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宮城県の水産特区について


宮城テレビの特別番組の収録で、県の村井知事と対談を行った。内容は放射能から、特区構想まで多岐にわたる。最初は県漁協の組合長もくる予定だったらしいのだけど、キャンセルされたので、ゲストは俺と知事の二人。

撮影前日に、塩釜、東松島、雄勝を回って、浜の最新情報をリサーチした際に「特区が動くらしいよ」という噂を耳にした。撮影当日の日経の朝刊に、かなり踏み込んだ内容の水産特区の記事が掲載されていた。石巻の桃浦地区と地元の仙台水産が特区一号になるということ。具体的な特区が表に出てきたタイミングでの知事との対談を収録した番組は9月9日に宮城テレビで放映予定。知事とのやりとりなどは番組放映後のお楽しみとして、今回は宮城県知事の水産特区に関する私見をまとめてみた。

特区の意義について

8月31日の日経新聞が4面には、桃浦地区の牡蠣養殖漁業者15人が共同で出資して設立する新会社と仙台水産が特区一号になるという記事が掲載された。桃浦地区は牡鹿半島の付け根に存在する集落。高齢化が進む中で、津波で壊滅的な被害を受けて、漁業を続けられる状態ではなかったらしい。そこで、地元の大手流通業者の仙台水産が手をさしのべて、一緒に立ち上がろうという流れ。

これまでの養殖漁業は、漁協が生産物を集めて、共同販売(入札)を行っていた。生産者は生産物を漁協に出荷して終わり。流通業者は、漁協が並べたものに値段をつけるだけ。共同販売が壁となって、生産者と流通業者が分断されていたのだ。

漁師と流通業者が分断されている日本漁業の現状を、会社でたとえるなら、製造部門と営業部門が分断されているようなものだ。製造部門が市場を無視して場当たり的に製品をつくる。製品段階で差別化できないので、営業は価格をどこまで下げられるかを競っている。これでは利益が出ないのも仕方が無いだろう。

「一山いくら」の共同販売制度でも、バブル期まではある程度は機能していた。並べておくだけで、全体的な魚価があがったからだ。デフレで全体の価格が低迷しているし、高齢化で食料の需要は落ちる。こういう状況で、ただ並べて値段をつけてもらうだけの共販制度が機能するとは思えない。

「こういう規格で、この数量つくれば高く買うよ」という話が小売りから来ても、それは漁師まで届かない。品質で差別化できないから、値段の安い差で勝負するような販売戦略しかとれないのである。意欲的な漁師が、品質が良いものを作っても、市場で評価されずにその対価を受け取れない。良いものを作っているというプライドに支えられてがんばっているのが実態だ。

実際に海外では、漁師と流通業者の経営統合は、当たり前の話。むしろ、協力をして全体の売り上げを増やす方向に努力をしている。

たとえば、アラスカのカニ漁業は、漁船と加工場の経営統合が進んでいる。加工場がカニを外に販売した売り上げを、漁船と加工場で半々に分けることになっている。漁船と加工場が共同で漁獲・加工・出荷のプロセスを戦略的に一本化することで、余計な経費を削減し、カニの質を上げて、全体の売り上げを増やすことに成功している。

日本でも、良い製品を作って付加価値付けをしたいという生産者と、差別化できる製品をちゃんとした値段で売りたい流通業者が、戦略的な提携をして、win-winの関係を築く余地は大いにある。

今後の進め方について

生産段階から販売まで一気通関をするという、桃浦・仙台水産の特区には、期待をする反面、不安もある。特に、漁民とのコミュニケーション不足が気になるところだ。

1)概要・要項が示されていない

特区構想が、誰のための、何を目指すものなのかが明確では無い。知事は「民業を活用する」というが、どういう形で活用するのかがわからなければ、賛成しようも、反対しようも無い。

民間企業の参入と言っても、様々なやり方がある。
A) 地元漁民が会社組織を作って、販売等の活動を自由に展開していく
B) 地元漁民を排除して、外の企業をいれて漁業をさせる

「Aはどんどんやればよいけど、Bはちょっと・・」と感じる人が多いのでは無いだろうか。今回、知事に直接確認をしたのだけど、知事の構想はAであり、よそから縁もゆかりも無い企業が参入することはかんがえていないそうだ。桃浦の場合も、震災前からその土地で漁業を営んでいた地元漁民15人が会社を作って、仙台水産という地元企業と連携をしていこうと言うことだから、1)の形式になっている。

特区の概要・要項をまず公開して、1)の形式の特区を考えていると言うことを明らかにすると同時に、そのことを周知する必要があるだろう。
2)漁民とのコミュニケーション不足

浜では「全否定をするわけでは無いが、特区は何をしたいのか具体的なことが何もわからないので、何とも言えない」という意見が多かった。具体像が見えない中、「民業の活力」とか「浜の秩序」といった抽象論で、知事と県漁協が喧々がくがくの状態。現場を無視した血の通っていない議論だと思う。
漁村によって、抱える問題は多岐にわたる。もともと活力がある浜では、復興がスムーズに進み、「あとはもう自分たちで出来るから、大丈夫」というところもある。一方で、震災で人が減って、集落自体が成り立たないところもある。人はいるけれども、収益が上がらず、じり貧のところもある。漁業者と一緒に、そこの漁業の問題を精査して、一緒に解決策を考えていく。その際に、必要とあれば、特区を柔軟に使えるような体制を整えて欲しい。

3)県漁協との関係悪化

宮城県漁協は、相変わらず「浜の秩序を乱す」と繰り返している。今まで、漁協の浜の秩序の元で、漁業が衰退してきたのだから、浜の秩序を見直す必要があるのは自明だろう。特区を導入せずに、桃浦をどうやって復興するのか、という対案を、県漁協は何ら示していない。対案を示さずに反対のための反対をしているだけの漁協は無責任だと思う。

ある程度の摩擦は仕方が無いとしても、県漁協との関係をもうちょっと上手に出来ないものだろうか。知事と漁協が全面対立ということになれば、漁民は板挟みになる。漁協からの締め付けが増せば、特区に関心がある漁業者とのコミュニケーションが難しくなり、桃浦に続く事例が出てこない可能性もある。

水産特区は、概要を公開した上で、漁民(≠漁協)とコミュニケーションをとり、彼らの理解を得ながら進めていって欲しいと思う。

民間は更に進んでいる

水産特区は、知事と漁協の対立から、議論が空転し、1年半かけて、ようやく、一例目の概要が示された。その間にも、現場レベルでは様々な試みが始まっている。志を同じくする漁民のグループが合同会社を作ったり、株式会社を作ったりして、販売を手がけようという試みが、同時多発的に起こっている。特区とは無関係に企業化が進みつつある。株式会社化をした漁師に取材として、企業化を進める理由を聞いてみた。

1)販売・ブランド化
漁協経由だと、生産者の顔が見えない。宮城の牡蠣は一緒くたに売られるので、自分たちのブランドを育てようがない。現在の販売には限界を感じている漁師が多い。そこで、良いものを高く売りたい仲間で、共同出荷することでブランドを育てようという思惑がある。

2)外部から窓口が見える
合同会社、株式会社であれば、販売窓口が外から見えるので、新しい取引先が見つけやすいだろう。

3)資金調達で有利
外部から、資金を調達しようにも、一般の銀行は漁業者には金を貸さない。水産関係の経営はブラックボックスなので、仕方が無いだろう。一般企業となって、会計を明らかにすることで資金調達がやりやすくなる。

4)経営感覚が養われる
企業として会計をすることで、これまでどんぶり勘定だった収支を数字で見ることになり、経営感覚が養われる。

デメリット

デメリットとしては、経理など、これまでやっていなかった事務仕事が増えることと、販売の手間(売れなかったときにどうするか)があげられる。共販制度は、価格が安くても、納品すれば自動的に全量販売できた。販売の手間をかけるのが面倒くさい漁師には便利な制度である。自分で売るとなると軌道に乗るまでが大変だろう。

まとめ

企業化や販売提携は、そのための労力が必要となるし、販売リスクもある。跡継ぎがいない年金漁業者は、面倒なことを嫌がるのが常である。彼らのためにも組合の共同販売は今後も必要だろう。一方、跡継ぎがいて、親子で従事している漁業者や、若手の漁業者にとっては、まともな値段で販売をするのは死活問題である。販売については個人で行うのは難しいし、販売窓口も必要になるので、合同会社や株式会社をつくるのは自然の流れだろう。漁民の新しい取り組みを応援したい。

これまで通りに漁協の共販を利用したい人はそうすれば良いし、自らが販売まで手がけたい人間はそうすれば良い。漁協は漁業者のための組合であり、組合のサービスを使うかどうかは漁業者自身が決めること。漁協は漁業者のための組合なのだから、漁民が主体的に新しい取り組みを始めるのを応援すべきである。行政は、漁協との対立構図を煽るような動きはできるだけ避けつつ、地元漁民の声を聴いた上で、淡々と必要なサポートをしてほしい。

Comments:3

和田一彦 12-10-01 (月) 16:12

ご無沙汰しております。亀和商店の和田です。
持続可能な漁業認証が、金融機関が漁業者に融資する際の、担保もしくは審査対象にならないかと考えました。日本の市場流通では、決済のサイトが短い一方で、小売業・外食産業に対する売掛金回収サイトは長いので、我々仲卸業者の資金繰りは銀行融資がないとたちまち厳しくなります。
漁業者への支払いサイトが短いのは、融資が受けられない、次の漁獲が見通せない(持続可能な漁業かわからない)からだとしたら、どうでしょうか?

もしも、持続可能な漁業を担保に漁業者が融資を受けられ、資金繰りに余裕ができたら、市場流通の決済サイトの短さも緩和されるのではないかと、想像しています。

猿払村や海外では持続可能な漁業と資金繰りの問題はどうなっているのでしょう?

中村健 13-04-21 (日) 9:36

神奈川県鎌倉市で漁業に従事している中村と申します。
水産特区構想についての私の意見です。
昭和25年の漁業協同組合法の制定は、それまで地方の管理下にあった漁場を国が一元管理するために造られたわけで、それ以来漁協に所属することを義務付けられた漁師はその既得権の元に漁業を営んできました。その結果勝川さんのおっしゃるとおり市場の動向に無頓着な生産と出荷が繰り返され、魚価の低迷を招きました。さらには魚価の低迷が乱獲を招き漁場の適正管理もおろそかになってきました。
このような漁業の状況で起きた震災。その復興に民間の参入、それも漁業権を開放するという方法が進みつつありますが、私なりに考えると、問題がいくつかあると思います。
ひとつはこの特区構想に反対している漁協の姿勢。もうひとつは「経済」的視点のみから発想されている特区構想です。
漁協が既得権にしがみついて反対しているのはそうした漁協にしてしまった行政の怠慢でもありますが、もういい加減に改革しなければならないときに来ています。漁を引退した「長老」が組合を牛耳り、役員報酬を得ているような状況が典型です。市場のニーズに対応した漁獲調整や付加価値をつけた製品開発は本来生産者である漁師、そしてそれをまとめる組合の仕事であるべきです。民間の業者と協力してこうした事業を進めることが当然なのです。
他方、水産特区にして漁業権を開放するという方向には重大な「見落とし」があるように思います。
それはこの構想には第一次産業は「文化の基礎」という視点が欠けているのではないかということです。自然の恵みを享受する第一次産業には地域の文化を形成するという重大な面があります。第一次産業を一般の企業活動と同一視してはならないと思います。
漁業権が、地場に生きるものにしか許可されないのはそうした理由があったはずです。経済的復興や発展は大事ですが、第一次産業においてはこうした視点も忘れてはなりません。

私は、漁協組合員になる際、漁を教えてくれた親方からこう教えられました。
「組合員は何ヶ月か修行をすれば誰でもなれるものではない。命をかけての仕事だから、『この人は誰かが遭難したときに、命をかけてでも助けに来てくれる』という信頼がなければならない、そうした信頼を得たものだけが組合員となれるのだ」
もちろん今の組合の現状を見ると、「そんなきれい事言ってられないよ、自分の稼ぎが優先だよ」という人もいますが、私は親方の教えはいつの世にも生きていると思うし、生かしてゆかねばならないと思っています。

漁業はその地域に生きる人によって守るべきです、そして近代化が必要です。組合が近代化され、市場を理解し、地域文化の担い手という自覚を持ち、無駄な漁獲を制限しつつ、魚食を推進し、傘下の組合員の生活を向上させるよう荷ならなければなりません。」そのために民間の企業と連携してゆく事は絶対に必要です。場合によっては現在の漁業協同組合を根本的に改革するために全漁連を解散させる事さえ必要かもしれません。漁業権の開放という「禁じ手」を考えるなら、漁業の「改組」という大胆な発想も考えるべきです。

他の県職員 13-04-24 (水) 23:20

特区は民主的ではないなというのが率直な感想

本来であれば組合内の民主プロセスでやる気のある漁業者を後押しすべき話し。
たしかに、漁協内部で護送船団方式で先進的な人々を潰してしまうということは、現実問題として残念ながら存在します。
今回の特区とは、換言すると、困った現実問題を打破するために、きちんと整備された民主的プロセスをすっとばして、行政が強引に介入することにした、ということ。

中村健さんのコメントに概ね同意ですが、組合の改革は、民主主義的に組合員自らが改革すべきで、御上の命によって改組するのであれば、今回の特区方式による介入の方が
まだ穏当に思えます。

企業の漁業参入は既存の制度で問題なく達成できます。例えば、漁船漁業では普通に存在する法人組合員・・・今回の養殖に係る企業を法人組合員として組合が認め、区画漁業権(養殖の漁業権)の行使規則(組合が制定して県が認可)で法人組合員にも漁業権行使を認める。それだけです。
しかし、そもそも企業として参入する必要すら無かったとも思えます。すなわち、組合内部の共同販売の運用をちょっと変えるだけ。漁業者グループのメンバーが「個人の組合員」としてそれぞれ養殖漁業生産を行ない、販売だけを組合を通さずにグループとして企業とタイアップする。まぁ、そんなことすらできない組合の自治に任せておいては、復興は進まないので強権発動することにした、ということですね。

「民間は更に進んでいる」の件、概ねそのとおりですが、
法人化せずとも、個人事業者としての漁業者でもやれる人はやれています。私が勤めている県の漁業者で、一般の銀行から資金調達している人もいます。しっかりした経営のすごい人だと、銀行の支店長が頭をさげて「うちで借りてください、金利はどこよりも漁連よりも安くします」と来るそうです。・・・純粋に漁業だけだとそうも行かないかも知れませんが、漁獲物の行き先として販売からサービス業まで含めた「漁家」としての経営力ですが。

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