資源評価票に毎年出てくる記述にこんなのがある。
1992年に加入量28億尾、1996年に43億尾の卓越年級群が発生したが、未成魚(0、1歳魚)の多獲によりSSBは回復しなかった。
これでは素人にはわかりづらいと思うので、少し説明をしよう。
多くの水産生物は、親の量が一定でも、子供の量は年によって変動する。
マサバもマイワシほどではないが、それなりに変動をする。
親に比べて子供が多い年が「当たり年」であり、その年に産まれのものを卓越年級群と呼んでいる。
マサバ太平洋系群の親子関係は、下のようになる。
データは平成18年度の資源評価票から引用をしたが、
その後の調査で2004年級群は1992年よりも大きかったことがわかっているので、
最新の知見を反映して、その部分は変更してある。
普通の年の親子関係は青の三角形の領域に収まるのだが、
例年よりも多くの子供が生まれて来る年がある。
これが当たり年だ。
最近では、1992,1996,2004が当たり年であった。
1992年と1996年の卓越年級群は、0歳、1歳で獲り尽くされてしまい、
資源の回復には全く結びつかなかった。
当たり年ですら、未成魚で獲り切れてしまう可能な漁獲能力が存在する以上、
ほぼ無規制な漁獲を続けていたら、未来永劫資源は回復しないだろう。
我々のグループが、1992年産まれを未成魚のうちに獲り尽くさないで、
1996年に産卵をさせていれば、かなりの水準まで資源が回復していたことを示した。
数年おきに卓越年級群が発生している現状では、ちゃんと卵を産ませればマサバは回復するのだ。
水産資源管理の難しいところは、保全と利用を両立させないといけないことだ。
「回復するまで一切獲るな」と言っても、今度は漁業者が絶滅してしまう。
漁業経営を安定させつつ、資源を回復させるためには、
当たり年を資源回復に結びつける必要がある。
当たり年に例年並みの漁獲量に抑えておけば、漁獲収入を確保しつつ、資源の底上げが可能である。
大きくなって、卵を産ませてから獲れば、そっちの方がトータルでは儲かるはずだ。
業界への痛みを最小限に抑えつつ、マサバ資源を回復させるためには、
当たり年の未成魚の漁獲を以下に抑えるかが鍵になる。
研究者と一部の行政官の尽力によって、
2003年の11月から、マサバ太平洋系群資源回復計画がスタートした。
- Newer: 普通の日記
- Older: 「魚離れ」と日本漁業~ 漁業政策・資源管理政策の批判的検討 by 川崎 健
Comments:2
- 県職員 07-07-05 (木) 13:09
-
毎日勉強になります。
- 勝川 07-07-05 (木) 16:41
-
水産資源の情報は、他にあまり無いですからね。
同業者にはブログを書くように強く薦めているのですが、
あまり広まりませんね。
横国の松田さんぐらいかな。
Trackbacks:0
- Trackback URL for this entry
- http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=299
- Listed below are links to weblogs that reference
- 「卓越年級群が発生したが、未成魚の多獲によりSSBは回復しなかった」とはどういうことか from 勝川俊雄公式サイト