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我が国の資源評価の現状を知るために

  • 2008-01-06 (日) 13:23
  • 研究
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水産庁が水研センターに委託している事業で資源評価票の作成というのがある。
日本の主要な魚種について、資源状態を調査してまとめたものだ。
現在は44魚種85系群と大所帯になっている。
そのうちの8魚種19系群がTACによる管理の対象となっている。
詳しくはここを見て欲しい。http://abchan.job.affrc.go.jp/

評価票によって、日本の漁獲のどの程度がカバーできているのだろうか?
たぶん、誰も計算していないので、自分でやることにしたのだが、実に大変。
さきほど、ようやく集計が終わりました。俺の正月を返せ。

評価票の守備範囲は、魚類、エビ類、カニ類、イカ類であり、
海藻や貝などは評価票の守備範囲外なので、これらは除外した数値を集計した。
それを図にまとめるとこんな感じ。
赤線が魚類、エビ類、カニ類、イカ類の合計漁獲量を漁業・養殖業生産統計年報から抜粋したもの。
青線が評価票に漁獲量の記載があった79系群の合計値
オレンジ線がTAC魚種の漁獲量の合計値だ。

Image0801061.png

1060年代の評価票カバー率が低いのは、評価票に漁獲量が記載されていないためだ。
1977年に国の統計制度が大幅に整備されたので、その前後で情報の質が違う。
だから、1976年以前の情報は評価票では用いない場合が多いのである。
80年代になると、TAC魚種に関してはほぼ漁獲統計が出そろうことになる。

80年代以降に、評価票で漁獲のどの程度をカバーできるかを図示してみた。

Image0801063.png

TAC魚種によって、全漁獲の6割から、4割5分程度がカバーできている。
96年から98年までにカバー率が大幅に下がったのは、マサバ(太平洋&対馬)の減少が主な要因である。
赤線と青線の間が、TAC魚種以外の評価票がカバーする割合である。
TAC対象種以外は、90年代以降に徐々に統計が整備されてきたものが多く、
TAC対象種以外のカバー率はじりじりと増加している。
評価票によって、全体の約7割がカバーされていることになる。

Comments:7

業界紙速報 08-01-10 (木) 17:37

「TACの期中増枠を」道南太平洋のスケソウ刺網漁業者 45人上京、きょう国へ要請

道知事管理分として設定された道南太平洋海域の昨年19年度スケソウTACは5万8100トン。このうち、主力の刺網漁業には4万1000トンが配分されている。
刺網漁業のTACは前年度より4000トン少ないうえ、魚群の来遊が12月に集中したため、TAC消化率は12月末で早くも96.7%に到達。このため、道は急きょ、その他漁業の待ち網漁業の枠の中から5000トンを刺網漁業に枠を振り替えるという調整を行い、年明け後も操業は続けられたが、その数量さえも消化する勢いだ。
要請では、燃油高騰で漁業経営が逼(ひっ)迫している中、魚群がまだ来遊している盛漁期にもかかわらず、TACにより操業停止となれば、浜の漁業者の混乱を招くだけでなく、加工・流通関係者にも多大な影響を及ぼし、地域経済に大打撃を与えるとして、漁業経営環境を総合的に勘案したTACの期中増枠を早急に措置するよう求める。
さらに、昨年11月の水産政策審議会で設定が見送られた20年度TACについて、国は今年度の漁獲状況を勘案しながら2月の水産審議会で設定するとしているが、資源評価は「低位・減少」とされ、今年度をさらに下回るTAC設定が予想されていることから、実際の魚群の来遊や漁獲実績と国の資源評価とは必ずしも一致しないとして、今年度の漁獲状況を考慮した十分な量の確保を求めることにしている。

きょうの水経最終面です。「要請団としては総勢45人に上る異例の規模」で実際の魚群の来遊や漁獲実績と国の資源評価は一致しないと訴えられて、今年の漁獲状況を勘案して設定する20年度TACがどうなるか、2月の水産審議会に注目しなければいけないですな。

しかし、あなた方のTACはこれだけと公に決められているのに、「どっさり獲れたんだけど、まだまだ湧いてくるんだから、燃油も高いときだし、加工・流通業者さんにも影響あるんだから、当てにならない資源評価で決まったTACなんか見直してもっと魚を獲らせてね」ということになるんでしょうか。「水産」加工業者さんには、是非ともTACに配慮した操業計画を立ててもらうこととし、そして、消費者の皆様におかれては、このような事情で多少値が上がった国産魚の加工品に暖かい支援の手を伸ばしていただければ幸いです。

一方、水産通信に「中国向け 昨年末で実質終息 国内サバ漁変調、加工向け激減」という記事があります。内容は;
昨年十二月発表の十一月通関は数量で二六○○トン余り、昨年比大幅減。さらに、昨年十二月は中身もジャミ主体に変わり、中国加工向けもワンシーズンで様変わりとなった。
昨年十一月の中国向けは前年比三七%減の二六五八トン、単価は同比四一%高の一三三円。この落ち込みは近海サバの漁獲減によるもの。漁業情報サービスセンターの集計による全国水揚げは、昨年九~十一月合計で一三万三三一一トン、○六年は二四万六八四八トンで半減近い四六%(一一万三五三七トン)減の激減となった。十一月はとくに石巻と銚子の落ち込みと浜値反騰が際立った。前者は三五○三トン(○六年九八二八トン)、一二五円(同六一円)、後者は九八三○トン(同二万二一八三トン)、一四○円(同六五円)。十一月に続いて十二月はさらに中身も一変する変調となった。水揚げされる魚体は一○○/一五○gのジャミ主体となり、それまでの一/二歳魚が姿を消すこととなった。…昨年内の水揚げの内容からノルウェーサバの代替として輸出ラッシュをみせたサイズ・品質の中国加工向けの船積みは実質的に終息の観測だ。

このブログの読者には必然の結果報告ということになりますね。とすれば、今年の秋の漁模様(予測)からある漁業者の言い分は想像がつきそうなものであって、いまから対応を考えたらどうなんでしょうか?

匿名甘えヒト 08-01-12 (土) 0:08

>「要請団としては総勢45人に上る異例の規模」

知事許可部分でしょ・・・地方自治体ががんばって歯止めをしたのか?・・・そうは思えないけど(お国の顔色を考えた結果かな)・・・知事許可分まで、御国に陳情ですか・・・ふぅ・・・

たまたま獲れているからって、資源が激増したわけじゃないんでしょ?!

こんなにたくさんのヒトが行ったのなら、3~400万円くらいはかかったんだろうなぁ・・・大臣とか中央官僚へのお土産代もかかったとしたら、もっとかも・・・多分、夜の街にも繰り出したんだろうなぁ・・・それって、燃料代にまわせばいいじゃん。

バッカみたい。。。

勝川 08-01-12 (土) 3:14

業界紙速報さん:

スケトウダラに関してはあきれた言い分ですね。
道南の漁業者は、日本海の事例から何も学んでない。
日本海の事例をみれば、当てにならないのは漁業者の方だろうに。
もちろん、増えている可能性は否定できないけど、
もしそうなら来年以降に獲れば良いだけでしょう。
知事許可と大臣許可でフェアに配分した上でね。
TAC枠が常になし崩しだから、簡単に値崩れするのだし、
獲れるだけ獲るから、資源が枯渇して、供給が止まった方が
加工・流通関係者にも多大な影響を及ぼし、地域経済に大打撃を与える。

>このブログの読者には必然の結果報告ということになりますね。
>とすれば、今年の秋の漁模様(予測)から
>ある漁業者の言い分は想像がつきそうなものであって、
>いまから対応を考えたらどうなんでしょうか?

来年、再来年のことを考えたら、
今年のマサバは好きなだけ捕って良いような状況ではない。
それはちょっと考えればわかること。
それを毎日2000トンも水揚げして、
値崩れさせたあげくに成魚を取り尽くしたわけだ。
水政審は素でわかってない可能性が高いけれど、
漁業者と大本営は、わかった上で獲っているので、
何を言っても無駄でしょう。
このブログにかいてあるようなことは、
何度も聞いているはずですが、馬の耳に念仏ですよ。
乱獲に対する世間の風当たりが強くならない限り、
何も変わらないでしょう。

匿名甘えヒトさん:

>たまたま獲れているからって、資源が激増したわけじゃないんでしょ?!

おそらく、漁場形成の偏りでしょう。
現段階ではなんともいえませんが、来年にはわかるでしょう。
はっきり増えたとわかるまでは獲るべきではないです。
自然死亡は少ないんだから、獲らなきゃ残るだけだ。

低水準でも獲れちゃう魚なんだから、
考えなしに獲ってたら漁獲枠がいっぱいになるのは当然。
つーか、減少中の低水準資源に対して、
一生懸命とっても埋まらない漁獲枠を設定したら、
それはもう資源管理とは呼べないだろうに。
漁獲枠を増やせと大挙して陳情する漁業者も漁業者だが、
ホイホイと漁獲枠を増やすであろう大本営も終わっている。
どうせ期中改訂をして獲って、獲って、獲りまくり、
ふたを開けてみたら、残ってなかったということになるんだろう。

>こんなにたくさんのヒトが行ったのなら、
>3~400万円くらいはかかったんだろうなぁ
>それって、燃料代にまわせばいいじゃん。

北海道から魚がいなくなっても自業自得ですな。
ブロック会議で漁業者がおとなしかったのは、
こういうことだったの?

業界紙速報 08-01-15 (火) 17:09

きょうの日本水産経済新聞、第2面です。

胆振管内切り揚げ TAC制度開始後初 道南スケソウ刺網漁
【札幌】道南太平洋海域のスケソウ刺網漁は、先のTAC協定運営委員会で決めた年明け以降の地区別配分量に達する恐れがあるため、胆振地区は9日の水揚げを最後に操業を切り揚げた。同海域の刺網漁業がTACにより操業を打ち切るのは、9年のTAC制度開始以来初めてのことである。
同漁業の19年のTACは、年末に行われた道の調整により、その他漁業から刺網漁業に5000トン振り替えられ、年明け以降の残りは6300トンに。これを受け、同委員会は日高管内分として1800トン、渡島管内の噴火湾内5単協分として2500トン、胆振管内と渡島管内の噴火湾外分として2000トンを利用することを確認。ただ、渡島管内の噴火湾内2500トンの利用については、渡島管内の関係者全体で改めて協議することとしている。
今回、地区別のTACに達する恐れが出たのは、胆振管内と渡島管内の噴火湾外分の2000トン。このため、胆振管内では9日をもって自主的に終漁。渡島管内は噴火湾内の2500トンの利用について協議し、湾内1500トン、湾外1000トンを目安に操業を継続することを確認。いずれかの漁獲量が配分数量に近づいた場合は、改めて協議することとした。

小氏が「TACの期中増枠を」を速報したのは10日付け水経です。あのような陳情の記事より、この9日の「同海域の刺網漁業がTACにより操業を打ち切るのは、9年のTAC制度開始以来初めてのこと」を、先に報道すればよろしかったのに。そうであれば、小氏もTACで操業打ち切りなんてスケソウ漁業者も頑張っていますぞ、とでも投稿しましたのに。事実関係は間違いなくても、手順を誤ると受ける印象が全く違ってきて、とても怖いものだと実感します。

勝川 08-01-24 (木) 3:06

TACで操業停止にしたのは偉いです。
まあ、TACを無視して6万トンも獲るような無法集団の方が論外ですが・・・

北海道の漁業者>>越えられない壁>>北巻

ということですね。
零細の漁業者はちゃんとルールを守っているのに、
資源への影響力が大きな大規模な漁業の方が
ルールを無視しているんだから、話にならない。

漁場形成の不均一は良くあること。
全体としてTACの範囲に収まるなら、
この地域に追加の配分をしても良いと思います。

日本の場合は、最初に水増ししておいて、全部配分します。
ここで、さらに増枠をするのは危険です。
全体として漁獲枠が当初の枠内に収まる保証がないのです。

普通の国は、漁獲枠を最初に全部配分しないで、
マージンを取っておくのです。
でもって、漁場の不均一性があったときには、
魚が多くとれている海域に追加で配分できます。

業界紙速報 08-01-31 (木) 14:56

28日付北海道新聞です。概ね、本文そのままです。

胆振、渡島スケソウ漁終了
「原料ない」加工業者悲鳴 パート解雇の動きも

スケソウの漁期は十月から三月まで。資源管理のため、TAC制度で海域ごとに漁獲枠が決まる。道南太平洋域(胆振、日高、渡島管内)は今季、四万一千トンだが、昨年末で散漫九千六百トン、97%を漁獲。道は今月四日に五千トン追加したが、うち胆振分は九日に、渡島分は二十六日に枠を満たした。道漁業管理課は「一九九七年のTAC制度開始以来、枠の分を取り尽くして操業期間を短縮したのは初めて」と言う。
いぶり中央漁協(胆振管内白老町)によると、十二月下旬に漁業者が自主的に網を半減したが、効果は小さかった。スケソウが一時に大量に出回って値崩れし、同月平均の浜値は前年同期比23%安い百三十円。同町の漁業者(五八)は「収入は前年の二割減。総量を知らなかったので(漁獲を)抑えようもなかった」とこぼす。
登別市と白老町の加工業者でつくる胆振水産加工組合によると、スケソウの作業は、年末まではタラコ作りやすり身加工が中心。例年一月から五月まではすき身干し作りで、虎杖浜から年七十トンを出荷している。
組合長は「今年はすき身干し用の魚がほとんど入らず大打撃。十月から雇ったパート十人の契約を打ち切り、ほかの従業員の仕事も減らした。組合の業者で仕事をなくしたパートは四百人に上るのでは」と肩を落とす。登別市の漁業者(五二)は「網から魚を外す仕事をしていた主婦たちもショックを受けている」と話す。
漁業関係者は水産庁に来年度の漁獲枠拡大を求めたが、同庁は十七日、資源管理のため増やさない案を示しており、道漁連は対策を検討する。

17日に水産庁が上記の枠を増やさない案を示したことは、H/Pにも業界紙にも見えませんでした。陳情の記事を載せたんだから、これくらいフォローしてもバチは当たらないのに、と恨み言を…

しかし、小子は《「水産」加工業者さんには、是非ともTACに配慮した操業計画を立ててもらうこととし、そして、消費者の皆様におかれては、このような事情で多少値が上がった国産魚の加工品に暖かい支援の手を伸ばしていただければ幸いです》なんて書いて、いい気なもんです。自主的に網を半減した漁業者ですら、どうすればいいのかわからないものを加工業者さんに計画を立てろなんて、現場のことをしらないくせに机上の空論で屁理屈を捏ねているだけの輩でしかなかったわけですねえ。馬鹿ですねえ。…難しいっす。

勝川 08-02-01 (金) 16:31

うーむ、厳しそうですね。
ただ、長い目で見れば、ここで抑えておくのが大切です。
太平洋系群は、今が勝負所。
ここで甘いことをしたら、日本海の二の舞です。
資源にとってもそうだし、資源管理の枠組みを守るためにも大切です。
ここで、ちゃんと枠を守らせておけば、
他の漁業者にも漁獲枠を守るように言えるわけです。
この我慢は、必ず先で報われるはずです。

漁獲枠を守ったことは、漁業者、行政ともに素晴らしい。
次の課題は、漁獲枠を守った場合の痛みを減らすことです。
オリンピック制度の限界にぶち当たるわけです。
みんなで早い者勝ちで獲るから、こういうことになる。
ITQであれば、自分たちの枠はわかっているのだから、
漁期を一杯に使って、計画的に漁業を出来ます。
おのおのの裁量で、すき身干しの漁獲も確保できるし、
「総量を知らなかった」という事態は起こりません。

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