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補足資料:アラスカのTACとABCの設定

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ABCはメイドインUSAの舶来品

日本のTAC制度は、米国の管理制度を模倣していることは、周知の事実である。
日本には資源管理の枠組みは存在しないのだから、仕方がない。
実際にABCの引用文献を見ても、いくつか欧州の文献が混じる程度で、米国の政府文書がほとんどだ。

ABCのルーツはアラスカにあり

米国の中でもアラスカが独特の長い資源管理の歴史を持っている。
米国本土ではITQモラトリアムという愚行をしていたが、アラスカは独自路線を貫き、
スケトウダラにITQを導入し、資源の回復に成功している。

さて、そのアラスカでは、70年代にすでにABCが利用されている。
例:1987年のアラスカ湾周辺の底魚の資源状態に関する文書
http://www.st.nmfs.noaa.gov/tm/nwc/nwc119.pdf#page=151
img08091002.png

ABCはAcceptable biological Catch, OY はOptimum Yieldである。
すでに70年代から、アラスカではABCが存在したのだ。
OYは社会経済的要素を加味した上で、設定される漁獲量であり、日本のTACに相当する。
1984年をのぞいて、すべてABC>OYとなっている。

ABCの現状
2007年にシアトルで開かれた会議の資料に、科学者委員会の役目が書かれている。
http://www.fakr.noaa.gov/npfmc/membership/ssc/SSCrole507.pdf

img08091003.png

最後の部分に注目をして欲しい。

北太平洋漁業会議は、科学統計委員会(SSC)のアドバイスに従い、
TACs≦ABC≦OFLの不等式が成り立つようにTACを設定すること。
(一つの資源にたいして、常に一つの数字)

実に明快ではないか。

で、実際の運用がどうなっているかも見てみよう。
http://www.fakr.noaa.gov/sustainablefisheries/specs07_08/BSAItable1.pdf
img08091004.png

全ての魚種で、Overfishing Level ≧ ABC ≧ TACとなっている。
アラスカはがんばっているじゃないか。
こういう風に資源管理をしっかりやっている漁業は、産業として着実に伸びている。

米国はABCは値は一つだけ。日本は欧州の流用で、limitとtargetの2つのABCを設定している。
日本のTAC制度との整合性を考えると、 こんな感じだろう。

米国 日本
OFL ABCLimit
ABC ABCTarget
TAC 期中改訂後のTAC
ITAC TAC

アラスカでのTACの期中改訂は、ABCを上回らない範囲で、常に上方修正だ。
漁業を経済行為としてとらえた場合に、期中改訂で漁獲枠を削るのは難しい。
期中改訂で漁獲枠が削られると思えば、早どりをせざるを得ないし、
漁業経営上望ましくないのである。
そこで、最初は安全を見て低めのTACを配分しておく(ITAC)。
その上で、情報を集めながら、TACを上方修正し、漁獲枠を追加配分していく。
漁獲枠の追加配分は、スケジュールに組み込まれている。
最終的な漁獲枠をABCいかに抑えつつ、資源分布の不確実性にも順応的に対応できる。
ちなみに、南アフリカもこのスタイルだ。

TACがABCを下回るのは大前提であり、ABC-TACが不確実性に対するマージンになる。
アラスカでは、社会的・経済学的な要素を加味して、
マージンの大きさ、つまり、「TACをABCからどこまで減らすか」を決定する。
その場合も、日本のように行政官が鉛筆をなめて決めるのではなく、
資源研究者と経済学者からなる専門委員会で、
社会経済的な要素をちゃんと考慮した上で、TACを決定するのである。

いろいろな国の資源管理制度を調べてきたが、社会的・経済的な要因を口実に、
ABCを上回るTACを正当化している国など日本以外にない。

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