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政策の転換で、米国漁業は復活した。で、日本はどうするの?

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青い空!! 青い海!!

キャプチャ

今年も、米国カリフォルニア州のモントレーで行われる持続的な水産物消費促進のためのイベント Cooking for solutionsに参加してきました。

持続的な水産物消費を力強く応援している米国のモントレー水族館では、毎年、Cooking for solutionsというイベントを開いている。消費者が持続的な水産物を選んで食べることで問題解決をしようというイベントだ。去年に引き続き、今年も、イベントに参加してきた。

日本で、「持続性」とか「消費者運動」とかいうと、気の滅入る話を勉強したうえで、「あれ駄目、これ駄目」とお説教されるような印象なんだけど、Cooking for Solutionsは、「持続的なシーフードを食べて、盛り上がろうぜ!」というノリで、カリフォルニアの日差しのごとく、明るく、楽しいお祭りなのです。詳しくはリンク先を見てください。

Cooking For Solutions

米国の漁業の現状

米国の漁業の現状について、整理してみよう。World Bankのレポートでは、「漁業は世界では成長産業なのに、日本漁業は一人負け」という結果になったのだが、米国漁業は今も成長をしている。リンク先は、米国の漁業の経済レポートだ。

Fisheries Economics of The U.S. 2012

2009年から、2012年までの商業漁業の経済動向をまとめたのがリンク先のこの図である。

commercial_impact_trends_2012

雇用、収入、売り上げ、利益のすべてにおいて着実に成長していることが見てとれる。これらすべての指標は日本では右肩下がりであり、日本の漁業とは対照的な状況にあるのだ。日本国内の御用学者が、どれだけ言葉でごまかそうとしても数字はごまかせない(だから彼らは数字を出さない)。

米国漁業も平坦な道で会ったわけでは無い。1960年代から、日本漁船によって米国周辺漁場が強度に利用されだした。1970年代に、EEZを設定して、日本船を追い出すことには成功した。それによって、1980年代に漁業が急成長した。しかし、自国の漁船の規制に失敗して、漁業は衰退を続けた。1991年に、北米屈指の好漁場のグランドバンクのタラ資源が乱獲によりほぼ消滅し、非持続的な漁獲が大きな社会問題になった。その後も米国の漁業は苦戦を続ける。早獲り競争を容認していたからだ。

ノルウェーやニュージーランドと違って、米国は漁業者の早獲り競争の抑制に消極的だった。米国は自由競争の国。既得権を特定の人間に与えるのでは無く、自由競争の勝者が権利をえるのが彼らの流儀である。だから、漁獲枠を既得権として、予め配分しておく個別漁獲枠制度に対しては心理的な抵抗があったのだ。アラスカの一部の漁業で、個別漁獲枠制度が導入されだすと、米国政府はITQモラトリアム宣言をして、ITQの広がりに政治的に歯止めをかけた。その結果、米国漁業はなかなか利益が出せずに苦戦が続いていた。

米国漁業は個別漁獲枠制度で生まれ変わった

2002年に、米国政府は失敗を認めて、ITQモラトリアムを撤回し、Catch Shareプログラム(ITQに近い漁獲制度)を主要な漁業に導入した。その後は、漁獲量はほぼ横ばいながら、付加価値が付く漁業に転換し、順調に生産金額を伸ばしている。

こちらのサイトから、米国の漁業に関する基礎的な統計を検索できる。1980-2012までの漁獲重量(青線)と漁獲金額(赤線)をグラフにすると次のようになる。1990年以降、米国の漁獲規制は年々強化されており、水産資源は回復傾向にあるのだが、厳しい規制によって、漁獲重量はやや減少している。魚がいなくなって漁獲量が減っている日本とは大きく違うのである。注目すべきは1990年代にはじり貧であった漁業生産金額が、ITQモラトリアムを撤廃した2002年以降に急上昇している点である。

キャプチャ

米国漁業の成長は、「早い者勝ちで魚を奪い合う漁業」から、「高品質な魚を安定供給して価値で勝負する漁業」へと転換したことによって実現した。この転換を可能にしたのが、米国政府による個別漁獲枠制度の導入なのだ。2002年以降、魚価(USD/metric ton)が上昇していることからも明らかである。

キャプチャ

 

漁業再生における政府の役割

米国で2002年以降に起こったことは、ノルウェーやニュージーランドで1980年代に起こったことと全く同じである。「公的機関による適切な規制が、漁業を成長産業にする」ということだ。適切な規制としては、次の2点が上げられる。

1)控えめの漁獲枠 → 水産資源を持続的に利用
2)早獲り競争の抑制 → 魚質の改善、コストの削減

米国は、もともと1)は出来ていたから、2)をやればすぐに利益が出たのである。日本の場合は、過剰な漁獲圧をどうするかというところから、取り組まないといけないので、ちょっと大変。だから、日本の関係者は「問題は無い」と言い張って、適切な処置をとらず、漁業を衰退させ続けている。

米国漁業の再生に果たした政府の役割について、経済学者のクルーグマンは次のように述べている。

ポール・クルーグマン「漁場再生:政府介入が役に立ちましてよ」

「気候変動と戦うのだって,漁場を救うのとそれほどかけはなれたことじゃない.やるべきとわかりきってることをちゃんとやりさえすれば,いまどんな人が予想してるのよりも,首尾よくかんたんにやれるんだ」というクルーグマン氏の指摘は正しいだろう。気候変動と乱獲に対する政策に違いがあるとすれば、気候変動を抑制するための政策はまだ確立されていないが、乱獲を抑制するための政策はとっくの昔に確立されて、多くの国ですでに実績を残している点であろう。

日本は変われるのか?

自由競争が大好きな米国ですら、漁獲枠の個別配分に踏み切らざるを得なかった。にもかかわらず、日本では、「親の仇と魚は見たらとれ」といったような、魚の奪い合いが今でも盛んである。日本の漁業関係者は、米国よりも自由競争が大好きなのだ。その結果、漁業が利益が出ない状況に陥ってしまっている。政府は、政策の誤りをただすこと無く、場当たり的に補助金を配ってごまかしてきた。

日本政府がイニシアチブをとって、漁業政策を転換すれば、漁業を成長産業に変えることは可能である。逆に、「漁師さんが困っているから、補助金を配りましょう」というこれまでの政策を続けるならば、日本の漁業は確実に衰退を続けるだろう。現在、日本政府は「日本再興戦略 Japan Is Back」をとりまとめている最中である。日本再興戦略に、「個別漁獲枠制度を導入し、漁業を成長戦略に転換する」という方針を盛り込むように、あらゆるルートを使って働きかけている。厳しい状況ではあるが、ここを逃すとさらに5年ぐらい先延ばしになってしまいそうなので、ベストをつくしている。初夏に出るといわれている日本再興戦略に、漁業管理が盛り込まれているかどうかに注目して欲しい。

Comments:1

Okome 14-05-21 (水) 12:49

私は漁業関係の話には疎いので、とても興味深くこちらの記事を拝見しました。

ひとつ疑問に思ったことなのですが、最初の図のようにValue Addedの項目は年々増加している一方で、漁獲量はほぼ横ばいとのことですが、どのような付加価値形成が、米国漁業においては主なのでしょうか。

日本の農業等では、①リパック・カットにより、利便性を高めること、②食味向上や鮮度維持のための新たな加工プロセスの導入、③ブランド化のための規格の設置などがあるようです。

お忙しいとは思いますが、ご教授いただけたら幸いです。

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