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魚種別 Archive

太平洋クロマグロはどれぐらい減っているのか?


今回は一般向けでは無く、メディアや勉強をしたい人向けに、少しだけ専門的な話を書きます。

クロマグロの資源状態について

太平洋クロマグロの資源状態については、1年半前のブログに書いたとおり。日本では3.6倍に増えるとか大本営発表をしていたが、実際には枯渇した資源に非持続的な高い漁獲圧をかけ続けている。

西太平洋のマグロの管理をしている国際機関WCPFCの科学委員(ISC)のウェブサイトはここにある。

http://isc.ac.affrc.go.jp/reports/stock_assessments.html

最新のレポートはこちら。
http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Pacific%20Bluefin%20Assmt%20Report%202014-%20June1-Final-Posting.pdf

ドメインを見ればわかるように、日本の独立行政法人水産総合研究センターで管理されているのだ。日本国内で社会的な関心が高い水産資源の評価を、日本がホストする科学委員がやっているのだから、資源評価の日本語訳ぐらい準備しても良さそうなものなのだが、水研センターはサービス精神に欠けますね 👿

ということで、エグゼクティブ・サマリーだけでも個人的に和訳をしてみました。次回以降に、これをもとに水産庁が現在進めている太平洋クロマグロの管理措置について論じたいと思います。

科学委員の要旨

1.資源の概要

太平洋クロマグロは、太平洋全体で単一の系群を形成しており、国際機関WCPFC(西太平洋)とIATTC(東太平洋)によって管理されている。産卵場は北西太平洋にしかない。それぞれの年級群の一部は太平洋を横断して回遊し、北東太平洋で幼魚期の数年を過ごすものもいる。

2.漁獲の歴史

太平洋クロマグロの漁獲記録はあまり整備されていないが、日本沿岸では1804年、米国では20世紀初頭まで遡ることが出来る。漁獲量の推定によると、1929から1940年は漁獲が多く、そのピークは1935年の47635トンであった。その後、第二次世界大戦のために漁獲量が減少する。戦後、日本の漁獲活動が北太平洋全域に広がったために、1949年にクロマグロの漁獲が急増した。1952年までに、多くの漁業国で一貫した漁獲量報告システムが確立された。より信頼できる漁獲統計によって、1952年から2012年までの漁獲量は、年によって大きく変動することがわかった。この時期の漁獲のピークは1956年の40383トンで、最低は1990年の8653トンであった。クロマグロは様々な漁具によって漁獲されているが、現在の漁獲の大部分は巻き網漁業によるものである。1952年以降の漁獲は、未成魚中心であったが、1990年代から、0歳の漁獲が大幅に増加している。

3.データと資源評価

ストックシンセシス(SS)と呼ばれる年齢構成モデルによって、資源動態が推定されている。1952-2013年の漁獲量、年齢組成、単位努力量あたり漁獲量のデータにあうように、WCPFCの国際科学委員(ISC)のクロマグロワーキンググループ(PBFWG)が作業を行った。耳石から年齢を推定した成長曲線や、標識放流やその他の経験的な手法によって得られた自然死亡係数などの生活史パラメータが含まれる。

国と漁具によって階層化された全14漁業が資源評価モデルには含まれている。利用可能な漁獲・年齢組成データを利用して漁獲のプロセスを表現した。日本の遠洋延縄、近海延縄、台湾の延縄 および 日本のトロールのデータを用いて、相対的な資源量を評価した。尤度に基づく統計フレームワークで、モデルを入力データに適合した。最尤法によって、得られたモデルパラメータからモデルを構築し、パラメータの変動も考慮して、資源量の推定と将来予測をおこなった。

PBFWGは、CPUEデータ、入力データの重み付け、年齢別の漁具選択性を推定する手法に不確実性があることを認識している。それぞれ異なるCPUEデータと漁具選択性をもちいた4種類のモデルを走らせることで、これらの不確実性が動態モデルに与える影響を評価した。

このあたりは、モデルの細かい話なので中略

4.資源状態と保全のアドバイス

資源状態

最新の資源評価では、2012年の産卵親魚量は、26324トンで、2010年の推定値25476トンよりもほんの少し多かった。

新規加入量(卵から生き残って、新たに漁獲対象になった個体数)の推定値は、モデルの設定を変えても、ほぼ同じような水準だった。2012年の新規加入は比較的低水準(61年で下から8番目)であり、過去5年の新規加入は歴史的な平均水準を下回っていた。2009-2011年の漁獲死亡係数の推定値は、0-6歳については、それぞれ19%,4%,12%,31%,60%,51%,21%増加したが、7歳以上については35%減少した。

WCPFCおよびITTACでは、太平洋クロマグロについては、資源管理のための目標や指標は決定していない。現在の漁獲圧は、Floss以外の一般的に用いられているすべての管理指標よりも大きくなっている。2012年の産卵親魚量は、漁獲がなかった時代の6%以下であった。一般的な管理指標と比較すると、乱獲が現在進行中であり、資源が乱獲状態にあるといえる。

実例として、Kobeプロットの図を示した。(AはSSBMedとFMED、BはSSB20%とSPR20%に基づく)太平洋クロマグロに対しては、管理指標の合意がないのだが、これらのKobeプロットは、資源状態に対する別の視点を提供し、今後の議論に役立つだろう。

歴史的に見て、西太平洋の沿岸漁業が最も大きなインパクトをもっていた。しかし、1990年代初頭から、西太平洋の巻き網のインパクトが増加し、これらの努力量がたのすべての漁業グループを凌駕している。東太平洋のインパクトは、1980年代中頃まで大きかったが、その後、大幅に減少している。西太平洋の延縄はすべての時期を通して、限定的なインパクトしか与えていない。漁業の影響は、漁獲される個体数と大きさの両者によって決定される。たとえば、多数の小型の稚魚を漁獲することは、大型の成熟個体を漁獲するよりも、未来の産卵個体群に対する影響が大きいこともあり得る。

管理アドバイス

現在(2012年)のバイオマスは歴史的な最低水準付近で有り、Floss以外のすべての管理指標よりも高い漁獲圧がかかっている(訳者注:Flossは資源が消滅に向かう漁獲圧なので、これを超えなければよいというものではない)。将来予測をみても、現在採用されているWCPFC CMM(2013-09)およびITTAC(C-13-02)の管理措置を今後も続けた場合、現在の低水準の加入が続く限り産卵親魚は回復しないと考えられる。

NC9で要求された将来予測では、低水準の加入が続いた場合には、もっとも厳しい管理シナリオ6のみで産卵親魚が増加した。シナリオ6の結果から、さらに大幅な漁獲死亡率とすべての未成魚の年齢帯における漁獲量の削減によって、産卵親魚が歴史的最低レベルを下回るリスクを削減できることが示された。

もし、最近の低水準な加入が今後も続く場合、産卵親魚が歴史的最低水準を下回るリスクが増加する。このリスクはさらに厳しい管理措置を執ることで減少できる。

NC9が要求した将来予測では、長期的な平均的な加入まで回復しない限り、産卵親魚増加は現在のWCPFCおよびITTACの保全管理手段では望めない。

産卵調査の結果に応じて、資源評価での未成魚の定義が変更された場合には、予測結果も変わる可能性がある。SSBが低水準であり、将来の新規加入が不確実で、資源バイオマスに対する加入が重要性であることを考慮すると、加入のトレンドをタイムリーに把握するためのモニタリングを強化すべきである。

シーフードスマートTV ウナギ編・第1回


今、なにかと話題のウナギについて、情報を整理する必要があると考えて、築地の生田さん(Seafood Smart)と一緒にインタビュー取材を行いました。

なんと、8回連続で、1~4回目がウナギの専門家で、IUCNの専門委員のメンバーでもある海部健三さん(中央大学)、5~8回目が「うなぎ 地球環境を語る魚」の著者である井田徹治さん(共同通信)です。

とても濃厚な内容なのですが、まずは一回目を公開です!!

プライムニュース でウナギについて議論をしました


プライムニュースに出演して、ウナギについて議論をしました。

6月17日(火)
『ニホンウナギ絶滅危機 捕獲量取り戻すには 魚食文化どう守る 』

12日、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを絶滅の恐れがある絶滅危惧種に指定した。IUCNの判断には法的拘束力がないため、ウナギの捕獲がただちに禁止されることはないが、ワシントン条約で規制対象を決める際の根拠となることから、今後、輸出などの規制につながる可能性がある。
縄文時代の遺跡からもウナギの骨が発掘されるなど、古くから日本人が親しんでいたウナギ。伝統的な食文化を守るためには必要なこととは。
横山農水政務官らを迎え、ウナギ捕獲の現状から日本の食文化まで多角的に議論する。

ゲスト
横山信一 農水政務官
勝川俊雄 三重大学生産資源学部准教授
生田與克 NPO法人魚食文化の会理事長

 

あと10日間はハイライト動画をウェブで視聴できます。

http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html?d140617_0

日本メディアはIUCNのウナギレッドリスト掲載をどう報じたか


日経新聞 2014/6/12 21:53
ニホンウナギ、外食・小売りに波紋 絶滅危惧種に

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ120HQ_S4A610C1TI0000/

世界の科学者で組織する国際自然保護連合(IUCN、スイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定する「レッドリスト」にニホンウナギを加えた波紋が、外食業者などの間で広がっている。野生動物の国際取引を規制するワシントン条約が保護対策の参考にしており、将来、輸入が制限される可能性がある。ここ数年、卸値の上昇で消費者離れが進んでおり、一段の高値を招きかねない決定に困惑している。

資源の問題には触れず、規制のせいで市場が縮小し、業者が困惑しているという内容。ウナギ市場の縮小というグラフがあるが、日本のウナギ市場が縮小しているのは規制をしているからでは無く、無規制に獲って食べてきたから資源が無くなっているのである。

ワシントン条約に記載されても輸出国の許可があれば取引はできる。ただ制限がかかれば流通量の減少や値上がりなどの影響が考えられる。

という記述を言い換えると、「政府が認めない密漁ウナギなくなると、流通が減りと値上がりするぞ」と言うこと。取材先は、回転ずしのくらコーポレーション、「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトホールディングス、ゼンショーホールディングス。回転寿司業界が、目先のウナギの値段にしか関心が無いと言うことがよくわかります。

読売新聞 2014年06月12日 12時59分
ニホンウナギ、絶滅危惧種に…2年後規制の恐れ

http://www.yomiuri.co.jp/science/20140612-OYT1T50074.html?from=ytop_ylist

 レッドリストに法的拘束力はなく、直ちに捕獲や消費が制限されることはないが、今後、国際取引の規制につながれば、日本の食卓に影響が出る可能性がある。IUCNのレッドリストは世界で最も権威があるとされ、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約で対象種を検討する際の重要な判断材料になる。次回の締約国会議は2016年。林農相は12日、報道陣に「資源管理を加速させたい」と語った。

専門家が絶滅の心配をしている一方で、読売新聞は漁獲規制の心配をしています。どこまでも無規制が続くのが一番怖いと思うのですが。「資源管理を加速させたい」という国の姿勢がせめてもの救いです。

産経 2014.6.12 12:17
「厳しい時代来るかも」 養殖産地の愛知、静岡

http://sankei.jp.msn.com/science/news/140612/scn14061212170001-n1.htm

国際自然保護連合(IUCN)が12日、レッドリストでニホンウナギを絶滅危惧種に分類したことに、ウナギ産地として知られる愛知、静岡両県の関係者から影響を懸念する声が相次いだ。

レッドリストよりも、絶滅危惧に指定されてるまでウナギを食べつくした日本の消費の非持続性を懸念すべきだと思います。

ウナギを使った名古屋名物ひつまぶしの老舗「錦三丁目いば昇」(名古屋市中区)の店主、木村知正さん(72)は「ある程度は規制の議論が高まっても仕方がない。日本には中国産が大量に出回っているが、安く買える状況は変わらざるを得ない」と語った。

こういう人がいるというのがわずかな救いです。「ウナギが無ければ別の物を売れば良い」という回転寿司と違い、老舗のうなぎ屋は、ウナギが無くなれば死活問題です。資源の問題についても考えざるを得ないのでしょう。

朝日新聞 2014年6月13日05時29分
「年数回のぜいたくが…」 ニホンウナギが絶滅危惧種に

http://www.asahi.com/articles/ASG6D6S2XG6DULBJ01R.html?iref=com_alist_6_04

 評価に携わった中央大の海部健三助教(保全生態学)は「もっと早く掲載されてもおかしくなかった。保全しなければいけない、という方向につながっていくことを望む」と話した。

ウナギ稚魚の国内漁獲量は半世紀前は年200トン以上あったが、2012年までの3年間、年3~6トンと過去最低水準が続き、13年はさらに減少。今年は5年ぶりに回復しているが「過去に比べると低水準で引き続き右肩下がりで減少している」(水産庁)という。

資源の問題にフォーカスした記事。海部さんは、ウナギ資源の専門家なので、このテーマの取材に適切な人物といえる。あと、水産庁が「今年は増えただけで、引き続き右肩下がり」という認識を一貫して示しているのが、興味深い。数年前まで、「ウナギは減っていないので規制は不要」と言っていたのだけど。水産庁の水産資源の持続性に対する態度が、ここ2年ぐらいで変わってきているように思う。

毎日新聞 2014年06月12日
ニホンウナギ:国際自然保護連合が絶滅危惧種に指定

http://mainichi.jp/feature/news/20140612k0000e040155000c.html

危機をもたらした要因として、生息地の損失▽乱獲▽回遊ルートの障害と汚染▽海流変化−−を列挙。ニホンウナギの減少が、東南アジアを原産地とするビカーラウナギなど異種のウナギの取引増加を招いているとし、ビカーラウナギも準絶滅危惧種に指定した。

評価した専門家グループのマシュー・ゴロック委員長は発表文で「ニホンウナギの状況は非常に懸念される。ウナギ類の保全に向けて優先的に取り組まなければならない」と指摘した。

ウナギ資源の危機的状況と、異種ウナギの準絶滅危惧種指定を紹介する良記事。「ニホンウナギがヤバい」というのは国内外の専門家の共通認識です(ごく一部例外もいますが)。

神奈川新聞 2014.06.13 03:00:00
ニホンウナギ 絶滅危惧種に 消費見直し資源回復を 専門家「踏み込んだ判断」

http://www.kanaloco.jp/article/72938/cms_id/86006

「ニホンウナギだけではなく世界のさまざまなウナギに関し、IUCNは資源保護の観点から踏み込んだ判断をしてくれた」。北里大海洋生命科学部(相模原市南区)でウナギの研究を行う吉永龍起講師(42)は、今回のレッドリストへの分類をそう評価し、「消費の見直しだけでなく、資源回復へ積極的な取り組みを」と訴える。

ウナギ資源の保護の必要性を提言し続ける東アジア鰻資源協議会も、今回のIUCNの分類を支持した。ただ、「レッドリストも、国際取引を規制するワシントン条約も、実効性はない」と吉永講師。「これからもウナギを食べ続けるには、もはや消費のあり方を見直すより、資源回復のために何ができるかを考えるべき」と訴え、こう強調した。「今のままでは、本当にニホンウナギは絶滅する」。

長年ウナギの研究をしてきた吉永さんの危機感が伝わってくる良記事。

ニホンウナギ:絶滅危惧種指定 柳川組合長捕れなくなる?
毎日新聞 2014年06月12日 11時44分(最終更新 06月12日 12時28分)

http://mainichi.jp/feature/news/20140612k0000e040194000c.html

 「国際自然保護連合」(IUCN、本部・スイス)が12日、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定したことに対し、ウナギ料理店や消費者からはウナギが食べられなくなったり、価格高騰につながったりすることへの不安の声が上がった。

柳川うなぎ料理組合の組合長(69)は「世界的な絶滅危惧種になれば、クジラのように『絶対捕ってはいけない』というようになってしまうのでは」と心配する。

ワシントン条約は貿易規制であり、国内での捕獲・利用を規制する物ではありません。かりにワシントン条約で最も厳しい規制がかかったとしても、国内消費には影響が無いのです。本当に心配なら、少しは勉強をしたらどうでしょうか。不勉強な人の言説をそのまま掲載すると読者をミスリードしかねません。

東京新聞 2014年6月12日 夕刊
ニホンウナギ 国際絶滅危惧種に 乱獲・環境悪化に警鐘

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014061202000263.html

今回、専門家グループが危機度を評価した結果、日本の天然産成魚の漁獲高が三十年前の十分の一に激減していることや、稚魚のシラスウナギの乱獲、工事による湖沼、河川での生息地の消失などが絶滅の危機に追いやっているとした。

水産庁の担当者は「今夏の土用の丑(うし)に供されるニホンウナギは、昨年に取引されたシラスウナギの成魚。値下げに直結するのは難しいのでは」と分析。「昨年から一時的に回復したからといって、ニホンウナギの成育環境が依然として厳しい状態に変わりはない」と指摘している。

資源の危機的状況やその原因についてきちんと整理されている。取材先は水産庁。

毎日新聞 2014年06月12日 11時20分
ニホンウナギ:絶滅危惧種指定 日本は世界の消費の7割

http://mainichi.jp/feature/news/20140612k0000e040186000c.html

水産資源に詳しい勝川俊雄三重大准教授(水産学)は「短期的な需給にばかり目を奪われ、持続的な資源管理の視点を欠いてきた」と指摘する。

IUCNは、ニホンウナギ激減の要因には乱獲のほかにも河川・沿岸開発、海流変化などが複合して関係していると指摘する。伝統的な食文化を守るためにも、国内の漁獲規制はもちろん、国際的な管理の仕組み作りに積極的に関与することが日本に求められている。

「食」との向き合い方の再考と国際的な管理の枠組みの必要性を指摘する記事。取材先は、水産資源に詳しい勝川さん。

まとめ

取材先と典型的なコメントをまとめるとこんな感じ

  • チェーン店 「規制されると高くなって困る」
  • 専門店「困ったけど、規制は仕方が無い」
  • ウナギ専門家「ウナギ資源、まじヤバい。保全のための強力な取り組みが必要」
  • 水産庁「資源は長期減少傾向で、危機的な状況」

どこに取材するかで、どういう記事になるかが決まるような感じですね。売ってなんぼの、大量消費が招いた悲劇という気がします。

ウナギを食べ続けたいなら、ワシントン条約を歓迎すべきである


ニホンウナギがIUCNの絶滅危惧種に指定されて、ワシントン条約で規制される可能性が高まってきた。日本のメディアは、「ウナギの値段が高くなる」と危機感を煽っているのだが、本当にそうだろうか。そもそもウナギが高くなったのは、十分な規制が無いまま漁獲が拡大し、日本人が食べ尽くしてしまったからである。つまり、無規制の結果なのだ。無規制の状態が今後も続けば、漁獲は更に減少し、値段は高くなるだろう。もし、ウナギ資源・食文化の存続には、何らかの規制が必要なのは明白である。

ワシントン条約でウナギが食べられなくなるのか?

ワシントン条約には、付属書I、II、IIIがある。
付属書Iは本当に危機的な状況にある種(ジャイアントパンダやゴリラなど)を守るための枠組みで、学術目的以外の輸出入は原則禁止。ということで、ここにカテゴライズされると、輸入ウナギは食べられなくなるだろう。しかし、ニホンウナギがいきなり付属書Iに掲載されるとは考えづらい。ニホンウナギが掲載されるとしたら付属書IIだろう。ヨーロッパウナギも付属書IIだ。ワシントン条約の付属書IIに掲載されると、輸出には輸出国の許可書が必要になる。逆に言うと、輸出国政府の許可書があれば、自由に貿易できるのだ。

(参考)貿易手続きに対する詳しい情報
http://www.jetro.go.jp/world/japan/qa/import_11/04A-010911

(参考)付属書に掲載されている動物の一覧表はこちら
http://www.trafficj.org/aboutcites/appendix_animals.pdf

付属書IIに掲載されても、輸出国政府が、正当に捕獲されたと認定して、輸出許可書を発行すれば輸出できる。フランスはシラスウナギの捕獲を行っているし、今でも輸出している。それらが中国を経由して、日本に大量に入ってきている。ワシントン条約で規制されると、ヨーロッパウナギが食べられなくなると煽ったメディアの報道は不正確だったのだ。

(参考)中国経由で日本が輸入するヨーロッパウナギ
http://togetter.com/li/536088

付属書IIの効果は、政府が許可しない密漁品の貿易を抑制することである。河口に集まるシラスウナギは、素人でも捕獲ができる。その上、単価が高いので、ブラックマーケットが形成されやすい。付属書IIに掲載されたら、違法に漁獲されたシラスウナギは出荷しづらくなる。つまり、各国政府が連携をして、密漁を予防しやすくなるのである。ワシントン条約付属書IIに掲載されれば、日本に入ってくる違法漁獲ウナギは大幅に減るだろう。それによって、一時的に価格は上がるかもしれない。違法操業が減ることで、ウナギ資源の保全が大きく前進するなら、長い目で見ればそっちの方が良いに決まっている。「値段が高くなるからワシントン条約付属書IIに反対」という主張は、「違法漁獲されたウナギを安く食べられればそれで良い」といっているようなものである。

ワシントン条約付属書IIに効果はあるか

ニホンウナギ資源の存続にとって、付属書IIの規制は無いよりはあった方がよいのだけど、その実効性は漁獲国の政府が十分な規制をするかどうかにかかっている。輸出国政府がバンバン輸出許可書を発行した場合、ワシントン条約付属書IIは意味が無くなる。日本・中国・台湾は、「余所がやらないなら、うちもやらない」といって、単独で実効性のある厳しい規制を導入することはないだろう。現状では付属書IIの影響は極めて限定的だろう。ワシントン条約付属書IIが意味を持つには、日中台で連携してウナギ資源を管理するための枠組みが必要である。

今後、国際的な資源管理の枠組みをつくらなければならないのだが、仮に枠組みが出来たとしても、漁獲規制に強制力が伴わなければ、単なる努力目標で終わる。現状では、強制力をもった貿易規制の枠組みは、ワシントン条約ぐらいしかないので、これを活用しない手は無い。

ワシントン条約付属書IIへの掲載がきっかけとなり、日中台で資源管理の枠組み作りが進めば良いと思う。そして、ワシントン条約を利用して、違法漁獲を押さえ込み、持続的な漁業を実現していくのが、ウナギ資源・食文化が存続するためのわずかな希望である。逆に、今回、ワシントン条約に掲載されずに、各国が問題の先送りを選択したばあい、ニホンウナギは取り返しの付かない事態になりかねない。

ワシントン条約で規制の網がかけられるかどうかは、ウナギ資源の未来に重大な意味をもつ。我々日本人が、今考えるべきことは、今年の土用の丑にウナギの値段が上がるか下がるかでは無く、鰻丼というすばらしい食文化を支えてきたウナギ資源をどうやって救うことが出来るかである。日本のマスメディアには、ワシントン条約の意味を理解した上で、ウナギ資源・食文化の持続性に対して責任のある記事を書いて欲しいと切に願う。

ウナギに関する日本メディアの報道


つい最近まで、「ウナギ豊漁→安くなる」と楽観的な報道を繰り返していた日本メディアなのですが、IUCNの日本ウナギをレッドリストに掲載するかもしれないという情報で、「規制されると値段が高くなる」という論調に逆転しました。目先の価格以外に考えることは無いのでしょうか。

朝日新聞デジタル 2014年6月10日08時01分 神田明美
ニホンウナギ、絶滅危惧種指定へ 国際取引制限の恐れ
http://www.asahi.com/articles/ASG695FDYG69ULBJ01C.html

かば焼きで日本人になじみ深いニホンウナギについて、国際自然保護連合(IUCN)は、12日に発表する、生物の絶滅危機に関する情報を紹介する「レッドリスト」改訂版に掲載する方針を固めた。絶滅危惧種として指定する見通し。売買や食べることの禁止に直結するわけではないが今後、国際取引の制限などにつながる可能性が高まる。

下図のようなウナギ漁獲量が激減しているグラフを掲載しながら、資源の枯渇ではなく、国際取引制限を心配しているのが不思議な感じですね。

キャプチャ

 

日本経済新聞 電子版 2014/6/6 23:38
ニホンウナギが絶滅危惧種に? 指定なら価格上昇も
 国際自然保護連合、12日公表

 ニホンウナギが絶滅の恐れがある野生生物に指定される可能性が出てきた。世界の科学者らで組織する国際自然保護連合(IUCN)が12日に公表するレッドリストの最新版で、ニホンウナギが絶滅危惧種として追加されそうだからだ。指定されれば国際的な輸出入の規制につながる可能性もあり、ウナギの卸業者からは取引価格の上昇を懸念する声も出ている。

時事通信
ウナギ稚魚、養殖量回復=「丑の日」値下げは不透明

ニホンウナギの稚魚シラスウナギの養殖量が回復している。日本をはじめ、中国、韓国など周辺国・地域も好漁で、輸入分も含めた養殖池への「池入れ量」は前年の約1.8倍。取引価格も大幅に下落した。ただ、消費がピークを迎える7月29日の「土用の丑(うし)の日」に、ウナギが値下がりするかどうかは不透明だ。
また、水産庁は「直ちに資源量が回復したと判断するべきではない」として資源管理を徹底する構え。うなぎ料理店でも「(値段の判断は)もう1年様子を見てから」との声も上がる。

漁獲が激減しているのに、取り上げるのは目先の価格のことばかり。これでは、ウナギが無くなるのは仕方が無いことだと思います。

資源管理ごっこと本物の資源管理の違い


資源管理ごっこ(日本のスケトウダラ漁業の場合)

スケトウダラにはいくつかの独立した産卵群(系群)があり、そのうちのひとつが日本海北部系群だ。この系群は北海道の日本海側に分布しており、沿岸漁業の延縄や、沖合底引き網によって利用されている。下の図は、青い線が資源量。赤い線が漁獲割合である。1997年から、国が漁獲枠を設定して資源管理していたのだが、1997年以降も資源が直線的に減少するに従って、漁獲割合はむしろ上がっている。ブレーキをかけるどころかアクセルを踏んでいるような状態だったのだ。この資源は過去には韓国が漁獲をしていたこともあるのだが、1999年以降は日本の漁獲のみ。つまり、国内漁業の規制に失敗して、自国の貴重な資源を潰してしまったのである。

2510-04

漁獲圧にブレーキがかからなかったのは、2つの理由がある。ひとつは、資源の減少に応じて管理目標が下方修正されたこと。二つ目は科学者の提言を無視した漁獲枠設定である。

日本のTAC制度の枠組みとしては、まず、科学者が資源評価をして、資源の持続性の観点から漁獲枠(Acceptable Biological Catch)を提言することになっている。そのABCを踏まえて、行政が実際の漁獲枠(Total Allowable Catch)を設定するのである。ABCを設定する際の管理目標は毎年のように下方修正されてきた。2008年には緩やかな回復を目指すと言うことで、どこまで減ってもその時点を基準に、漁獲枠が設定できるようになった。これでは資源の減少が下げ止まらないのも当然だろう。

2004 親魚量をBlimit 20.7万㌧へ回復
2005 親魚量をBlimit 14.0万㌧に維持(Blimit変更は資源評価の修正によるもの)
2006 親魚量をBlimit 18.1万㌧に10年で回復
2007 親魚量をBlimit 18.4万㌧に15年で回復
2008 親魚量の緩やかな回復(減った水準を基準に漁獲枠を設定)

ABC(科学者の勧告)よりもさらに問題が大きいのがTAC(国が設定した漁獲枠)である。ABCを遙かに上回るTACが設定され続けているのだ。持続性を無視した漁獲枠を設定し続けたのだから、資源の減少にブレーキがかかるはずが無いのである。2006年ぐらいまでは、多くの魚種でTACがABCを上回っていた。そのことをマスメディアを通じて徹底的に非難し続けたところ、スケトウダラ日本海北部系群以外はABCと等しいTACが設定されるようになった。

キャプチャ

では、この資源に未来が無いかというと、そうでは無い。下の図は、様々な管理シナリオの元での資源の動態だ。たとえば、緑の線(Frec10yr)は、かなり厳しい漁獲圧の削減をすると、10年で目標水準(Blimit)まで回復する可能性があることを示している。現状は赤の線(Fcurrent)である。資源が再生産できないような強い漁獲圧を、今もかけ続けているのである。つまり、乱獲を止めれば、資源は回復するのである。

2510-07

 資源管理(ニュージーランドのホキ漁業)

このような悲劇を二度と繰り返さないために、「資源が減ったときにどうやってブレーキをかけるのか?」について議論をすべきだろう。その前提として、他国の成功事例について学んでおく必要があるだろう。同じように卵の生き残りが悪くて、水産資源が減ったときにニュージーランド政府がどのような対応をしたかを紹介しよう。

ホキは、 タラに似た白身魚であり、ニュージーランドの主力漁業。フィレオフィッシュの原料として、世界中で利用されている。

この資源のレポートはここにある。1990年代後半から、卵の生き残りが悪く、資源が減少した。NZ政府はB0(漁獲が無い場合の資源量)の40%前後を管理目標(Target Zone)、20%B0をソフトリミット(回復措置発動の閾値)、10%B0をハードリミット(強い回復措置の閾値)としている。資源状態が良かった時期を基準に、目標水準とそれ以下には減らさないという閾値が事前に設定されているのである。

キャプチャ

1990年代は、資源量がターゲットを大きく上回っていたことから、25万㌧という多めの漁獲枠が設定されていた。2000年に資源量がターゲットゾーンに入ると、NZ政府は徐々に漁獲枠を削減した。ちょうどこのタイミングで卵の生き残りが悪い年が数年続いたために、資源は目標水準を下回って、減少を続けた。漁獲枠の削減を続けた。2007年には、資源回復の兆しが見えてきたことから、政府が12万㌧の漁獲枠を提示したが、業界は資源を素早く回復させるために更なる漁獲枠の削減を要求し、漁獲枠は9万㌧まで削減された。その後は、資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増やしており、現在の漁獲枠は15万㌧まで回復している。 

ニュージーランド政府が設定したホキの漁獲枠(≒漁獲量) 単位㌧

キャプチャ

本物の資源管理と資源管理ごっこの見分け方

資源管理ごっこと本物の資源管理を見分けるには、資源量が減少したときに、漁獲にブレーキがかかったかどうかに着目すれば良い。スケトウダラ日本海北部系群とニュージーランドのホキは、同じように卵の生き残りが悪くなって資源が減少した。日本は産官学が連携して、過剰な漁獲枠を設定し続けて、資源を潰してしまった。どれだけ立派なことを言おうとも、資源が直線的に減少していく中で、漁獲圧にブレーキがかけられなかったという事実が、日本の漁業管理システムの破綻を物語っているのである。それとは対照的に、ニュージーランドでは資源の減少に応じて漁獲圧を大幅に削減して資源回復に結びつけた。

車にたとえると、ニュージーランド漁業は、ちゃんとしたブレーキがついている車。いざというときにはきちんと止まることができる。日本はブレーキっぽい物はついているけど、本物のブレーキがついていない車。いざというときに減速ないのだから、事故が起こるのもやむを得ないだろう。

日本の漁業を守るために我々がやるべきことは、きちんと資源管理をしている諸外国から謙虚に学び、魚が減ったときに漁獲にブレーキがかけられるような仕組みを導入することである。それをやろうとせずに、ブレーキっぽい物を本物のブレーキだと言い張っているから、進歩が無いのである。

長期的なトレンドと短期的なゆらぎ


今年は、全国的に大雪に見舞われたので、「地球温暖化はどうなったの?」と思った人も多いのでは無いでしょうか。大雪の影響で、今年の冬は寒かった印象があるのですが、データをみるとそうではないようです。今年1月の地球全体の気温は過去4番目の暖かさだったそうです。

一月の全球平均気温は1880年の記録開始から数えて一月としては過去4番目に暖かく、20世紀平均気温よりも暖かい気温はこれで連続347回、あとひと月で29年連続という情報がNOAAから発表されています

リンク先のNOAA(米国海洋大気庁)のサイトに飛んでみると、毎年1月の表面温度(陸上・海洋)の推移を示す図がありました。

201401
http://www.ncdc.noaa.gov/sotc/service/global/glob/201401.gif

海洋も、陸上も同様に、平均温度が上昇しているのは一目瞭然です。この図では、20世紀の平均温度がゼロになるように基準化しているのですが、平均よりも寒かった年(青)は20世紀前半に偏っており、1980年代以降はほぼ真っ赤です。

このように長期的なデータからは、明瞭な増加傾向を見て取ることができるのですが、上昇率は100年で1℃程度の緩やかなものです。毎年の変動と比べると、微々たるものであり、我々が体感するのは難しいでしょう。時系列データを10年ぐらい切り取ってみると、毎年の変動に隠れて、長期的な増加トレンドは見えなくなります。

シラスウナギの漁獲量も同じような構図があります。シラスウナギの漁獲は、長期的には明瞭な減少傾向があるのですが、数年だけ取り出してみると短期的な揺らぎの影響が大きくて、ランダムに見えてしまうのです。

シラスウナギの漁獲量は、日本にどの程度のシラスウナギが流れてくるかに依存します。シラスウナギ来遊量は次のようにモデル化して考えることが可能です。

日本へのシラスウナギ来遊量
= 産卵量 × 卵の生き残り率 × 日本に流れつく確率

産卵量は親魚の資源量に依存し、長期的なトレンドを持って緩やかに推移します。一方、卵の生き残り率 と日本に流れつく確率は、海流の配置によって毎年大きく変動します。漁獲の動向について論じるには、「産卵親魚の減少による長期的な減少傾向」と「海流の変化による短期的な揺らぎ」の両者を分けて考える必要があるのです。

シラスウナギの漁獲データから、長期的なトレンドを抜き出すために、単回帰をしてみます。Rのソースは以下の通り。漁獲量は対数をとってから統計処理をします。

#データ
catch<-c(73,48,42,57,47,45,29,31,27,20,20,25,24,22,20,23,24,18,13,20,14,12,11,27,16,14,19,17,15,9,21,9,9,13,6,9.5,9,5.2)
year<-1976:2013

#単回帰
plot(year,log(catch))
model<-lm(log(catch)~year)
new<-data.frame(x=seq(min(year),max(year),1))
B<-predict(model,new,se.fit=T,interval=”prediction”) #推定データの95%推定区間
lines(as.matrix(new),A$fit[,1])
lines(as.matrix(new),B$fit[,2],col=”blue”)
lines(as.matrix(new),B$fit[,3],col=”blue”)

単回帰の結果は有意であり(R2が0.78、p値が9.85e-14)、毎年5%程度の減少傾向があることがわかりました。

単回帰の結果を図示してみるとこんな感じになりました。白丸が実測データ、黒い実線が回帰直線、青い線が95%の予測区間(20年のうち19年は青の線の中に収まる)です。2014年の予測値は95%の予測区間周辺となりました。

キャプチャ

ここから言えることは

  • 有意な減少傾向がみられた
  • 減少率は毎年5%程度だった
  • 2014年は当たり年だが、短期的揺らぎの範囲内であった。

2014年程度の当たり年は過去にも何回かあったけれども、その後も資源の減少傾向は続きました。今回の場合も、資源が回復するような要因は特にないので、「海流の状態が良くて、たまたま当たり年だった」と考えるのが妥当でしょう。長期的な減少トレンドを見直すような状況ではないのです。

資源的に厳しい状況で、運良く当たり年が発生しました。この当たり年のシラスウナギを、「豊漁だ!!安くなる!!」と獲れるだけ獲るべきなのか。それとも、未来の種籾として、せめて例年よりも増えた分ぐらいは未来に残すべきなのか。筆者としては、後者であって欲しいと切に思うのです。

シラスウナギの豊漁報道の異常性


去年は、シラスウナギの不漁が社会的な問題になりました。今年は一転して、楽観的な報道が相次いでいます。

「ウナギ稚魚価格、昨年の4分の1 漁獲量が大幅増」(日経新聞 2/4)
「シラスウナギ豊漁の気配 うな重お手ごろはまだ先?」(中日新聞1/31)
「シラスウナギ漁回復の兆し」(読売新聞 2/23)
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140301-OYT1T00709.htm

これらの報道に対する読者のリアクションは、おおむね好意的

  • 嬉しいなあ~~!\(^^)/
  • 値上げを我慢してくれた鰻屋さんにも感謝。
  • うなぎ好きにとってはうれしいニュース!
  • 是非値下がりして欲しい、『うなぎをがっつり食べたい!!』ですヽ(;´Д`)ノー

一部で心配をする声もありました。

  • これを機に増やさないと絶滅すんじゃね?
  • 去年までと同じ漁獲量にとどめて成魚になれる個体数を増やした方がいいと思う。
  • 来遊する稚魚が増えたのに,それを残して親を増やそうとしないのは「異常」かも

豊漁の根拠としては、次のように書かれています。

水産庁が業界団体に聞き取ったところ、昨季に養殖池に入れられた稚魚は約12・6トンだったが、今季は2月上旬の時点で既に約11・7トンに達しており、昨季を上回るのは確実だ。
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)より引用

今季の漁獲量は、空前の不漁だった昨年を上回る見込みで、おそらく15㌧ぐらいまで伸びそうです。この漁獲量がどの程度か図示してみましょう。極度な不漁続きだったここ数年の中では比較的多い方だけれども、それ以前とは比較にならないような低調な漁獲量なのです。

図1

海外では、資源が豊富な時代を基準にして、漁業の状態を判断します。ノルウェーなどの漁業先進国では、漁獲が無い時代の30-40%まで魚が減ったら、禁漁を含む厳しい規制をして、資源を回復させます。たとえば、ニュージーランドでは、ホキ資源(マックのフィレオフィッシュの原料)が漁獲が無い場合の30%ぐらいまで減少したときに、業界が漁獲枠の削減を政府に要求して、資源を回復しました(参考)。漁業先進国の基準からすると、日本のシラスウナギは、漁獲を続けていること自体が非常識となりそうです。

日本メディアは、資源が枯渇した状態を基準に、少しでも水揚げが増えたら「豊漁」とメディアが横並びで報道しています。このように、目先の漁獲量の増減に一喜一憂するということは、水産資源の持続性に対する長期的なビジョンが欠如しているからです。

先日、ある漁師と酒を飲んでいたときに「林業は100年先を考えて木を植える。農業は来年のことを考えて種をまく。漁師はその日のことだけ考えて魚を獲る」という話を聞きました。同じ一次産業でも、生産現場をコントロールできる林業と農業は、長期的な視野を持っているが、自然の恵みを収穫するだけの漁業は、その日暮らしで、場当たり的に獲れるだけ魚を獲ってきたのです。

現在のハイテク漁業は、海洋生態系に甚大なインパクトを与えています。一方で、種苗放流などの人為的に魚を増やす試みは失敗続きです。魚がひとたび減少すれば、自然に回復するのを、何十年もただ待つしか無いのです。生産現場を人為的にコントロールできないからこそ、水産資源の持続性に対して、より慎重な姿勢が求められます。

シラスウナギの来遊量が去年よりも増えたのは、間違いなく良いニュースです。ただ、増えた魚をきちんと獲り残し、卵を産ませなければ、未来にはつながらない。日本のシラスウナギ漁には、漁期の規制があるのですが、これまで何十年もウナギが減少してきたことを考えると、資源回復のために十分な措置とは言えないでしょう。実効的な規制がないなかで、密漁が蔓延しているのです。日本のマスコミは、管理できていない現状を問題視するどころか、「豊漁で安くなる」と横並びで煽っています。このあたりにも、他の先進国と異なり、日本では水産資源の枯渇が社会問題にならない原因があるのかもしれませんね。

予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機


北海道日本海側のスケトウダラが激減しています

スケトウダラは、北海道で重要な水産資源の一つであり、ニシンがほぼ消滅した現在は、スケトウダラに依存した漁村も多い。同じスケトウダラでも、産卵場や生育場所が異なる複数の群れが存在し、それを「系群」と呼びます。日本周辺には、

  • 太平洋系群
  • 日本海北部系群
  • 根室海峡系群
  • オホーツク海南部系群

の4つのスケトウダラの系群があります。このうち日本海北部系群の資源が極度に悪化しているのです。

資源量が減って、漁獲割合が上がる?

漁業資源の状態は、独立行政法人 水産総合研究センターによって、まとめられています。

http://abchan.job.affrc.go.jp/digests24/html/2410.html

1990年代後半から資源が直線的に減少し、底引き網、延縄ともに撤退が相次いでいます。1997年から、国によって漁獲枠が設定されて、漁業者がそれを守ってきたにも関わらず、「北海道の日本海側に漁業者がいなくなるかもしれない(漁業者談)」というような事態になっているのだ。

ここで、着目して欲しいのは上の図の漁獲割合(赤丸線)です。1997年から、2007年まで、漁獲割合が増加している。普通に考えれば、漁獲にブレーキをかければ漁獲割合は下がるはずなのに、スケトウダラの場合は、資源が減少するのと並行して、漁獲割合が上がっていったわけです。資源が減ってもブレーキをかけるどころか、アクセルを踏んでいたことになります。

科学者の勧告

詳細な資源評価(アセスメント)はここにあります。このPDFの2ページ目の管理シナリオの一覧を見てください。

重要なポイントは、下から二行目です。親魚量の維持が0.44Fcurrentとあります。これは、現在の親魚水準を維持するには、漁獲圧を現在の44%の水準まで落とす必要があることを意味します。いまだに、資源量を維持できる水準の倍以上の漁獲圧をかけているのだから、資源が減るのは当然でしょう。ちなみに、この年の科学者の勧告した漁獲量は下から3番目の7.7千トンでした。現在の資源量はあまりにも低水準なので、回復の必要がある。かといって、急激な漁獲の削減は現実的に難しい。そういうことで、(わずかでも親魚量を増大)というシナリオを選んだものと思われます。

持続性を無視する漁獲枠設定

これに対して、水産庁がどのような漁獲枠を設定したかという資料がこれ( 水産政策審議会に水産庁が提出した資料) → 24年漁期TAC(漁獲可能量)設定の考え方(PDF:101KB)

科学者が勧告したABC(生物学的許容漁獲量)0.77万トンのところを、水産庁が提案した漁獲枠は1.3万トンですよ。毎年、大勢の研究者が集まって、時間をかけて資源評価をしているのに、まるで無視。

水産庁が示した漁獲枠の根拠は次の通り。

【日本海北部系群】 資源回復計画(努力量削減、小型魚保護等)と組み合わせた資源管理を実施。資源が低位で横ばい傾向にあり、漁業経営におけるスケトウダラへの依存度が高いことを踏まえつつ、TAC(案)は23年漁期と同量の13,000トンとする。(北海道知事管理分の一部(1,000トン)については留保)

「資源が低位で、漁業経営における依存度が高いから、持続性を無視して良い」というロジックが私には理解不能です。審議会に出席している有識者のどなたかに突っ込みを入れてほしいところですが、鰈にスルーされています(第55回資源管理分科会議事録)。唯一、佐藤委員が「前年同期と同じ1万 3,000 トンというような書き方なのですが、基本的には、歯止めをかけるのであれば、もっと少ない方がいいかなとは思うのですけれども、経営のことがございますので、やむなしと思っているのです」と、水産庁の決定に理解を示したのみでした。今年のTACを決める会議は、平成25年2月22日に開催されましたが、ABCが7.6千トンで、TACが1.3万トンでした。状況は何ら変わっていないのです。

平成18年から、平成25年までの科学者の勧告(ABC)と日本政府が設定した漁獲枠(TAC)をグラフに示すとこうなります。本来は、科学者が勧告した漁獲量(青い棒)の範囲で、漁獲枠(赤い棒)を設定しないといけないのですが、そうなっていません。みごとに、資源の持続性を無視してきたことが、よくわかります。日本では、資源管理の名の下に、このようなことが行われているのです。

日本では国が漁獲枠を設定しているのはたったの7魚種しかありません。そのうちの一つがこのスケトウダラです。数少ない資源管理対象であっても、国が持続性を無視した漁獲枠を設定したせいで、残念ながら、資源を守ることができませんでした。

魚が減るとわかっている漁獲枠を設定し続けた結果、順調に魚が減ったのだから、「予定通り」です。「漁業経営のため」といって、乱獲を放置して、漁業自体をつぶして、いったい誰の得になるのでしょうか。水産庁という組織が、日本の漁業をどうしたいのか、私には全く理解不能です。

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