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研究 Archive

姉さん、事件です!

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クリームパンの中にクリームが入ってませんでした!

ルボアの中の人が入れ忘れたっぽいな・・・orz

残された問題 ~過剰な漁獲能力~

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IQ方式の限界
IQ方式には、既に過剰な漁獲能力を削減する機能はない。
資源に対して、過剰な漁獲能力が存在する状況でIQを導入しても、
資源の生産力と漁業者の数のアンバランスは解消されない。
漁業者と比べて資源水準が低い現状では、たとえ単価を向上させたとしても、
漁業経営は厳しいものにならざるを得ない。
過剰な漁獲能力(図の灰色の部分)を維持するためのコストもかかる。
もちろん、無駄な漁獲能力を肥大させる無管理やダービー方式は論外であるが、
過剰な漁獲能力を削減できないIQ方式では、まだ、不十分なのだ。

税金による漁獲能力削減(漁船買い上げプログラム)
漁獲能力を削減するには、税金で船を買い上げて、減船をするのが日本では一般的である。
漁船の買い上げには莫大な費用がかかる上に、効果は限定的である。
漁船の買い上げ制度が固定化すれば、いざとなれば税金で買い取ってもらえばよいので、
漁業者はどんどん設備投資をするようになる。

漁船買い上げ制度は、費用は掛かるばかりで、管理効果は疑問である。
たとえば、1998-99年に240億をかけて130隻のまぐろ漁船の減船が実施された。
1隻当たり2億円かかったが、漁獲圧を削減する効果は限定的であった。
結局、過剰な漁獲能力をもてあまし、ミナミマグロの不正漁獲を引き起こしてしまった。
中途半端な減船では、ほとんど漁獲圧の削減にならないぐらい、現在の漁獲能力は高いのである。

漁獲能力削減に秘策あり!
実は、税金を使わずに、過剰な漁獲能力を削減する方法がある。
個別に割り振った漁獲枠を譲渡可能にすることだ。
要するに、ITQの導入である。
ITQを導入した漁業では、適正水準まで船の数が自動的に減っていくのである。

そして、ITQへ・・・

ダービー(オリンピック)方式

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ダービー(オリンピック)方式とは?

よーいドンで漁業を開始して、漁獲量の合計が漁獲枠に達したら終漁とするような管理方式を
ダービー方式(オリンピック方式)と読んでいる。

この管理方式は、南氷洋の捕鯨に用いられたが、
捕鯨国の間の熾烈な競争を引き起こしてしたことからオリンピック方式と呼ばれている。
国内資源の管理でも同様の競争を引き起こすので、一般的にはダービー方式と呼ばれている。

ダービー方式は最も簡便な出口管理である。
毎日の水揚げ量を記録して、漁獲枠が一杯になったら漁業停止すればよい。
IQやITQで必ず紛糾する漁獲枠の配分が必要ないのは、管理する側には大きな利点だろう。
ただ、漁獲枠が配分されていないが故に、漁獲枠を巡る漁業者間の競争が激しくなる。
過剰競争を煽り、漁業の生産性を下げやすい、極めて危険な方法である。

ダービー方式の効果を検証するために、次のような図を導入する。
image07090401.png

縦軸が1日の漁獲量で上限をYとする。
横軸が漁期で、潜在的な最長の漁期をXとする。
資源管理をしない場合は、漁獲能力がフルに発揮されて、漁獲量はXYとなる。

資源管理によって、漁獲枠に上限が設定されると、
漁獲能力をフル稼働させるわけにはいかないくなり、どこかで休漁をする必要が生じる。

ダービー方式は、漁獲枠が一杯になったら終漁で、それまでは早い者勝ちの自由競争。
ダービー方式で利益を上げるためには、
解禁になると同時にスタートダッシュで、獲って、獲って、獲りまくることになる。
結果として、全ての漁獲能力が漁期前半に集中し、すぐに終漁となる。

ダービー方式の管理のもとでは、限られた魚を奪い合う競争状態となる。
たとえ、全体としての漁獲能力が生物の生産力を凌駕していたとしても、
他の漁業者との早獲り競争に勝つために、漁獲能力を拡充し続けることになる。
漁獲能力の拡充競争に乗り遅れた漁業者から、淘汰されていく。

全ての漁業者が競って漁獲能力を拡充すれば、漁期はますます短くなる。
ダービー方式の管理を徹底すると、以前は3ヶ月だった漁期が3日になるとかいう例もある。
カナダで聞いた話は、解禁から終漁まで30分という漁業もあるらしい。
こうなると、完全に瞬発力で勝負と言うことになる。
良いポイントを巡って、血みどろの争いが繰り広げられ、毎年、大勢の負傷者がでる。
「今年は死人が出なくて良かった」というような状態だ。

過剰な漁獲能力がある漁業が資源管理に失敗するのは時間の問題である。
漁業者は設備投資費用を回収しようと、漁獲枠を広げるように強い政治的圧力をかける。
資源評価に失敗して、甘い漁獲枠が設定されたら、資源に致命的なダメージを与えてしまう。

資源評価の精度がじゅうぶんに高く、生物の持続性を守ったとしても、
無駄な早捕り競争によって、産業の生産性はどこまでも低下していく。
儲けが出ればそれだけ設備投資に回すことになる。
陸上の処理能力にも限界があるし、漁獲が一時期に集中すれば魚価は下がってしまう。
こうして、不良債権のような無駄な漁獲能力が増える代償として、漁業の利益は失われる。 

ダービー方式の未来予想図

image07090402.png


②スタートダッシュで獲りまくるので、漁獲は前半に集中する。
③個々の漁業者が漁獲能力を拡充するため、漁期はますます短くなる。
魚価は低迷するし、設備投資は必要になるしで、漁業利益はどこまでも減少する。

ダービー方式のまとめ

ダービー方式は、漁獲枠の配分などが必要ない→管理のコストが少ない
ダービー方式は、漁業者間の競争を激化させる
  →過剰な漁獲能力が生じてしまう
  →漁業の利益が失われる
  →乱獲の危険性が増大する
  →過剰漁獲能力の抑制・削減に莫大なコストがかかる

ダービー方式による管理がまともに機能しないことは、世界の常識。
今でもダービー方式を採用している国が存在すること自体が驚きである。
未だにダービー方式を採用している国は、
よっぽどの勉強不足か、そもそも管理をする気がないかのどちらかであろう。

余はいかにしてITQ推進論者になりしか

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日本の現状→無管理・乱獲放置状態

今の日本では、資源管理は行われていないに等しい状態である。
資源回復計画は、補助金をばらまくだけで、資源を保護する効果は期待できない。
TAC制度も生物生産を大きく上回る漁獲枠が慢性的に設定されているので、全く機能していない。
現に、TAC制度で管理されている資源も総じて減少傾向にある。
TAC制度が始まって10年が経過したが、TAC制度の対象はたったの7魚種であり、
TAC対象魚種が増える気配はない。

これらを総合すると、日本は国として資源管理をしていないと言っても良いだろう。
TAC制度によって、資源管理の枠組みは導入したが、
運用の段階で乱獲を許容して、管理を放棄しているのである。

今後も漁業を続けるつもりならば、生物の生産力と釣り合った水準まで漁獲量を下げる必要がある。
しかし、現在の制度で厳しい漁獲枠を設定すれば、問題が解決するわけではない。
現在の日本のTAC制度は、ダービー方式(オリンピック方式)と呼ばれる運用方法を採用している。
今の管理制度で漁獲枠を絞れば、少ない魚を巡る競争が激化して、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されるだろう。
ダービー方式で乱獲を回避しようと言うのは、麻酔なしで外科手術をするようなものであり、
乱獲回避に成功しても、漁業が産業としてはショック死する可能性もある。
(まあ、資源さえ無事なら、産業は幾らでも復活するので、管理をしないよりはマシだろう)

日本は資源管理を放棄しているから、ダービー方式の危険性は表面化していないが、
まじめに資源管理をしようと思ったら、漁獲枠の配分方法が必ず問題になる。
漁獲枠を適正な水準まで下げたときに何が起こるかまで考えると、
漁獲枠の配分方法を変更が必要なことは明白なのだ。
乱獲を抑制するにしても、痛みの少ない管理方法は存在する。
現状で、漁獲枠を制限したときに、最も痛みが少ない配分方法がITQなのだ。
そこで、高木委員提言など様々な場所で、ITQの導入を求める声が挙がりつつある。

今後、資源管理をどのように進めていくかを議論する基礎的な情報として、
それぞれの漁獲枠配分方式が漁業者にどのような行動をとらせて、
その結果、漁業はどうなるかを分析しよう。

「ノルウェーはITQじゃない」という反論をゲットしました

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http://www.jfa.maff.go.jp/syogaikoku.pdf

水産庁は、高木委員提言に対する反論のための資料をまとめているようです。
「高木委員が褒めた海外の資源管理だって、実は上手くいっていないじゃないか」と言いたいようだ。
完璧な資源管理など存在しないわけで、どこの国でも多かれ少なかれ問題を抱えているのは事実だ。
他国の資源管理のあら探しをして、日本では資源管理が出来ない理由を並べて、
それで終わりにはしないで欲しいですね。
高木委員提言への反論としては、他国の漁業制度の長所・短所を整理した上で、
他国の漁業制度よりも日本の方が優れていると示す必要がある。
「日本には日本独自の資源管理があり、それは欧米の管理よりも機能している」という反論を期待してます。

このレポートで特に気になる記述は、これ。

ノルウェーではITQが実施されている、といわれることがあるが、ノルウェー政府に確認したところ、「ノルウェーでは、クォーターは船舶に付随しており、クォーターだけ独立して委譲することは出来ないので、これはITQ制度ではない」との回答を得ている。

俺もみなと新聞の連載で、「ノルウェーはITQによって努力量の削減に成功した」と書いたので、
この点についてはきちんと説明をする責任があるだろう。

漁獲枠を決めて、出口規制をする場合には、次の3つの方法がある

ダービー(オリンピック)方式
全体の漁獲枠のみ決めて、その枠に達するまで早い者勝ちで漁獲

IQ方式
個々の漁業者に予め漁獲枠を割り振ることで、無駄な早捕り競争を排除する

ITQ方式
個々の漁業者が与えられた枠を他の漁業者に譲渡・販売することで、経済的最適化を図る

IQとITQの違いは、個々の経営体に割り振られた漁獲枠が譲渡可能かどうかなんだけど、
ニュージーランドやアイスランドは、自由に漁獲枠を売買できるITQ制度を実施している。
ノルウェーでも、漁獲枠の譲渡は可能だが、ニュージーランドやアイスランドと比べると制限がある。
ノルウェーの漁業制度は、例外的な譲渡を認めるIQ制度とみることもできるし、
譲渡の制限されたITQ制度と見なすこともできる。
ノルウェーの漁業制度がITQかどうかというのは、白に近い灰色か、黒に近い灰色かという議論であろう。

個人的には厳密な意味でノルウェーの漁業政策がITQかIQかという問題には興味はない。
ノルウェーの漁業政策で、譲渡可能性がどのように運用され、どういう効果をもたらしたかの方が重要である。
ノルウェーでは、条件付きにせよ漁獲枠を譲渡可能にしたことで、
税金の支出を抑えながら、過剰努力量の削減に成功した。
譲渡可能性は重要なポイントであり、単なるIQ制度とは雲泥の違いである。
過剰な漁獲努力量の削減が日本漁業の重要な課題であり、
譲渡可能性の部分を参考にしないといけないのだ。

次回以降、
1)ノルウェーでは、どのような譲渡が認められているのか。
2)譲渡可能性によってどのような管理効果を得たのか
3)なぜ、日本はノルウェーの方法を参考にすべきなのか
を検証しよう。

小サバの新聞記事が出ました

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http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/econpolicy/79726/
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007082502043814.html
水産庁は「小さいサバは、日本ではほとんど価値がつかないが、輸出すれば非常に高い価値があり、漁業経営改善に役立つ。狙って漁獲することは資源管理上好ましくないが、自然に小型のものが入った場合、輸出することは何の問題もない」と小サバ輸出に前向き。

水産庁のコメントにつっこみを入れてみよう。
この返答は、第7回太平洋広域漁業調整委員会議事録のロジックと同じなので、
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/kouiki/t/giji/t_07.pdf
俺のつっこみも同じようになる。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/06/post_157.html

輸出すれば非常に高い価値があり、

非常に高い価値って・・・キロ50円が???
あくまで、餌料よりはマシというレベルであって、
日本の生鮮市場と比べれば、お話にならない単価です。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/06/post_141.html

狙って漁獲することは資源管理上好ましくないが、
自然に小型のものが入った場合、輸出することは何の問題もない

下の図は、日本のサバ類の輸出量。
saba31.png
どうみても狙って獲っているだろ、この増え方は。
定置にかかってしまったものを輸出するのは、しょうがないとしても、
巻き網がガンガン獲って、輸出している現状をご存じない?
去年の輸出は18万トンで、これは日本の全漁獲量の1/3に相当する。
本来は獲るべきではない未成魚を18万トンも混獲してしまう漁業を野放しにしたらダメだろう。
税金をつかってやるべきことは、「販路の開発」ではなく、「混獲の抑制」ではないのでしょうか。

このコメントでは無視されているけど、
「日本ではほとんど価値がつかない」サバを獲れば、将来、日本人が食べるべきサバが減るのだ。
小サバを多獲する「特定の漁業者」が目先の利益を得る代償として、漁業全体の利益が損なわれている。
一方で、マサバ回復計画とか言って、その「特定の漁業者」にだけ休漁捕食金をばらまいているわけです。
このあたりの整合性についても説明をしてもらいたいですね。

小サバの輸出は、サバ漁業全体のためにも、消費者のためにもならない。
小サバの輸出は、それによって利益を得る漁業者自身が投資をすべき事業であり、
国が税金をつかって進めるようなものではない。
むしろ、これらの未成魚輸出事業が日本人向けのサバを獲る漁業者の迷惑にならないように、
ルール作り&監視をするのが、役所の本来の仕事だと思う。

7/31の提言に関するコメント(その3)

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(提言3)水産業の構造改革のため、水産予算の大胆かつ弾力的な組替えを断行せよ。

(1)予算執行上の優先順位が低い漁港整備などの公共事業予算から、漁業への新規参入の推進と漁船漁業の構造改革予算に大胆かつ弾力的に振り向ける。

(2)これまでバラバラで整備されてきた魚礁、漁場、漁港岸壁、荷さばき場の上屋などの海域と陸域の一体的整備を断行すべきである。公共、非公共、かつ事業主体としての都道府県と市町村などの垣根をとる。

 上記(1)と(2)については、例えば特区制度も活用する。

(3)環境、資源、水産政策などに関する情報を積極的に国民に提供し、国民の理解と認識を高めるとともに、調理技術や水産物の持続性と品質に関する知識の普及などにより、魚食についての食育を促進させるための予算を重点的に確保する。

(1)
現在の予算配分が合理的だとは思わないが、予算配分の内容について議論をするよりも、
行政の役割を明確化するのが先だと思う。
そもそも「国民は水産行政に何を期待するのか」、「そのために幾ら支払うのか」を明確にすべきである。
逆に言うと、「役所は税金を幾らつかって、何を成し遂げるのか」を明確にする必要がある。
その上で、目標達成率を高めるように、予算の最適化をすべきである。

日本にとっての水産業の位置づけは、終戦直後と今とでは全く異なっている。
にもかかわらず、行政の役割について、ほとんど議論がされていない。
「自給率が低い」と騒いで税金をばらまく世論をつくる。
しかし、乱獲を放置しているから、漁業生産は落ちる一方である。
すると「クジラが食べてるから」とか「消費者の魚離れ」とか、外部要因のせいにする。
こういうことが繰り返して、産業規模に不相応な税金が投入され続けてきた。
あげくの果てが、自給率の低迷である。
現在の自給率を維持するために、いったい幾らの税金が投入されているのか。
また、その税金はどのようにつかわれて、どのような結果が得られたのか。
まずは、現在の税金の費用対効果を見直すことから始めるべきだろう。

俺が思うに、今必要な施策は、生物の生産力の範囲まで漁獲圧を下げることである。
つまり、今の疲弊した生物生産力の範囲で食っていける数まで、なんとかして漁業者を減らさないといけない。
確かに、魚は居ないし漁業者も減る中で、漁港整備などの公共事業ばかりしても漁業のためにならない。
その一方で、「漁業への新規参入の推進」、「漁船漁業の構造改革予算」に税金をつかう必要性がわからない。

参入よりもむしろ適正な規模まで漁業を縮小するのが先である。
非常に利益率が高い、新しいビジネスチャンスがあるなら、自己資金で始めるべきだろう。
漁船の老朽化も問題だろうが、 自力で設備の更新ができないような漁業を税金で存続させる意義がわからない。
採算のとれない漁業経営体を税金で支えても、利益は出ないし、資源を傷つけるだけであろう。

(2)
行政の様々なセクションが意思疎通を図るのも重要だが、その前段階に問題ありだろう。
例えば八戸の漁港にしても、漁業者の声が無視されていることが本質的な問題だろう。
地元のニーズを把握した上で、行政のセクション間の連携を強化してほしい。
「民が何を求めているか」を把握できていないのが

(3)
情報公開はとても大切。でも、情報公開への意識は低い。
どうやら、情報公開をプロモーションを混同しているようである。
イメージアップのために、都合が良い情報のみを公開するのがプロモーション。
情報公開とは、都合が良い情報も、都合が悪い情報も、きちんと開示することである。
外郭団体ではない、ひも付きではない、独立機関が必要だろうね。

(提言4)生産から最終消費までの一貫した協働的・相互補完的な流通構造(トータルサプライチェーン)を構築せよ。


(1)
わが国水産業は生産・加工・流通・販売・消費の各段階での制度や仕組みがほぼ無関係に構築されており、それぞれの部門が、自らの制度と機能にのみ配慮する部分最適をめざし、水産業の全体が、それぞれ相互補完し、かつ相乗効果を高める全体最適になっていない。このままでは、世界の大きな流れに立ち遅れるだけでなく、食料安全保障と魚食をまもる使命を果たし得なくなる。

(2)
また、世界の水産業は、水産物需要の増大への対応の一環として、「美味しい」、「安全・安心」に加え、「環境・資源の持続性との調和」がとれている水産物を価値あるものと位置付けようとしている。流通の改革に当たっては、このような水産物の新たな価値の創出を考慮しなければならない。

(3)
特に、この場合において、
水産物トータルサプライチェーンを透明性・信頼性あるものとして構築するため、客観的・科学的な指標に基づく、関係者共通ルールとしての「水産物基礎情報」を導入し、これに依拠した情報の共有・公開を推進する。

(4)
現在は、水産物に関して統一的で規格化された情報がない。水産物基礎情報(注:「提言の補足説明」を参照)は、天然魚、養殖魚及び輸入魚(調整品や加工原料も含む。)ついて、①持続性、②品質(衛生)の情報を内容とする最小限の水産物を評価するための情報である。

(5)
これらの情報が、生産・加工・流通(消費地市場を経由しない市場外流通などの多様な流通形態を含む)・販売・消費の各段階でIT(情報技術)活用などにより、相互に共有されるとともに、広く国民にも提供される制度・仕組みを構築する。

(6)
今後、国民の資源の持続性、食の安全・安心への関心に応えていくには、多様な流通経路に対応するため、産地における漁業者および輸入業者の生産段階からの情報提供の義務化を法制度の整備(注:「提言の補足説明」を参照)により行う。

(7)
 このことにより、水産物流通の合理化・効率化、消費者の水産物の正しい選択などに貢献する。また、市場の透明性が高まるとともに、一部の水産物(例えば、ノリなど)の取引の透明性向上にも貢献する。さらには、日本だけでなく世界の市場において日本産水産物の評価を担保することにもつながる。

(8)
また、水産政策、経営、流通システム、養殖技術(例えば、種苗、飼料、防疫など)、資源評価などに関して、集中的に研究開発予算を投入する。

(9)
提言の確実な実行のため、水産業改革プロジェクトチームおよび監視委員会(オーバーサイト・コミッティー)を設置せよ。

(1)に関しては、全面的に賛成。
生産・加工・流通・販売・消費の各段階は、無関係というよりは敵対関係にある。
取引先の利益を削ることで、自らの利益を確保しようとする。
消費者が値段以外の判断基準を持たないので、小売りには強い価格圧力がかかる。
流通が魚を買いたたき、加工は安価な輸入品へと切り替える。
その結果、漁業の採算が悪化し、帳尻あわせのために獲りまくってしまう。
魚が獲れなくなれば、加工も流通も輸入にたよるしかにない。ここで買い負ければ、共倒れだ。
他人の利益を減らすことで自らの利益を確保しようと言う考えでは、産業が傾いてしまうのだ。
そのためには、資源→漁業→消費を全体としてとらえた上で、
漁業全体の利益を増やすためのビジョンを持たなくてはならない。

(2)に関しても、賛成。
日本の漁業は、非持続的な乱獲を放置している。だから、収益が悪化しているのである。
持続的に獲ってこそ、値段も上がるし、消費者も安心して食べられる。
すでに先進国では「環境・資源の持続性との調和」が高い価値として認識されている。
一方で、日本人は、値段と供給の安定にしか関心がないようである。
ヨーロッパウナギにしても、マグロにしても、値上がりの心配ばかりで、
自分たちが被持続的に食べ尽くしたことに対する道義的な責任は感じないようである。
「環境・資源の持続性との調和」について、情報をもっと流す必要があるだろう。

(3)トータルサプライチェーンって、いまいち良くわからない。
日本語で簡単に表現すると、どういう意味なのだろう?
俺は流通に関する知識が少ないから、この部分は???です。

(4-7)その魚がどこでどうやって捕られたのか。その魚は持続的に漁獲されているのか。
そういう情報を消費者が得ることは重要である。
回転寿司で「関サバ」が安く食べられる現状では、業者のモラルには期待できない。
きちんとした企画で「水産物基礎情報」を行政が準備するのはとても大切。
現在、消費者が価格しか気にしていないのは、それ以外の情報が無いからだ。
きちんと情報を提示すれば、それを基準に選択を変える消費者も出てくるだろう。

(8)養殖技術(例えば、種苗、飼料、防疫など)に関しては、すでに研究開発予算が過剰だと思う。
水産政策に関しては、予算をつけても内容が伴うかは疑問。
むしろ、漁業に関係する様々な立場の人に発言の場を準備した方がよい。
そのためのたたき台として、高木委員の提言が機能してくれた良いのですが・・・
自称「漁業者の味方」の研究者が反論を準備しているらしいので、楽しみにしています。
メンツ的に、内容にはあまり期待できないかな。

(9)に関しても、基本的に賛成ですが、役所がつくった委員ではつっこみ能力に限界がありそう。
水研センターだって、独法化したけれど、発言の自由は減る一方みたいだし。

ネット上に公開された文書を追っていくだけで、政策に関してはいろいろわかります。
専門的な知識を持った個人が、地道につっこみを入れ続けていくことが重要でしょう。
ということで、自分としては、今後もつっこみを入れ続けようと思います。

7/31の提言に関するコメント(その2)

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(提言2) 水産業の再生・自立のための構造改革をスピード感をもって直ちに実行せよ。

 このため、

1.漁業協同組合員の資格要件とされる従業員数や漁船規模などを見直し、漁業協同組合などへの投資や技術移転を容易にし、地域社会の活性化を図るべきである。

地域内の水産加工業、卸売業、仲買人、小売業、外食産業などや、地域に投資、技術移転する大手水産会社等を、組合員とする資格を与える。
また、漁業協同組合などの経営内容を広く情報開示する仕組みを構築すべきである。

漁協の閉鎖性が生産力を下げる一因になっているという認識のようだが、正直、漁協のことはよく知らないので、何とも言えない。
いろいろと問題を抱えている部分も多そうだし、経営内容を公開するのは、漁業者のためにもなるだろう。

2.併せて、漁業のみならず、養殖業や定置網漁業への参入障壁を基本的に撤廃し、参入をオープン化すべきである。意欲と能力がある個人または法人が、透明性のあるルールのもとで、漁業協同組合と同等の条件で養殖業および定置網漁業などを営めるようにすべきである。

漁業法(昭和24年法律)および水産業協同組合法(昭和23年法律)など漁業関係諸制度を抜本的に改革し、透明性のあるルールのもとで、例えば特区制度の活用も含め、生産段階における新規参入による漁業権および漁場の適切な利用を促進して、沿岸漁業を広く流通、加工、販売関係者および漁業への投資に意欲のある者に開かれたものとすべきである。

「参入をオープン化する」というのは非常にリスキーである。はっきり言って、止めた方がよいと思う。
すでに過剰な漁獲圧がかかるなかで、利益を出せるのは「より乱獲力のある経営体」である。
参入の自由化を進めれば、乱獲によって短期的利益をだし、資源が枯渇すれば余所に移るような
「 焼き畑漁業」を促進することになるだろう。

参入の自由化よりも、漁業をするための資格が必要だと思う。
自由参入で新たな経営体を増やすよりも、 乱獲をしなければ利益を出せない経営体を減らすことが先決だろう。
まずは、資源に優しい漁業で 利益を出せる経営体のみ残すことだ。
参入のハードルを下げるのは、経営体の淘汰が進んでからでよい。

3.休漁と減船による漁獲努力量の削減、漁船の近代化と継続的な新船建造、雇用対策の支援などを総合的に包括した中長期的な戦略政策を樹立すべきである。

漁船漁業については、漁船の減少、老朽化が進み、生産力の低下が著しい。一方で、資源の悪化・枯渇状態の中で過剰な漁獲が続いている。
そのため、単なる新船の建造は漁獲能力の増大につながりかねないため、漁業の再生・自立のための構造改革は、(1)休漁、(2)減船、(3)操業の継続(漁船の近代化及び小型化)と大きく分け、これらをパッケージとして推進し、例えば特区制度の活用も含め、科学的根拠に基づき3~5か年計画を樹立して、資源の回復と経営の改善を図る。

併せて、個別漁業者ごとに漁獲する数量の上限を定め、不必要な漁業活動を排除し、資源の乱獲を防止して、市場ニーズにあった水産物を供給するため、個別漁獲割当(IQ)制度または譲渡可能個別漁獲割当(ITQ)制度を導入する。

また、資源量が膨大な魚種、例えばサンマ(300~800万トン)などについては、その効率的かつ持続的な利用を図り、水産加工業、養殖業の振興と水産物貿易の発展に寄与させる。

 養殖業を、水産物の付加価値を高め、国民ニーズに応える産業として位置づける。

資源が枯渇しているのは、自然の生産力にくらべて、人間の漁獲力が高いためである。
このミスマッチをたださない限り、どこまでも資源は減少する。
船を更新するだけの利益が出ていない漁業を対象に、税金で新たに船を造る必要はないだろう。

「多く獲るための技術」と「高く売るための技術」は違うのだが、
日本の漁業関係者は、「多く獲るための技術」ばかりを導入したがる。
ミニ船団化は、依り少人数で今までと同じ量を獲るための技術である。
これは、より多く獲るための技術であり、今よりも資源が低水準になっても今のペースでとり続けるための技術である。
乱獲競争で有利かもしれないが、資源の減少に拍車をかける危険性がある。

例えば、ノルウェーもサバを巻き網で漁獲するが、、
魚体を傷つけないようにポンプで水揚げをした後、鮮度を保つために船上で急速冷凍をする。
日本の巻き網は「より早く、より多く獲る」ことに特化して、単価を上げるための工夫がない。
単価を上げるよりもむしろ、量を増やすことで利益を出そうとする。
結果として、資源のダメージの割に利益はでない。

では日本にノルウェーの漁船をもってくればよいかというと、そういう問題でもない。
日本では、値段が上がる前に獲りきられてしまうので、せっかくのポンプも船上冷凍設備も宝の持ち腐れであろう。
資源管理によって、適切な大きさの魚が安定供給できてはじめて、高く売るための技術が必要になる。
残念ながら、日本の漁業はその段階まで到達していないのだ。

今の日本漁業には、船を造るよりも、船を減らす方が大切なのだ。
(1)どう見ても採算がとれない経営体→減船
(2)多く獲れるけれど、利益率が低い漁業→資源が低水準なら休漁
(3)漁獲効率は低くとも、単価が高い漁業→操業の継続

採算がとれない経営体を減らすための手段としてITQを導入すべきである。

資源状態が良好なサンマの効率的な利用をはかるのは重要だ。
しかし、サンマは短命で、加入が不安定な、非常に先がが読みづらい資源である。
資源状態が悪化した場合にも対応できるような投資をしないといけない。
マイワシの場合は、高水準期に努力量を増やしすぎた結果、資源量が低水準になっても漁獲にブレーキがかからない。
投資が不良債権化しないように、短期的な減価償却を見込むべきだろう

養殖業に関しては、現在でも投資の価値が無い事業が数多く進行している。
ここの事業の支出と収入のバランスを精査した上で、残す事業と辞める事業を明確にすること。

特集「マイワシ資源の変動と利用」

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7月の水産学会誌の巻末に、特集「マイワシ資源の変動と利用」が掲載されました。
この特集は大変な難産で、企画の段階から苦労しました。
苦労した甲斐があって、良いものができました。
執筆者の皆様に、暑く御礼を申し上げます。
まだ、読んでいない方は、是非、目を通してください。

「長期的な環境変動の影響で、マイワシ獲らなくても減る」というのが通説であり、
俺も最初はその通説を鵜呑みにしていた。
データは公開されていなかったので、しょうがないんだけど。
最近になって、資源評価票が公開されるようになって、データをみてビックリ。
獲らなくてもへるどころか、生産力はかなり高いじゃないか。

マイワシは主に海洋環境との関係から、研究が進められてきた。
日本で最も研究が進んでいる資源かもしれない。
しかし、マイワシの研究において、漁業の影響は無視されてきた。
「マイワシの資源量が減っているのは、環境要因が原因である」という前提にたって、
減少を海洋環境で説明しようとしているのだ。

日本近海のマイワシは、海洋環境と漁業という2つの要因の影響を強く受けている。
2つの要因を組み合わせないと変動の全体像は見えてこないはずだ。
年間の漁獲率が50%近いのに、漁業の影響を無視して、動態を説明できるはずがない。
環境と漁業の両面からマイワシの変動を理解する必要があるだろう。
そのための最初の一歩として、この特集を企画したのです。

「第Ⅰ部.マイワシの資源動態」では、研究者にレビューを書いてもらった。

Ⅰ-1.マイワシ資源の増加過程
         黒田一紀(元東海区水研)
Ⅰ-2.マイワシ資源減少過程の2つの局面
         渡邊良朗(東大海洋研)
Ⅰ-3.気候変動からマイワシ資源変動に至る
生物過程  髙須賀明典(水研セ中央水研)
Ⅰ-4.マイワシ資源への漁獲の影響
         勝川俊雄(東大海洋研)

漁海況研究のパイオニアの黒田一紀さんに、70年代のマイワシ増加期の状況をまとめていただいた。
次に、詳細なフィールドワークで、89-91のマイワシの減少要因をつきとめた渡邊先生に当時の状況をまとめていただいた。
それから、新進気鋭の若手研究者の高須賀君に、海洋環境とマイワシの変動に関する研究を新しいところまでフォローしてもらう。
そして、俺がマイワシの資源への漁獲の影響をまとめる。

第1部を読めば、マイワシの歴史と研究の現状が俯瞰できてしまう。
実に隙のない構成だ。

「第Ⅱ部.マイワシ漁業の展望」では、
今後のマイワシ漁業および資源管理はどうあるべきかを関係者に書いてもらった。
行政、研究者、漁業団体、加工業者など、幅広い人選を心がけた。
みんなが好き勝手なことを言っていて、全くまとまっていないのが良くわかる。
かみ合わない部分も含めて、意見の多様性を楽しんでください。

今日は、内部検討会です

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今日は、スケトウダラの内部検討会です。
内容は非公開なので詳しくは書けません。
今年のブロック会議は、もめないで済むと良いのですね。
去年同様、声の大きさで勝負するなら負ける気はしませんが・・・

そういえば、今のブログに移行したのが、
ちょうど去年の内部検討会の頃だったわけですが、
密度が濃い一年でした。
情報発信と社会貢献の方面でがんばった反面、
研究活動が少しおろそかになってしまったのが反省点。
そろそろ引き籠もって、論文を書こうと思ったら、マイワシの期中改訂だし。
参った。

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from 18 Mar. 2009

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