- 2014-08-29 (金) 8:23
- クロマグロ
現在、国内外で関心が高まっている太平洋クロマグロの現状について整理してみよう。
このエントリで用いる図はすべて、WCPFCのISCレポートからの引用である。
日本が主人公
太平洋クロマグロは、長距離の回遊をする高度回遊性魚類の代表である。しかし、その産卵場および主な生息域は日本のEEZにあり、漁獲および消費の大半は日本人によるものである。「ほぼ日本の水産資源」といってもよいだろう。
日本の次に漁獲が多いのはメキシコ。東太平洋に餌を求めて回遊した10~20kgぐらいの未成魚を捕まえて、餌を与えて太らせて、日本に出荷している。それ以外の国、韓国、台湾、米国の漁獲は誤差のようなレベルである。下のグラフを見て、「韓国のせいでマグロが減っている」と主張するのは難しいことが一目瞭然だろう。
問題点 その1 未成魚への高い漁獲圧
下の図は漁獲されたクロマグロの年齢組成である。0歳、1歳、2歳でほぼすべての個体を漁獲していることがわかる。クロマグロは3歳で2割の個体が成熟し、5歳でほぼすべての個体が成熟すると考えられている。つまり、卵を産む前の未成魚の段階で獲りきっているのである。
問題点 その2 産卵場での集中漁獲
未成魚に高い漁獲圧をかけ続けた結果として、大型の産卵群が減少している。6-8月の産卵期になると、日本海と沖縄沖にある産卵場に集まってくる。普段は広範囲に分布しているクロマグロもこの時期だけは一カ所に集まるのである。2004年までは、産卵場での巻き網操業は行われていなかったので、未成魚の漁獲を逃れた大型のマグロが日本海に存在し、資源の再生産を支えていた。しかし、2004年から、日本海の産卵場に集まってくる産卵群をまき網で一網打尽にするようになった。
下の図はまき網による大型魚の漁獲である。2003年までは、まき網は太平洋で餌を食べている群れを漁獲していて、産卵場がある日本海ではほとんどマグロを捕っていなかった。50Kg以上のマグロを釣ることができる沿岸漁業者はごく少数であり、日本海のマグロは、ある程度の大きさになってしまえば、その後は生き残り卵を産むことが出来たのだ。
2004年から、まき網が産卵期に集まるマグロを集中漁獲するようになった。それ以降、太平洋での大型マグロの漁獲は激減し、日本海での水揚げも直線的に減少している。長年蓄えられてきた産卵親魚をあっという間に切り崩してしまったのだ。
すべての親魚が集まる産卵場での操業は、資源に致命的な打撃を与えかねない。たとえば、カナダのニューファンドランドのタラ資源が崩壊したのも産卵期に集まった群れを漁獲していたからである。産卵場で魚が捕れなくなったら、その資源はいよいよ終わりということだ。
問題点 その3 規制の欠如
幼魚と産卵親魚を獲りまくれば、資源が崩壊するのは、誰にだってわかる当たり前の話だろう。問題はこうした問題の多い漁獲が、何の規制もされずに野放しにされてきたことである。
沿岸の釣りや定置網は、クロマグロを捕るための許可は不要で、誰でも獲りたいだけ獲れた。大型まき網船は、許可魚種に「その他」という項目があり、国が規制していない好きな魚種を、好きなだけ漁獲をすることができる。一番規制をしないといけない漁法が、一番規制がゆるくなっている。小型のまき網は、「その他」の抜け道がないので、クロマグロを捕ることができない。
沿岸の釣り漁業、定置網、沖合の大型まき網は、クロマグロを獲れるだけ獲れたのである。釣り漁業の漁獲量はたかがしれているのだが、最も効率的な漁法である大型まき網漁船が何も規制されないというのは、普通に考えてあり得ない話である。水産庁は常々、「日本では漁業者が自主的な取り組みで資源管理をしているので、国が規制をする必要がない」と言っているのだが、県をまたいで回遊する魚種については、漁業者がまとまって話し合う場すら無いのだから、自主管理など出来るはずが無い。
太平洋クロマグロ資源の持続的な利用のためには、日本が幼魚の漁獲と産卵場の漁獲という二つの国内問題にしっかりと取り組んだ上で、国際的な規制を進めていくことが必要である。
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Comments:1
- 松野尾 15-05-09 (土) 11:55
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大変勉強になりました。Wedgeの記事も読みました。
こう言う漁獲を続ける大手漁業会社は何処なのか公表しては如何でしょうか。
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