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研究 Archive

内部被曝の影響は、トータルの被曝量(総ベクレル数)を基準に考えよう


内部被曝の影響は実は良くわかっていない。100mSv以下の被曝では、発がん率の上昇などの影響が見えてこない。喫煙のような明らかなリスクと比べると低いレベルだと思われるが、「影響が無い」と断定はできない。未知な部分があるから、放射能は予防的に避けておくことが望ましい。ICRPが掲げるALARA原則というのがある。「合理的に達成できる限り低く保たなければならない。(As low As Reasonably Achievable)」。体に良いものではないので、避けておけば間違いないだろう。

個人の被曝リスクを考える上で重要なのが、トータルでの被曝量。基準値を超えた食材を食べたかどうかかよりも、トータルで何ベクレル摂取したかが重要。たとえば、500Bq/kgの食材を10g食べると5Bq。50Bq/kgの食材を1kg食べれば50Bqの内部被曝になる。前者よりも後者が影響が大きいのは自明だろう。ALARAの原則に基づいて、被曝量をできるだけ抑えるという観点からは、摂取量が少ない食材の濃度よりも、米のように日常的に食べるものの値をいかに下げるかが重要になる。

ICRPは一般人の被曝量は年間に1mSv以下に抑えるべきとしている。

ICRPの公衆防護の基本的な考え方:
1)100mSvの被曝で、0.5%の発がん率の上昇がある。それ以下の被曝では、発がん率の上昇は明らかではない(検出できないような水準ではあるが、無いとは言えない)。
2)公衆が生涯にうける被曝量を、明らかな影響がでる100mSvよりも低い水準に抑えよう
3)1年間被曝量を1mSv以下に抑えておけば、100歳まで大丈夫。

ICRPのように、年間の被曝量の上限を設定すると、セシウムのベクレル数の上限も計算できる。

成人の場合は、セシウム134とセシウム137は1ベクレルでそれぞれ0.000019mSvと0.000014mSvに相当する。現状では、セシウム134とセシウム137はほぼ同量なので、セシウム1ベクレルには、セシウム134とセシウム137が0.5ベクレルずつと仮定すると、0.0000165mSvの被曝に相当する。よって、1mSvの内部被曝に相当するセシウムのベクレル数は、60606Bq(=1/0.0000165)となる。

1年の内部被曝を1mSv以下に抑えようと思うと、年間のセシウムのベクレル数を60606以下に抑えれなければならない。毎日のセシウム摂取量は、平均で166ベクレル以下に下げれば良い。もし、1年の内部被曝を0.5mSvに抑えたいなら、セシウムはその半分に減らさなければならない。

年齢群による実効線量換算係数の違いをまとめてみた。

実効線量変換係数(mSv/Bq)
成人 幼児 乳児
セシウム134 0.000019 0.000013 0.000026
セシウム137 0.000014 9.7E-06 0.000021

年齢群ごとの実効線量換算係数を利用すると、被曝量の上限を設定すると、セシウムのベクレル数の上限を年齢群ごとに計算できる

 被曝量(年) 成人(Bq) 幼児(Bq) 乳児(Bq)
年間 1mSv 60606 88106 42553
0.5mSv 30303 44053 21277
0.1mSv 6061 8811 4255
1日 1mSv 166 241 117
0.5mSv 83 121 58
0.1mSv 17 24 12

内部被曝をどのレベルに抑えるかという目標を設定すれば、毎日のセシウムをどのレベルに抑えるべきかの目安が計算できる。これを食材選びの判断基準に利用すると良いだろう。

白血病の罹病率と粉ミルクのセシウムの関係


この前のエントリで、1960年代、1970年代の粉ミルクのセシウムが高かったことを紹介したところ、

うわっ…私の粉ミルク、
セシウム高すぎ…?

 

(49歳 Aさんの場合) AA略

と衝撃を受けた人多数。また、この時代に生まれた人から、「同級生が白血病で死んだのは粉ミルクのせいかも」というつぶやきが、いくつか寄せられた。粉ミルクのセシウム濃度と白血病の罹患率に相関関係があるかが気になるところだ。

こういう場合に個人的な経験は当てにならない。例えば、高齢になってもぴんぴんしているヘビースモーカーは、数多く存在する。だからと言って、たばこが長生きに良いことにはならない。たばこの影響をみるには、喫煙者と非喫煙者を大勢集めて、平均寿命や発がん率の違いを比較しないといけない。そう言う比較をすると、喫煙者の方が発がん率が高くて寿命が短いので、「たばこは健康に悪い」と自信を持って言えるわけだ。

粉ミルクの放射能と発がん率の関係を知るには、年齢毎の発がん率のデータを調べる必要がある。ネットで検索して、たどり着いたのがガン情報センターの統計ページだ。いろんな統計があるのだけど、治療技術は進歩しているから、死亡率が減ったからといっでて、白血病が減ったことにはならない。そこで、罹病率のデータを分析することにする。

データのファイルはこれ↓
http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/odjrh3000000hwsa-att/cancer_incidence(1975-2006).xls

ダウンロードしたエクセルファイルは編集不可(ケチ)なので、新しいファイルにコピペをして、白血病のデータ(男女共通)を抜き出したのがこれ。
https://docs.google.com/spreadsheet/ccc?key=0ArN_7X0ibziWdC1zTXptVDlDdDZlV1lPbHVkYTVoQ1E

第一軸:全国年齢階級別推定罹患率(対人口10万人),男女計
第二軸:粉乳セシウム濃度(Bq/kg)

4本の実線は、それぞれの年に産まれた人達がそれぞれの年齢で経験した罹患率。粉ミルクセシウムと、罹患率のグラフが一致すると、セシウムと罹患率の関係が示唆されることになる。影響が有るとも、無いとも、言えないような、微妙な図になった。25-29歳は、なんとなく当てはまっているように見えるけど、20-24歳は全然違う。セシウム蛾下がった1970年代後半産まれにピークが来るのも意外な感じ。年によるばらつきも大きい。

粉ミルクのセシウムデータが、単調減少しているというのも、要注意ポイント。高度経済成長期からバブル期は社会が右肩上がりに成長していた時期で、食生活を含めて、生活環境が大きく変わった。これらの生活習慣の変化は、健康にも大きな影響をもたらすはずだ。仮に、罹病率と粉ミルクセシウムに相関が出たとしても、実は生活スタイルの変化が原因かもしれない。世代間の比較はなかなか難しいのだ。

生活スタイルの違いの影響を緩和するには、同じ年代の粉ミルク集団と母乳集団を分離して比較したいのだけど、そう言うデータは見つからなかった。ただ、両者に差があった場合にも、放射能の影響なのか、母乳と粉乳の栄養の違いによるものなのか、判断できない。母乳のセシウムの情報もないし…。

ということで、こういう荒っぽい分析では「良くわからない」ということが良くわかりました。

放射能のような確率的な事象はきめ細かいデータが無いと、存在自体がわからない。日頃から、詳細なデータをとっておけば、被害を早期に検知することも、素早く対策を取ることも可能になる。逆にデータがなければ、「影響は良くわからない」で、うやむやになってしまうだろう。低線量被曝のリスクはわかっていない部分が多い。予防的に被曝を避ける努力をするのは当然だが、それと並行して、微妙な違いも検出できるように詳細なデータを収集しておくことが、事故を起こしてしまった大人の責任だと思う。特に、子供の値が罹病率がこれからどうなるかは注意深く見守らないといけない。


今回の作業は、ネットで落としてきたデータをつなげて図を作っただけ。専門的な知識は一つも必要ない。こういう作業は誰にでもできる時代になったので、疑問があったら、ドンドン自分で調べてみると良いでしょう。白血病以外のガンの影響は、各自で調べてみてください。自宅でできる簡単な作業です。

食品の基準値の見直しについて


厚生労働省は、食品の放射能の暫定基準値を見直すようだ。新聞記事で新しい方針についての記述があった。

食品の放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮

Q 新しい規制値はどうなるのですか。
A 年間被ばく限度が5ミリシーベルトではなく、1ミリシーベルトに決められます。その根拠として、小宮山洋子厚労相はコーデックス委員会の1ミリシーベルトを挙げています。規制値は間違いなく、いま以上に厳しくなります。

Q 新たな規制値の特徴は?
A 規制対象の食品区分が▽飲料水▽牛乳▽一般食品▽乳児用食品の四つになります。被ばく限度の評価にあたっては、年齢層を「1歳未満」「1~6歳」「7~12歳」「13~18歳」「19歳以上」の五つに分け、その最も厳しい数値を全年齢に適用して新規制値とする方針です。さらに、乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。新規制値が今の5分の1~10分の1ほどになれば、世界でも相当に厳しい規制値となります。

http://mainichi.jp/life/food/news/20111219ddm013100039000c.html

良い機会なので、食品の基準値についての私見をまとめてみよう。

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粉乳のセシウムとストロンチウムの長期的な変動


セシウム137

粉乳(粉ミルク)からセシウムが検出されて、大きな話題になりました(メーカーのサイト)。過去の粉乳の放射能汚染について、データベースを使って調べてみました。結果はこんな感じ。1960年代にはとても高い値で推移していたことがわかります。

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ニコ生のPDF


ニコ生で使ったPDFをアップします。

暫定基準値について

どんな食品が危ないの?

 

 

 

ゲルマニウム検出器による放射能の測定


俺は、「暫定基準値を今の500Bq/kgから、50Bq/kgぐらいに下げられないかな」と思っているのだが、基準値を下げる以上、それ以上の食品は市場に流通しない検査態勢が前提になる。そこで、食品の放射能検査について、しらべてみたのだが、なかなかハードルが高いことがわかった。ガイガーカウンターを食品に当てれば、ぱっと数字が出てくるような、甘っちょろいものではないのです!

水産加工業者などから、食品の放射能検査について質問をされる機会も多いので、一般向けに、簡単にまとめてみよう。

食品の放射能測定で、一般的に利用されるのがゲルマニウム検出器。なかなか大がかりな装置なんだけど、計測精度は高い。

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京都府へのCs137降下量の経年変化


京都府にこれまでCs137がどれぐらい降下したかを、環境放射能データベースで調べてみた。

http://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.SelectMain?paraSelectKind=0&pageSID=01722159

Google Documentにまとめたのがこちら

京都府全体(4613Km2)に引き延ばして、全体の降下量に換算すると下の図のようになる。

検出限界が108Bqぐらいの所にあり、現在は検出限界近傍を行ったり来たりと思われる。311以前の比較的クリーンな状態であっても、京都府全体では何百MBqというオーダーで、Cs137が降下していたのだ。

ちなみにデータベースの最新の値は、2010年3月の322910000Bqである。陸前高田の護摩木の表皮から京都府が検出したCs137が588Bq/kgだから、護摩木の表皮549167kg分に相当する。

陸前高田の護摩木の表皮を燃やすかどうかを議論する前提として、その何十万kg分もの放射性セシウムが毎月降下していることは前提として知っておいた方が良いだろう。

食品安全委員会委員長からのメッセージについて


第9回 放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループが、2011(平成23)年7月26日に開催されました。今後の日本の放射線防護に関する重要な論点を含みますので、簡単に整理します。

会議の資料はこちら
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110726so1

委員長からのメッセージはこちら
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/fsc_incho_message_radiorisk.pdf

 

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87.9%の漁業者が水産資源の減少を実感


農林水産省/意識・意向調査というのがあるということを初めて知った。持続的利用に関する意識調査というのが平成23年5月19日に公表されたのだけど、興味深い内容だ。88%の漁業者が資源は減少していると答えているのだ。増加しているは0.6%。

浜の漁師に聞けば「魚は減った」という答えが返ってくるのだけど、水産庁は資源の減少を認めるような情報は極力出してこなかった。今回、このような調査をやったのは、とても意外だった。まあ、中の人も方向転換を図りつつあると言うことかな。

 

みなと新聞 コラム 2011年6月


業界紙(みなと新聞)に連載中のコラムです。

6/30日の1面に掲載されました。

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from 18 Mar. 2009

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