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クロマグロは減っていないと主張してきた研究者たち

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6年ぐらい前から、日本海の一本釣り漁師たちが「クロマグロの群れが激減している」と危機感を抱いていた。漁業者からのSOSをキャッチした俺は、現場を回って、クロマグロ資源の危機的な状況についての情報を集めて、警鐘を鳴らしてきた。

2009年に撮影した一本釣り漁業者のインタビュー → https://www.youtube.com/watch?v=HCzqRpRDTJk&list=UU5QxUOmfdtctWClAK4DWsYA
2010年に書いたブログです⇒ http://katukawa.com/?p=3762

その当時、水産総合研究センター(日本の研究機関)は、「資源量は中位」で、2002-2004の漁獲圧を続ければ問題なしと主張していた。漁業の現場の危機感は、国の研究者によって、否定されてきたのだ。楽観的な資源評価は、産卵場でのまき網操業が無規制に拡大していく口実として利用された。

学術雑誌 nature でも、2010年に太平洋クロマグロの論争が取り上げられた。

http://www.nature.com/news/2010/100519/full/465280b.html

こちらが、WCPFCおよび日本政府の見解

Pacific bluefin (Thunnus orientalis) populations had been thought to be stable, with enough young fish maturing each year to replace those caught. In July 2009, a working group of the International Scientific Committee for Tuna and Tuna-like Species in the North Pacific Ocean (ISC) concluded that recruitment of juveniles to the population “does not appear to have been adversely affected by the relatively high rate of exploitation”. But the working group admitted that a lack of data meant recruitment since 2005 is highly uncertain.

太平洋クロマグロ資源は、十分な新規加入があり、安定して推移していると考えられてきた。2009年7月のWCPFCの科学委員会は、「比較的高い漁獲圧によって、悪影響がでているようには見えない」と結論づけた。しかし、ワーキングループは2005年以降の新規加入のデータの不確実性が大きいことを認めた。

それに対して、俺はこのように主張していた

And the belief that the stock is stable is based on a false assumption that fishing practices have not changed, says Toshio Katsukawa, a fisheries expert at Mie University in Tsu City, Japan. From speaking to fishermen, Katsukawa is most concerned that, in the past few years, boats have begun targeting the tuna’s spawning grounds.  This tactic increases catches, simultaneously making the stock seem bigger but damaging the fish’s breeding capacity.

「資源が安定しているという思い込みは、漁業の操業形態が変わっていないという誤った仮定に基づく」と、日本の津市の三重大学の漁業の専門家の勝川俊雄は語った。漁業者との情報交換によって、勝川は過去数年の間に漁船がマグロの産卵場で操業を開始したことを懸念していた。操業形態が変わることによって、漁獲量が増大し、資源量の過大推定をまねくとともに、資源の再生産能力が損なわれてしまう。

このどちらが正しかったかは、歴史が証明することになる。当時と今の資源評価をみると、水研センターは産卵親魚についてかなり楽観的な評価をしていたことがわかる。

http://kokushi.job.affrc.go.jp/H22/H22_04S.html

2010年当時の楽観的な資源評価(産卵親魚量)を下図に示した。最近の資源水準は歴史的に見ればそれほど低くないし、資源は安定的に推移しているように見える。
キャプチャ

最新の資源評価はこんな感じ。1990年代中頃から、資源が直線的に減少している。過去にさかのぼって結果が変わっているのだ。
キャプチャ

natureのニュースでは、「2011年4月までに、漁船ごとに漁獲枠を設定する、大型のまき網漁業の規制、畜養のための稚魚の漁獲を認証性にして報告義務をつける」という水産庁の方針が紹介されている。

Responding to concerns about the health of the stock, Japan’s Fisheries Agency last week outlined new measures to monitor and manage the tuna populations. These specify limits on the weight of fish that each boat can catch, restrictions for the large boats using encircling nets that account for most tuna fishing, along with new requirements for other boats to report their catches. And fish farmers, who collect an increasing but unknown number of juveniles and raise them in pens, will be required to register and report their activities. The agency plans to implement the restrictions by April 2011.

それに対する俺のコメントは「きちんと実行すれば効果があるけど、ぐずぐずして手遅れになることが心配」

Katsukawa says that the new measures, “if done effectively”, could have a major impact. But he fears they will be implemented too slowly to head off an irrecoverable drop.

2014年現在、漁船ごとの漁獲枠は設定されておらず、大型まき網漁業の規制はきわめて不十分な状態だ。残念ながら、こちらも予想通り。

2010年の段階で、規制を導入して、段階的に漁獲圧を下げていれば、資源は回復に向かっただろう。一昨年まで、水研センターの担当者は「クロマグロは豊富で、現在の漁獲圧に問題は無い」と言い続けてきた。その結果として資源の枯渇を招き、漁獲量の半減というきわめて社会的にも影響が大きな手段を執らざるを得なくなった。漁業の現場の声を無視した楽観的な資源評価によって、国益が大きく損なわれたのである。楽観的な資源評価は、クロマグロに限った話では無い。ウナギの場合も、シラスウナギが捕れなくなって鰻屋がばたばたと閉店しているにも関わらず、一昨年まで「特に減っていない」という立場であったし、カツオも近海の漁獲量が直線的に減っているにも関わらず、「資源は豊富で、現在の漁獲に問題はない」という立場をとっている。

Comments:2

作業員 14-08-30 (土) 10:36

はじめまして。
Blogosに転載されたエントリを拝読しています。

どういった力が
>「資源は豊富で、現在の漁獲に問題はない」
という立場を採らせているとお考えでしょうか?

例えば、規制に向かわせる国際社会からの圧力をかわすためとか…
これでは行き着く処までいってしまいます。大本営発表じゃあるまいし、そこまで不都合な事実に目を瞑っているとは思えないのですが。

井田 徹治 14-09-02 (火) 9:50

勝川さんの解析を基に ↓ のような記事を書いたのは2010年の事でした。 この時、水産庁の反応は冷たいものでした。「2010年の段階で、規制を導入して、段階的に漁獲圧を下げていれば、資源は回復に向かっただろう」というのは仰るとおりです。
                                   共同通信 井田

2010年05月11日 08:50:24
太平洋クロマグロも危機 
 乱獲原因、大型魚が減少 
 三重大分析、保護策必要に 

 日本が大量に漁獲している太平洋のクロマグロは、産卵能力のある大きな魚が減るなど資源状況が悪化しているとの分析結果を三重大の勝川俊雄(かつかわ・としお)准教授らが11日までにまとめた。大型の魚の乱獲が進んだ結果、3歳以下で成熟前の小さな魚や産卵前の魚が漁獲の対象になるという、悪循環が進んでいるとみられる。
 個体数減少が深刻になり、総漁獲量の削減を進めている大西洋と地中海のクロマグロと同様に、太平洋でも危機的状況になっていることを示す結果で、資源保護に向けた強力な取り組みが必要になりそうだ。
 日本は太平洋クロマグロの70%超を漁獲しており、うち約55%は巻き網。近年は、若い魚を漁獲していけすで育てる蓄養向けも増加傾向にある。
 勝川准教授によると、巻き網による漁獲量と築地市場(東京)で取引される数などから割り出したクロマグロの平均体重は約50キロ。1980年代は100~160キロあったが、著しく減少した。
 漁獲数でみると、0歳の魚が占める割合は、60年代は約60%だったが2000年以降は70%超に上昇、最近は0歳と1歳の魚を合わせると90%を超えていた。
 6~7歳以上の大きな魚を狙う一本釣りの漁獲量は04年以降急減、09年には巻き網漁によるクロマグロの漁獲量も大きく減り、資源状況悪化がはっきりしてきたという。
 一方、04~08年の0歳と1歳のマグロの水揚げ額は年平均27億円だが、この若い魚を7歳まで捕らないようにすれば、漁獲できる数は減っても単価が高くなるため、2235億円に増えるとの試算結果も出た。
 勝川准教授は「産卵時期には休漁にし、若い魚の漁獲を減らすことが急務だ。大きくなるまで待って捕れば資源も好転し、漁業者の収入も増える」と話している。

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