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日本の漁業政策は世界から30年遅れている

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日本の資源管理は、単なる漁業調整に過ぎない。
「人間様が困るから、獲りたいだけ獲らせよう」というのは、そもそも資源管理の発想ではない。
ほとんどの場合、漁業調整では資源は守れないので、結局は漁業者が後で困る。



ただ、これは日本独自の事情ではない。

1970年代には、世界のどこでも似たり寄ったりの状態だった。

世界中で漁業調整に終始していたが、それではだめだということで、

時間をかけて、資源管理に変化したのである。



世界の資源管理の歴史を振り返ってみると、

1950年代にはMSY(Maximum Susutanable Yield)の理論は完成していた。

これは、持続性と最大収益を同時に成り立たせようという理論だった。

しかし、MSY理論は、現実にはほとんど実行に移されなかった。
不確実な科学よりも、漁業者の都合が優先されたのだ。

不確実性を理由に、過剰な漁獲枠が設定され、

不確実性があるが故に研究者も強くは出なかった。

MSYの推定値には大きな幅があるのが普通だが、常に上の方が採用されたのだ。

95%点を取るというのは、上手くいく可能性が1/20である。

95%の確率で失敗するのは、ばくちであって管理ではない。

不確実性を口実に、漁業者の都合を優先させ、

管理とは名ばかりの甘い漁獲枠が設定されていた。

世界中で、今の日本と同じようなことをやっていたのだ。

その結果が、いくつかの重要資源の崩壊である。

「このままでは駄目だ!」ということで、2つの大きな動きが生じた。



1)人間の都合と生物の持続性を切り離して議論すること

人間の切実な都合と、不確実な生物の持続性を同じ土俵で論じると、

人間の切実な都合に流されてしまう。

でも、そうすると、長い目で見て、産業が成り立たず、皆が困ることになる。

だから、人間の都合とは切り離して、生物の持続性を論じることにした。

生物の持続性の範囲で人間活動の最適化を図ることになった。



資源学の中心は、従来の生物の持続性と漁獲量の最適化を同時に狙うスタイルから、

より生物の持続性を優先する方向に動いたのだ。

従来の漁業最適化を目指す管理指標から、

生物の持続性のみにフォーカスした管理指標を区別するために、

「Biological Reference Point (生物学的管理基準)」という概念が提唱された。

従来の最適漁獲量(Optimal Yield)に代えて、ABC(Acceptabe Biological Catch)が

資源管理の前提条件として用いられるようになった。

人間の都合を無視して、生物としての持続性を定量化するというのが、ABCのBに込められた意味なのだ。

漁業者の都合を考慮したABCなんて、ABCの存在自体を否定するような暴挙なわけ。

「ABCにもいろいろな定義がある」とか主張する人間もいるが、単なる勉強不足だろう。

漁業者の都合を優先させるようなABCなど、そもそもの定義からしてあるはずがないのだ。



日本のABCは漁業者様の都合によって歪められまくりだ。
とてもABCなんて呼べる代物ではない。

AFC(Acceptable Fishiningindustrially Yield)とでも呼ぶのが妥当だろう。
そのAFCすら守れないのが日本のお寒い現状なのだ。



2)不確実性には保守的な行動をとること

もう一つの大きな変化は、不確実性に関する態度だ。

これが明確に文章にされたのがリオデジャネイロ宣言だろう。

「不確実性を理由に管理を怠ったり、遅延してはならない」と力強く宣言されている。

「不確実性がある場合は控えめに行動をする」というのが大前提である。
獲った魚は海に戻せないが、獲らなかった魚を後で獲ることはできるのだから、当たり前の話だ。

90年代以降、世界は、不確実性があっても、生物の持続性を優先するというルールの下で資源管理を進めてきた。

EUも、USも、カナダも、南米も、アフリカも、程度の差こそあれ、その方向に進んでいる。

完全に取り残されているのがアジア、特に東アジアは最悪だ。

「科学者の言うことは当てにならないから漁業者の都合が優先だ」と、
漁業大国&唯一の先進国である日本が率先して乱獲をしている。
中国や韓国を言い訳に自国の管理を怠っているようでは、お話にならない。


生物の持続性を優先し、不確実性に対して保守的な行動を取ることは、

結果として漁業利益に結びつくことが、世界の常識に成りつつある。

資源を良い状態に保っておけば、単価が高い魚を持続的に獲ることができる。

早めに厳しい措置を執っておけば、資源の枯渇を事前に防ぎ、

結果として漁獲量を高めに保つことになる。

資源管理を徹底している国ほど漁業から利益を上げているという事実がすべてを物語っている。



資源管理よりも漁業調整に終始するというのは、なにも日本の独自性ではない。

30年前は、どこも同じような状況だった。
ただ、世界はその段階をとっくに乗り越えて、次のステップに進んでいる。
世界の漁業関係者は持続性の範囲で利益を上げるために努力をしている。
日本は70年代以降の世界の流れから完全に取り残されている。

漁業が盛んな先進国の中では一人負けといってよいだろう。

不毛な乱獲促進政策しか採っていないのだから、当たり前だ。

未だに不確実性を錦の御旗にAFCを採用し続けているのは、日本ぐらいだろう。

この「学習能力の低さ」こそ、日本独自と言えるかもしれない。

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