Home > その他 > 全漁連の考察を考察する(その1)

全漁連の考察を考察する(その1)

[`evernote` not found]

俺としては、「全漁連は日本漁業を、こうやってプロデュースしていきます!」みたいな全漁連としての将来構想みたいなのを期待しているのだが、「髙木委員提言のここがだめ、そこがダメ」といった揚げ足取りしかしていない。建設的な対案を出せる組織ではないのだろうか。

ITQに対する警戒感が高いようだが、その心配が妥当かどうかを考察してみよう。

また高木委員会はIQを自由に売買する(典型的には入札方式の)譲渡可能個別割当ITQ制度を推奨しながら、それをほとんどIQ制度と同様のものとして説明しているが、IQ制度とITQ制度の間には非常に大きな距離があるのである。ITQ制度の下では、高値で割当量を買える資金力のある者が割当量を集中して保有し、それを購入できない者は廃業するか小作経営化せざるをえなくなる。IQ制度が資源管理の手法であるのに対して、ITQ制度は「効率的」経営体(実は資金調達力のある経営体)のみを残存させ、それ以外の経営体を排除していく経営体選別の手法にほかならず、両者は社会的経済的次元では全く異なる意味を持っているのである。

ニュージーランド、アイスランド、ノルウェーなど殆どの国で、ITQの漁獲枠は過去の実績に応じて配分されている。既得権を重視する日本でも、当然そうなるだろう。ITQの漁獲枠がオークションで取引されるのは、チリ、エストニアなどで、十分に利用されていない資源がある場合が多い。既得権として漁獲枠を保証することで、投資を促進しようという戦略である。日本では枯渇した資源に対して漁業者が多すぎるので、オークションで新たに配分するような漁獲枠は無い。ITQを導入したところで、漁業者が漁獲枠を手放さない限り、企業は漁獲枠を買うことは出来ないのである。ITQを導入すると漁業者の既得権は全て取り上げられて、資金力がある人間がオークションで漁獲枠を独占するというようなことは非現実的である。

ITQでは、資金調達力のある経営体のみが存続するというのは誤りだが、「IQとITQが社会的経済的次元では全く異なる意味を持っている」という指摘は正しい。日本漁業が抱えている社会経済的な問題を考慮すると、IQでは不十分で、ノルウェー型の漁獲枠の譲渡制度が不可欠である。日本には、借金を背負って、撤退も出来ない漁業者が大勢いる。彼らが借金の利子を減らすために、なりふり構わず資源を傷つけている。現状では漁業から撤退しても借金が残るだけである。もし、ITQが導入されれば、漁獲枠を手放すことで、撤退資金ぐらいにはなるだろう。不良債権化した過剰努力量を解消するために、漁獲枠の譲渡は必要なのである。もし、資源管理がIQ止まりであれば、過剰な努力量がそのまま温存され、みんなで貧乏→みんなで倒産ということになるだろう。現状の生物の生産力で養える規模まで漁業を縮小させなければならない。資金がショートして夜逃げをするより、漁獲枠を譲渡してスムーズに撤退した方が、漁業者にとっても良いと思うのだが、どうだろうか。

Comments:2

ある水産関係者 08-04-05 (土) 13:39

全漁連考察レポートは、「はしがき」に書いてある通り、高木報告に対する先生(?)方の見解を合冊したものと考えれば目くじらを立てなくても済むかも知れません。全漁連も、先生方の見解を元に方策の検討を進めていきたい旨書いているので、今後作られるであろう代案に期待しようではありませんか(どうせ空振りでしょうが・)。

今回の4人の見解のうち、大学の3人については「オカカエ」の悲しい性とそのための猛烈なエネルギー(まともなところに使ったらいいのに・・・)を感じた以外、特別な価値を見出すことは出来ませんでした。特に、最初の2人については、余りにも独善的かつお粗末(下品?)な表現・内容に、「えっ、これホントに大学のセンセイ(しかも東大…)が書いたの?」と疑ってしまい、勝川さんの苦労が半分くらい理解できた気がします(せめて漢字くらい間違えるなよー)。
まあ日本の漁業者もこんな先生方が味方についていれば、既得権益を擁護する上で、さぞ心強いことでしょう、あくまでも世の中の関心が漁業に向いていない間の話ですが…。

さて、こんな全漁連レポートですが、3番目の「沿岸漁場利用をめぐる制度的考察」については、現行制度の基本になっている過去の歴史が客観的かつ詳細にまとめてあるので、漁業関係者には一読の価値有りと思います。このような沿岸漁業を中心にした歴史については、今後の漁業制度を考える上で、決して無視できません(賛同するかどうかは別にして・)。

余談ですが、全漁連もここまで基本理念(あくまでも現状維持ですが・・・)をまとめられたのだから、是非、高木委員会と4人の先生方(+α?)の間で、「望ましい日本の漁業制度」をテーマにした直接対決(公開討論会)を実現させて欲しいものです。もちろん、その際、透明性を確保することは言うまでもありません。大本営の参謀も本音で参加すれば尚更有意義でしょう。ちなみに、結論は、両者と別のところにありそうな気がしますが・・・。

勝川 08-04-16 (水) 0:09

>さて、こんな全漁連レポートですが、3番目の「沿岸漁場利用をめぐる
>制度的考察」については、現行制度の基本になっている過去の歴史が客
>観的かつ詳細にまとめてあるので、漁業関係者には一読の価値有りと思
>います。このような沿岸漁業を中心にした歴史については、今後の漁業
>制度を考える上で、決して無視できません(賛同するかどうかは別にして・)。

凄い文章に挟まれて(笑)地味な印象ですが、確かにこれは良く纏まっていますね。
今後の沿岸漁業を考えるには、今までの歴史を理解した上で、
実現可能な方策を目指していく必要があるでしょう。
まあ、全漁連的に実現可能な方策は、現状維持&補助金増額だけなのでしょうが・・・

>是非、高木委員会と4人の先生方(+α?)の間で、
>「望ましい日本の漁業制度」をテーマにした直接対決(公開討論会)を
>実現させて欲しいものです。

そんなことになったら、実に愉快ですが、
負けるとわかっているのに直接対決などやるわけ無いですよ。
内輪の集会でシュプレヒコールを上げるのが精一杯でしょう。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=551
Listed below are links to weblogs that reference
全漁連の考察を考察する(その1) from 勝川俊雄公式サイト

Home > その他 > 全漁連の考察を考察する(その1)

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 3
  • 今日: 617(ユニーク: 315)
  • 昨日: 1210
  • トータル: 9359354

from 18 Mar. 2009

Return to page top