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勝川俊雄公式サイト

世界の水産物消費の動向 その2

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SOFIAもすばらしいのだが、それだけではわからない点も多い。グラフの元データを数値で見たいときとか、別の視点からデータを整理したいときもある。そんなときには、FAOStatという面白愉快なサイトから生データに直接アクセスできる。

世界の水産物消費量は急増している

FAOStatで世界の水産物消費量(t)を大陸別にまとめてみた。アジアは、日本と中国は別枠にした。

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世界の水産物消費は、右肩上がりで、すでに生産力ぎりぎりまで利用されている。中国の増加が著しいのだが、これは自国の淡水養殖の消費がメイン。中国は日本とは食用魚のニッチがあまり重なっていない。ただ、中国の影響がないかというと、そういうわけでもない。かつては養殖の餌にしかならなかった小魚が、中国に食用として大量に輸出されている。中国の安価な魚への需要はとても強く、養殖魚の餌の価格の高騰の一因となっている。アフリカ、南米は量としても、成長率としても多寡がしれている。日本の食卓への影響が大きいのは、日本と同じプレミアマーケット志向の北米と欧州だ。

世界の水産市場に占める日本のシェアの低下

15年前まで、日本以外の先進国での、水産物の評価は低く、日本のような値段で魚を買う市場は存在しなかった。日本の商社は、世界中から、よりどりみどりで、水産物を集めてくることができた。水産物のプレミア市場は日本の独壇場であり、バブル期には、金額ベースで国際市場の3割以上を日本の輸入が占めていた。当時の日本は絶対的なプライスリーダーであり、水産物輸出国はいかにして日本に売るかを模索していた。完全に日本の買い手市場であった。

近年、購買力のある欧米先進国が、水産物のプレミア市場に参加したことにより、高級魚の争奪戦が勃発した。バブル以降の日本の購買力の低下も重なり、国際市場における日本のシェアは半減した。日本はすでに水産物のプライスリーダーではない。日本の輸入が今の水準をかろうじて維持できているのは、昔ながらの取引先の存在が大きい。しかし、完全に売り手市場の水産物輸出国の生産者の鼻息はあらい。「これまでの縁もあるから、今は日本に売ってあげているけど、日本が金を出せないなら、よそに売るだけだよ」というトーンである。今の値段しかつけられないなら、日本のシェアは今後も低下するだろう。

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水産物の行く末は、円のレート次第ということになる。円がユーロや米ドルに対して優位が保てなければ、一気に魚を買えなくなるだろう。サブプライムで、欧州、米国が自滅をしたことにより、結果として円高になって、水産物の輸入減は一休みというところだが、今後の展開は極めて不透明である。

高級魚は、飛行機で運ばれる場合がおおい。プレミア魚の最大の入り口である成田空港における水産物輸入取扱額は、平成6年の1414億円から、平成19年の634億円へと半減した。国産魚の減少を輸入魚で補うという、今までのやり方は、見直す必要があるだろう。

「買い負け」という傲慢

かつての水産物のプレミア市場は、日本の独占であり、日本の商社間の争いしかなかった。日本が海外に負けると言うことが無かったのである。ここに欧米が参入することで、日本の独占状態が終わったのである。日本が好きなだけ、言い値で、魚を買いあさってこれた幸福な時代は、過ぎ去ってしまい、二度と戻ってこない。だからといって、悲観する必要は無い。

そもそも勝負の世界というのは、勝ったり負けたりするのが当たり前なのである。ちょっと負けたら大騒ぎするというのは、高級魚は日本が独占して当たり前という傲慢さの裏返しである。世界の貴重な水産物を日本一国が独占的に利用していた今までの方が、そもそも異常だったのだ。水産物のすばらしさを、世界の人々と共有できるのは、すばらしいことである(先進国しか供給できないという南北問題があるにせよ)。負けた、負けたと大騒ぎするのではなく、世界の水産物需要が今後も高まることを前提に、日本が必要な水産物を確保するための戦略を持つことが重要である。

世界の水産物消費の動向 その1

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さいきん、こんな本を購入した。

「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)
「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)
文藝春秋 2009-03-26
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おすすめ平均 star
starタイトルは、くだけているが
star動的な価格の分析も欲しかったです!
star「食糧危機」なんてこない方が気が楽だけど・・・

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本書によると、魚は余っており、日本が輸入できなくなることはないらしい。筆者の主張を要約すると、こんな感じ。

1)日本の購買力は世界一で、買い負けは一般的な現象ではない。
2)マグロが中国に競り負けるのは、中国人が相場を知らないだけ
3)先進国の魚食ブームは、一過性のブームに過ぎない
4)魚は貧者のタンパク源であり、豊かになった国は、魚から、肉に切り替わる
5)現に、筆者の留学した英国では、魚の消費が右肩下がりである

うーん(苦笑
かなり事実誤認のある、問題の多い本だと思った。せっかくだから、新しいSofiaを使って、世界の水産物の消費動向を整理した上で、どこがどうおかしいかを検証してみよう。

世界的の水産物はどこからどこへ流れているか

Sofia2008(P66)から、水産物の輸入国のランキングを抜粋してみよう。
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日本の最大のライバルは、年間6%という凄い勢いで輸入を増やしている米国だ。また、スペイン、フランス、イタリア、ドイツ、英国、デンマークなどのヨーロッパ勢の輸入も順調にのびている。近年、輸入を飛躍的伸ばしていた韓国は、ウォン安でしばらくは瀕死だろう。中国は輸入も多いけど、輸出はもっと多いから、水産物に関しては輸出国なんだよね。

大陸別に、輸出額と輸入額をみるとこんな感じになる。
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世界の水産物生産量は、90年以降ほぼ一定なのに、貿易額は急速にのびている。水産物国際化は着実に進んでいるのだ。特に、欧州と北米の増加は驚異的である。輸入超過は、アジア(中国以外)、欧州、北米なのだが、アジアの輸入の大半は日本と韓国の2国で占められている。そして、輸出超過は、アフリカ、中国、南米、オセアニアである。途上国の魚を先進国が奪い合っているという構図が浮かんでくる。
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輸入超過:日本、韓国、欧州、米国
輸出超過:アジア(日本、韓国以外)、南米、アフリカ、オセアニア

輸出国の生産は今度どうなる?

現在輸出をしている地域の生産トレンドをおおざっぱに予測してみよう。

アフリカ:
欧州漁業の草刈り場となっており、かなり乱獲が進行しているようである。しかし、情報がない!

中国:
内陸の淡水養殖が主なんだけど、この増加率を維持できるとは思えないし、環境負荷も心配だ。正直、予測は難しいです。

南米:
玉石混淆かな。ペルーやチリは、変動が大きな浮魚主体ではあるが、しっかりとした管理をしているので、安定した生産が期待できる。

オセアニア:
豪州、NZを軸に安定した生産が期待できる反面、管理が厳密なので、漁獲量が劇的に増える可能性は低い。

これらの状況を考慮すると、輸入できる魚は、非常に限られているということはわかると思う。輸出国の中で、資源管理をしていない漁業が廃れるのは時間の問題である、一方、資源管理をしている漁業では、劇的に生産量がふえることはない。全体として、減少傾向か、よくても現状維持が精一杯だろう。

日本漁業の衰退は、米国の陰謀ではないです

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元漁師さんのコメントへの返答です。

最近思うのですが、「日本の漁業が盛り上がっては困る勢力」もいるのではないでしょうか。漁業にかぎらず、日本が自給率を上げてもらっては困る勢力です。アメリカの穀物メジャーはホワイトハウスに人脈を送り込んで国家戦略として日本に対して自給率を下げさせるような政策をしてきたように見えます。
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このような勢力がアメリカ政府を通じて日本政府→水産庁や農水省など 食糧関連 にそうとは気づかないように圧力をかけてがんじがらめにされてきた結果が今の現状なのではと思うこのごろです。その国家の食糧やエネルギーの根っこをつかんでしまえばその国は食糧輸入国へ転落するしかなくなります。水産庁の役人さんたちも今の待遇に満足して、自分の国を操られていることに気がついていないのでしょうね。

私の見方は違います。

日本の農業・漁業政策は、長期的見て生産力を下げるようなことばかりやっています。それを変えるような努力も内部ではありましたが、うまくいかないようですね。ご指摘のようにがんじがらめなのだとおもいます。現在の国益に反する水産政策を決定しているのは、米国ではなく、国内の団体です。

農水分野で日米摩擦がしばしば起こります。農水省がしばしば米国の利益と衝突するのは、農水省の役人に気骨があるからというより、国内に米国よりも怖い団体がいて、そっちの方を向いて仕事をしているということですね。この前の東大のシンポジウムで、水産庁OBの佐竹氏が「全漁連が反対したら、我々は、なにもできない」という、旨の発言をしました。これが水産庁の本音でしょう。

漁業者が減ったら困る団体が、自らの政治力を駆使して、公的資金で生産に寄与しない赤字の漁業者を維持しようとしている。公的資金をつかうための方便として、自給率が減った減ったと危機感を煽って、国民が踊らされるという構図ですね。

漁業も農業と同じような構造になっていますので、次の本を読んでいただけると、腑に落ちる部分も多いと思います。構図としては同じですが、漁業の補助金は農業と比べると、桁違いに少ないので、漁業の方が自立の道は近いでしょう。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください。

日本一の魚屋、世界を目指す

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“儲からない商売”で儲ける老舗企業の秘密とは

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090415/191938/

早い鮮度劣化、低い生産性、高い仕入れコスト。この三重苦を前に、鮮魚売り場を縮小している食品スーパーは少なくない。それにもかかわらず、魚力が堅調に業績を伸ばしているのはなぜか。その要因を探ると、“町の魚屋”をルーツに持つ魚力ならではのノウハウがあった。

魚力では、三枚おろしや二枚おろし、ワタ取り、エラ取り、切り身、お造り、イカの皮むきなど、客の注文に応じて気軽に捌いてくれる。聞けば、包丁を持っていけば、包丁まで研いでくれるとのこと。さすがに、包丁研ぎを注文している客はいなかったが、魚を丸ごと買った客の多くが家ですぐ調理できるように加工を頼んでいた。

魚屋がばたばたと閉店していく中で、スーパーの鮮魚コーナーの画一的な品揃えには満足できない中高齢の消費者は多い。魚屋的な小売りへの潜在的な需要はかなりある。また、魚の消費量としては落ちていないのだが、調理の魚離れは顕著である。魚を調理する末端の能力がきわめて低下している。その部分を小売りの側が埋める努力をしなければサプライチェーンがつながらないのだが、その分の人件費が必要になる。サービスをしなければ客足が途絶え、サービスをすると赤字になるというジレンマがある。かくして、スーパーの鮮魚コーナーの大半は赤字らしいです。

この国内の景気の中で売り上げを伸ばすというのは、並大抵のことではない。購買力、スケールメリットによって、価格・鮮度で他店との差別化を図りつつ、対面販売でサプライチェーンの切れ目をふさぐ努力をしている。構造としては、わかりやすいのだが、なかなか実践できるものではない。その魚力にしても、国内市場には明るい見通しを持っていないようだ。

「国内市場は競合他社の退店後を狙う陣取り合戦。大幅な出店余地は残されていない。でも、海外は違う。国内での陣取り合戦に勝利しつつ、世界に種を蒔いていきたい」と山田専務は語る。人口が減少する今、国内に成長の余地は少ない。危機の今、あえて世界に活路を求める。それも企業の生きる道だろう。世界を目指す日本の魚屋。いつの日か、「UORIKI」の看板が世界で見られる日が来るに違いない。

国内はいす獲りゲームというよりフルーツ・バスケットだからね。いすがどんどん減っていく中での、いすの奪い合いは熾烈です。生き残っても、いすが減った状況での消耗戦が続くわけで、いくらがんばっても、最終的には誰も報われないかもしれない。一方、世界の水産市場は、急速に伸びていますから、ビジネスチャンスはいくらでもあるでしょう。海外進出は、がんばって欲しいものです。

うーづがれだ

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情報科学基礎という授業を受け持ってます。三重大は、ネット上のサービスを使って、履修登録をするので、1年全員を、自分のノートパソコンから、ネットワークにつなげる状態にしないといけない。そこで、新入生がノートパソコンを持ってきてネットワークにつなぐところまでのお手伝いをしました。100人ぐらいかな。とても、疲れました。マシンの初期不良をのぞけば、皆がつながったようで良かったです。これから半年かけて、wordやpowerpointの使い方を教えるのです。やっていることは、パソコン教室の先生ですね。最近の地方大学はここまで至れり尽くせりなんだね、とビックり。

吉田六左エ衞門 衆院議員に聞く(みなと新聞 4月9日より)

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「ノルウェーのような漁業が日本でもできないのか」と、自民党の議員が、水産部会で発言したそうだ。ノルウェーの漁業のことを、テレビで知ったのだろう。国政の場でも、こういう発言が出てきたのは、喜ばしい限りである。地道に、メディア対応をしてきた成果だ。

吉田議員は、地元・新潟の水産業の現状に、問題意識をお持ちのようだ。「沿岸漁業をはじめとして、新潟の水産業も資源の低下などにより、ずいぶんと疲弊している」というのは、新潟に限らず、日本中に共通する問題だ。雇用が少ない地方では、漁業が産業として成り立つかどうかは死活問題である。漁業を魅力ある産業にして、地元の雇用を確保したいという、地方の悲痛な思いは、容易に想像できる。

漁業改革は、地方雇用の切り札の一つになり得ると思う。日本で、魚を獲って生計を立てようとすると、労働条件はかなり厳しくなる。また、まともな資源管理がない現状では、産業の長期的な展望は皆無である。漁業者自身も、漁業の未来に希望を持っておらず、子供に継がせようとはしない。日本にも例外は、いくつかある。たとえば、北海道には、昆布やホタテの養殖で大変な利益を上げている浜がある。そういう場所では、後継者がいくらでもいる。また、駿河湾のサクラエビ漁も、資源管理・プール制度で、安定した利益を上げているので、後継者は順番待ちである。これらの利益を出している浜に共通するのは、組合が出荷量とタイミングを決定している点である。資源管理によって、漁業の労働条件をノルウェーに近づけていければ、漁業をやるために地元に残る人(残れる人)は増えるはずだ。

水産庁はこのような動きには、常に目を光らせている。今回も、管理課長あたりが、素早く説明に赴いたのだろう。内容は、容易に想像できる。
1)日本は産業形態が海外と違います
2)零細漁民が存在するので効率化はむりです
この2点は、日本の漁業が非生産的である理由にはならない。むしろ、日本の特殊性とは、方向を示すべき行政官や研究者が、漁業が産業として破綻しつつある現実を無視して、現状を肯定するための屁理屈を並べるだけという点だろう。新規加入が途絶え、日本の漁業自体が絶滅に向かっている。この現状を維持することは、零細に限らず全ての漁民を見殺しにすることに他ならない。こういう言い訳を並べるだけでは、この難局は乗り切れない。

漁業は変わらなければならない。高木委員提言から連なる一連の流れの中で、漁業に変化の兆しを感じた人は多かった。TAC懇談会も、当初は変化の兆しが感じられたので、俺としても、あまり批判をせずに見守ろうと思っていた。しかし、去年の7月ぐらいから、状況が一転し、だだっ子のように、やらない言い訳を並べるだけの組織に逆戻りしてしまったようだ。懇談会も会を追うごとに、酷くなっていた。終盤は、日本漁業がうまくいっているというお花畑の妄想を垂れ流し、海外のあら探しをしているだけである。しかも、資源管理のことなどまるでわかっていないので、あら探しすらまともにできていないというお粗末さだ。こういう態度が、現実問題として困っている漁業関係者の目にどう映るかを少しは考えた方が良いだろう。漁業の衰退は誰もが認めるところであり、水産庁の自画自賛を信用する人間などいない。今まで大本営発表で、情報操作ができたのは、国民を情報から遮断できたからである。大本営発表の嘘を、業界紙やインターネットで解説する物好きな人間が現れた以上、大本営発表を繰り返しても、失笑を買うだけである。そのことに早く気づいてもらいたいものだ。

水産庁は、存在意義が問われている。漁業を立て直すために、主体的な役割を果たせるかどうかを問われているのである。残念ながら、今の管理課は、「そのつもりはない」ということを全力で表明しているようである。資源管理に反対の組織は喜ぶだろうが、それ以外の国民や漁民がどう思うかも少しは考えた方が良い。まともな役所なら、資源管理みたいに国民に存在意義を示しやすい美味しいネタを、自分から投げ出すようなことはしないだろう。組織防衛という視点からは、最悪の選択である。一日も早く、長い谷を抜け出して、長期的ビジョンに基づく組織運営をしてほしいものだ。今後の鍵は、責任・情報公開・持続性です。この3つを抑えておけば、組織は安泰。まちがいない。

FAOのThe State of World Fisheries and Aquacultureの最新バージョンが出てた

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つい最近、気がついたが、FAOのThe State of World Fisheries and Aquaculture(通称:SOFIA)の新しいバージョンがでてた。世界の漁業の現状を把握するために必要な情報がてんこ盛りのSOFIAは2年に1回、アップデートされる。2008年までの情報をまとめた新バージョンが今年の3月にでたようだ。

2年後に次のバージョンがでるまでは、この資料をフル活用することになるだろう。ざっと読んだ感じでは、この前のバージョン(2006年版)とから、大きな変化はない。水産物の需要は着実に伸びているのに対して、生産は頭打ちで、水産物の奪い合いが着実に深刻化している。

SOFIAはデータが豊富で、表を見ているだけで何時間でも楽しめる。主要漁業国では日本が一番漁業者の数を減らしている、とか、ノルウェーはSQSによる過剰漁船の削減がほぼ完了した2000年以降は、漁業者が安定している、とか、いろいろわかる。

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また、世界の養殖生産は飛躍的に伸びているのだけど、日本はすでに衰退傾向にあるのもよくわかる。

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SOFIA2008は、ここから、全文ダウンロードできます。

またノルウェー漁業が記録更新です

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また、ノルウェーが記録を更新したようだ。ノルウェー漁業は、強いね。NZもそうだが、資源管理をしている漁業は、自国の通貨が弱くても強くても、安定した利益を出すことが出来る。一方、資源管理をしていない日本の漁業は、円が強ければ輸入魚に淘汰され、円が弱ければ途上国に小型魚を投げ売りして自滅。
うまくいっている漁業国の後追いすらせずに、公的資金で燃油補填をしてもらって当然みたいな態度は、正直、どうかと思います。

Custom Query String Reloadedを導入してみた

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このブログで利用しているWord Pressというソフトは、必ず記事が新しい順番に並ぶ仕様になっている。今回、NZのホキのネタを3連続で書いたんだけど、こういう一連の記事は、書いた順番(古い順)に並んで欲しい。ということで、並び順を変更するプラグインを探してみた。

ググったら、このページが釣れた。どうやら、ビンゴっぽい。
http://mook.jpn.org/archives/2008/12/custom_order.html

Custom Query String Reloadedの本家はここです。
http://moshublog.com/2007/10/30/custom-query-string-reloaded-for-wordpress-23-with-tag-support/

ファイルをダウンロードして、解凍してできたフォルダーを、wordpressのpluginフォルダーに放り込んで、設定完了。
無事に動作しました。

設定方法

ダッシュボードの設定の中にCQSというのがあるので、それを選択すると下のような画面になる。とりあえず、アーカイブとカテゴリーは、古い順で表示するようにしてみた。表示件数もいじれるようなので、アーカイブは10件ずつ、カテゴリーは5件ずつにした。

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で、動作確認をしてみると、うまく動いているようです。

http://katukawa.com/category/study/species/%E3%83%9B%E3%82%AD

やっぱり、書いた順番に並ぶと気分がよいね。WordPressはプラグインが豊富だし、情報も多いし、助かります。

Hoki Story その3

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資源状態

東と西を合計した親漁量はこんな感じ。ここ20年程度、減少が続いているが、これは資源管理が機能していなかったからではない。この資源は、1970年代はほとんど利用されていなかった。NZ政府は、未開発時の資源量を100%とした場合の40-50%の水準をMSY水準と定義している。NZ政府は、図中に赤で示したMSY水準まで徐々に資源を減らした後に、その水準を維持するつもりだったのだ。アンラッキーなことに、資源がMSY水準に近づいた1995年以降、卵の生き残りが悪い年が続き、予想以上に資源が減少してしまった。

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新規加入量の時系列はこんな感じ。1995年から2000年まで、新規加入が低調であった。資源量がMSY水準に近づいてきたので、そろそろブレーキをかけようとしたら、資源の生産力が減少し、MSY水準を下回ってしまったのだ。

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漁獲量

漁獲量(緑線)とTACC(*)の時系列はこんな感じになる。1985から2000まで、15年かけて、じわじわとMSY水準まで、資源を減少させた。MSY水準に達した後は、すぐにTACCを削減し漁獲にブレーキをかけている。ただ、残念なことに1995-2000の間の加入の失敗により、漁獲枠を削減した後も資源は減ってしまった。そこで、よりきつくブレーキを踏んだのである。現在は資源が回復に向かっていることから、漁獲枠を徐々に増やしていくフェーズに入っている。政府は13万トンまで増やそうとしたのだが、業界は猛反発。MSY水準に回復するまでは、漁獲枠を控えめにすべきであると、漁業者が主張をしたのだ。結局、政府は当初の予定よりも1万トン少ない12万トンの漁獲枠にした。最新の情報では、今年度は資源の更なる回復が確認されたことから、政府は1万トンの増枠を提案し、業界もこれを受け入れる見通しとのこと。

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トロール調査

チャタムライズでは、調査船によるトロール調査が行われ、Hoki, Warehou, Ling, Black oreoなどの底魚の資源量を調査している。

ステーションはこんなかんじ。海区を水深や底質の生態特性で層別化した上で、全体図を把握できるようにデザインされている。

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トロール調査によって推定されたHoki(+3)の資源量はこんな感じ。低めで安定はしているが、NZとしてはもう一段階回復させたいようだ。

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トロール調査で得られたHokiの分布の時系列はこんな感じ。再近年は、底は脱したが、90年代と比較すると低水準である。

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音響調査

NZ政府は、精力的に音響調査を行い、資源の把握に努めている。毎年、Hokiの産卵期には、短期間のうちに複数回のスナップショットを獲っている。
計量魚探を使って、定線を走るとこんな絵が描ける。

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魚探の反応の中から、Hokiと思われるものを抜き出し、Hokiの反射強度(ターゲットストレングス)をつかって、資源量を推定する。この作業を全ての定線で行うと、1枚のスナップショットができる。NZ政府は、産卵期をすべてカバーできるように、毎年5~7枚のスナップショットを作成している。たとえば、2006年はこんなかんじ。

The 2006 acoustic survey of spawning hoki abundance in Cook Strait was carried out on Kaharoa from 19 July to 29 August 2006. Seven snapshots were completed, with good coverage of the spawning season.

この時期のクック海峡はいつでも大荒れで、「300トンの船が、木の葉のように波に翻弄される」とのこと。そういう状況で、1ヶ月半に7回のスナッ プショットをとるのは、立派である。

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複数のスナップショットを組み合わせて、産卵場に来遊した親魚の量をブートストラップで推定をするとこんな感じになる。

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重要資源であり、資源的にも注意が必要なHokiに対しては、出し惜しみをせずに精力的に調査をしている。NZの漁業省の予算は非常に限られている。また、業界の負担が重いだけに、無駄な出費は厳しく批判される。調査計画も(良い意味で)流動的であり、必要な場所に、重点的に投資をしていることがわかる。

で、本当のところはどうなのか?

「漁獲枠は下げておくにこしたことはないのだが、あわてて漁獲枠を半減するような状態なのかなぁ」というのが、俺の率直な感想。資源が本当に減っているのかに関しては、NZ国内でも議論が分かれている。たとえば、西の産卵群を狙った漁業では、過去最高の漁獲を記録したことから、「Hokiは減っていない」としゅちょうする漁業関係者もいる。産卵群は資源量が少なくなるとそれだけ中央に密集する傾向がある。産卵群狙いの漁業で過去最高のCPUEが記録されたとしても、資源が多いとは限らない。漁業とは独立したトロール調査と、魚探調査によって、産卵場も生育上をしっかりとおさえているので、NZの資源評価の信頼度は高い。

NZの漁業関係者の一部には、Hokiの漁獲枠をもっと増やすべきだという意見もある。しかし、政府と業界の「我慢をして、MSY水準まで素早く回復させよう」という声が勝ったのである。NZの業界は、俺よりも持続性に対する意識が高いと言うことだね。「ある指標を見れば資源は減っていないように見えるが、別の指標で見ると資源が減っているように見える」、というのはよくあること。というか、ほとんどの 資源評価はこういう感じになる。自信をもって高水準と言い切れるのは、80年代のマイワシや、現在のサンマのような、超高水準資源のみだ。逆に、スケトウ ダラ日本海北部系群のように、どこから見ても駄目になったら、資源としては手遅れな場合が多い。資源を持続的に利用するには、玉虫色の状態で、漁獲にブ レーキを踏む必要がある。NZ政府と業界は、悲観的なシナリオを想定しても資源が回復するような漁獲枠を設定した。これはとてもすばらしいことである。

Hokiの漁獲枠の削減は、資源の減少を漁獲枠が追従しているのではない。資源を良好な状態に保つために、政策的に漁獲にブレーキをかけているのである。 網をひけば、いくらでも獲れる状態で、最重要魚種の漁獲枠を厳しく削減するというのは、なかなかできることではない。この漁獲枠の減少こそ、NZの資源管理システムQMSが機能している証に他ならないのだ。ここまで迅速に思い切った行動をとれる国は、そう無いだろう。俺が思うに、NZとノルウェーぐらいではないだろうか。Hokiの漁獲枠が削減されたことをもって、「NZのQMSは資 源管理として機能していない」など主張をする、日本の有識者の不見識にはあきれてしまう。彼らは管理された漁業というものを知らないのだ。まともな漁獲規制がない日本では、漁獲量の減少は資源の減少を意味する。日本で漁獲枠が削減されるのは、資源が減少して、がんばっても獲れなくなってからである。日本の常識に照らし合わせて、「Hokiの漁獲枠の削減→NZの資源管理は機能していない」と考えたのだろうが、あまりに浅はかである。データを見ればわかるように、Hokiは獲り尽くされたのではない。NZは壊滅的な減少を回避するために予防的に漁獲枠を半減させているのである。日本の漁業関係者には、魚がまだ捕れる状態で漁獲枠を減らす国があるなど想像もつかないの だ。

結論

Hokiの情報をまとめてみるとこんな感じ。

  1. 網を引けばいくらでも魚が捕れる
  2. 獲れば獲るだけ、高く売れる
  3. いくつかの指標では、資源が減っていないようにみえる
  4. 資源量としては、MSY水準をわずかに下回った状態

NZ政府の対応はこんな感じ

  1. MSY水準に達した2年後には漁獲枠を削減
  2. その削減では不十分と見るや、すぐに漁獲枠を半減
  3. 資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増枠中

NZの業界の反応

  1. もっと獲っても良いという意見もあるが、慎重派が主流
  2. MSY水準への回復が確認できるまで、漁獲枠を控えめにすべきという意見
  3. 政府の増枠に難色を示し、低めの漁獲枠を採択させる

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