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ウナギの乱食にブレーキをかけられるのは誰か?


日本では、ウナギを守るための実効性を持った取り組みは現在進行形で行われていない。非持続的な消費は今も継続している。ウナギが減ったのは誰の責任かというと、獲った漁業者も、売った小売りも、食べた消費者も、非持続的な消費システムの一員である以上、責任はあるだろう。規制すべき立場にいた水産庁も、警鐘を鳴らすべき立場にいた我々専門家も、無責任の誹りを免れない。俺自身も、これまで何十年もウナギを食べてきたのだから、他人事のように非難できる立場では無い。当事者として、自らの責任を認めた上で、未来につながる行動をとらないといけない。

ウナギの資源回復を誰が主導でやるべきだろうか。もちろん、皆が出来ることをやるべきである。

  • 行政は、法整備をして、非持続的な漁獲を抑制すべきである
  • 漁業者は、非持続的な漁獲を控えるべきである
  • 小売りは、非持続的な漁業で獲られた魚を扱うべきでは無い
  • 消費者が、非持続的な漁業で獲られた魚を消費すべきではない。

残念ながら、だれも具体的な行動を起こしていない。動きだす気配すらない。水産庁は資源管理をしない口実を並べるだけで、何もしてこなかったし、今後も何もしないだろう。漁業者は、漁獲量が減ったからといって、漁期を延ばしている。小売りは、売れれば何でも売るし、消費者は無関心。環境省が絶滅危惧種に指定をしたのが唯一の救いだが、これとて法的強制力を伴うものではない。状況は絶望的だ。

海外の漁業国は、どうやって規制を導入したのか?

日本国内をみていると漁業に救いは無いのだけど、海外に目を向けてみると、全く違う光景が開けている。ノルウェーやニュージーランドのような漁業管理をちゃんとやっている国は、水産資源が回復していて、漁獲量も安定している。こういった国は、どうやって最初に資源管理を始めたのだろうか。ここに日本でも資源管理を始めるためのヒントがありそうだ。ということで、俺は、かなり前から、資源管理先進国を訪問して、資源管理をどうやって始めたのかを聞き取り調査してきた。

2007年 ノルウェー
2008年 オーストラリア、ニュージーランド
2009年 ノルウェー、ニュージーランド(チャタム島)
2010年 米国(シアトル、アラスカ、ベーリング海)

世界を旅してわかったことは、「行政や漁業者が主導で資源管理を始めた国は無い」ということだ。漁業者は魚を獲るのが仕事だし、現状でも生活が厳しいのに、漁獲規制など賛成するはずが無い(実は、漁獲規制がないから、生活が厳しいのだけど)。行政は、業界が反対していて、調整が難しいことを、自ら進んでやるはずが無い。これは日本に限った話では無く、ノルウェーやニュージーランドでも同じ状況だったのである。

ニュージーランドで、漁業改革を指揮したクラウザーさんに当時の話を聞いた。漁獲規制に対する漁業者の抵抗はひどかったらしい。説明会を開けば、罵声を飛ばされたり、トマトを投げつけられたり、さんざんだったとのこと。ではどうして、漁獲規制が導入できたかというと、国民世論が乱獲を許さなかったからだ。

ノルウェーでも、ニュージーランドでも、環境保護団体が強い。彼らが非持続的な漁業の問題点を指摘した結果、乱獲に反対をする国民世論が高まり、漁獲規制が導入されたのである。選挙では、与党も野党も、漁業管理を公約にして、選挙を戦い、意欲のある政治家が中心となって、政治主導で資源管理を始めたのである。

漁獲規制を始めたら、大型の魚がコンスタントに捕れるようになり、漁業が儲かるようになった。すると、5年もしないうちに、漁業者は資源管理を支持するようになった。2008年に俺がヒアリングしたところ、漁業者のほとんどが資源管理を支持していた。自然保護団体のおかげで、漁業が儲かるようになったというのは、なかなかおもしろい現象である。

情報を与えられない日本の消費者

日本国内について考えてみると、水産庁や漁業者は資源の減少を理解した上で、現状を維持しようとしている。つまり確信犯である。彼らに、漁獲が非持続的であることを指摘しても、開き直って終わりである。一方、消費者の「魚を食べ続けられるか」という関心はある。少なくとも、あまり魚を食べないニュージーランド人よりは、格段に高いはずだ。そこで、試しに自分で消費者教育をやることにした。生協主催の講演会で話をしたり、栄養と料理という雑誌に水産資源の問題を寄稿したり、手当たり次第にいろんなことをやってみた。それなりに意識の高い人が対象ということもあるが、ちゃんと話をすれば、理解をしてくれる人がほとんどだった。彼らは異口同音に「こんな話は聞いたことがない」「日本でもちゃんとした漁獲規制をしてほしい」という。消費者に、興味が無いのではなく、情報を与えられていなかったのである。

非持続的な水産物消費システムを変える可能性をもっているのは、行政や業界では無く、消費者だと思う。日本の魚食を持続的にしていこうと思ったら、「なぜ、日本では非持続的な消費についての適切な情報が消費者に流れないのか」を分析した上で、そこに風穴を開けていく必要があるだろう。

Comments:7

井田徹治 13-04-29 (月) 9:06

「安くいウナギをたくさん食べよう」「ニホンウナギがなくなったら外国から買ってこよう」「中国が市場を握ったのがけしからん」なんて報道を続けたメディアにも大きな責任がありますね。アホな「国際ジャーナリスト」が、「中国に買われる前にマダガスカルにウナギを買い付けに行くべきだ。今こそ日本の商社の出番です」なんてコメントをして得意になる、というのが日本のメディアのレベルですから。

シラスウナギは、密漁、密輸、密売などが長く横行していて、多くの関係者がそれを知っているのに、ほとんど対策を取ろうとしていません。水産庁は「シラスウナギは、だれでも参入できるプリミティブな漁業なので規制がでない」などと言い逃れをしていますが、欧州ではちゃんとシラスウナギ漁の規制をやっています。
日本では宮崎県が条例を作って入札制などを導入しています。役所は「やらない理由探し」が得意です。
「資源が減った、何とかしてくれ」と言われて、漁期を伸ばそうか、県外流通を認めようか、なんて資源保護より業界保護を優先させることばかり考えています。

ようやく親ウナギの漁獲を減らそう、という動きにはなってきましたが、シラスウナギ捕り放題では
今の極低レベルのシラスが親魚になる5~10年後の産卵親魚のレベルはいったい、どれだけになるでしょう?
本当の危機は5~10年後にやってくるのではないしょうか?

それでも、コンビニでは春の丑の日キャンペーン、大手スーパーはウナギかば焼きの値下げ競争。業界は外来ウナギに秋波を送る。水産庁は何もしないどころか、「繁殖に貢献しているのは海のウナギだ」などといったトンデモ理論を持ち出して、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定することに激しく抵抗する。
メディアは外来ウナギの輸入をもてはやす。
こんなことを続けていたら、日本のウナギの将来は真っ暗です。

井田徹治

たこさん 13-04-29 (月) 17:05

それが、役所に規制する権限を与えるとそのまま利権になり、特殊法人設立してそこの理事に天下りして退職金で稼ぐという「官僚強盗団」の餌食にされてしまって、実質的な「資源回復に役立たない」という事になりがちなのが困りものなんですわ。いやー官僚強盗団って本当に困った連中ですな。

谷口 忠史 13-05-01 (水) 16:24

シラスウナギの規制はある程度賛成しますが、
うなぎがなぜ減ったのか、こちらを見ることをお勧めします。

http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp396enc.html

 長いスパンの減少理由と、近年のシラスウナギ不良の両方を
解説しています。乱獲が原因なら漁獲量は減る一方ですが、
漁獲高がでこぼこしているのは海流が原因と考えるのが自然では
ないでしょうか。

池上喜代壱 13-05-12 (日) 0:52

>うなぎがなぜ減ったのか、こちらを見ることをお勧めします。
ということですが、そのNHKの番組で解説をされていた東京大学の塚本教授のグループが、今年3月の日本水産学会で、海流の状態が良かった2012年もシラスウナギの来遊が少なく、「産卵場へ帰る親ウナギが激減してしまった可能性が高い。」という趣旨の発表をされています(↓)。

■産卵場へ帰る親、激減か=海流良くてもシラス不漁-ニホンウナギ保護を・東大研究所(時事ドットコム)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201303/2013033000158&g=soc

勝川先生の最近のウナギに関するエントリーは当然、そうした最新の知見を踏まえて書かれているはずですから、私たちもそろそろ、「海流のため」という都合の良い理由に逃げ込むのはやめて、ウナギ資源の減少が乱獲や河川環境の改変などの“人災”によるものだということを、潔く認めるべきでしょう。
(もちろん、海流の影響が全くないということではありませんが。)

私も一人の消費者として、そしてまた自分自身が小売流通業に関連する業界で働いている人間の一員としても、ウナギ資源の減少に対するこれまでの私自身の責任を自覚し、より多くの消費者の考え方を変えていくための努力をしていきたいと考えています。

勝川先生の活動に期待します。日本でもどうにかして、
>自然保護団体のおかげで、漁業が儲かるようになった
という「おもしろい現象」を起こせるように、頑張りましょう。

フルボ酸鉄 13-06-18 (火) 16:32

ウナギが絶滅危惧種に指定された直後、養魚用飼料会社はウナギの餌の開発に力を入れます。なんでもウナギの単価が上がればウナギ用の餌も高値で売れて儲け時なので、ウナギの資源状況が悪くなれば悪くなるほど、会社にとって「絶好の機会」なのだということです。

http://www.hayashikane.co.jp/shohin/topic/120628.pdf

この記事はかつて、勝川様が筆頭もされていた山口みなと新聞の記事で、絶滅危惧種に指定された後に、ウナギの高効率新飼料の開発を紹介している記事です。

これはウナギに限った話ではなく、マグロなど、資源状況が極めて悪い水産資源すべてに該当するもので、逆に完全養殖できて定着している魚や資源状況が安定しているとされる魚などは市場価値が上がる見込みがないことから良い餌の開発には力を入れません。

このような市場と会社の運営がウナギに限らず、水産資源の悪化に歯車を欠けていると思うのですが勝川様を始め、皆様どう思われますか?

ちーちく 13-07-05 (金) 14:28

>皆様どう思われますか?
とのことなので感想を。
残念ながら誤解?による間違いが多く、私は賛同できません。きつい言い方ですが、自分の知識の無い部分を想像で補ってストーリーを組み立てられている感じがします。そもそも紹介された新聞記事とフルボ酸鉄さんの主張がかみ合いません。具体的に言うと。

1.低魚粉餌料の研究開発はずいぶん前からのトレンドであって、絶滅危惧種指定とは無関係です。絶滅危惧種に指定されてから開発したのでは、今の発表タイミングに間に合いません。新餌料開発は常に行われています。たまたまA絶滅危惧種指定→B新餌料発表となったのを見て、Bの理由はAに違いないと誤解しただけではありませんか。
2.ウナギの資源状況が悪くなることが「絶好の機会」と解釈した理由がわかりません。ウナギが高値なら餌も高値で売れる・・と考えた理由がわかりません。新聞にもそんなことは書いていません。ウナギの養殖数が減れば餌の売れ行きは悪くなり業界としては「ピンチ」以外のシナリオが思いつきません。この新聞記事は「コストパフォーマンス」と何度も書いてあるとおり、高価な餌を開発したのでは無く、安い餌を開発したという内容であり、フルボ酸鉄さんの主張とは真逆です。
3.新聞で紹介されている新餌料を「良い餌」と考えられているのは誤解です。一般に魚粉比率の高い餌の方が「良い餌」です(魚の栄養要求を満たすのに「魚粉」が最も簡単なのはわかりますよね)。魚粉が高価だからといって安価な植物性原料に置き換えると普通は成長や増肉計数が悪化します。新聞記事の内容は魚粉比率を下げて値段を安くしても成長や増肉計数に遜色の無い餌を開発したという記事です。

文章で書くときつくなりがちで申し訳ありませんが、どこが誤解されているのか納得頂けたでしょうか?

matsusue 13-12-11 (水) 19:45

水産庁は何もしていないのではなく、資源管理の方法が間違っているように思えます。

これまで水産庁は漁獲規制を地域漁業管理機関により行われるべきだとしてきました。
しかし、ウナギにおける地域漁業管理機関は2012年に発足した日中台の非公式協議が初めてで、
資源の調査も水産総合研究所によって始まったばかりと聞きます。
地域漁業管理機関が資源管理を実行するには、
・各国が資源の有限性を理解し自発的に資源管理を行う意思があること
・漁獲規制を行う情報量が十分にあること
などがあげられると思いますが、ウナギに関してはどちらも不十分。
当分の間、地域漁業管理機関による漁獲規制がなされることはない、と容易に想像できます。

これらのことから、水産庁は何もしていないのではなく、
地域漁業管理機関での漁獲管理を進めているが
ウナギにおいては地域漁業管理機関では有効ではないということだと考えます。

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