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漁獲量削減計画の重要性をモデルで検証してみた

  • 2006-09-12 (火) 17:18
  • 研究
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とても単純な数理モデルで、漁獲量削減の重要性を検証してみよう。
資源の生産力と漁獲率はほぼ拮抗しているが、漁獲の方がやや強いという現状を
単純な数理モデルで表現してみよう。

単純のため全ての資源をひとまとめで考えてみる。
資源の年間増加率を20%、現在の漁獲率を22%としてみよう。
年間2%の割合で減少していくことになる。
20年で2/3に減少することになるので、最近の減少傾向と値は近い。

さて、この仮想資源を最初の10年間は22%で漁獲をして、
最後の10年は別の漁獲率で利用する場合を考えてみよう。

4つのシナリオ

現状の漁獲率(22%)
資源量維持(20%)
漁獲率増加(28%)
漁獲率減少(12%)

4つのシナリオの資源量と漁獲量を示そう。

stocklevel.png

yield.png

シナリオ1 現状の漁獲率

漁獲率を変えなければ、今と同じ割合でだらだら減っていく。

シナリオ2 資源量の維持

資源量を維持するためには、漁獲率を下げる必要がある。
漁獲率を下げた年は漁獲量が減少するが、その後は安定するため、
5年後には、管理をしない場合の漁獲量を追い抜く。
シナリオ1では今後も漁獲量は減っていくが、
シナリオ2では永続的にこの漁獲量を確保することが出来る。

シナリオ3 漁獲率増加

漁獲率を増加することで、一時的に漁獲量は増大する。
しかし、資源の減少を早めてしまうので、すぐに頭打ちになる。
そして、減少に転じた後は、高い割合で減り続ける

シナリオ4 漁獲率減少

最初はがつんと漁獲量が減少するが、
資源の増加に合わせて、漁獲率も増加していく。
管理開始10年後に、管理開始時よりも漁獲量が増えるのはこのシナリオのみ。
このシナリオでは、資源量が増えていくので、持続的に漁獲量も増やすことが出来る。

 

管理開始10年後の漁獲量と漁獲率の関係を図示してみよう。

yield2.png

現状(22%)よりも漁獲率を上げれば、それだけ10年後の漁獲量は減少する。
短期的な漁獲量増産は長期的には裏目にでるのだ。
一方、漁獲率を資源量の維持できる水準以下に下げれば、資源が回復し、
結果として、漁獲量は増加することになる。
今の半分ぐらいの漁獲率にすると、10年後の漁獲量はピークになるが、
一時的に漁獲量が半減することになる。
それでも管理開始時の漁獲量までなんとか回復するかという線である。

結論

  1. 資源の減少に合わせて漁獲量を減らしても、じり貧
  2. 頑張って、漁獲量を増やすと、長期的には裏目にでる
  3. 漁獲率を減らして、資源を回復させると10年後には漁獲量は回復する

「いきなり漁獲量半減」みたいな厳しい管理は難しいから、
まずは資源量を減らさないようにするところから始めるべきだろう。
今の資源量よりも減らさないという体制に10年程度で移行し、
その後、徐々に回復させていくというような数十年スケールで考えないと出口がない。

プログラムのソースは以下を参照

Comments:2

県職員 06-09-13 (水) 8:55

県水試の資源担当者です。といっても,栽培やったり,行政に行って漁業法とにらめっこしていたりして,全く資源学の基礎 がなっていません。勉強させて頂いております。漁業者も高齢化が目立ち,自然とその数は減ってきています。しかしながら 既に高すぎる漁獲能力は,漁業者数の減少をものともせず,沿岸の資源を枯渇させ続けているのは,現場にいるものなら誰しもが感じていることでしょう。TACだTAEだといっても,水産資源が無主物であるという,日本独自の考え方を大転換させない限りは,資源の減少には歯止めをかけられないのでしょうか。三方(漁業者,国,県)一両損を売りにして鳴り物入りで始まった資源回復計画も,損をしたくない(できない?)県の思いもあって,あまり広がりは見せておらず,まだまだ効果は見えていません。中国や欧米諸国の水産物需要が高まる中,輸入魚は買い負けるようになり,副次的に国産魚の重要性は今後復権していくでしょうが,それが,さらなる漁獲努力量の増加につながらなければいいのですが。漁業を全て国営にして,みんなが頑張らないようにするというのはいかがでしょう。漁業者は,資源管理の重要性は頭ではわかっていますが,それが自分の痛みになるととたんに,他者のせいにし始めますね。

勝川 06-09-13 (水) 10:23

コメントをありがとうございます。
現場の声をフィードバックして頂けると、
参考にもなるし、励みにもなります。
水産に関しては、「このままではダメだ」とみんな思っているはずです。
でも、そういった声を公開する場所がないし、議論する場がない。
ささやかながら、このブログでは本音の議論をしていきたいと思っています。

>TACだTAEだといっても,水産資源が無主物であるという,
>日本独自の考え方を大転換させない限りは,
>資源の減少には歯止めをかけられないのでしょうか。
TACもTAEも適切に運用すればかなりの効果があります。
TACが機能している国だって、数多くあります。
でも、日本の現状では、運用がダメすぎなので無意味ですね。
乱獲の閾値(ABC)を上回るTACでは、資源は守れない。
TAEに関しては、殆ど情報がないのが現状です。
おそらく、公開できるような状態ではないのでしょう。

>三方(漁業者,国,県)一両損を売りにして鳴り物入りで始まった資源回復計画も,
>損をしたくない(できない?)県の思いもあって,
>あまり広がりは見せておらず,まだまだ効果は見えていません。
回復計画に関しては、今後じっくりと検証していく予定ですのでご期待ください。
結論から言うと、あまり期待できなさそうです。

>漁業を全て国営にして,
>みんなが頑張らないようにするというのはいかがでしょう。
頑張って獲るのではなく、資源を残すことに頑張って欲しいです。
そういうモチベーションが働くような仕組みを作るのが重要で、
国営化というのも一つのオプションだと思います。
早い者勝ちで獲った人間だけが得をする現状を変えない限り、
資源管理は難しいでしょうね。

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