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クロマグロに関する報道の内外格差の検証:クロマグロは増えていて、安くなるのか?


太平洋クロマグロを管理する国際機関WCPFCのレポートのドラフトが公開されました。例によって、例のごとく、国内外で報道の方向が180度違います。

太平洋マグロ、規制継続なら20年で3・6倍に
読売新聞(2013年1月10日09時22分) 

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130109-OYT1T00226.htm

日本近海を含む太平洋産のクロマグロ(親魚)が、2030年までに最大で10年の3・6倍に増える可能性があるとの予測を、漁業管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の科学委員会が8日公表した。
日本で消費されるクロマグロのうち、太平洋産は約7割を占めている。資源量の増加は、将来的な価格下落につながる可能性もあり、日本にとっては朗報といえそうだ。

web魚拓

太平洋のクロマグロは2030年に3・6倍に 国際委員会が予測、現行水準で規制続けば
産経新聞(2013.1.10 18:34)  

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130110/biz13011018360038-n1.htm

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の科学委員会が、太平洋クロマグロの漁獲規制が現行と同水準で続けば、2030年には親魚の資源量が10年水準の約3・6倍に増える可能性があると予測したことが10日、分かった。

日本で消費されるクロマグロの7割弱は太平洋クロマグロ。資源量が増えて漁獲規制が緩和されると、価格下落につながる可能性がある。

科学委員会は8日公表した報告書で、10年の親魚の量が2万3千トン弱と歴史的な低水準にあると指摘した。

web魚拓

どちらも同じような「増えるよ、安くなるかもね」という大変に楽観的な論調。産経新聞が現在の資源量が低いことにさらっと触れているが、読売にはそれすら無い。

一方、同じ報告書を元にした海外発のニュースはこんなかんじ。

太平洋クロマグロの資源量急減、漁獲規制が不十分-環境団体
ブルームバーグ(2013/01/09 13:42 JST)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MGCAA86KLVS001.html

太平洋クロマグロの資源量は過剰な漁獲が影響し、漁獲しなかった場合の水準を96.4%下回っているとピュー環境グループが指摘した。

詳しくはリンク先を全文読んでほしいのですが、全く違う論調です。実はこれ同じ報告書を元にしているのだから、驚きですね。どこを抜き出すかによって、読み手に全く異なる印象を与えることができるのです。

 

実際に、報告書を見てみよう

ソースによって内容が大きく違う場合は、一次情報に当たるのが鉄則。ということで、報道の元となった報告書の中身を見てみよう。公開文書ですので、こちらからダウンロードできます。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Final_Assessment_Summary_PBF.pdf

英語だし、専門用語が多いので、要点となる部分を説明します。

太平洋クロマグロの資源状態については、3ページ目の 4. Status of Stockに重要な記述があります。

Although no target or limit reference points have been established for the Pacific bluefin tuna stock under the auspices of the WCPFC and IATTC, the current F (average 2007-2009) is above all target and limit biological reference points (BRPs) commonly used by fisheries managers (Table 2), and the ratio of SSB in 2010 relative to unfished SSB is low (Table 3).

地域漁業管理機関WCPFC・IATTCは、太平洋クロマグロ資源の管理目標となる指標を何も示していないのだが、現状の漁獲圧(2007-2009の平均)は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っており(Table 2)、漁獲が無かった場合と比較した産卵親魚量(SSB)も減少している(Table 3)。

少しでも専門知識があれば、これを読んだだけで「こりゃ駄目だ」とわかります。それぐらいダメダメなのです。どこがどう駄目かを、3つのポイントに絞って説明しましょう。

1)管理目標を設定していない

目標の設定は資源管理の大前提です。「資源をどういう状態に維持します」という目標があって、「ではどうする?」という議論ができる。

たとえば、大西洋の水産資源を管理するための機関であるICESは、資源量を目標値(Bpa)以上に、漁獲圧を目標値(Fpa)以下にするという明確な方針がある。資源量が目標値を下回った場合、および、漁獲死亡が目標値を上回った場合には、速やかに漁獲圧を削減する。このように、維持すべき目標があって、初めて、迅速な管理措置がとれるのです。「太平洋クロマグロには、管理目標すらない」というのは、管理が体をなしていないことの証です。

2) 現状の漁獲圧は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っている

乱獲には、乱獲行為と乱獲状態という2つの形態がある。

乱獲行為: 非持続的な漁獲圧をかけること
乱獲状態: 生物の生産力が損なわれる状態まで資源を減らしてしまうこと

肥満にたとえると、カロリーのとりすぎが乱獲行為。健康に害がでるほど太ってしまうことが乱獲状態ということになる。カロリーを取り過ぎたからといって、必ずしもすぐに肥満になるとは限りません。乱獲行為と乱獲状態は分けて考える必要があります。漁業資源の管理の場合は、漁獲圧を強くしすぎない(乱獲行為の回避)、産卵親魚を減らしすぎない(乱獲状態の回避)、という2点が重要です。

乱獲状態の指標には、いろいろな考え方があるのですが、一般的なものを並べてみるとTable 2のようになります。

FmaxやFmedなどが、一般的に利用されている管理指標です。表の数値はこれらの管理指標と現在の漁獲圧の比を表しています。値が1よりも小さいということは、現在の漁獲圧が管理指標よりも大きいことを意味します。太平洋クロマグロの場合は、一般的に利用されいている管理指標を上回っているので、乱獲状態にあると言えます。管理指標にもいろいろあるのだけど、一般的にはF0.1, F30%, F40%が採用されます。たとえば、F30%のところには0.35という数字があります。これはF30%という管理指標を採用するなら、漁獲圧を現在の35%まで削減する必要があることを意味します。

Table2のなかで、注目してほしいのがFmedです。Fmedというのは、過去の平均的な条件で資源が平衡状態になる漁獲圧なので、現状の漁獲圧がFmedを上回っているということは、過去の平均的な環境のもとで、資源は減少することを意味します

3) 現在の産卵親魚量は、漁獲が無かった時代の3.6%まで減っている

クロマグロがどのぐらい減っているのかというのは、最後のページのTable 3をみるとわかります。

この表の右から2番目のDepletion Ratioというのが、漁獲が無い時代の親の量と2010年の親の量の比です。Run1からRun20まであるのは、シミュレーションの設定による違い。 自然死亡など、正確な値がよくわからないパラメータがたくさんあるので、様々な可能性を検討するために、20のシナリオを作って、シミュレーションをしているのです。20のシナリオの中で、現時点で一番もっともらしいと考えられているのが、ベースケースのRun2です。この場合、資源量は未開発時の3.6%まで減少していることになります。どんなに楽観的なシナリオでも5.4%、悲観的なシナリオだと2.1%まで減っているのです。

一般的な水産資源管理では、産卵親魚量は、未開発時の40%から50%を維持すべきと言われています。その水準を下回ったら漁獲規制を厳しくして、未開発時の20%を下回ったら禁漁にするというのが一般的な考え方です。10%を下回ったら、資源崩壊と見なされます。太平洋クロマグロの場合は、其れを遙かに下回る資源状態で、Fmedを上回る漁獲圧をかけているのだから、あまりにも非常識かつ無責任です。

2030年までに3.6倍に増えるとか言ってますけど、3.6%が3.6倍に増えても、未開発時の13%です。「資源が乱獲状態を脱した」というには、未開発時の40%程度まで回復させる必要があります。今からちゃんと漁獲規制をしたとしても、俺が生きている間にそこまでたどり着けるかどうか・・・。

そもそも、乱獲されていない資源は、短期的に3.6倍には増えません。未開発時の40%までしか減らしていなければ、禁漁をしたところで2.5倍にしか増えないのですから。

日本のメディアは、なぜこのレポートを元に、楽観的な報道をできるのか?

レポートの内容を見ていくと、太平洋クロマグロの悲惨な状態がわかると思います。このレポートをみてもため息しか出ませんでした。レポートでも、資源は乱獲されているという明記されています。

このレポートをもとに「クロマグロが、3.6倍に増える。安くなるかも!」という記事を書ける日本のメディアはなんなんでしょうね。救いようが無いことに、業界紙を含む国内メディアの大半が、足並みをそろえて、同じ論調の報道をしました。「3.6倍に増える可能性が示された」というのは嘘では無いのですが、前提となる悲観的な情報を取り除いて、その部分だけを楽観的に伝えるのは、世論操作と言っても良いと思います。消費者が資源の減少について知らされないまま、持続性を無視した消費活動を続けていけば、食卓から魚が減っていくのはやむを得ないと思います。

Comments:1

ty 13-01-23 (水) 16:03

「業界紙を含む国内メディアの大半が、足並みをそろえて、同じ論調の報道をしました」
水産庁かどこかが、この論調でブリーフィングをしたのではないでしょうか?
そして官庁のブリーフィング内容について、記者が内容を理解することもきちんと裏を取ることなく、記事にしてしまったと…

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