Home > 研究 > これから食えなくなる魚

これから食えなくなる魚

  • 2007-06-22 (金) 15:58
  • 研究
[`evernote` not found]

これから食えなくなる魚
これから食えなくなる魚

posted with amazlet on 07.06.22

小松 正之
幻冬舎 (2007/05)
売り上げランキング: 27795

日本漁業全体を俯瞰できる良質なレビュー。
日本漁業は至る所に問題を抱えて、全身複雑骨折状態なのだが、
諸々の問題を前提知識が無くても理解できるように平易に説明している。
一人でも多くの人に、この本を手にとってもらい、
日本の水産業および日本人の食生活の未来について考えてもらいたい。

以前の著書では、日本に都合がよい部分をつなげて説得力のある議論を展開していた。
官僚的な文章の手本のようなイメージがあった。
この本では、漁業のもつ様々な問題点にかなりストレートに解説しており、
筆者の漁業を何とかしたいという気持ちが伝わってくる。
「小松さんはこういう文章も書く人なんだ」と正直、驚いた。

漁業への問題意識は、個人的に共感できる部分が多い。
この本と当サイトを読み比べれば、重なる部分も多々あることがわかるだろう。 
国内でも有数の影響力を持つ人がこういう本を出すというのはとても意義がある。

ということで、当サイトの読者のかたも是非、目を通してください。
さっと読めて、いろいろと勉強になります。

Comments:5

ある水産関係者 07-06-25 (月) 21:43

小松氏の「これから食えなくなる魚」興味深く読みました。長年、水産行政の中枢神経に君臨されていただけあって、現在の漁業が抱える本質的な問題を竹を割ったように分かり易く解説しています。
  これだけであれば「いい仕事してますなー」でお仕舞いですが、そこはさすがタフ・ネゴシエーターの小松氏、平凡なお仕事では終わらなかったようです。
  マグロ問題、クジラ問題、それに日本周辺の資源の問題など、こと小松氏の得意分野では、小松氏の持論がふんだんに展開され、例え誤った部分があっても基礎知識や問題意識を持たない読者なら赤子の手をひねる如く簡単に洗脳されそうな危険性を感じました。
  これから、この本を読まれる方には、是非、批判的な視点を持って1歩下がったところから真偽を見極めつつ読み進めることをお勧めします(相当難しいですが・・・)。

  さて、私の感じた問題点を幾つか照会します。まずは「クジラ問題」。小松氏が長年身を粉にして取り組んできた課題だけに、戦略については、この人の右に出る人は今でもいないでしょう。
  それを象徴する言葉が「反捕鯨国も何れ将来は捕鯨推進派に転じる」と言う予言である。私も同感である。今の反捕鯨国や日本政府の担当者の中に、これを基本に今後のIWC戦略を考えている人物が一体何人いるだろうか?
  「クジラ問題」については誤解を招きかねない部分もある。捕鯨を再開すれば漁業資源が増える、という部分がそうだ。このことは生態系内の生物間の相互関係をあまりにも単純化しすぎてはいないだろうか。どの程度捕鯨すれば、どの程度漁業資源が回復するかという説得力あるデータが必要だ。

  「マグロ問題」については、「まき網漁業」のみが資源を減らす問題漁法として痛烈に非難されている一方で、「延縄漁法」や「つり漁法」は資源に優しい漁法として持ち上げている。確かに、「まき網漁法」の効率性はその他の漁法の比ではないが、特にCCSBTで過剰漁獲が問題になった「延縄漁法」の資源への悪影響を過小評価するのは如何なものかと思う(本当にまき網のみが悪いのなら、昨年CCSBTで合意された漁獲規制は豪州のまき網のみが被るべきだった)。さらに、クロマグロに限って言えば、曳き縄づりの漁獲量(ヨコワ、メジ)が農林統計の少なくとも2倍以上(?)、上乗せされるべきにもかかわらず、そういった恥部にはモザイクがかけられている。

  最後に「海洋法」における「人類共通の財産」なる規定。これは、前にも言ったと思うけど、海洋法上、あくまでも公海に関する規定。それを強引に200海里内の規定として読み替えるのは無理があります。200海里内については、沿岸国が主権的権利を持つ一方で、資源管理を適切に実施する義務を負っています。
  「無主物先占」は問題で、「国民共有の採算にすべき」とか、「国有財産にすべき」と言った水産物の所有権を明確化すべきとの議論もありましたが、私は「無主物先占」が「国民共有財産」や「国有財産」に変わったところで、権利に対する義務を果たそうとしない管理当局(お役所)の無責任体質が何も変わらない現状では、資源管理が適正化されるなど愚かな幻想に過ぎないと考えています。恐らく、水産物の所有権が国や国民全体に移ることによって、国民、特に遊漁者等の魚釣りなどの行動は今以上に厳しく制限されることになるでしょう。反面、漁業者に対する管理の甘さは今と何ら変わらないと思います。

勝川 07-06-28 (木) 11:19

>例え誤った部分があっても基礎知識や問題意識を持たない読者なら
>赤子の手をひねる如く簡単に洗脳されそうな危険性を感じました。

ストーリーが明快に整理されていて、それをデータや図で補強しています。
具体的な反例を知っていれば別ですが、素人がつっこみを入れるのは無理でしょう。
良くも悪くも、この説得力は流石ですね。

>  それを象徴する言葉が「反捕鯨国も何れ将来は捕鯨推進派に転じる」と言う
>予言である。私も同感である。今の反捕鯨国や日本政府の担当者の中に、
>これを基本に今後のIWC戦略を考えている人物が一体何人いるだろうか?

こういう戦略眼をもった人を外してしまうのが、水産庁・捕鯨団体の限界なのかな。
水産物は富を産むということに世界が気づきつつあります。
というか、マグロですでに気づいているわけですから、
クジラだって時間の問題でしょう。

>私は「無主物先占」が「国民共有財産」や「国有財産」に変わったところで、
>権利に対する義務を果たそうとしない管理当局(お役所)の無責任体質が
>何も変わらない現状では、資源管理が適正化されるなど愚かな幻想に過ぎないと
>考えています。

1)漁業者に乱獲の権利はない
2)国が資源管理の責任を負う
という2点が明確にすることが大切であり、
そのために国有財産という切り口がわかりやすいと思ったのです。
別の切り口で、以上の2点を明確に出来るのであれば、
それでもかまいませんが、どうしたものでしょうね。

匿名 07-06-29 (金) 11:18

ある水産関係者 殿
>権利に対する義務を果たそうとしない管理当局(お役所)の無責任体質が何も変わらない現状では、資源管理が適正化されるなど愚かな幻想に過ぎないと考えています。

→「無主物」なので残念ながら強権的に資源管理を進める権利はなく,よって責任も義務も果たせないのが役所の現状ではないでしょうか。
水産庁の中でも,水産資源に対する考え方が,簡単に言うと旧来からの無主物派と,欧米的な国有財産派に別れていて,しのぎをけずっているという噂をちらっと聞きました。

「国有財産」なら,ばしばし管理しちゃいますよー。早くそうならないかな。でもなったらなったで,資源評価とかものすごくシビアにできないとバッシングの嵐にさらされるでしょうが,,,

07-06-30 (土) 7:59

 TACって、国有財産であるからこその制度だと思うんですが、現状では、2つの考え方が混在しているのかなと思います。
 今の状況は、将来、新たな管理体制になっても、足をひっぱりそうな感じがします。

勝川 07-07-05 (木) 16:17

TAC制度だって、強制力はない協定に過ぎません。
国は責任の所在を曖昧にして、管理責任から逃げてます。
一般国民と海外には、「日本国が責任をもって管理をしています」というポーズをしつつ、
実際には「国は知らないから自分たちで管理してね」というような感じですね。
対外的な建前は「人類の共通財産」かもしれないけれど、実際の運用は「獲った者勝ちの無主物」です。
魚を国有財産だと思っている漁業者は居ないでしょう。

このダブルスタンダードをただすためには、国有化に関する議論は必要です。
最終的に「人類共通の財産」に落ち着くにせよ、
「無主物」ではないということを明確にするのが重要でしょう。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=288
Listed below are links to weblogs that reference
これから食えなくなる魚 from 勝川俊雄公式サイト

Home > 研究 > これから食えなくなる魚

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 0
  • 今日: 434(ユニーク: 216)
  • 昨日: 413
  • トータル: 9520337

from 18 Mar. 2009

Return to page top