クロマグロ Archive
クロマグロの日本海産卵群は壊滅的
日本近海のクロマグロの産卵場は日本海と沖縄の2カ所といわれている。2004年から、境港の大型巻き網船団が、日本海の産卵場に集まった成魚を一網打尽にしている。マグロは冬に餌を食べているときは広域に分布するので、まとめて獲るのは難しい。しかし、夏に産卵場に集まったときは容易に獲れてしまうのである。大西洋クロマグロ、ミナミマグロは、日本への畜養向けに産卵群をまき網で漁獲するようになって、資源は10年持たなかった。太平洋クロマグロも同じ運命をたどると見られていた。
2004年以降の境港の漁獲量をまとめると次のようになる。35kg以上を成熟、それ以下を未成熟として作図をした。なお、2008年以降は、体重のデータを隠すようになったので、2008年以降は業者の聞き取りなどで個人的に集めたデータを元に分類をした。
年 | 成熟(35kgup) | 未成熟 | 全体 |
2004 | 1145 | 558 | 1,703 |
2005 | 2940 | 45 | 2,985 |
2006 | 1747.3 | 30.7 | 1,778 |
2007 | 1205.7 | 772.3 | 1,978 |
2008 | 1086.3 | 1142.7 | 2,229 |
2009 | 553.1 | 330.8 | 883.9 |
2010 | 227.1 | 365.4 | 592.5 |
図の青の部分が産卵場で獲られた成熟群、赤の部分は日本海北部漁場(能登から新潟にかけて)で獲られた未成漁である。操業が本格化した翌年から、産卵群は直線的に減っていることがわかる。6年間で7%に落ち込んでしまった。2007年から、北の方の未成漁にも手を出している。海に残しておけば、来年から産卵群に加わる群れを、根こそぎ獲っているのである。今年は、6月から漁が始まって、ほぼ2週間で未成漁の群れを獲り尽くしてしまった。
クロマグロは年によって、卵の生き残りが大きく変動することが知られている。特定の年齢を取り出してみれば、多いか少ないかは、環境変動に依存する部分が大きい。しかし、産卵群は数十年の親魚がストックされているのだから、1年、2年の卵の生き残りではそう大きく変わらない。寿命が長いクロマグロの産卵群が上の図のように直線的に減少するのは、自然現象で説明できない。産卵場でのまき網による乱獲が原因と見るのが自然だろう。
現在、日本近海のクロマグロ漁業には、何ら規制がない。漁獲枠もなければ、漁獲最小サイズも無い。早い者勝ちの獲りたい放題である。これがどれほど無駄かは、以前の記事を参照して欲しい。水産庁(の一部の人)は、規制に向けて動き出している。業界の反発が大きく、調整は難航しているようである。
テレビ朝日がクロマグロについて取材をしました。サンデーフロンティアという番組で、テレ朝系列で8/8の朝10時から、放映される予定です。関心がある方は、是非、見てください。
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今年も巻き網による日本海クロマグロの漁獲が始まりました
- 2010-06-02 (水)
- クロマグロ
日本海の巻き網のクロマグロ操業が6/1からスタートした。ことしも、胃が痛む、憂鬱なシーズンが幕開けだ。
西日本有数の漁業基地・鳥取県境港市の境漁港に1日、今季初めてクロマグロが水揚げされた。境港の水産業は景気低迷に伴う魚価安で苦境にあるが、例年より一足早いマグロシーズンの到来に浜は久々に活気付いた。
http://www.nnn.co.jp/news/100602/20100602039.html
大洋A&F(東京)所属の「第21たいよう丸」が能登半島沖で捕獲したクロマグロ約30トン。現地レポートによると、1200本で30tとのこと。平均重要は25kgで、もちろん、未成魚だ。この1200本を、今すぐに獲らずに、7歳まで待って、1本釣りで獲るとどうなるか試算すると次のようになる。
計算の詳細
たいよう丸の利益は次のように計算できる。
1500円×25kg×1200本=4500万円
7歳魚は、体重が97kgで 1kg当たりの単価が5000円。25Kgは3歳魚と思われる。3歳から7歳までの歩留まり(天然環境での生き残り)は57%。4年後に獲った場合の利益はつぎのようになる。
500円×97kg×(1200×0.57)本=33174万円
たいよう丸が、目先の4500万円を得た代償として、未来の漁業全体の利益が2億9千万円、失われたわけです。また、4歳から成熟をするので、7歳までに4回産卵できました。資源の再生産に大きく寄与したはずです。また、大きくしてから獲れば、漁獲量も30トンから、66トンに増えるので、消費者にも利益があります。
成長乱獲
このように、水産資源が成長するまえの、非経済な状態で漁獲することを、成長乱獲と呼んでいます。紛う方無き乱獲なのです。成長乱獲で、漁業の経済規模を小さくすることで、流通業者は大打撃です。市場の手数料は5%です。4500万円の手数料はたったの225万円です。大きくしてから獲れば、手数料は1659万円です。こういう魚を右から左に流していれば、市場が廃れていくのも時間の問題でしょう。未成魚を獲って、獲って、獲りまくる漁業をしていれば、漁業の雇用が無くなるのは当然でしょう。
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欧州の食文化を破壊する日本の魚食 part 2
- 2010-04-09 (金)
- クロマグロ
ヨーロッパウナギの方が、大西洋クロマグロより、資源状態は良かった
ヨーロッパウナギをワシントン条約に載せることが決定した2007年のハーグの締約国会議の前に、FAOの専門家パネルは、ヨーロッパウナギが付属書IIに該当するという勧告を出した。レポートはここ
ヨーロッパウナギの漁獲状況はこんな感じ。当時は、欧州の研究者のなかにも、不確実性が大きいし、規制の必要性を疑問視する声があった。
一方、タイセイヨウクロマグロの場合も、専門家パネルは付属書IIで完全に合意した。また、日本人以外のほとんどの研究者は、付属書Iを支持したのである。それもそのはず、近年の減り方が尋常じゃないのだ。次の図は、ICCATの科学委員会が推定した成熟魚の資源量である。
SSB(産卵親魚のバイオマス)のスケールに注目して欲しい。成熟年齢が長く寿命が長い種の親が10万トンを大きく割り込んだ状態で、毎年2万トンも輸出しているのだから、今の漁業が非持続的なことは一目瞭然だろう。漁獲にブレーキかけなければ、このままご臨終コースなのだけど、ワシントン条約では、付属書IIすら否決されてしまった。つまり、今後2年半はノー・ブレーキで逝く、という結論が出てしまったわけだ。さようなら、大西洋クロマグロ。君のことは忘れないよ。
上の2つの図をみれば、ヨーロッパウナギと、大西洋クロマグロのどちらが危機的状況にあるかは一目瞭然だろう。前回の締約国会議までは、まだ、科学者のアセスメントを尊重するという前提があった。今回はそれが完全に崩れてしまったのは残念なことである。
ワシントン条約を阻止したことで、日本人は、太平洋クロマグロを、最後まで食べ尽くす権利を得たわけである。あと数年で食べ尽くすだろう。その後には、何が残るのか。マグロが減りすぎるとどうなるかはわからない。産卵群が維持できずに消滅するのか、瀬付き(沿岸の小規模群集)として残るかのか。どちらにしても、漁業も輸入も維持できないことは明白である
地球の反対の乱獲された資源を食べ尽くすことが、日本の食文化なのか?
ワシントン条約の規制まで、日本人は、ヨーロッパウナギを大切に食べていたかというと、そうではない。ニホンウナギの下位代替品として、スーパーで山のようにたたき売りされていた。シェアを争う商社が、持続性も相場も無視して、ウナギをかき集めた結果、消費者は一時的に安く買えた。その結果として、資源は枯渇し、消費はほぼ消滅し、食文化自体を壊してしまったのだ。持続性を無視した乱消費によって、欧州およびアジアの未来の食卓のウナギを奪ったのである。ウナギは、年に何度か、晴れの日に食べる食材であって、本来はああいう食べ方をするものではない。土用の丑の日に、ちょっと良い店で、「今年のウナギはおいしいね」と言いながら、味わって食べていた昔の方が、よほど食文化と呼ぶにふさわしいだろう。
タイセイヨウクロマグロもウナギと同じような状況にある。輸入業者が、シェア争いで、相場も市場も無視して、マグロを買いあさった結果が、2万6千トンの冷凍在庫である。親魚量が8万トンを切っている希少種の冷凍在庫がこんなにあること自体が、恥ずかしことである。にもかかわらず、日本のメディアは、「当面は我々の食卓への影響はないようで一安心です」などという恥知らずなコメントを垂れ流し、視聴者はそれを当たり前のように受け入れる。こんな食べ方を「食文化」とかいって、へそが茶を沸かすよ。
大西洋クロマグロをヨーロッパウナギと置き換えて考えて欲しい。地球の反対の資源を最後まで食べつくすのが、日本の食文化なのか。どうせ、大西洋クロマグロは、たいして獲れやしないんだから、最後ぐらいは、地元・地中海の食卓に看取らせてあげたいと、俺は思う。紀元前から、マグロを食べてきた地中海沿岸の人間だって、今まで通りマグロを食べられるわけではないが、少なくとも、我々が食べつくすよりは正当な権利ではないだろうか。
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日本近海のクロマグロ漁業の現状 その2
- 2010-03-26 (金)
- クロマグロ
大西洋クロマグロを、壊滅的に減らした一番の要因は、産卵場での巻網操業である。産卵場で産卵群を巻き網で一網打尽にする破滅的な漁法が日本でも2004年から開始され、日本海のクロマグロ産卵群が激減している。実は、日本のクロマグロは、タイセイヨウクロマグロと同様に、危機的状況にあるのだ。
最近、日本海での大型巻き網船の漁獲量が急激に増えている。日本海産卵場で漁獲されたクロマグロは、ほぼすべて境港に集まる。富山も市場が水揚げ報奨金を出したりして、水揚げの誘致しているんだけど、マグロの解体処理に必要な人手が確保できない。結果として、マグロの質が落ちてしまって、値段がつかないので、水揚げされないようだ。境港は、魚がいなくて暇をもてあましている沿岸漁業者が山ほどいるので、「明日マグロがあがるよー」と言えば、200人ぐらいの熟練労働者がすぐに集められる。現状では、まとまった漁獲はほぼすべて境港に水揚げされるので、ここを抑えれば日本海産卵場での巻網の漁獲は把握できる。境港のクロマグロの水揚げはこんな感じになっております。
それまで比較的コンスタントだったのが、2004年から急増した。この前後で、巻網の漁獲方法が変わったのである。2003年までは、クロマグロは混獲の対象であり、「イワシやサバの群れを巻いたら、マグロが入ってた。ラッキー」という感じだった。2004年から、何が変わったかというと、産卵場で、マグロの産卵群を狙った操業をはじめたのである。具体的にどういうことをやっているかは企業秘密なのだが、地を這うような聞き込み取材をしたところ、だいたいのイメージがつかめてきた。日本海のクロマグロの産卵群は、北の方から群れを作って産卵のために下ってくる。そのときに海の底を超高速で泳ぐ。餌も食べないし、網にもかからないので、つい最近まで、漁業者はクロマグロの産卵群が大量に回遊しているのを知らなかった。また、知っていたとしても、獲るための技術が無かった。その状況を変えたのがソナーである。従来の魚群探知機は、自分の船の真下しか見えなかったので、高速で海底を泳ぐマグロ産卵群を追跡することはできなった。ソナーをつかうと、船の周りを360度、1km先の魚群まで丸見えになる。ソナーが普及して初めて、マグロ産卵群を追跡できるようになったのである。
クロマグロ産卵群は、特定の水温帯を通って南下し、産卵条件が整ったら、海面に浮上して産卵行動を開始する。海底を泳いでいるうちは、巻き網では手出しができないので、ソナーを使って根気よく追跡し、産卵行動で浮遊してきたところを一網打尽にしているのである。巻き網漁業者曰く「産卵行動が終わってから、獲っているよ」とのことだが、本当のところはわかりません。
こうして、産卵期に、産卵場で獲られたマグロは、本当にまずい。栄養をすべて卵にとられたうえに、産卵回遊中は餌を食べないから、身がぱさぱさしている。食えたもんじゃない。ヨコワの方が100倍うまいという代物なのだ。これが築地にいくと1kg1200円ぐらい。日本海本マグロといえばありがたがって食べる消費者のおかげで、一応値段はつくのだが、一本釣りのクロマグロは1kg5000円ぐらい普通にします。巻き網のせいで、近海物の大型のマグロの水揚げが減っていて、まっとうなマグロを売りたい店は困っています。大西洋では、産卵場のマグロは、缶詰にしかならないので、畜養ブームになるまでは獲っていなかったわけであり、日本海だって産卵場で獲れば旨いはずがない。でもって、畜養もせずに、やせ細ったままで出荷しているんだから、資源の効率利用という観点からは、大西洋の畜養よりなお悪い。
http://members.jcom.home.ne.jp/hana-tuna/kuromaguro.htm
産卵後のクロマグロは、体力消耗のため、全体的に肉が落ち、特に腰から尻尾の部分がげっそりと痩せてしまう。別名、らっきょうのように細くなるので、 らっきょうまぐろと呼ばれている。肉色はどす黒く、脂もないなど品質が悪く、食べられたものではないため、漁獲し、売っても二束三文にしかならない。
こういうマグロを大量に漁獲し、薄利多売で日銭を稼いでいる境港が、「マグロの水揚げ日本一」とかいって、町おこしをしている。http://furusato.sanin.jp/p/osusume/01/11/
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