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FAOも日本漁業の一人負けを予測→成長する世界の漁業、一人負けの日本漁業

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日本国内だけを見ていると、漁業には未来はないように見えますが、海外をみると別の光景が見えてきます。世界的に見ると、漁業は成長産業であり、日本のように漁業が衰退している国の方が例外です。ノルウェー、米国など、先進国でも漁業が成長している国が多数あります。世界の漁業がどうなっているかを概観してみましょう。

世界の漁業の現状についてまとめたものとしては、FAO(国際連合食糧農業機関)が二年に一回発行しているSOFIA(世界漁業白書)があります。

FAOの統計によると、世界の漁業生産は下図のように右肩上がりで増えています。1990年以降、天然魚(オレンジは)ほぼ横ばいで推移しているのですが、養殖魚(緑)の堅調な増加によって、全体として増えているのです。

キャプチャSOFIA 2016 TABLE1より引用

食用の水産物の生産量は2009年から2014年の間に、1億2380万トンから、1億4630万トンへと約二割増えました。水産物生産の増加割合は、人口の増加を上回っているので、一人あたりの水産物供給量は、この期間に年間18.1kgから年間20.1kgへと増加しています。では、水産物が余っているかというとそうではありません。先進国から、途上国まで、水産物の需要が増えており、世界の貿易市場での水産物の需給関係は極めてタイトで、価格は上昇しています。

下の図が水産物の貿易価格(米ドル/トン)を示したものです。2015年までが実測データで、それ以降は予測になります。食用水産物の単価(緑の点線)は、2001年に底値になった後上昇して、その後の13年の間に、約50%上昇しています。生産量が増えて、しかも価格が1.5倍に増加しているのだから、漁業全体の経済規模は拡大しているのは明らかです。

 キャプチャSOFIA 2016 より引用

2016年のSOFIAでは、2025年までの漁業生産の将来予測をしています。それによると、世界全体では養殖を中心に17.4%の漁業生産の増加となるそうです。先進国は伸びしろが小さく、1.0%の増加にとどまっています。ほとんどの国で生産量(重量)に大きな変化は無いのですが、例外は日本とノルウェーです。養殖の成長によってノルウェーが二桁の増加を達成する一方で、日本のみが-13.7%と大幅な減少となっています。開発余剰のある途上国は、先進国よりも漁業生産の伸びしろが大きいために、20.8%の増加が見込まれています。ブラジル、中国、インドなどが大幅に漁獲量を増やしています。日本で現在進行している漁業の衰退は、世界的に見て極めてユニークな現象なのです。

SOFIA 2016 TABLE22より筆者作成
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日本一人負けの予測をしているのはFAOだけではありません。2013年に世界銀行が、「2030年までの漁業と養殖業の見通し」というレポートを公開しました。こちらの2030年までの世界の天然魚・養殖魚の生産・消費・貿易を予測でも同じような結果が得られています。詳しくはこちら→http://katukawa.com/?p=5396

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Fish to 2030 : prospects for fisheries and aquacultureより引用

当ブログでは、「世界では漁業は成長産業。日本の一人負け」と言い続けてきました。客観的に見るとそう言わざるを得ないのです。では「日本の漁業に未来は無いか」というと、そうではありません。日本の漁業が衰退しているのは、漁業のやり方が悪いのです。もちろん、今の延長線上には明るい未来は無いのですが、漁業のやり方を変えることで未来を変えていくことは可能です。最も成功している漁業国の一つであるノルウェーの政策を参考に、日本漁業の問題点を一つずつ潰していけば、日本の漁業が成長する余地はまだまだあります。次世代を産む親魚をちゃんと残した上で、量では無く価値を伸ばす漁業に転換すれば、日本の漁業は生産的な産業に生まれ変わるでしょう。

今年のサンマ漁は厳しくなりそうです

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去年はサンマの不漁が大きな話題になりましたが、今期のサンマ漁はどうなるのでしょうか。7/29に水産研究・教育機構が「平成28年度 サンマ長期漁海況予報」を公開したので、その内容について解説します。どうやら、今年もサンマはあまり期待できない感じです。

平成28年度 サンマ長期漁海況予報

日本人は、サンマは日本の魚と思っているかもしれませんが、実はそうではありません。サンマは太平洋の真ん中の公海に住んでいて、卵を産むために南下します。産卵海遊をしているサンマの一部が、日本沿岸を通りかかり、それを我々は漁獲しているのです。ということで、日本でサンマが獲れるかどうかは、以下の二点が重要になります。

① 太平洋の西方面にどのくらいのサンマがやってくるか
日本近海にサンマの漁場が形成されるか

① 太平洋の西方面にどのくらいのサンマがやってくるか

水産研究・教育機構は、毎年、調査船を出して、日本方面に向かってくるサンマの量を調査しています。この調査結果をみると、西太平洋方面に向かっているサンマの資源量が推定できるのです。2016年の来遊量は、200万トンを下回り、2003年以降最低水準となりました(゚◇゚)ガーン


キャプチャ2
水産研究・教育機構 平成28年度 サンマ長期漁海況予報より引用

日本に近い方から、一区、二区、三区とエリアを分けて資源量を推定しています。一区のサンマから日本漁場に来遊するのですが、この一区のサンマの密度が2010年以降低水準で推移しています。今年も、八月から九月上旬の漁期初期のサンマの漁獲はあまり期待できない感じです。二区は去年と同じぐらい。3区は去年よりもやや少ないという結果になっています。不漁だった去年と似たような来遊パターンですが、量としてはやや下回ることになりそうです。

 日本近海にサンマの漁場が形成されるか

日本近海までやってきたサンマの群れがどのルートを通るかが重要です。日本のすぐそばに密度の高い漁場を形成してくれれば、サンマは豊漁になります。逆に、日本のEEZの中に入ってこなかったり、密度が分散した場合には、まとまった漁獲は期待できません。

サンマは冷たい海水を好んで泳ぐので、表面水温が15℃前後のところに漁場が形成されます。北から来る冷たい親潮が日本沿岸を通ると、日本のそばにサンマの好漁場ができて、豊漁が期待できます。残念ながら、今年は、親潮の勢力が弱く北の方に押しやられていて、釧路周辺の水温は高めに維持されています。現在のパターンが続くと、8月末からスタートする大型船の操業は、漁場が遠い上に密度も分散することから、低調な水揚げになりそうです。その後は、親潮の南下に伴い、9月 中旬頃には一時的に漁況が上向くものの、その後の魚群の来遊は断続的であり、時期による来遊量の変動が大きく漁況は安定しないと、水産研究教育機構は予測しています。
キャプチャ3

気象庁 海面水温・海流1か月予報より引用

今年のサンマの漁期前予想のまとめ

(1)来遊量:昨年をやや下回る。

(2)魚体:漁期を通じて1歳魚の割合が高い。漁期全体における漁獲物の1歳魚の割合は、昨年

(85%)並み。(1歳魚の体長は、6月~7月の漁期前調査時におおむね27cm以上、8月以

降の漁期中は28cm以上)

(3)漁期・漁場:大型船出漁直後(8月下旬)の漁獲量は少なく、漁場は択捉島沖以北の広い海域に分散する。9月中旬になると漁況は上向くものの、その後も旬別漁獲量の変動は大きく、漁場は親潮第2分枝沿いの沖合に形成される。三陸海域への南下時期は平年よりやや遅れ、漁場形成は10月中旬となる。

コメント

日本に近づいてくるにつれて、さらに精度の高い続報がでてくるものと思われますが、現時点では去年よりも好転する要因が見当たらない感じですね。サンマの資源については、現時点ではそれほど大きな問題はないと俺的には考えています。2015年には、220万トンのサンマが来遊したのに対して、日本台湾ロシアなどの漁獲量は35万トン程度です。漁獲率は16%程度となっており、太平洋クロマグロと比べたら、漁獲の影響は無いようなものです。しかも、日本方面に来るサンマは資源の一部に過ぎません。

ただ、今後も今のままで良いわけではありません。漁獲は生涯のほとんどを公海で過ごすサンマは、どの国でも好きなだけ捕ることが出来ます。このまま漁獲圧が強まれば、資源が支えられなくなるのは時間の問題です。資源に余裕があるうちに、国際的な資源管理の枠組みをつくる必要があります。

やっぱり意味が無かったウナギの池入れ規制

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二年前に書いた「あまり意味の無いウナギの池入れ上限」のアップデートです。

日本が国として行っている規制は、シラスウナギの池入れ量の上限です。去年に引き続き、今年も枠を大幅に下回りました。実質的に取り放題、入れ放題となっており、規制の効果は皆無です。

キャプチャ

シラスウナギの池入れ上限は、例外的に多くのシラスウナギが来遊した2014年の池入れ量から2割の削減した21.7トンです。過去5年(2010-2014)の平均が19.5トンであることを考えると、減少傾向にあるシラスウナギの漁獲に歯止めをかける効果は期待できないことがわかります。

水産庁は、がんばっても到達しない池入れ上限を形式的に設定して、業界の短期的利益を守りつつ、規制に取り組んでいるポーズをしています。資源管理では無く、「資源管理ごっこ」です。これではウナギ資源もウナギ食文化も守ることが出来ません。

追記

この前、対馬に行ってきたんだけど、地元の人に聞いたら、子供の頃は川にウナギがウジャウジャいて、獲りたい放題だったらしい。いまでも、ウナギがいることはいるけど、数にしたら百分の一ぐらいじゃないかって。その川は、河川工事等をしていなくて、河川環境は今も昔もほぼ同じ。ということは、シラスウナギの来遊量が30年ぐらいのうちに、大幅に減ってしまったと考えるのが合理的ですね。

ウナギはいろんな場所で結構身近にいたらしいが、定量的なデータがない。国の漁獲統計も全然当てにならないし、困ったものです。

参考→密漁ウナギに出会う確率は50%

データ

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
池入れ量(㌧) 19.9 22 15.9 12.6 27.1 18.3 18.4
池入れ上限 21.7 21.7

データソース

去年までの動向

http://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/pdf/ikeire.pdf

今年の実績

http://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/pdf/nihonunagi03.pdf

WCPFC北小委員会が終わったようです

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太平洋クロマグロの資源管理に関する国際会議(WCPFC 北小委員会)が9/1-3まで開催されました。クロマグロの資源評価は、2年に一回行われます。最新の資源評価は2014年で、次回は2016年です。今年は谷間の年に当たるので、普段であればしゃんしゃんでした。しかし、クロマグロの新規加入が劇的に低下していることから、議論が紛糾しました。

下の図はクロマグロの新規加入量の指標です。急激に減少していて、2015年はさらに悪くなりそうです。(水産庁と巻き網業界以外の)関係者の間で、資源の存続に対する危機感が広がっています。米国は親魚を含む規制を再検討して、長期的な回復計画を提案しました。メキシコは、国際合意を待たずに漁獲枠を自主的に削減すると宣言しています。壱岐や対馬の一本釣り漁業者は産卵期産卵場での漁獲を自主的に禁漁しました。

キャプチャ

日本は、クロマグロの新規加入が減少した時に適用される緊急ルールを提案しました。すでに新規加入が激減しているにも関わらず、「緊急時のルールを2016年に議論しましょう」と提案しているのだから、危機感が欠如しています。すでに火が燃え広がっているのに、火事になったらどうするかを悠長に相談しているようなものです。しかも、この緊急ルールはそもそも2年前に決めておくべきだったのです。

こちらに2013年の決定事項があります。

http://www.wcpfc.int/system/files/CMM%202013-09%20CMM%20for%20Pacific%20Bluefin%20Tuna.pdf

2ページ目に次のような記述があります。

  1. CCMs, in particular those catching juvenile Pacific bluefin tuna, shall take measures to monitor and obtain prompt results of recruitment of juveniles each year. An emergency rule shall be developed in 2014 which stipulates specific rules all CCMs shall comply with when a drastic drop of recruitment is detected.

    新規加入が劇的に減少したことがわかったときに、全ての加盟国が従うべき緊急ルールを2014年に開発する。

今回の会議で議論をした緊急ルールは、2014年に決めることになっていたのです。議長が議事から外したために、実際には議論をされませんでした。2013年の時点では新規加入はそれほど悪くないと考えられており、将来のリスクに備えようということでした。この時点で緊急ルールを決めていれば、今年は緊急ルールが発動して、資源の減少にブレーキがかかったかもしれません。議論を先送りしている間に、緊急時が現実のものになってしまったのです。2016年に緊急ルールが合意できたとしても、実際に緊急ルールが適用されるのは2017年以降でしょう。後手後手の対応によって、どこまでも水産資源が減っていくという、日本漁業ではおなじみの光景が繰り返されています。

俺が疑問に思うのは次の二点ですね。

  • なぜ2014年に緊急ルールを議論をしなかったのか。(北小委員会議長の宮原氏が答えるべき質問です。)
  • 水産庁は現在の新規加入の激減は緊急時ではないという認識なのか?

水産庁の国会答弁を徹底検証(その2)親が減った原因は?

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今日は親魚が減った原因について検証します。水産庁は次のように答弁しました。

○政府参考人(本川一善君)

太平洋クロマグロの未成魚の発生につきましては、親魚の資源量にかかわらず、環境要因に左右されるところが非常に大きいと認識しております。
先ほど申し上げましたように、北太平洋まぐろ類国際科学委員会、ISCという科学者の方々の集まりの場では太平洋クロマグロの親魚資源が減少していることについては、漁獲のほとんどがゼロ歳から二歳までの未成魚が大半を占めております、近年、この漁獲が増大したこと、それから一方で、未成魚の発生が少ない年が頻発をし、その結果、親魚まで生き残る魚が少なかったことが主な原因であるというふうに科学委員会が分析をしております。

このように、ISC、科学委員会は日本海の産卵場での漁獲が親魚資源の減少につながったということは言っておりませんで、ウェッジに記載のあるような、〇四年から始まった日本海の産卵場での漁獲の影響により成魚の資源量や漁獲量が減少してきたという指摘は、事実とは異なるんではないかと考えているところでございます。

親が減った理由は、① 未成魚の発生が少なかったことと、②未成魚の漁獲圧が上昇した結果であり、③日本海産卵場の漁獲の影響では無い、という主張です。③については、この前の記事で検証をしたので、今日は①と②について検証します。

まず、最近の未成魚の漁獲圧がどれぐらい上がったかを見てみましょう。北太平洋まぐろ類国際科学委員会ISCの最新のレポートのデータをつかって、2002-2004年の漁獲率と2009-2011年の漁獲率を比較したのが次の図です。

キャプチャ

値が1を上回ると最近の漁獲率が上がっていることになります。0-2歳の漁獲率はほとんど増えていないし、高齢魚の漁獲率はむしろ減少していることがわかります。漁獲率が大きく上がっているのは、日本海の産卵場巻網が漁獲している3-5歳のみです。「近年、未成魚への漁獲圧が増大したから親魚が減った」という水産庁の主張は、根底からおかしいのです。

北太平洋まぐろ類国際科学委員会ISCの最新の資源評価をもとに、未成魚(0-2歳)、日本海産卵群(3-5歳)、高齢魚(6歳以上)の資源量(トン)を図示しました。

キャプチャ

 

未成魚(0-2歳)と日本海産卵群(3-5歳)は、徐々に減少しているのに対して、高齢魚(6歳以上)が激減しています。もし水産庁の主張が正しいとすると、まず未成魚(0-2歳)が激減し、数年遅れ日本海産卵群(3-5歳)が激減し、さらに数年遅れて高齢魚(6歳以上)が減少していくはずなのですが、そうはなっていません。このデータを素直に解釈すると、「3-5歳まではマグロはいたけど、そこで獲っちゃったから、6歳以上の親魚が減っているんだな」となります。

日本海産卵場でクロマグロ産卵群を漁獲している山陰旋網組合は、Wedge(9月号)の取材に対して、「あまりクロマグロが減少しているといった感覚はない。去年も今年も自主規制の上限に達したので漁獲を止めたが、規制が無ければ、もっと獲れていた」と答えています。実際に漁をしている人達が「マグロは減っていない」というのだから、日本海の産卵場まではマグロは生き残っているのでしょう。

各地の定置網の水揚げを見ていても、3-4歳ぐらいまでは、それなりに漁獲されていますが、そこから上のサイズのマグロがほぼ消滅しています。先日、岩手県の定置網漁業者と話をしたのですが、昔は200kg以上のクロマグロが沢山獲れたそうです。最近は、10kg~30kgぐらいの未成魚は時折まとまって獲れるけど、そこから上のサイズは全く獲れないということです。

次に高齢魚を見てみましょう。日本海産卵場を卒業した6歳以上の魚は太平洋の沖縄産卵場に向かい、沿岸延縄漁業によって漁獲をされます。 ISCのこちらのレポートに太平洋の延縄漁業の漁獲データが整理されています。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/PBF/ISC12_PBF_1/ISC12-1PBFWG08_ichinokawa.pdf

こちらの図は、大型の親の産卵場である太平洋の延縄の漁獲量です。針1000辺り何本のクロマグロが漁獲されたかが図示されています。×印は漁をしたけれど、クロマグロが捕れなかった場所です。日本海産卵場の操業が2004年に本格化してから、クロマグロの魚群が急激に減っていることがはっきりと読み取れます。

キャプチャ

これを数値化したのが、下のグラフです。2005年から親魚が激減しています。

キャプチャ

 

30kg(3歳)以下のマグロはそれなりに捕れている。でも、80kg(5歳)以上のマグロは激減している。ということは、「3歳から5歳の間に、誰かが獲っちゃった」と考えるのが妥当です。このサイズのクロマグロを大量漁獲しているのが日本海産卵場の旋網なのです。

水産庁の国会答弁を徹底検証(その1)

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しばらくブログをお休みしている間にいろんなことがありました。

発端は、Wedgeの4月号にクロマグロに関する記事を執筆したことです。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4896

これまでブログに書いてきたことをまとめたような記事で、「絶滅危惧種の太平洋クロマグロには、ちゃんと卵を産ませましょう」というごく当たり前の内容です。

5月21日の参議院農水委員会で、鳥取県の舞立議員が、このWedgeの記事に関する質問を行い、水産庁長官は次のように答弁しています。

○政府参考人(本川一善君) この記事につきましては、大中型巻き網漁業による成魚、産卵をする親の魚の漁獲の一部を殊更にクローズアップをして、これが太平洋クロマグロ資源全体を危機に陥れるとの主張がなされているわけでございますけれども、私どもとしては、率直に言って公平性や科学的根拠を欠くものではないかというふうに考えているところでございます。

「科学的根拠を欠く」とまでいわれてしまったので、しっかりと反論をしていきたいと思います。国会答弁の内容はこちらで見ることができます。水産庁の主張を整理するとこんな感じです。

  1. 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である
  2. クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因
  3. クロマグロ幼魚の新規加入は成魚の資源量とは無関係に変動する
  4. 成魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている

これら4つの論点について、個別に反論します。

検証1 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である

国会答弁での発言です。

○舞立昇治君
先ほどの縦二枚の二ページを御覧いただければと思いますけれども、二ページの下の表でございます。太平洋クロマグロの産卵量でございますけれども、日本海で三割弱、南西諸島で七割強と。仮に日本海側で、今自主規制、上限二千トンにしておりますけれども、この産卵量に与える影響は全体の六%程度ということが表で書かれております。こういったようなことで、親魚と稚魚の相関関係は確認されないほか、生存率、先ほども言われましたように海洋環境により大きく影響されるということで、ほとんど関係ないということが分かるかと思います。

舞立議員が根拠として示した円グラフは、水産庁の資料と同じものだそうです。

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http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/3data3-1.pdf

水産庁は、 3-5歳魚は日本海で卵を産み、6歳以上は沖縄で産むと仮定て、過去10年の太平洋での産卵量と日本海の産卵量を求めたそうです。その結果、日本海の産卵は全体の3割に過ぎず、自主規制の二千㌧漁獲をしても産卵量全体の6%に過ぎないので、大した影響は無いということです。

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)のレポートの数値から、年齢別の産卵親魚重量を計算すると次のようになります。

ssbatage

このなかで、3-5歳が日本海、6歳以上が太平洋で産卵すると考えて、2003-2012年の産卵量をまとめてみると、水産庁が出したのと同じような円グラフが書けました。

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水産庁と舞立議員は、その年の産卵量だけをみて、漁獲の影響を議論しているのですが、この考え方は、そもそも間違えています。漁獲によって失われるのは、その年の産卵だけでなく、その先の生涯の産卵機会が全て失われます。特に成熟したての若い親を産卵する場合には、その年の産卵よりむしろ将来の産卵が失われる効果が大きいのです。

境港の水揚げの大半を占める3歳魚を1尾漁獲したときの長期的な影響を考えてみましょう。まず、3歳で産むはずだった26.66kgの親魚が失われます。さらに、約78%が生き残って来年も卵を産むはずでした。翌年の4歳の産卵親魚35.6kgが失われます。失われた未来の産卵を足していくと、448kgの産卵親魚が失われたことになります。

キャプチャ

 

日本海産卵場の漁獲の主体である3歳の親魚を1トン漁獲すると、その先に卵を産むはずだった親魚が17トン失われる計算になります。水産庁は、17年ローンの初年度の返済金額のみを計算して、「「返済金額が少ない」と主張しているのです。

では、産卵場巻き網の長期的な影響を評価してみましょう。境港では、漁獲の体調組成データをとっています。このデータを使って、これらの魚が漁獲されずに生き残ったとしたら、産卵親魚量がどのぐらい増えていたかを試算したのが下の図です。

キャプチャ

 

現実の親魚資源量の推移を青線で示しました。2003年から2012年の間に半減しています。日本海産卵場の巻き網操業が無かったシナリオ(緑線)では、親魚の減少幅は半分以下に緩和され、親魚量は、現在の回復目標水準である歴史的中間値と近い水準になりました。太平洋クロマグロのモデルは、自然死亡が高すぎることが複数の研究者から指摘されています。近縁種である大西洋クロマグロやミナミマグロで使われている自然死亡率を採用すると、漁業を免れた個体が産める卵はさらに増えて、紫線のようになります。

この試算では、獲らなかった魚が生き残るところまでしか考慮していないのですが、生き残った魚が卵を産み、それが未来の加入増加につながっていく効果も期待できます。親魚量はこの試算以上に増えていたはずです。以上の試算から、2004年から巻き網が産卵場での操業を始めたために、クロマグロの親魚量が激減し、未成魚の漁獲半減といった規制が必要になったと言えます。

漁業が再生産に与える長期的な影響を考慮するには、俺がやったように、その漁業が無かった場合の親魚量を試算するのが一般的です。そういった試算をすれば、産卵場の操業が大きな影響を与えていることは明白です。産卵場の漁獲が問題視されてから10年近くの歳月が流れていますが、水産庁は未だに当然やるべき試算をせず、適当な円グラフをかいて「影響はほとんど無い」と言い張っているのです。

次回は、「クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因」という二番目の論点の妥当性を検証します。

 

Appendix A

3歳魚の1個体の漁獲によって失われる産卵親魚重量の試算

年齢 体重(a) 生残率(b) 失われた産卵親魚重量(a×b)
3 26.66152 1 26.66152
4 45.66521 0.778801 35.5641
5 67.7534 0.606531 41.09451
6 91.52172 0.472367 43.2318
7 115.7943 0.367879 42.59834
8 139.6713 0.286505 40.01649
9 162.5152 0.22313 36.26203
10 183.9116 0.173774 31.95904
11 203.6231 0.135335 27.55739
12 221.5456 0.105399 23.35073
13 237.6705 0.082085 19.50918
14 252.0544 0.063928 16.1133
15 264.7957 0.049787 13.1834
16 276.0169 0.038774 10.70234
17 285.8523 0.030197 8.631992
18 294.4386 0.023518 6.924532
19 301.9095 0.018316 5.529666
20 308.3918 0.014264 4.398972
21 314.0029 0.011109 3.488258
22 318.8505 0.008652 2.758597

持続的な漁業・魚食運動は、どうやら次の段階に突入したっぽい

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昨日は、リディラバの安部君の話を聞きに行った。本気で世の中を変えようという人間は面白いし、とても刺激になった。

彼の話の中で、特に印象に残ったのは、「パフォーマンスの高い組織のコミュニケーションは、トップダウンからボトムアップに移行する」という話。

1)最初の段階
最初は、誰か一人がリーダーになって、組織を引っ張る必要がある。明確なリーダーがいて、フォロアーがリーダーをサポートする仕組みで、いわゆるワンマン企業のようなイメージ。こういう組織は規模が小さいうちは高いパフォーマンスを示すのだけど、組織の規模が大きくなると、リーダーのマンパワーがボトルネックになりがちだ。また、何かの事情でリーダーが不在になると、組織構造が維持できない。

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2)ネクストステップ

そこから成長できる組織は、フォロアー同士のネットワークが出来ていく。これによって、リーダーが不在でもある程度は組織の構造が維持できるようになる。

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3)最終ステップ

最終的には、いくつもの核ができて、リーダーの存在が見えなくなる。意志決定の負荷が分散していくというわけだ。

キャプチャ

 

こういう構造になると、いくらでも規模を拡張できる。こんな感じで。

キャプチャ

 

この話は、全然本筋じゃなかったんだけど、俺的には凄く腑に落ちたんだよね。自分がやってきたことが、順調に広がって、次のステップに移ったんだな、と。

10年ぐらい前に、持続的な漁業・魚食を目指す運動を始めたときは、文字通りたった一人。俺自身が動かないと何も起こらない状況からのスタートだった。その後も、俺を含む少人数のグループの活動であって、「俺の知らないところで、何かが起こる」というのは、あり得なかった。最近は、仲間が増えて、その仲間がそれぞれの得意分野で、独自な活動を始めている。その結果、同時多発的にいろいろなことが起こるようになった。俺自身がワクワクしながら、次に何が起こるのかを見守っている感じ。

大平洋クロマグロについて、みんなに知っておいてほしいこと

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2014年11月17日に、国際自然保護連合がレッドリストを改訂して、新たに太平洋クロマグロ、アメリカウナギ、カラスフグ を絶滅危惧種として指定しました。レッドリストは関係諸国に保全の必要性を示すのが目的であり、掲載されたからといって、ただちに強制的な規制がかかるわけではありません。関係諸国が連携して、保全措置を執ることが強くもとめられています。IUCNのプレスリリースでは、アジアの食品需要がこれらの魚種の減少を引き起こしたと指摘しています。これらの魚種の大半を消費する日本には、世界から厳しい目が向けられています。

1950年代には、4万トンあったクロマグロの漁獲量は、現在は1万5千トンまで落ち込んでいます。国別に見ると、最も漁獲が多いのが日本で、その次にメキシコです。台湾、韓国、アメリカ合衆国も漁獲をしているのですが、その量は比較的少ないです。日本が「韓国のせいでクロマグロが減った」と主張しても、他国の理解は得られないでしょう。クロマグロは、太平洋を横断して長距離回遊することが知られていますが、その主な生息域と産卵場は日本周辺海域です。クロマグロの回復のカギを握っているのは、われわれ日本人なのです。

キャプチャ
クロマグロの国別漁獲量(トン) (http://kokushi.job.affrc.go.jp/H25/H25_04.pdfより作図)

クロマグロ漁業には、未成魚への高い漁獲圧、産卵場での集中漁獲、規制の欠如という、解決すべき3つの問題が存在します(参考記事)。このまま何もしなければ、ワシントン条約でクロマグロの国際取引が規制をされるのは時間の問題です。尻に火がついた関係漁業国は、大慌てで、クロマグロの漁獲規制の準備をしています。今月サモアで開催された国際会議(WCPFC)で、日本を含む各国は、2002-2004年を基準に未成魚の漁獲量を半減させることで合意しました。
これまで漁獲規制が無かった太平洋クロマグロに対して、各国が漁獲量の上限を設定したという点では、意義がある会合でした。では、この規制でクロマグロは回復するのでしょうか。

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クロマグロ未成魚の漁獲量(2008-2012は水産庁調べ、2013,2014は筆者が市場統計から推定)

この図は日本のクロマグロ未成魚の漁獲量を示したものです。水産庁は2012年までのデータしか公開していないので、2013年と2014年は、私が産地の水揚げ情報から推定したものです。赤い点線が今回合意した漁獲上限の4007トンを示しています。ここ数年は漁獲量がこの上限に達していません。未成魚の漁獲量半減というと、とても厳しい措置のように聞こえますが、実際はそうではありません。今よりもずっと多くの未成魚が獲れていた10年以上前の漁獲量を基準に半減しているので、これまで通り、未成魚を獲り続けることができるのです。商品の元値をつり上げ、大幅に割り引いて販売しているように見せかける「二重価格」と同じ仕組みです。実はウナギでも同じことをやっています(参考記事)。ウナギの場合は、2014年が10年に一度の当たり年で、ここ数年のなかでは漁獲が多かったのです。そこで、2014年の漁獲量を基準に3割削減しました。漁獲が例外的に多かった年を基準にすることで、漁獲量を減らしているように見せかけているのです。

クロマグロは10年間に約半分に減少したので、未成魚は『漁獲量半減』ですが、これまで通り漁獲を続けることが出来ます。成魚については、10年前の漁獲量据え置きですから、獲りきれないような漁獲枠になります0。産卵場での集中漁獲は、今後も継続される見通しです。今回合意した規制では漁獲にブレーキがかからないので、価格への影響は軽微ですが、逆に言うと、資源の回復はあまり期待できません。

日本では、漁獲規制は消費者に不利益をもたらすと考える人が多いですが、実はそうではありません。消費の中心である1歳のマグロを、5年後に大きくしてから産卵期以外の時期に漁獲するとどうなるでしょうか。自然死亡で個体数は四分の一に減ります。しかし、体の大きさが3.4キロから91.5キロへと、約30倍に増えるので、漁獲量は7倍に増えます。また、一キロあたりの単価も、500円から、5000円に、10倍に増えるので、生産金額は70倍になります。さらに、6歳で漁獲をすれば、すでに何回も卵を産んでいるので、資源の回復にもつながります。適切な漁獲規制を行うことで、漁業が儲かるようになり、消費者も今よりも多くのマグロを持続的に食べられるのです。

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大西洋には、大西洋クロマグロという別の種のマグロが生息しています。大西洋クロマグロも乱獲で激減したことから、2010年にワシントン条約での貿易規制が検討されました。それを転機として、EU主導で厳しい漁獲規制を導入した結果、資源が順調に回復しています。EUは今回の大平洋クロマグロの規制について、「会議には進歩が見られず、クロマグロ資源再建については、実現への熱意が不足していた」と非難しています。大西洋クロマグロの場合、EUは直近年から漁獲量を4割削減しました。また、30kg未満のクロマグロは漁獲禁止ですから、太平洋の「なんちゃって規制」とは雲泥の差です。水産庁は、「漁業者の生活を守るために急激な規制は避けるべきだ」ともっともらしいことを言いますが、厳しい漁獲規制で資源を回復させたEUと、見かけだけの規制で資源を減少させ続ける日本のどちらが、長い目で漁業者の生活を守れるかは自明です。

日本人は、海外から水産資源の持続性について指摘されると、「われわれの食文化を否定するな」と感情的に反発しがちです。しかし、食文化だからという理由で、非持続的な消費を続けていたら、遅かれ早かれ資源が枯渇して、文化自体が成り立たたなくなってしまいます。子の代、孫の代へとマグロ食文化を伝えていくためにも、絶滅危惧種指定の意味を真摯に受け止めて、漁業者も消費者も一時的な我慢をすることが求められています。

クロマグロの国際合意の総括

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10月末に、米国で「全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)第87回会合(再開会合)」が開催されて、2015年及び2016年の商業漁業の年間漁獲上限について合意が得られました。

日本語プレスリリース
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/141030.html
英文の採択文書
http://www.iattc.org/Meetings/Meetings2014/OCT/PDFs/Proposals/IATTC-87-PROP-I-3A-MEX-JPN-USA-Conservation-of-bluefin-FINAL.pdf

東太平洋全体で、3300㌧。メキシコ以外の国(ようするに米国)の上限は300㌧になりました。また、未成魚の漁獲を漁獲量全体の50%に抑えるという努力目標が設定されました。

漁獲枠をグラフで表したのが次の図です。最近3年の平均からほぼ半減という、かなり厳しい内容です。親マグロが激減している現状を考えると、未成魚を50%に抑える努力目標は、「努力したけどダメだった」となる可能性が高いです。

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 太平洋クロマグロの全体の合意内容

西太平洋の漁獲枠は9月のWCPFC北小委員会で合意していたいので、今回のIATTCの合意によって、太平洋全域で、クロマグロの2015~2016年の漁獲上限が決定したことになります。

02-04 10-12 合意事項 最近年との比
日本 12897 9452 8890 0.94
韓国 655 1096 328 0.30
台湾 1709 313 1709 5.47
メキシコ 4619 5715 3000 0.52
米国 404 467 300 0.64
総計 20285 17043 14227 0.83

最近年から比較すると,国によって削減比がまちまちであることがわかります。削減比が小さい勝ち組は日本と台湾。日本が政治力を使って、自国に都合が良い提案を押し通した結果、漁夫の利を得たのが台湾です。台湾は10年前にマグロを多く捕っていたのですが、現在は漁獲が激減しています。規制が無いときよりも漁獲が増えるとは思えないので、枠があったとしても300㌧程度に収まると思います。

削減比が大きい負け組は韓国とメキシコ。日本の市場を使った圧力に抵抗しきれなかった模様です。そして、米国に関しては事情がちょっと違って、クロマグロに関しては、漁業よりも遊漁が重要な産業となっています。遊漁に関しても記述はあるのですが、具体的な内容に乏しいために、現状と大きく変わらないと思われます。

これで、クロマグロは回復するの?

「自国の漁獲を減らさずに、他国の漁獲を減らす」という交渉結果は、日本の狙い通りといえるでしょう。シェアが多い日本の漁獲量が温存されたために、資源全体の漁獲圧としてはあまり削減されていないことに注意が必要です。2010-2012の平均と比べると、17%の削減に過ぎません。2002-2004年と比べると、漁獲量は3割削減ですが、資源量は当時の半分に減っています。現在合意した漁獲枠では、クロマグロ資源の回復には結びつかないでしょう。

今回の交渉を見ていて疑問に思うのは、「日本は本当にクロマグロ資源を回復させるつもりがあるのか?」ということ。長期的な回復目標を設定せずに、数字を巡る駆け引きをした結果、声が大きい日本に都合がよいシナリオに落ち着きました。「日本の提案はクロマグロに関する自国の権益確保が狙いだ」とメキシコ代表団が指摘しましたが、その通りだと思います。政治力を使って、自国のシェアを増やしたところで、肝心の資源が崩壊してしまったら、元も子もありません。産卵場での巻き網操業の規制は無きに等しい状態が、今後も維持されるのが気がかりです。太平洋クロマグロがこのまま減少して行った場合に、最大の漁業国でありながら、自国の漁獲量を削減しなかった日本の責任が問われることになります。

数字をおっていけば、それほど意味がある漁獲量削減にならないのは明らかなのですが、「日本が率先して厳しい措置をとっているのに、資源保護意識の低い韓国やメキシコが駄々をこねている」といった論調のメディア報道が目立ちました。レクされた内容をそのまま拡散するのでは無く、交渉内容や結果を検証した上で、記事を書いて欲しいものです。

クロマグロの国際交渉を分析:日本のジャイアン外交が韓国とメキシコを力でねじ伏せた

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日本国内では、「日本が率先して厳しい漁獲削減を提案したのに、資源保護に後ろ向きな韓国とメキシコが反対をしている」という内容の報道が目立つのですが、実態は全然違います。日本が自国のみにきわめて都合が良い提案をごり押して、韓国とメキシコが泣き寝入りをさせられたのです。また、日本の提案の方が、メキシコの提案よりも厳しい内容とはいえまえせん。そのあたりのことを、実際に数字で検証してみましょう。

日本の提案
2002-2004年の平均の漁獲から、未成魚は50%削減、成魚は据え置き

メキシコの提案
2010-2012年の平均の漁獲から、成魚も未成魚も一律25%削減

各国のクロマグロの漁獲実績はここにあるので、それをもとにそれぞれ提案の数値を計算してみると下の表のようになる。

未成魚 成魚 合計
02-04実績 13221.3 7911.3 21132.7
日本提案 6610.7 7911.3 14522.0
10-12実績 11849.7 5217.7 17067.3
メキシコ提案 8887.3 3913.3 12800.5

日本の提案が14522㌧に対して、メキシコの提案だと12800㌧になる。

日本の半減提案よりも、メキシコの25%削減提案の方が厳しい内容だったのだ

なんで、こんなおかしなことになるかというと、基準年が違うのと、メキシコの提案は成魚を含むのがポイントです。

次に国別の漁獲量の削減幅を見てみよう。漁獲量が多いのは日本。次にメキシコと韓国。米国と台湾も漁獲をしているが量は微々たるものなので、主要な三国について見ていこう。

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ここ十年で、日本は漁獲を減らし、韓国とメキシコが漁獲量を増やしている。昔を基準に持ってくることは、日本にとって好都合なのだ。最近の漁獲量(赤)と日本提案(緑)を比較したときに、日本はほぼ横ばいだが、韓国とメキシコは激減している。日本提案は、ここ10年で、未成魚の漁獲量が増えた国に厳しい内容なのだ。

2010-2012年の平均漁獲量を1とした場合の、日本提案とメキシコ提案の漁獲量を示したのが次の図である。

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日本提案だと日本の漁獲量削減はたったの6%。それに対して、韓国は7割削減、メキシコは5割削減という不平等な内容になっている。つまり、日本提案は「俺たちは今までどおり獲るけど、メキシコと韓国に漁獲を削減させて、クロマグロを回復させよう」という内容だったわけ。韓国とメキシコがこれに反発をするのは、当然だろう。メキシコは「みんなで一律に減らそう」と主張したわけで、日本のように自国のみに都合が良い提案をしたわけではありません。自国の漁獲量を6%しか減らさない日本が、25%の削減を提案したメキシコを「資源回復に後ろ向き」と非難するのはおかしいと思います。IATTCでは4割削減で合意したので、最終的な漁獲削減は、日本6%、韓国70%、メキシコ40%となりました。

普通に考えれば、日本よりもメキシコの提案の方が妥当です。「産卵親魚が漁獲がない時代の4%まで減ってしまって大変だ」と騒いでいるのだから、未成魚のみならず成魚も保護するのが当然。また、漁獲量の削減を議論するにも、10年以上前の水準ではなくて、最近年を基準にするのがごく普通の考え方だ。なぜ、メキシコと韓国が日本にだけ都合がよい提案を飲んだかというと、水産庁が商社に圧力をかけて、韓国とメキシコのマグロを輸入させないと脅したからである。民間の環境NGOが圧力をかけるのはまだしも、政府機関が法令によらずに貿易規制をするのはWTOなどに違反すると思うのですが、どうなんでしょう?

日本人は、「日本は交渉が下手なお人好しで、いつも損をしている被害者」という意識があるのですが、とてもそうは見えません。日本のやっていることは、ジャイアンそのものです。

さて、自国のジャイアン外交を日本のメディアはどのように伝えたかというと…

日本は資源保護の観点からより大きな削減を主張していたが、メキシコの反対で後退した。
すでに中西部の太平洋海域では今秋の「中西部太平洋まぐろ類委員会」の小委員会で日本提案に基づいて漁獲半減で合意している。同じ太平洋で基準が異なれば資源管理の実効性がなくなる可能性がある
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS30H2F_Q4A031C1EE8000/

日本は「重さ三十キロ未満の未成魚の漁獲量を一五年以降に50%減らす」などとメキシコ案より厳しい内容を提案しているが、メキシコは「日本の主なクロマグロ漁場である中西部海域の漁獲量削減が不十分」と主張。「日本の提案はクロマグロに関する自国の権益確保が狙いだ」と反発している。
日本は七月に開かれたIATTC会合でも「未成魚50%削減」を提案したが、メキシコなどの反対で合意に至らなかった
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014102702000127.html
http://www.at-s.com/news/detail/1174136000.html

絶滅まっしぐらの状況を変えるには、本委員会の争点である、2015年以降の未成魚(30kg未満)の漁獲量半減(2002-2004年比)がとても重要です。しかし、メキシコが反対の意を示しているため、採択されないかもしれないのです。
もし、メキシコが合意しなかった場合、せっかく西側で未成魚漁獲量を半分に減らしても、東側で獲り放題だったら意味がありません
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/blog/51113/

「せっかく日本が素晴らしい提案をしたのに、資源保護に後ろ向きなメキシコが反対して、話がまとまらない」という論調です。メキシコが反対したのは、日本提案があまりにも不平等だったからだと思うのですが、そのことをちゃんと伝えたのは共同通信の井田さんぐらいでした。日本政府が、きわめて不平等な提案を突きつけていることには触れずに、反対する国を悪者扱いするのはいかがなものでしょうか。メディアのみならず、グリンピースまで水産庁の主張を右から左に伝えて、メキシコを非難。グリンピースブログの「合意が得られない場合には、輸入禁止などの強制的な措置をとらざるを得ません」って、まるで水産庁の中の人の発言ですね。

ジャイアン外交が悪いとは言いませんが、そのことを正しく国民に伝えるべきだと思います。

日本にとっては大勝利とも言える交渉結果なのですが、問題はあるのでしょうか。相手が納得していない状態で力で押し切った場合に、実効性の面で問題が生じるというのは往々にして起こりうることです。たとえば、捕鯨モラトリアムの後に日本がとった行動などがまさにその典型です。合意した内容が守られず、クロマグロ資源の回復に失敗した場合には、誰も得をしないことになります。また、日本の産卵場での漁獲規制がないのも問題です。いくら未成魚を守っても、産卵場に集まったマグロを一網打尽にしていたら、資源は回復しません。韓国、メキシコの漁獲に上限を設定するという意味では成功ですが、クロマグロ資源が回復するかどうかは、現段階ではわかりません。

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