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桜本文書を解読する その4


「ABCの値は合意事項であり、科学的には決まらない」「生物学的に妥当な目標資源水準など科学的には(生物学的には)決められない」というのが私の持論であるが、紙面の関係もあり、その点についてはここでは触れないことにする(興味のある方は資源管理談話会報(2004)、月刊海洋38(2006)をご参照下さい)。 話を簡単にするために、今、生物学的に妥当な目標資源水準が科学的に(生物学的に)決定できるものとして説明する。例えば、20万トンが生物学的に妥当な目標資源水準であったとする。今、現状の資源水準が10万トンで、20万トンまで資源を回復させる必要があったとする。その時の対応として、本質的に異なる2つの管理方策が考えられる。管理方策Aは20万トンになるまで禁漁する(ABC=0)。管理方策Bは何年かかけて資源水準を20万トンに回復させる、という2つの管理方策である。
資源が多い場合についても同様である。今、資源量が40万トンであれば、管理方策Aは20万トンになるまで最大の漁獲圧で漁獲する(可能な限り獲まくる、ABCは青天井)。管理方策Bは何年かかけて資源水準が20万トンになるように、現状の漁獲量を増やす。
管理方策Aを採用すべきと主張するのであれば、ただ一つのABCの値が科学的に決定できると主張しても誤りではない。ただし、生物学的に妥当な目標資源水準が科学的に(生物学的に)決定できるという条件付ではあるが・・・。しかし、管理方策Aを採用すべしと主張している人は実際には一人もいない(もし、そう主張される方がおられたら名乗りを挙げていただきたい)。科学的にただ一つのABCの値が決定できるとすれば、条件付ではあるが、この場合しかあり得ないことに注意する必要がある。
管理方策Bは何年で資源を回復させるか(最適な資源水準に持っていくか)ということが問題になる。5年で回復させるべき、10年で回復させるべき、あるいは6年で回復させるべき等々いろいろな提案があるだろう。しかし、5年で回復させるのが科学的に(生物学的に)正しくて、6年で回復させるのは科学的に(生物学的に)正しくないということを科学的に論証できる人などいないはずである(もし、論証できるという方がおられたら名乗りを挙げていただきたい)。つまり、何年で資源を回復させるかという議論の中には、既に生物学とは異なる次元の価値観が入り込んでいることになる。多くの場合その期間は社会的・経済的な要因に深く関係して選択されることになるだろう。
すなわち、何年で資源を回復させるかは生物学以外の要因も考慮した場合の合意事項であって、科学的に1つの値が決定できるといった類のものではない。何年で資源を回復させるか、その年数によって、当然ABCの値もすべて異なってくる。つまり、「ABCの値も合意事項であり、科学的に1つの値が決まるわけではない」ということである。「ABCが科学的に決定できない」から、合意形成のプロセスが重要になるのである。「ABCの値も合意事項であり、科学的には決定できない」ということを正しく理解していない人が「合意形成の重要性」を謳ってみても、「合意形成の重要性」を真に理解して発言しているとはとても思えない。

わかりづらい文章だが、要約すると「ABCは科学者の合意事項に過ぎないので無視して良い」ということだ。あまりに時代錯誤な考えである。90年代以降の世界の動きを全く理解しておらず、
「行政官ならまだしも、こんなことを言う研究者がまだいたのか」とかなり驚いた。

80年代以前には、世界中で、科学的アセスメントよりも、漁業者の目先の都合を優先していた。その結果、多くの漁業が破綻したのである。苦い経験から、不確実性があったとしても、利用可能な最善の科学情報を遵守するようになった。たとえば、92年のリオデジャネイロ宣言は、「科学的情報の欠如を口実に管理を怠ってはならない」と明記されている。また、1995年に公表されたFAOの責任ある漁業の行動規範でも同様のことがうたわれている。

現在、利用可能な最善の科学情報とは、「専門家集団の合意事項」に他ならない。日本政府が「これを実行に移さないのは科学軽視である」と他国を非難している。IWCのRMPにしても、科学者委員会の合意事項に過ぎない。桜本氏の考えを捕鯨に当てはめれば、「RMPは科学者の合意事項に過ぎないから無視して、漁業者の希望に応じてRMPで計算された捕獲枠を超過してもよい」ということになる。こんな主張が、通るわけ無いだろう。

また、「5年で回復させるのが科学的に(生物学的に)正しくて、6年で回復させるのは科学的に(生物学的に)正しくないということを科学的に論証できる人などいないはずである」という例は全く現実に即していない。
今の日本のTAC設定は「5年で崩壊させるのか、それとも1年がよいのか」というお粗末なレベルである。たとえば、マイワシでは海にいる魚の量を上回る漁獲枠が設定されていた。激減しているスケトウダラ日本海北部系群(参考資料1)の場合、資源量を維持するための漁獲枠4.6千トンに対して(参考資料2)、水産庁の設定した漁獲枠は1万8千トンであり、資源を保護するどころか、もっと漁獲圧を増やして良いという計算になる。

NZでは、ホキ資源が減少したときに、政府は漁獲枠を20万トンから10万トンに削減した。資源の回復を確認した後に、政府が漁獲枠の増枠を提案したところ、漁業者団体は、より早く確実な資源回復を実現するために、もっと漁獲枠を減らすように主張し、結果として、漁獲枠は1万トン削減された。そういうレベルでTAC設定の綱引きがされているのであれば、桜本氏の「漁獲枠は科学のみで決めるべきでない」という反論も理解できる。しかし、日本では、あり得ない過剰な漁獲枠に対して非難の声が上がっているのである。これらのTAC設定を容認してきた委員の長である桜本氏には、資源量を超える漁獲枠が、どのような社会経済学的理由によって、正当化されるかを、説明する義務があるはずだ。「資源回復の早さは科学的に決められない」などと、とぼけるのは、あんまりだろう。

参考資料1 スケトウダラの資源量(http://abchan.job.affrc.go.jp/digests19/details/1910.pdfより引用)

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参考資料2 研究者が勧告したスケトウダラの許容漁獲量は、3.4~4.2千トン(http://abchan.job.affrc.go.jp/digests19/details/1910.pdf)。にも関わらず、水産庁が設定した漁獲枠は180千トン。現在の過剰な漁獲圧を更に増やして良いことになる。

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