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水産基本計画(6) もしも神風が吹いたなら・・・

  • 2006-09-21 (木) 12:20
  • 研究
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水産基本計画は、全く機能していないことは疑いの余地がない。
しかし、水産資源は予測がつかない動きをすることが多々ある。
80年代のマイワシバブルのようなことが起こらないとは限らない。
再び神風が吹いて、基本計画の数値目標を達成できる可能性はあるだろうか。
(神風に期待すること自体、計画としては破綻しているということだが・・・)

俺の試算では、平成24年の漁獲量は478万トンまで減少する。
基本計画の目標は669万トンだから、200万トン近い差が生じてしまう。
神風が吹いて、200万トン程度の漁獲量の底上げが可能かどうかがポイントになる

主要な多獲性資源の一覧

2002漁獲
過去最高
マージン
トレンド
増産可能性
まいわし 50313 4488411 4438098
低位減少
×
すけとうだら 213254 3035285 2822031
低位減少
×
さば類 279633 1625865 1346232
低位増加
するめいか 273567 668364 394797
高位減少
×
かれい類 63812 583323 519511
低位減少
×
まあじ 196044 551603 355559
中位横ばい
かたくちいわし 443158 484230 41072
高位横ばい
さんま 205282 483160 277878
高位横ばい
かつお 301915 446318 144403
中位横ばい

単位はトン

 

過去の漁獲量の最大値 - 最近の漁獲 = 神風マージン

と定義し、神風マージンを漁獲量増産のポテンシャルと考えてみよう。
神風マージンが200万トンを超えるのは、マイワシとスケトウダラのみ
どちらも資源状態が非常に厳しいので、単独での目標達成は無理だろう。

マイワシは超低水準だから、1度の加入の成功では資源はそれほど回復しない。
加入に成功したコホートを産卵まで保護して、
そこで再び加入が成功すればそれなりの水準まで行けるだろう。
まともな漁獲が出来るようになるには、5年では足りない。
1970年代にマイワシが増えた時は、殆どゼロだった漁獲量が最初の5年で50万トン、
次の5年で200万トンまで増えた。
抜群の瞬発力を誇るマイワシの神風が吹いたとしても、基本計画の目標達成は無理だろう。

スケトウダラに関しては、300万トン揚げていたときとは、漁場の広さが違う。
また、資源動向をみても、急増は無さそうだ。
また、寿命が長い資源なので、いきなり倍増とかいうことは無いだろう。

マサバは、最近、増加傾向にある。
成長が早く、マージンが135万トンもあるので、短期的な増加も可能である。
単独で200万トンは無理だが、漁獲量回復の軸になりうる存在である。
2004年生まれがとても多かったので、これを成熟まで残すことが重要。
2004年生まれが卵を産んでいる間にうまいこと卓越が発生すれば、
高水準まで一気に行けるかもしれない。
この資源の一番の不安要因は、太平洋の大中まきだろう。
実は1992年と1996年にマサバの卓越年級群が発生したけど、
成熟前に根こそぎ巻いてしまった前科があるのだ。
去年の評価表の詳細版をみればわかるように、0歳で9万トンも獲っている。
まさに、ザ・不合理漁獲という感じで、今回も増加の芽を摘んだかもしれない。
今年のダイジェスト版の将来予測をみると、
http://abchan.job.affrc.go.jp/18pbcom/fig/1805-6.png
これから減るという予測になっているのが、とても気がかり。
増える可能性がある資源だけに、回復計画を頑張って欲しい。

スルメイカは、すでに高水準なので、
減ることはあっても、大幅に増えることは無いでしょう。
マージンが多いのは、60年代に漁場が広かったからかな(未確認)。

かれいは、このまま減るでしょう。
加入が増えたとしても、成長が遅いので、5年間での漁獲量の回復はたかがしれています。

マアジは、資源状態が悪くないので、若干増やす余地はあり。
ただし、増えたとしても10万トンとかそのレベルだと思う。

カタクチとサンマは、資源的には漁獲量を増やしても問題ないのだが、需要が無い。
サンマはすでに値崩れぎりぎりのところなので、漁獲量増産は経済的に難しいのだ。
どちらも大幅に需要が伸びるとは考えづらいので、厳しいところ。
逆に言えば、需要があればこれらの資源も、今頃低水準だっただろう。

カツオも資源状態が良いので、もう少し増やす余地はあるかな。
でも、増えて10万とかそのレベルだろう。

水産基本計画目標達成へのシナリオ
まず、マサバに神風が吹くのが最低条件。
2004年級群に卵を産ませれば、資源はかなり増えるはずだ。
最低でも50万、あわよくば80万トンまで漁獲量を増やしたい。
マアジとカツオをそれぞれ10万トンずつ増やす。
これで100万トンの増産となる。
残りはカタクチとサンマで何とかするしかない。
国を挙げて、カタクチイワシとサンマを食べようキャンペーンを実施する。
安倍さんと中川大臣がサンマを食べるテレビCMを作成。
学校給食は毎週サンマとカタクチイワシ。
これだけやっても、目標の漁業生産には届かないだろうなぁ。

とりあえず、サンマをたくさん食べて、基本計画を援護射撃しよう。
まずは、そこからだ。

Comments:3

ユウラ 06-09-21 (木) 16:10

水産資源の不確実性・・・・これのメカニズムが解明できれば資源管理の具体性も出てくるのでしょうけど・・・・。
もともとはABCやMSYに興味があったのですが、未だ解明されていない不透明な部分の多さ(水温や波などの計算も考慮したら・・・)に脱力しました。

水産基本計画達成のシナリオ・・・笑っちゃいけないけど笑ってしまいました。
サンマ食べようキャンペーンいいですね。安部さんのCM・・・見たいww

基本計画の情報の提示にこのキャンペーンもいれればもしかしたら・・ww

まき網に対する規制(?)は頑張って欲しいです。
どうしても対象魚種以外の混獲、魚種の選別が難しいこの業種をいかに規制をかけるか。そしていかに合意に持っていくか・・・。

頭抱えますね・・。

オニダルマオコゼ 06-09-22 (金) 1:41

本来ならやはり,このように魚種別・漁業種類別に,全体に占める漁獲量割合と潜在的な変動の大きさを考え,全体に与えるインパクトの可能性を見積もったうえでそれぞれの重要度を値踏みすることが,計画を立てるための出発点として必要なはずなのに,それをやっているようには見うけられないのが問題ですね。

一般企業だったら当然,全体に与えるインパクトの大きそうなものから順に具体的な対策を考えて,どの程度までだったら実現可能かをそれぞれ試算し,それらを積み上げて全体目標の数字を決めるというのが常識でしょうに。

55%+10%=65%
が最初にありきでは,ちょっと,期待できそうにもありませんね。親方日の丸ってところでしょうか。

いくら具体的な施策は個々の年度に属するものだから,と言い訳しても,このような試算のバックグラウンドなしに出てきた数字だとしたら,絵に描いた餅と批判されても仕方ないでしょう。

まさか,水産庁が「神風マージン」と名付けた概念を使うことは憚られるでしょうが(笑),これに類する合理的な概念を導入して,ちゃんとした根拠にもとづく実現可能性を積み上げたうえで,目標値を決めてほしいですね。

勝川 06-09-25 (月) 6:49

ユウラさん

>水産資源の不確実性・・・・
>これのメカニズムが解明できれば資源管理の
>具体性も出てくるのでしょうけど・・・・。

その考えは、ズバリ古いです。
天気予報だって、長期は全然当てになりません。
物理現象ですら予測が難しいのですから、
生物資源の予測が難しいのはなおのことです。
不確実性をなくすことは未来永劫不可能です。
ただ、情報が不確実であっても、乱獲のリスクを回避しつつ、
漁業活動を行っていくことは可能です。

オニダルマオコゼさん
>計画を立てるための出発点として必要なはずなのに,
>それをやっているようには見うけられないのが問題ですね。

お役所の構造を考えると、
一つの大きな目標に向かって水産庁全体が協力していくというのは、
非常に難しいのです。ほぼ不可能と行って良いでしょう。
でも、ここまで、あからさまにやる気のない計画は、問題ですね。
せめて、検討したポーズぐらいはして欲しいものです。

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