Home > 研究 > 水産基本計画(1) 計画の概要

水産基本計画(1) 計画の概要

  • 2006-09-13 (水) 11:50
  • 研究
[`evernote` not found]

漁獲量が長期減少傾向にある場合には、
資源を回復させるためには一時的に漁獲量を下げる必要がある。
その場合、漁獲量が元の水準まで復活するには10年程度はかかる。
ということを簡単なモデルで説明した。

このことを頭に入れた上で、漁業政策の大黒柱である水産基本計画の内容を見てみよう。

水産基本計画とは何か?
昭和38年に制定された沿岸漁業等振興法が時代にそぐわなくなったので、
1999年に水産基本政策大綱が策定された。
日本国として、今後の漁業政策をどのように展開していくつもりかを表明したわけだ。
水産基本法は理念や原則を示したものであり、
実際の政策を決定するためにはより具体的なプランが必要になる。
そのアクションプランが水産基本計画なのだ。
水産基本計画にしたがって行動をすれば、
結果として水産基本法の理念は実現されるというわけだ。
この水産基本計画が、日本国の漁業政策の本体なのだ。

水産基本計画の具体的な中身
具体的な目標があるのは、漁獲量と自給率のみで、資源に対する目標は一切無い。
その漁獲量の目標が大幅増加というすごい内容だ。

我が国漁業の持続的生産目標
   上記のような課題が解決された場合において、資源を枯渇させることなく持続的に実現可能な我が国の漁業生産の水準(持続的生産目標)は、第1表のとおりである。なお、これらの目標を設定するに当たっては、漁業生産活動に関する国際的な枠組みが、基本的には現在のような状態で継続することを前提としている。

11年度 (参考)12年度 (目標)24年度
魚介類(全体) 595 574 682
うち、食用 461 453 526
[魚介類(全体)の内訳]
遠洋漁業1) 83 86 79
沖合漁業2) 280 259 342
沿岸漁業3)(海藻類を除く) 149  146  170 
海面養殖業(海藻類を除く) 70 70 78
内水面漁業・養殖業 13 13 13
海藻類
採藻・藻類養殖業  68  65  67 

沖合は22%増加!
沿岸は14%増加!

この大幅増加が、資源を枯渇させることなく持続的に実現可能な
我が国の漁業生産の水準(持続的生産目標)らしいのだが、
この数字は誰がどうやってはじき出したものなのだろう?

日本の漁獲量を10年後には大幅に増やします?
しかも持続的に?
どういう計算をしたら実現可能なのだろう。
根拠となった計算についてどこかに公開されてないのかな?

昨日、説明をしたように、漁獲圧が過剰な状態で、
漁獲量をV字回復することは不可能なのだ。
まず資源を回復させて、その後、徐々に漁獲量も回復していくしかない。
現在、だらだら減っている漁獲量を、人為的に下げる必要があるのだ。
漁業者は、漁獲量を増やすことには積極的だし、協力もするだろう。
でも、漁獲量を減らすことには反対するだろう。
かなり毅然とした対応をとらないと、資源の減少を食い止めることは不可能だ。
この基本計画を見る限り、水産庁としては、
漁獲量を減らすつもりはないようである。

水産基本計画を一言で言うと、
「漁獲量をとにかく増やしますよ」ということだ。
まるで60年前にタイムスリップしたかのような計画である。
日本の漁業の現状を見れば、
持続的に漁獲量を増やせる状況には無いと思うのだが。
何か秘策でもあるのだろうか?

2006 9/26 漁業法→沿岸漁業等振興法に訂正

Comments:6

kato 06-09-14 (木) 8:07

ココを見ると、どうも自給率が先にありきの希望値?なのかもしれませんね。

この自給率というのは、最後の一番のまとめの数字として出てきている要素はございますけれども、それを達成する、あるいは目標にするに当たりましては、分母・分子で消費の問題、生産の問題の全体の数字があるわけです。その数字に持っていくにはどうしたらいいか。その数字に持っていくためには、いろいろな課題があるということを現行の基本計画でも盛り込んでおります。

その課題というのは、消費者にとっても、あるいは行政にとっても、生産者にとってもいろいろな課題がありますので、それらの課題をクリアした形で望ましい消費の姿を達成する、それらの課題をクリアした形で持続的な生産目標というものを達成していくという形の構造になっております。

現在は新計画案の検討が行われていますが、その議事録が案外面白いです(と言っても全部は読んでいないのですけど)。

勝川 06-09-14 (木) 15:14

初めに自給率ありきというのは、良い読みだと思います。
この目標を決めた人は、資源のことはわかっていないでしょう。
資源のことが少しでもわかっていたら、
こんな高い目標は立てなかったと思います。
「これは無茶だよ」とアドバイスを出来る人もいなかったんだろうな。

議事録は私もチェックをしていますが、読んでて悲しくなります。
資源に関する話がほとんど無いし、時々出てきても的はずれ。
経済学者や社会学者ばかり集めているから、
流通とか、雇用とかの話題になるのはしょうがないのですが・・・
これでは、資源の持続性を考慮した漁業政策など出てくるはずがない。

オニダルマオコゼ 06-09-21 (木) 1:21

現水産基本計画を決めたのは平成14年3月ですが,当時の統計上の基準年(平成11年度)の自給率(食用)が55%だったので,それに10%上乗せして65%にした,ということを聞いたような気がします。

勝川 06-09-21 (木) 15:27

やっぱりそうでしたか。
貴重な情報をありがとうございます。

kato 06-09-23 (土) 8:38

そういえば水産基本法は漁業法から派生したものでなく、沿岸漁業等振興法がベースです。

勝川 06-09-25 (月) 7:02

確かに、漁業法は今も存在しますね(汗
法律関係は詳しくないので、
指摘していただけると助かります。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=87
Listed below are links to weblogs that reference
水産基本計画(1) 計画の概要 from 勝川俊雄公式サイト

Home > 研究 > 水産基本計画(1) 計画の概要

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 3
  • 今日: 520(ユニーク: 291)
  • 昨日: 982
  • トータル: 9371990

from 18 Mar. 2009

Return to page top