- 2016-08-18 (木) 10:31
- 世界の漁業
日本国内だけを見ていると、漁業には未来はないように見えますが、海外をみると別の光景が見えてきます。世界的に見ると、漁業は成長産業であり、日本のように漁業が衰退している国の方が例外です。ノルウェー、米国など、先進国でも漁業が成長している国が多数あります。世界の漁業がどうなっているかを概観してみましょう。
世界の漁業の現状についてまとめたものとしては、FAO(国際連合食糧農業機関)が二年に一回発行しているSOFIA(世界漁業白書)があります。
FAOの統計によると、世界の漁業生産は下図のように右肩上がりで増えています。1990年以降、天然魚(オレンジは)ほぼ横ばいで推移しているのですが、養殖魚(緑)の堅調な増加によって、全体として増えているのです。
食用の水産物の生産量は2009年から2014年の間に、1億2380万トンから、1億4630万トンへと約二割増えました。水産物生産の増加割合は、人口の増加を上回っているので、一人あたりの水産物供給量は、この期間に年間18.1kgから年間20.1kgへと増加しています。では、水産物が余っているかというとそうではありません。先進国から、途上国まで、水産物の需要が増えており、世界の貿易市場での水産物の需給関係は極めてタイトで、価格は上昇しています。
下の図が水産物の貿易価格(米ドル/トン)を示したものです。2015年までが実測データで、それ以降は予測になります。食用水産物の単価(緑の点線)は、2001年に底値になった後上昇して、その後の13年の間に、約50%上昇しています。生産量が増えて、しかも価格が1.5倍に増加しているのだから、漁業全体の経済規模は拡大しているのは明らかです。
2016年のSOFIAでは、2025年までの漁業生産の将来予測をしています。それによると、世界全体では養殖を中心に17.4%の漁業生産の増加となるそうです。先進国は伸びしろが小さく、1.0%の増加にとどまっています。ほとんどの国で生産量(重量)に大きな変化は無いのですが、例外は日本とノルウェーです。養殖の成長によってノルウェーが二桁の増加を達成する一方で、日本のみが-13.7%と大幅な減少となっています。開発余剰のある途上国は、先進国よりも漁業生産の伸びしろが大きいために、20.8%の増加が見込まれています。ブラジル、中国、インドなどが大幅に漁獲量を増やしています。日本で現在進行している漁業の衰退は、世界的に見て極めてユニークな現象なのです。
日本一人負けの予測をしているのはFAOだけではありません。2013年に世界銀行が、「2030年までの漁業と養殖業の見通し」というレポートを公開しました。こちらの2030年までの世界の天然魚・養殖魚の生産・消費・貿易を予測でも同じような結果が得られています。詳しくはこちら→http://katukawa.com/?p=5396
Fish to 2030 : prospects for fisheries and aquacultureより引用
当ブログでは、「世界では漁業は成長産業。日本の一人負け」と言い続けてきました。客観的に見るとそう言わざるを得ないのです。では「日本の漁業に未来は無いか」というと、そうではありません。日本の漁業が衰退しているのは、漁業のやり方が悪いのです。もちろん、今の延長線上には明るい未来は無いのですが、漁業のやり方を変えることで未来を変えていくことは可能です。最も成功している漁業国の一つであるノルウェーの政策を参考に、日本漁業の問題点を一つずつ潰していけば、日本の漁業が成長する余地はまだまだあります。次世代を産む親魚をちゃんと残した上で、量では無く価値を伸ばす漁業に転換すれば、日本の漁業は生産的な産業に生まれ変わるでしょう。
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