- 2014-08-28 (木) 4:05
- クロマグロ
今回は一般向けでは無く、メディアや勉強をしたい人向けに、少しだけ専門的な話を書きます。
クロマグロの資源状態について
太平洋クロマグロの資源状態については、1年半前のブログに書いたとおり。日本では3.6倍に増えるとか大本営発表をしていたが、実際には枯渇した資源に非持続的な高い漁獲圧をかけ続けている。
西太平洋のマグロの管理をしている国際機関WCPFCの科学委員(ISC)のウェブサイトはここにある。
http://isc.ac.affrc.go.jp/reports/stock_assessments.html
最新のレポートはこちら。
http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Pacific%20Bluefin%20Assmt%20Report%202014-%20June1-Final-Posting.pdf
ドメインを見ればわかるように、日本の独立行政法人水産総合研究センターで管理されているのだ。日本国内で社会的な関心が高い水産資源の評価を、日本がホストする科学委員がやっているのだから、資源評価の日本語訳ぐらい準備しても良さそうなものなのだが、水研センターはサービス精神に欠けますね 👿
ということで、エグゼクティブ・サマリーだけでも個人的に和訳をしてみました。次回以降に、これをもとに水産庁が現在進めている太平洋クロマグロの管理措置について論じたいと思います。
科学委員の要旨
1.資源の概要
太平洋クロマグロは、太平洋全体で単一の系群を形成しており、国際機関WCPFC(西太平洋)とIATTC(東太平洋)によって管理されている。産卵場は北西太平洋にしかない。それぞれの年級群の一部は太平洋を横断して回遊し、北東太平洋で幼魚期の数年を過ごすものもいる。
2.漁獲の歴史
太平洋クロマグロの漁獲記録はあまり整備されていないが、日本沿岸では1804年、米国では20世紀初頭まで遡ることが出来る。漁獲量の推定によると、1929から1940年は漁獲が多く、そのピークは1935年の47635トンであった。その後、第二次世界大戦のために漁獲量が減少する。戦後、日本の漁獲活動が北太平洋全域に広がったために、1949年にクロマグロの漁獲が急増した。1952年までに、多くの漁業国で一貫した漁獲量報告システムが確立された。より信頼できる漁獲統計によって、1952年から2012年までの漁獲量は、年によって大きく変動することがわかった。この時期の漁獲のピークは1956年の40383トンで、最低は1990年の8653トンであった。クロマグロは様々な漁具によって漁獲されているが、現在の漁獲の大部分は巻き網漁業によるものである。1952年以降の漁獲は、未成魚中心であったが、1990年代から、0歳の漁獲が大幅に増加している。
3.データと資源評価
ストックシンセシス(SS)と呼ばれる年齢構成モデルによって、資源動態が推定されている。1952-2013年の漁獲量、年齢組成、単位努力量あたり漁獲量のデータにあうように、WCPFCの国際科学委員(ISC)のクロマグロワーキンググループ(PBFWG)が作業を行った。耳石から年齢を推定した成長曲線や、標識放流やその他の経験的な手法によって得られた自然死亡係数などの生活史パラメータが含まれる。
国と漁具によって階層化された全14漁業が資源評価モデルには含まれている。利用可能な漁獲・年齢組成データを利用して漁獲のプロセスを表現した。日本の遠洋延縄、近海延縄、台湾の延縄 および 日本のトロールのデータを用いて、相対的な資源量を評価した。尤度に基づく統計フレームワークで、モデルを入力データに適合した。最尤法によって、得られたモデルパラメータからモデルを構築し、パラメータの変動も考慮して、資源量の推定と将来予測をおこなった。
PBFWGは、CPUEデータ、入力データの重み付け、年齢別の漁具選択性を推定する手法に不確実性があることを認識している。それぞれ異なるCPUEデータと漁具選択性をもちいた4種類のモデルを走らせることで、これらの不確実性が動態モデルに与える影響を評価した。
このあたりは、モデルの細かい話なので中略
4.資源状態と保全のアドバイス
資源状態
最新の資源評価では、2012年の産卵親魚量は、26324トンで、2010年の推定値25476トンよりもほんの少し多かった。
新規加入量(卵から生き残って、新たに漁獲対象になった個体数)の推定値は、モデルの設定を変えても、ほぼ同じような水準だった。2012年の新規加入は比較的低水準(61年で下から8番目)であり、過去5年の新規加入は歴史的な平均水準を下回っていた。2009-2011年の漁獲死亡係数の推定値は、0-6歳については、それぞれ19%,4%,12%,31%,60%,51%,21%増加したが、7歳以上については35%減少した。
WCPFCおよびITTACでは、太平洋クロマグロについては、資源管理のための目標や指標は決定していない。現在の漁獲圧は、Floss以外の一般的に用いられているすべての管理指標よりも大きくなっている。2012年の産卵親魚量は、漁獲がなかった時代の6%以下であった。一般的な管理指標と比較すると、乱獲が現在進行中であり、資源が乱獲状態にあるといえる。
実例として、Kobeプロットの図を示した。(AはSSBMedとFMED、BはSSB20%とSPR20%に基づく)太平洋クロマグロに対しては、管理指標の合意がないのだが、これらのKobeプロットは、資源状態に対する別の視点を提供し、今後の議論に役立つだろう。
歴史的に見て、西太平洋の沿岸漁業が最も大きなインパクトをもっていた。しかし、1990年代初頭から、西太平洋の巻き網のインパクトが増加し、これらの努力量がたのすべての漁業グループを凌駕している。東太平洋のインパクトは、1980年代中頃まで大きかったが、その後、大幅に減少している。西太平洋の延縄はすべての時期を通して、限定的なインパクトしか与えていない。漁業の影響は、漁獲される個体数と大きさの両者によって決定される。たとえば、多数の小型の稚魚を漁獲することは、大型の成熟個体を漁獲するよりも、未来の産卵個体群に対する影響が大きいこともあり得る。
管理アドバイス
現在(2012年)のバイオマスは歴史的な最低水準付近で有り、Floss以外のすべての管理指標よりも高い漁獲圧がかかっている(訳者注:Flossは資源が消滅に向かう漁獲圧なので、これを超えなければよいというものではない)。将来予測をみても、現在採用されているWCPFC CMM(2013-09)およびITTAC(C-13-02)の管理措置を今後も続けた場合、現在の低水準の加入が続く限り産卵親魚は回復しないと考えられる。
NC9で要求された将来予測では、低水準の加入が続いた場合には、もっとも厳しい管理シナリオ6のみで産卵親魚が増加した。シナリオ6の結果から、さらに大幅な漁獲死亡率とすべての未成魚の年齢帯における漁獲量の削減によって、産卵親魚が歴史的最低レベルを下回るリスクを削減できることが示された。
もし、最近の低水準な加入が今後も続く場合、産卵親魚が歴史的最低水準を下回るリスクが増加する。このリスクはさらに厳しい管理措置を執ることで減少できる。
NC9が要求した将来予測では、長期的な平均的な加入まで回復しない限り、産卵親魚増加は現在のWCPFCおよびITTACの保全管理手段では望めない。
産卵調査の結果に応じて、資源評価での未成魚の定義が変更された場合には、予測結果も変わる可能性がある。SSBが低水準であり、将来の新規加入が不確実で、資源バイオマスに対する加入が重要性であることを考慮すると、加入のトレンドをタイムリーに把握するためのモニタリングを強化すべきである。
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