか?
100年は体内に留まりかつ、今後何十年にわたり新たに吸収、積算されていく可能性が高いわけです

HT 11-10-12 (水) 3:19

10月10日の文化放送で神奈川県横浜市港北区のマンション屋上から通常の100倍以上濃度のストロンチウム90が検出されたと報道されました。 100倍濃度になるとどれだけ人体に危険なのでしょうか?

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