- 2008-04-21 (月) 15:41
- その他
議論を明確にするために、当ブログでは、次のように言葉の定義をする。
資源管理:資源の持続性の範囲で、漁業利益の最大化を図ること
漁業調整:漁業者の合意の範囲で、資源の持続的利用を目指すこと
資源管理も漁業調整も、資源の持続的な有効利用を目指すものの、
資源管理は資源の持続性を優先し、漁業調整は人間の都合を優先するという根本的な違いがある。
沿岸の自主管理における意志決定は、漁業関係者の利害調整の結果であり、
資源管理ではなく、漁業調整に分類できる。
実は、水産庁がトップダウンで行っている各種資源管理もこれと同じような状態にある(と思われる)。
水産庁の国内における重要な業務は、漁業調整(すなわち、漁業者間の対立の調停)であった。
その漁業調整を担当していた部署が、組織改編で「資源管理課」という名前になった。
看板を変えても、中身は変わっていないので、
管理課には漁業調整と資源管理の区別がついていない人間が多い。
特に年配は、漁業調整万能主義(=アンチ資源管理)が強く染みついている。
TAC制度が導入されるときも管理課を中心に根強い反対があり、TAC制度は徹底的に骨抜きにされた。
TAC制度は、国際社会に対してEEZの権利を主張するためのアリバイ工作(資源管理ごっこ)だと、
漁業者が理解していたことは、周知の事実であろう。
(水産庁自身がそう説明したのかな?)
管理課がTAC制度を骨抜きにしつつ、真打ちとして期待したのが「資源回復計画」である。
資源回復計画は、水産庁が補助金のニンジンをちらつかせながら、漁業調整を手伝うのが基本スタイル。
従来の資源管理型漁業の看板を変えただけだ。
管理課は、資源の持続性を最優先する資源管理ではなく、人間の都合を最優先する漁業調整を選んだ。
このことからも、資源管理課の本質は漁業調整課であることがよくわかる。
「漁業調整→自主管理→資源回復→漁業者もうれしいし、役所の手柄にもなる」
というようなバラ色の未来を描いていたようだが、結果は皆さんご存じの通り。
資源管理型漁業があんな状態なのに、なぜ同じ失敗を繰り返すのか理解に苦しむところだ。
全てが謎に包まれたTACの決定に関しても、だいたいは想像がつく。
ABCが無視されているのは自明だし、かといって、定量的な経済分析なんて大本営にできるはずがない。
消去法的に言って、TACも漁業調整の結果と考えるのが自然だろう。
TACは水産庁(特に管理課)に政治力を行使できる漁業者間の意見調整で決定されるのだろう。
ABCの担当者がいの一番に某組合にご意見を伺いに行くのが恒例だったりするのもよくわかる話だ。
中の人曰く「特定の漁業者に配慮しているということはない」ということなんだけど、本当かなぁ
俺には、沿岸が冷遇されているように見えてならないんだけど、どうなんでしょう。
ぜひ、説明責任を果たして、疑惑を払拭してもらいたいものです。
なんせ、非公開情報が多すぎて、妄想がふくらんで困ります。
ということで、日本には資源の持続性を優先する資源管理はありません。
上から下まで、人間の都合が全ての漁業調整なのでした。
日本の漁業界で、アンチ資源管理・漁業調整万能主義が強い勢力を持っているが、
その総本山は水産庁の資源管理課なのでした。
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Comments:2
- ある水産関係者 08-04-21 (月) 22:13
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大本営を含めて「漁業調整」を、「漁業者の合意の範囲で、資源の持続的利用を目指すこと」と定義するのは如何なものかと思います。少なくとも日本国内(大本営)では、「資源の持続的利用」は「漁業者の精神的満足」よりも優先順位が低い目標で、「漁業調整」の定義は、いっそのこと「漁業者の合意の範囲で、資源の管理方策(目標)を決定すること」と書き換えた方が正しいと思います。
当然ながら、TAC決定プロセスでの「定量的な経済分析」も疑わしいことこの上なしで、せいぜい、漁業者代表が「最低、××だけ獲らせてくれないと採算が採れない」との訴えを元に鉛筆をなめながら数字が作られる気がします。
「沿岸が冷遇されているように見えてならないんだけど」と言うのは、具体的に何がどう冷遇されているように見えるのでしょうか?
もし冷遇があるとすれば、沿岸以外の業種については大本営と強固な「天下りネットワーク」が存在するため、優先的に意見を聞いて貰えるのかな、とは思いますが・・・。 - 勝川 08-04-24 (木) 10:41
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>当然ながら、TAC決定プロセスでの「定量的な経済分析」も
>疑わしいことこの上なしで、せいぜい、漁業者代表が
>「最低、××だけ獲らせてくれないと採算が採れない」との訴えを
>元に鉛筆をなめながら数字が作られる気がします。まあ、そんな感じでしょうね。
漁業者が納得するかどうかしか頭にないようで、
国民への説明責任など眼中にないようです。>「沿岸が冷遇されているように見えてならないんだけど」と言うのは、
>具体的に何がどう冷遇されているように見えるのでしょうか?数少ない実弾が、沖合に優先的に回されているということです。
沖合との比較の問題ですね。
たとえばマサバ太平洋は、北巻きが未成魚から巻きまくったせいで、
成魚を狙っていた棒受けなどは、壊滅状態です。
にもかかわらず休漁補償金などは、北巻きにしか出ていない。
どう考えてもおかしいですよ。>もし冷遇があるとすれば、沿岸以外の業種については大本営と
>強固な「天下りネットワーク」が存在するため、
>優先的に意見を聞いて貰えるのかな、とは思いますが・・・。水産庁から、北巻きに天下ったのが、
みなと新聞に意味不明の反論文を送った例の岩崎氏。
天下り役人が「民間の学識経験者」を名乗るのが大本営クオリティーです。
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