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「魚離れ」と日本漁業~ 漁業政策・資源管理政策の批判的検討 by 川崎 健

  • 2007-07-04 (水) 17:36
  • 研究
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川崎先生から論文を送っていただいた。
月刊経済という雑誌の7月号に掲載されたものらしい。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/2007/keizai07.html
紹介せずにはいられないような素晴らしい内容だった。

「魚離れ」と日本漁業 漁業政策・資源管理政策の批判的検討
川崎 健

魚介類の消費減退、漁業の実態から漁業政策を批判している。
日本漁業の現状を理解するのに適したレビュー。
消費から資源まで多岐にわたる内容が良く整理されている。

魚離れ

魚離れのメカニズムが80年代までと90年以降では違うと論じている。
1980年代までは、食料支出が増える中で、魚が肉に置き換えられていった。
つまり、食の欧米化(相対的魚離れ)である。
一方、1990年代以降は、家計が苦しくなる中で食料支出が減少する。
低価格志向が強まるなかで、肉よりも魚介類から切り捨てられている。
貧困化によって貧乏人は魚を食べられなくなっているのだ(絶対的魚離れ)。

この分析には、うなずける。
確かに、スーパーでは輸入肉の方が魚より安いのだ。
出来るだけ安くすませようと思ったら、晩ご飯のメニューは確実に肉になるだろう。
金持ちは畜養マグロやブランド高級魚を食べ、貧乏人は輸入肉を食えということか。
これが、格差社会のとほほな現実だろう。

日本漁業の衰退とまき網漁業

魚離れの次は「巻き網」の問題に触れている。
「乱獲による漁業資源の喪失と政府による乱獲の容認」ということで、
かなりつっこんだ内容の話がある。
横国の松田先生、東大海洋研の渡邊先生とならんで、
俺のマイワシの記事も取り上げられている。
川崎、松田、渡邊、勝川と日本を代表する研究者(最後が違う?)の間では、
浮魚の管理をしないといけないということで、意見は一致しているのだ。
で、ここで驚いたのは、大中巻きの平均航海数のグラフ。
2003年から、急激に上昇しているのだ。
この年から、休漁補償金を出しているはずなんだけど・・・・
どうやらピストン操業をしているらしい。
この公海数の統計はネットには出ていないので盲点だった。
引用文献の漁業・養殖生産統計年報の書籍版を確認したところ、該当するデータが確かにありました。
もう、なんでもありだな。

漁業政策の批判的検討

まずは、水産基本計画を分析した後に、資源回復計画に話題は移る。
●繰り返すのか種苗放流政策の失敗
●サバ類の資源回復計画の実態
と続くのだが、ここに次のような文章がある。

入口規制も出口規制も有効に機能せず、未成魚を多獲し続けている現状は、過去の教訓に学ばず、実効的な資源管理が行われていないことを意味する。国費を投入しての「資源回復計画」とは、いったい何であろう?
このようなことになったのは、先に指摘したように政府が一方では乱獲を容認しながら、他方では「資源回復」を政策の重要な柱として推進しようとする、この矛盾した政策展開に基本的な根元がある。このことをきちんと説明する説明責任が政府にはある。このことこそが、「中間論点整理」で「強く期待」された「国民的な議論」ではないだろうか。

「まさに、その通り!」と膝を叩きたくなるような内容だ。
俺も、このことを言うがためにブログを書いておるんだよ。

その後は、日経調の高木委員の緊急提言についても触れている。
国有化に関しては、ある漁業関係者さんと近い意見のようだ。
1994年の国連海洋法条約によって、EEZの資源は無主物ではなく、
共有財産資源なのだから、わざわざ国有化宣言をする必要はないということ。
あと、参入のオープン化は無いだろうというつっこみがあった。
これに関しては俺も同じような感想をもった。
緊急提言の文章からは、参入の自由化=オープンアクセスとしか読めないのだが、
高木委員としてはオープンアクセスのコモンズではなく、
ITQのような譲渡可能制度を考えているようである。
今月発表される最終提言では、中の人がこのあたりを明確に書いてくれるでしょう。

最後に日本漁業の課題で閉める

日本漁業の最大の課題は、漁業で生活することが可能で、将来の発展を期待できる方向性をもった漁業の構築をいかにして行うか、である。

これもまさにその通り。
漁業が産業として残っていくためには、資源の持続性と消費の持続性が鍵になる。
資源の持続性、漁業の持続性、流通の持続性、消費の持続性は実は同根なのだ。
日本の水産物を取り巻く実態は、乱獲、乱売、乱食であって、これじゃ漁業も廃れるはずだ。


すでに5回ぐらいは読み返したけれど、考えさせられる内容だった。
水産白書なんかより、よっぽど水産業の現状がわかる。
一人でも多くの人に、手にとって読んで欲しい。
月刊経済という雑誌は実物を見たことがないのだが、
7月号だけでも買えるみたいなので、お近くの書店でどうぞ。

Comments:5

今回は匿名 07-07-05 (木) 7:02

共産党系の出版社ですね。
色眼鏡で見てはいけないのかもしれませんが。

勝川 07-07-05 (木) 16:39

雑誌自体はどうだか知りませんが、
川崎先生の論文に関しては、
学術的な意味でしっかりとしたものです。

ある水産関係者 07-07-05 (木) 20:31

「乱獲」を容認しながら「資源回復計画」を推進させるのは、血圧の薬を飲みながら大酒を煽っているのに等しく、絶対に体(資源)に良いわけがありません。結局、資源回復計画は、乱獲容認の免罪符と漁業者への便利な補助金に過ぎなかった、と言うことですね。このような失政と税金の無駄遣いは、施政者(お役所、お役人)が自らの施策に責任をとるシステムに変えない限り、いつまでも続くでしょう。この国では、社保庁の年金のように国民がお役所に対して「俺たちの魚(税金)を返せ!」と大声で反旗を翻さないと組織(の体質)は変わりません。

 「魚離れ」を検証するための主な公式統計は、「食糧需給表」、「国民栄養調査」、「家計調査年報」の3種類がありますが、「国民栄養調査」は毎年11月の中のたった1日限りの調査結果を1年分に引き延ばしたのに過ぎないほか、「家計調査年報」には外食・中食のデータが反映し辛い等の欠点があり、事実上「食糧需給表」が最も使えるデータということになります。
 それをもとに昭和40年代以降の魚介類や肉類等の消費量を検証すると、過去において本当の意味の(本質的な)「魚離れ」は存在しなかった、ということがわかります(データを掲示できないのが残念ですが・・)。もちろん、「魚離れ」の定義が曖昧ですし、小規模な変動や肉類との相対的地位の低下はありますが、重量や熱量、蛋白質ベースの長期トレンド等を見る限り、少なくとも明確な魚介類の消費量減退(魚離れ)は認められません。
 そもそもの「魚離れ」の語源は、第1次オイルショック時の価格高騰による消費冷え込みにあると言われます。ところが、当時、国民所得や食料支出も魚介類のそれを上回る勢いで増加したため、国民の食生活は「魚離れ」するどころか、事実上、質的にも量的にも充実していったというのが実態です。これら食生活の充実は、消費熱量・蛋白質ベースで1996年にピークを打つまで続きましたが、それ以降は緩やかな減少に転じています。近年、魚介類消費量のトレンドは方向性が定まらない状況にありますが、全体が縮小する方向に動いている以上、それに合わせて縮小する可能性が高いと思います。そこには、もちろん経済的要因による消費の落ち込みもあるでしょうが、「過食の是正」、「動物性食品への偏りの是正」といった要因も大きいでしょう。
   ただし、最近少し事情が変化しました。それは給料が頭打ちから減少している中、ライフラインでもある石油価格と穀物相場の上昇が止まりません。誰が考えても、その影響は魚介類消費に止まらず、全ての食品の消費動向(価格上昇)に影響するでしょう。輸入品については円安も加わり、ダブルパンチになります。案外見落としがちですが、世界的に畜産物の需給がタイトなことも忘れるべきではありません。
   このようなことから、今後は魚介類の値段が上昇して肉類に乗り換える、といった単純な図式は成立しないと考えます。むしろ、食生活のグレードダウンとスリム化、動物性食品から穀類への転換が進むでしょう。現在の過食状態が是正される一方で、肉類、乳製品、鶏卵等の自給率が実質的にゼロに近い状況を考えれば、国民が最後に頼るところは国産魚、しかも、イワシ、アジ、サバと言った大衆魚になります。もちろん、そのような状況に至った際に資源があれば、というのが絶対条件ですが・・・。それも危ういとなると、かなり厳しい食糧事情を覚悟せざるを得ないですね。

kato 07-07-26 (木) 9:18

川崎先生のレポートを入手しましたが、長文・難解なのでなかなか読み切れません。グラフを多用しているせいもあり、数字の背景の全体像がいまいち把握しきれず読み進めが遅いです(汗)。おそらく30分1時の読書時間では読みこなせないのでは(後ろから読むという手もありますが…)。

感じた点として。最初の「相対的→絶対的」は実は逆なのでは?と。大衆魚中心だった昔の消費が今はかつての高級魚へシフトしている訳です。この消費の中心はもう大衆魚には戻らないでしょう。置き換わるだけでなく質が変わっており既にかつての魚食とは別物。思うにマグロや鮭の切り身が特売に出る回数で、案外簡単に見た目の魚の消費は増減するのかもしれません。あと(雑誌の中にあるせいかもしれませんが)キーワードの使い方に若干の違和感もありました。

勝川 07-08-01 (水) 16:04

ある水産関係者さん

>結局、資源回復計画は、乱獲容認の免罪符と
>漁業者への便利な補助金に過ぎなかった、と言うことですね。
そんなところだと思います。
機能していない資源管理型漁業の焼き直しですから、
資源が回復した方が不思議です。

>世界的に畜産物の需給がタイトなことも忘れるべきではありません。
畜産物の供給を伸ばす余地は無いと言うことでしょうか?

>むしろ、食生活のグレードダウンとスリム化、
>動物性食品から穀類への転換が進むでしょう。
それはそれで平均寿命が延びそうですね。

>国民が最後に頼るところは国産魚、
>しかも、イワシ、アジ、サバと言った大衆魚になります。
これらの大衆魚を「安定供給のため」と称して、
獲りまくっている現状は何とかして欲しいです。

非持続的な、乱獲、乱売、乱食を改めないといけないということですね。

katoさん

>大衆魚中心だった昔の消費が今はかつての高級魚へシフトしている訳です。

そういう側面はあります。
同時に、かつての高級魚が日常的に食卓に並ぶ用になった反面、
かつての大衆魚が値上がりして、高級魚との価格差が減っています。
スーパーでは、肉と比べて魚が割高だと思います。
安売りの肉と張り合えるぐらいの値段でイワシやサバが並んで欲しいです。

マグロにせよ、ウナギにせよ資源を切り崩しながら、
大量供給して、挙げ句の果てに値崩れをしているのだから、
こちらもなんとかしないといけません。

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