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漁業資源と国境を守るために、日本は何をすべきなのか


1つ前の記事で、自国の乱獲を棚に上げて、中国を非難する日本のテレビ番組を批判しました。日本は過去に乱獲をしていたから、中国の乱獲を容認すべきという意図ではありません。「日本と中国のどちらが正しいか」という話ではなく、「どちらも正しくない」のです。日本の乱獲も、中国の乱獲も、出来るだけ早く止めるべきです。ただ、日本がまず取り組むべきは、国内問題である自国の資源管理であり、それをしない限り、中国との関係も変えられないと思うのです。

乱獲にはいくつか種類があって、それぞれ対処法や日本漁業への影響が異なっています。ざっくりと、以下の4つに分類して、それぞれの傾向と対策をまとめてみました。

1.日本の過去の乱獲

日本の過去の乱獲については、当時は乱獲を規制するルールがなかったし、1970年代までは、日本の動物性タンパク質の供給が足りていなかったのだから、当時としては仕方がなかった面もあるだろう。いまさら乱獲してきた過去を変えることはできない。乱獲によって多くの漁場を破壊してきたという事実を認めた上で、そこから学ぶことしかないのである。

2.日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲

日本が排他的経済水域(EEZ)の水産資源の排他的利用権を得ているのは、国連海洋法条約のおかげです。日本は国連海洋法条約に批准することで、沿岸から中国船・韓国船を追い出して、自国のEEZで排他的に漁業を行っているのです。国連海洋法条約は、持続的管理の見返りとして、排他的利用権を認めています。「海洋資源は人類共有の財産なのだけど、管理人が必要なので、沿岸国が持続的に管理するなら、排他的に利用して良いよ」ということです。

日本は、EEZを排他的に利用しているにも関わらず、自国の乱獲は放置したままです。権利を享受しながら、義務を怠っているのです。日本政府は自国漁船の乱獲を取り締まる気などありません。「漁業経営に重要だから」とか、「安定供給も必要だ」とか、訳がわからない理由を並べて、乱獲を放置してきました。日本では、乱獲を規制する法律がほとんど機能していないので、乱獲をする日本の漁業者は違法ではないのですが、乱獲状態を放置し続けている日本政府の姿勢は、海の憲法と呼ばれる、国連海洋法条約の理念に反しています

日本の漁業が衰退している要因は、乱獲で間違いないのですが、乱獲の主体は日本の漁業者です。北海道や本州太平洋側は、日本一国で占有している漁業資源が大半ですから、国内漁業を規制すれば、日本漁業の衰退はかなりの部分を食い止められるわけです。日本政府がきちんと漁業管理をして、乱獲を抑制すれば、日本の漁業は持続的かつ生産性な産業に生まれ変わります。

3. 中国が日中暫定水域で行っている乱獲

まずは、日中暫定水域について説明をします。1997年に締結された日中漁業協定において、日中の双方が領有権を主張している場所には、暫定措置水域が設置されています。暫定措置水域内の漁業には次のような取り決めがあります。

  • 日中双方の漁船が相手国の許可を得ることなく操業できる
  • 操業条件は、日中共同漁業委員会が決定する
  • それぞれの国が、取り締まり権限を持つのは、自国の漁船のみ
  • 相手国の違反を発見した場合には、漁船に注意喚起すると共に相手国に対して通報することができる

今、暫定水域で操業をしているのはほとんどが中国船です。日本船は数える程度しかいない。規制をしたところで、日本漁船には影響がほとんど無いのです。日本は、乱獲で資源を潰しておきながら、自国の漁船が撤退したら「規制を強化しよう」と提案しているわけです。欧米の捕鯨国と、何ら変わりがありません

では中国が日本の提案を飲むかというと、飲むわけがない。中国にとって、撤退済みの日本と共同管理をするメリットは何もないのだから。日本国内でいくら中国を非難したところで、外交的に見れば、何の得にも成りません。はっきり言うと詰んでいるわけです。

4.  中国の日本のEEZ内での違法操業

これは問答無用の違法操業ですから、中国当局と連携して、きちっと取り締まらないといけない。 漁船の監視には、Vessel Monitoring Systemという機器の導入を義務づけるのが効果的です。これは1時間に1度ぐらいの頻度で漁船の位置情報を管理当局に強制的に報告する装置です。すでにほとんどの漁業先進国では導入が義務づけられています。ちなみに、ロシア領で操業をする日本漁船にはすべてVMSの導入が義務づけられています。日本近辺で操業する中国船にはVMSの導入を義務づけるべきです。

合法? 対応可能性 日本漁業への悪影響 管理主体 やるべきこと
1 日本の過去の乱獲 × 過去の失敗に学ぶ
2 日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲 × 日本政府 自国の資源管理
3 中国が日中暫定水域で行っている乱獲 地域漁業管理期間 公海での管理の枠組みをつくる
4 中国の日本のEEZ内での違法操業 × 日本政府と中国政府 中国政府と連携して取り締まりの強化

結局、日本は何をすべきなのか?

日本の国益(漁業資源と国境の維持)という観点から、未来志向で何をすべきかを整理してみよう。

優先順位が一番高いのは、日本のEEZの資源管理をすることです。日本の漁業が衰退している主要因は日本漁船による乱獲。たとえば、スケトウダラやハタハタの例を見ればわかるように、今のまま乱獲を放置し続ければ、中国漁船がいなくても、日本漁業の消滅は時間の問題です。自国の漁業管理は、完全に国内問題ですから、これが出来ていないのは政府の怠慢。日本は実に幸運なことに世界第六位の広大なEEZをもち、その中に世界屈指の好漁場がすっぽり含まれている。国内漁業の規制をするだけで、太平洋・北海道の漁業の生産性は改善できる。また、日本海側にしても、日本のEEZでほぼ完結する資源は多い。ちゃんと手入れをすれば、自分の庭から大きな利益が期待できるのである。こんなに恵まれた国はなかなかない。たとえば、ノルウェーは水産資源のほとんどをロシアとEUと共有している。苦労して国際交渉をしながら、資源管理をしている。ちなみにノルウェーがEUに加盟しない理由の一つが水産資源管理です。ノルウェーはEUの資源管理(共通漁業政策)よりも、かなり進んだ資源管理を行っています。自国の資源管理をEU水準に落として、漁業の生産性を下げたくないのです。

日本がやるべきことは、ノルウェーやニュージーランドのような資源管理先進国の成功から謙虚に学び、資源管理をすることです。つまり、産卵親魚の保護と、未成魚の漁獲規制をすると言うこと。こういった当たり前のことをしないで、国内の乱獲を補助金で支えているから、日本の漁業が衰退するのは当たり前です。政治家も官僚も、国内の漁業者から猛反発を受けるので、自国の乱獲という国内問題を避けてきました。「日本の漁業者は意識が高くて、自分たちで資源管理をしているから、公的機関は何もする必要が無い」という神話を作り出して、何もせずに今に至っています。日本の漁業が衰退しているのは、中国のせいではなくて、日本の責任です。

日本の国境を守るには、離島の漁業を守る必要がある

離島に日本人が住んでいる限り、その島が日本の領土であることは疑問の余地がない。しかし、無人島になってしまえば、そこを守るにはコストがかかるし、実効支配されたら打つ手がなくなってしまう。日本の領海を守るには、離島に日本人が住み続ける必要がある。そのために、欠かせないのが離島の雇用です。

離島の基幹産業は、バブル期までは建築業でした。離島に補助金をつけて、誰も通らないような道や誰も使わないような港や公園を作りまくったのである。島の人口の半分以上が建築業で、観光資源の自然を公共事業で破壊しているようなケースが多かった。バブル崩壊以降、公共事業が縮小された関係で、建設業の雇用が減っている。残された産業は漁業と観光ぐらいしかない島が多い。

日本海側の離島の漁業には、中国・韓国との競合が少なからぬ影響を与えているのは事実です。しかし、離島の漁民の悩みの種は、日本本土の大型船による乱獲です。日本の漁業従事者のほとんどは沿岸漁業者であり、9トン程度の小型船で日帰りで漁に出る。つまり、日本のEEZ内で操業をしているのです。かつて八丈島にはサバ棒受け網漁業が栄えたのですが、日本の巻き網船のサバ未成魚を乱獲によって、漁場が消滅し、漁業自体が消滅してしまいました。巻き網漁船の乱獲によって、日本海の一本釣り漁業は窮地に立たされています(参考:壱岐漁業者インタビュー)。

韓国との国境の島である対馬でも、漁業は厳しい状況の置かれているのです。先日、対馬市が島の漁業者を集めてワークショップを行ったのですが、日本本土の巻網船をなんとかしてほしいという声が大きかったです。対馬の周辺漁場に魚群がまとまると、長崎あたりから大型巻き網船が来て、根こそぎ魚を持って帰ってしまうのです。中国船・韓国船は暫定水域までしか入れないのですが、日本の大型船は、対馬の沿岸3マイルまで入って操業できるので、地元の小規模漁業に多大な影響を与えています。対馬では大型船の線引きをもう少し外にしてほしいと、陳情していますが、何十年も放置されたままです。島の基幹産業である漁業がこのまま衰退していけば、対馬には韓国の観光地として生き残る以外の選択肢がないでしょう。国防の観点から、離島の漁業を守るのは、国益上重要ですが、そのためにまずやるべきことは、国内の資源管理なのです。

 中国の膨張を止めるには・・・

中国漁船の規制は、相手があることだから、日本の思い通りには進みません。中国政府は、日本政府よりは、資源の重要性を理解しているので、近いうちに漁業管理を始めるはずですが、その際には、国内の規制として進める可能性が高い。共同水域の漁場をすでに実効支配している現状で、中国にとって、日本と共同管理をするメリットが無いからです。この海域の資源管理秩序を日本主導で打ち立てるには、日本が実効支配していた時期に、手を打っておく必要がありました。残念なことに、当時の日本政府は、自国の漁船に出来るだけ多くの魚を捕らせることしか考えていませんでした。まあ、今も似たようなものだけど・・・

日中漁業協定については、こちらのサイトが詳しいです。1975年の漁業協定はつぎのようなものでした。

中国沿岸部よりに6つの漁区が設けられ,そこでの底引き網・まき網漁業について船舶の隻数や網目に関して制限が設けられている。これは以前から懸念されていた日本側漁船の中国沿岸における乱獲,およびそれに伴う資源枯渇を意識したものであり,当時の日本漁業の中国漁業に対する圧倒的な優勢を前提としたものであった。

つまり、「中国の沿岸は手加減してやるけど、沖合は俺たち日本が好きなように獲るよ」という協定だったのです。この時期に「この海域の資源をしっかりと共同管理しよう」と日本が提案していれば、ほとんど操業実績が無い中国は、一も二もなく賛成をしたでしょう。その当時に、「過去の漁獲実績ベースで、漁獲量を厳しく規制する」というような枠組みをつくっておけば、中国漁船はそう簡単に進出できなかったはずです。今となっては、後の祭りだけど。

歴史は繰り返すと言いますが、1960年代に日本が世界中でやっていたことを、今度は中国からやられているのです。ノーガードで打ち合っても、コストが高い日本漁船に勝ち目はありませんし、その前に資源が崩壊するでしょう。漁場を実効支配されている中国には、日本のために妥協をするメリットがないのだから、一筋縄ではいかない。中国の乱獲に対する日本国内の世論をいくら高めたところで、中国サイドから見れば「負け犬の遠吠え」です。

ただ、方法が全くないわけではありません。日本は自らの苦い歴史から学べば良いのです。中国の膨張を食い止めるには、欧米諸国が日本漁業を封じ込めるときにやったことをやればよい。つまり、資源の持続性や生態系保全という大義名分で、他の先進国と共同戦線を張って、規制を導入させるのです。これ以外に選択肢はないでしょう。残念なことに、日本の水産外交は全く逆のことをしています。ワシントン条約の締約国会議でも、中国と組んで、ありとあらゆる規制に反対をしています。日本漁船の国際競争力は低下しており、自由競争をして勝てる状況にないのに、すべての規制に反対をして、中国の膨張をアシストしているのです。追われる立場になっているのに、追う側と一緒になって、規制に反対しているのだから、つける薬がありません。

生態系保全の必要性を国際世論に訴えるには、自国の乱獲を止めるのが必要条件です。海外では、日本の乱獲はよく知られているので、今のままで問題提起をしても、「まず、おまえが乱獲を止めろ」と鼻で笑われるのがオチです。

結論

日本政府は、資源管理をして、自国の乱獲を止めさせること。それにつきます。自国の漁業を規制すれば、日本漁業が抱える問題の多くは解決します。逆に、自国の乱獲を放置したまま、中国を非難していても、国際世論の支持は得られないし、日本の漁業が衰退して、離島が浸食されていくのは時間の問題です。

俺が出演した回のさかなTVがYoutubeにアップされました


先週、ニコ生で放映されたものと同じ内容ですが、こちらは、どなたでもごらんになれます。

話の内容はこんな感じです。

  • 日本の漁業は、乱獲で自滅をしている
  • 国の漁獲規制は全く機能していない
  • きちんとした規制をすることで、漁業の生産性は大幅に改善できる

なぜ、道の駅「萩しーまーと」では、地魚が飛ぶように売れるのか?


スーパーマーケットの鮮魚コーナーは、おなじみの魚が並ぶ。日本全国、どこでも似たような品揃えだ。多種多様な魚を扱っていた魚屋は、全国的に衰退し、四季折々の地魚はどんどん売れなくなっている。

そんな中、山口県の道の駅「萩しーまーと」では、地魚が売れて売れてしかたが無いという噂をキャッチした。どうして、よそでは売れない地魚が、萩しーまーとでは売れるのだろうか? 先日、水産学会が下関で開催されたので、萩まで足を伸ばして取材をしてきました。

萩のシーマートはここ。

萩漁港のすぐ隣です。萩の市場に水揚げされた魚をリアカーで裏の店まで運んでくる。朝の競りの後に、魚をすぐに並べられるという絶好のロケーションになっている。

訪問した日は、大型の台風が九州を直撃していた。電車は普通になって、萩は陸の孤島になっていた。そんな中でも9時の開店前から、お客さんが続々とやってきた。自家用車で、地元のナンバーが多い。観光地の道の駅というと、観光客向けというイメージがあるのだが、ここは地元に支持されている。

道の駅の中には、昔ながらの魚屋さんが軒を並べている。それぞれに店員がいて、いろいろ教えてくれる。道の駅と言うより、魚屋が集まった市場のような感じ。

色とりどりの地魚が並んでいます。見たことが無い魚でも、店の人が食べたかを教えてくれるので、安心です。昔はどこの町にもあったこういう光景は、今ではすっかり消えてしまいましたね。

 

萩しーまーとは全国に1000近くある道の駅において、売り上げおよびビジネスモデルの卓越性で有名になっている。全国的に魚屋が廃れる中で、魚屋スタイルの道の駅が繁盛している。そのポイントを中澤店長に直撃しました。

 

 

↓ 萩しーまーとのビジネスモデルに興味を持った人は、こちらをご覧ください。

http://www.shokosoken.or.jp/jyosei/soshiki/s19nen/s19-5.pdf

宮城県の水産特区について


宮城テレビの特別番組の収録で、県の村井知事と対談を行った。内容は放射能から、特区構想まで多岐にわたる。最初は県漁協の組合長もくる予定だったらしいのだけど、キャンセルされたので、ゲストは俺と知事の二人。

撮影前日に、塩釜、東松島、雄勝を回って、浜の最新情報をリサーチした際に「特区が動くらしいよ」という噂を耳にした。撮影当日の日経の朝刊に、かなり踏み込んだ内容の水産特区の記事が掲載されていた。石巻の桃浦地区と地元の仙台水産が特区一号になるということ。具体的な特区が表に出てきたタイミングでの知事との対談を収録した番組は9月9日に宮城テレビで放映予定。知事とのやりとりなどは番組放映後のお楽しみとして、今回は宮城県知事の水産特区に関する私見をまとめてみた。

特区の意義について

8月31日の日経新聞が4面には、桃浦地区の牡蠣養殖漁業者15人が共同で出資して設立する新会社と仙台水産が特区一号になるという記事が掲載された。桃浦地区は牡鹿半島の付け根に存在する集落。高齢化が進む中で、津波で壊滅的な被害を受けて、漁業を続けられる状態ではなかったらしい。そこで、地元の大手流通業者の仙台水産が手をさしのべて、一緒に立ち上がろうという流れ。

これまでの養殖漁業は、漁協が生産物を集めて、共同販売(入札)を行っていた。生産者は生産物を漁協に出荷して終わり。流通業者は、漁協が並べたものに値段をつけるだけ。共同販売が壁となって、生産者と流通業者が分断されていたのだ。

漁師と流通業者が分断されている日本漁業の現状を、会社でたとえるなら、製造部門と営業部門が分断されているようなものだ。製造部門が市場を無視して場当たり的に製品をつくる。製品段階で差別化できないので、営業は価格をどこまで下げられるかを競っている。これでは利益が出ないのも仕方が無いだろう。

「一山いくら」の共同販売制度でも、バブル期まではある程度は機能していた。並べておくだけで、全体的な魚価があがったからだ。デフレで全体の価格が低迷しているし、高齢化で食料の需要は落ちる。こういう状況で、ただ並べて値段をつけてもらうだけの共販制度が機能するとは思えない。

「こういう規格で、この数量つくれば高く買うよ」という話が小売りから来ても、それは漁師まで届かない。品質で差別化できないから、値段の安い差で勝負するような販売戦略しかとれないのである。意欲的な漁師が、品質が良いものを作っても、市場で評価されずにその対価を受け取れない。良いものを作っているというプライドに支えられてがんばっているのが実態だ。

実際に海外では、漁師と流通業者の経営統合は、当たり前の話。むしろ、協力をして全体の売り上げを増やす方向に努力をしている。

たとえば、アラスカのカニ漁業は、漁船と加工場の経営統合が進んでいる。加工場がカニを外に販売した売り上げを、漁船と加工場で半々に分けることになっている。漁船と加工場が共同で漁獲・加工・出荷のプロセスを戦略的に一本化することで、余計な経費を削減し、カニの質を上げて、全体の売り上げを増やすことに成功している。

日本でも、良い製品を作って付加価値付けをしたいという生産者と、差別化できる製品をちゃんとした値段で売りたい流通業者が、戦略的な提携をして、win-winの関係を築く余地は大いにある。

今後の進め方について

生産段階から販売まで一気通関をするという、桃浦・仙台水産の特区には、期待をする反面、不安もある。特に、漁民とのコミュニケーション不足が気になるところだ。

1)概要・要項が示されていない

特区構想が、誰のための、何を目指すものなのかが明確では無い。知事は「民業を活用する」というが、どういう形で活用するのかがわからなければ、賛成しようも、反対しようも無い。

民間企業の参入と言っても、様々なやり方がある。
A) 地元漁民が会社組織を作って、販売等の活動を自由に展開していく
B) 地元漁民を排除して、外の企業をいれて漁業をさせる

「Aはどんどんやればよいけど、Bはちょっと・・」と感じる人が多いのでは無いだろうか。今回、知事に直接確認をしたのだけど、知事の構想はAであり、よそから縁もゆかりも無い企業が参入することはかんがえていないそうだ。桃浦の場合も、震災前からその土地で漁業を営んでいた地元漁民15人が会社を作って、仙台水産という地元企業と連携をしていこうと言うことだから、1)の形式になっている。

特区の概要・要項をまず公開して、1)の形式の特区を考えていると言うことを明らかにすると同時に、そのことを周知する必要があるだろう。
2)漁民とのコミュニケーション不足

浜では「全否定をするわけでは無いが、特区は何をしたいのか具体的なことが何もわからないので、何とも言えない」という意見が多かった。具体像が見えない中、「民業の活力」とか「浜の秩序」といった抽象論で、知事と県漁協が喧々がくがくの状態。現場を無視した血の通っていない議論だと思う。
漁村によって、抱える問題は多岐にわたる。もともと活力がある浜では、復興がスムーズに進み、「あとはもう自分たちで出来るから、大丈夫」というところもある。一方で、震災で人が減って、集落自体が成り立たないところもある。人はいるけれども、収益が上がらず、じり貧のところもある。漁業者と一緒に、そこの漁業の問題を精査して、一緒に解決策を考えていく。その際に、必要とあれば、特区を柔軟に使えるような体制を整えて欲しい。

3)県漁協との関係悪化

宮城県漁協は、相変わらず「浜の秩序を乱す」と繰り返している。今まで、漁協の浜の秩序の元で、漁業が衰退してきたのだから、浜の秩序を見直す必要があるのは自明だろう。特区を導入せずに、桃浦をどうやって復興するのか、という対案を、県漁協は何ら示していない。対案を示さずに反対のための反対をしているだけの漁協は無責任だと思う。

ある程度の摩擦は仕方が無いとしても、県漁協との関係をもうちょっと上手に出来ないものだろうか。知事と漁協が全面対立ということになれば、漁民は板挟みになる。漁協からの締め付けが増せば、特区に関心がある漁業者とのコミュニケーションが難しくなり、桃浦に続く事例が出てこない可能性もある。

水産特区は、概要を公開した上で、漁民(≠漁協)とコミュニケーションをとり、彼らの理解を得ながら進めていって欲しいと思う。

民間は更に進んでいる

水産特区は、知事と漁協の対立から、議論が空転し、1年半かけて、ようやく、一例目の概要が示された。その間にも、現場レベルでは様々な試みが始まっている。志を同じくする漁民のグループが合同会社を作ったり、株式会社を作ったりして、販売を手がけようという試みが、同時多発的に起こっている。特区とは無関係に企業化が進みつつある。株式会社化をした漁師に取材として、企業化を進める理由を聞いてみた。

1)販売・ブランド化
漁協経由だと、生産者の顔が見えない。宮城の牡蠣は一緒くたに売られるので、自分たちのブランドを育てようがない。現在の販売には限界を感じている漁師が多い。そこで、良いものを高く売りたい仲間で、共同出荷することでブランドを育てようという思惑がある。

2)外部から窓口が見える
合同会社、株式会社であれば、販売窓口が外から見えるので、新しい取引先が見つけやすいだろう。

3)資金調達で有利
外部から、資金を調達しようにも、一般の銀行は漁業者には金を貸さない。水産関係の経営はブラックボックスなので、仕方が無いだろう。一般企業となって、会計を明らかにすることで資金調達がやりやすくなる。

4)経営感覚が養われる
企業として会計をすることで、これまでどんぶり勘定だった収支を数字で見ることになり、経営感覚が養われる。

デメリット

デメリットとしては、経理など、これまでやっていなかった事務仕事が増えることと、販売の手間(売れなかったときにどうするか)があげられる。共販制度は、価格が安くても、納品すれば自動的に全量販売できた。販売の手間をかけるのが面倒くさい漁師には便利な制度である。自分で売るとなると軌道に乗るまでが大変だろう。

まとめ

企業化や販売提携は、そのための労力が必要となるし、販売リスクもある。跡継ぎがいない年金漁業者は、面倒なことを嫌がるのが常である。彼らのためにも組合の共同販売は今後も必要だろう。一方、跡継ぎがいて、親子で従事している漁業者や、若手の漁業者にとっては、まともな値段で販売をするのは死活問題である。販売については個人で行うのは難しいし、販売窓口も必要になるので、合同会社や株式会社をつくるのは自然の流れだろう。漁民の新しい取り組みを応援したい。

これまで通りに漁協の共販を利用したい人はそうすれば良いし、自らが販売まで手がけたい人間はそうすれば良い。漁協は漁業者のための組合であり、組合のサービスを使うかどうかは漁業者自身が決めること。漁協は漁業者のための組合なのだから、漁民が主体的に新しい取り組みを始めるのを応援すべきである。行政は、漁協との対立構図を煽るような動きはできるだけ避けつつ、地元漁民の声を聴いた上で、淡々と必要なサポートをしてほしい。

公的資金でまき網船を大型化する計画が進行中です


読者からの投稿です。

大中型まき網漁船の大型化について
水産庁は、漁業構造改革プロジェクトにより大中型まき網漁船の大型代船建造に次々補助金をつぎ込んでおります。西日本の沖合で操業できる大中型まき網漁 船の網船を水産庁自身が135トンに制限しているにもかかわらず、境港の大中型まき網漁船について境港の関係者のみで合意が図られたとして250トンまで 大型化するのに補助金を入れようとしています。近隣の関係県、沿岸漁業者には一切相談なしです。この国の水産資源を回復するためには、実稼働している大中 型まき網漁船に対し補償金を出して減船した上でIQ制などアウトプットを規制する施策を導入すべきであるにもかかわらず、日水系など大資本の漁業に対し補 助金を出して大型代船の建造を支援し漁獲能力を増す愚策を行うことにやるせない思いです。これらの動きをなんとか止めることはできないでしょうか。

裏をとったところ、確かに、このような計画が進んでいます。

マイワシ、サバ、アジなど、西日本で大型のまき網で獲るような魚はことごとく枯渇しています。唯一の金づるの、クロマグロも今年はほとんど獲れなかったのだから、少しは反省していると思いきや、大きさが倍の新船を作るとは何を考えているのだか。

誤った経営判断で企業が傾くのは自業自得ですが、それによって、多額の税金が失われます。それ以上に深刻なことは、資源枯渇によって、日本海の離島での生活が成り立たなくなることです。対馬、壱岐、見島、隠岐といった日本海の離島の主要産業は漁業です。クロマグロをはじめとする水産資源を枯渇させて、数少ない産業を破壊すれば、離島に人が住めなくなる。そこで生活している人がいる限り、そうそう韓国人は入ってこれません。日本海の離島が無人島になれば、竹島のように実効占拠されるのは時間の問題でしょう。

離島に人が住んで、生計を立てていけることが、国防の要なのです。戦闘機やイージス艦が幾らあっても、竹島の実効支配は防げませんでした。日本海の国境を守るには、防衛費よりも、漁業管理が重要なのです。この境港漁業構造改革プロジェクトは、単なる税金の無駄遣いにとどまらず、離島の生活を破壊し、将来の領土問題を引き起こす可能性が高いです。このような補助金は納税者にとって百害あって一利なしといえるでしょう。

この手の計画は、内輪で固めた評価委員会をアリバイ的に開き、形式的な検討した後に、すぐに実行に移されるケースが多いです。波崎地区のような問題が多い計画であっても、評価委員は素通しです。すでにレールは引かれているはずなので、時間的にも、これを止めるのは、難しいですね。

資源管理は何も進んでいないのに、構造改革と称して漁船を大きくするのは、国益を損なう、誤った判断です。この計画の最終的な権限をもっている水産庁長官には、なんとしても、思いとどまって欲しいと思います。

カツオ漁業における中国脅威論を分析する


小型化が進行しているカツオの話題です。「去年も記録的な不漁だったが、今年はそれよりも悪い…」ということで、一本釣りの漁業者は危機感を強めています。例によって、産経新聞の中国批判が飛び出しました。

カツオ一本釣りピンチ 中国巻き網漁船が根こそぎ、中大型魚が激減

2010.7.17 20:52

日本の食文化を支えるカツオの一本釣りが危機にさらされている。中国の巻き網漁船が、黒潮に乗って日本近海に北上する前にインドネシア沖の太平洋中西部で、「ツナ缶」用に稚魚や小型カツオを根こそぎ乱獲。一本釣りで捕獲し、かつお節カツオのたたきに使われる中大型魚が激減しているためだ。中国が年内に、1千トン超の最新鋭船を新たに12隻導入することも判明。漁業関係者の間では、早急な漁獲規制を求める声が強まっている。

「中国の巻き網漁船の乱獲がこれ以上進むと、日本近海ではカツオが取れなくなる」

で、中国はどれだけ獲っているの?というと、これだけです。

全体で見ると、こんな感じ。

一部の島嶼国が漁獲を増やしてはいますが、まき網でカツオを一番多く捕っているのは、日本です。

この記事は、水産庁の関係者がプロデュースした世論作り記事と思われます。水産庁は、「大型化の試験操業許可」という名目で3隻の大型まき網船を作り、南方でカツオを漁獲させています。中国のまき網が乱獲なら、これだって立派な乱獲だとおもうのですが、フジサンケイグループは日本のまき網船の建造は絶賛しています。中国の漁獲はねこそぎ乱獲で、日本の漁獲は水産資源を守るためだそうです。わかりやすいダブルスタンダードですね。南太平洋のカツオ・マグロを「日本の水産資源」と言い切るジャイアニズムには、中国もビックリでしょう。

漁場確保へ マルハニチロなどスクラム

水産最大手のマルハニチロホールディングスの漁業子会社や、かつお節メーカーのにんべんなどがスクラムを組み、民間主導で水産資源外交に乗り出すことが 15日、明らかになった。9月にも、非営利団体組織の「南太平洋漁場確保機構」(仮称)を設立し、日本の水産資源を守るため、カツオやマグロの漁場確保な どを進める。

設立する機構は約2億円の資金を手当てし、諸島に水産技術協力を行ったり、冷凍倉庫を建設して、同様に船籍枠の獲得を目指す。民間主導で取 り組みを進めることで、政府に対し、資源外交を強めて中国や韓国、台湾に対抗するよう求めていく。食糧安全保障の観点から、自前で漁場を確保する必要がある。

大洋エーアンドエフ、次世代型巻網船竣工

大 洋エーアンドエフが建造中の大型巻網漁船「第二たいよう丸」が7月22日、竣工する。省エネ、省人化した改革型沖合単船巻網漁船。今村博展社長は「資源と 環境変化に適合する次世代型漁船」と強調する。もうかる漁業創設支援事業の一環として8月2日から北部海域で操業する。24日記者会見した今村社長は、衰 退する日本漁業の現状に対し、沖合、遠洋漁業の再生で持論を展開。中でもカツオ・マグロをはじめ南方漁場の確保のための「南太平洋漁業機関」(仮称)設立 構想などを明らかにしている。

「俺たちが中国に負けずに、カツオを取りに行ってやるから、国も協力しろ」という今村社長に呼応したのが、元水産庁遠洋課のドンである島一雄氏です。海外まき網漁業協会に天下った島氏は、大洋エーアンドエフの南方のまき網漁船を国策としてバックアップしろと、働きかけているわけです。

カツオ節はわが国の伝統食品であり、日では、現在、し烈な資源争奪戦が繰り広げられており、日本の海まき漁船は劣勢に立たされ苦戦しております。国はようやく重い腰を上げ、「第二ふじ丸」はじめ3隻の大型船の建造を許可されたことは後の海外巻網漁業に明るい展望を与えるものあり、一日も早い制度化を希望しています。南方漁場の確保を安定的なものにするため、現在、一部漁船の島しょ国化を進めています。また、今村社長が提唱された「南太平洋漁場確保機構」においても、その実現に向けて協会として取り組みを始めたところです。
海外まき網漁業協会会長 島一雄氏インタビュー(みなと新聞)

海外まき網強化事業は、カツオが小型化したことにより、国内の一本釣り漁業者から、強い批判を浴びています。

研究者は、例によって例のごとく、「資源に問題はない」で通すようです。遠洋水研としては、カツオ資源は悪くないということに自信を持っているような印象を受けます。何らかの情報をつかんでいるのかもしれません。「南方で小型の漁獲が増えているのは、小さい魚が増えているからで、乱獲ではない。来年は、大きくなって日本に来るから、待ってろよ」と何年も言い続けていますが、年々魚は小さくなるばかりです。

【気仙沼】宮城県気仙沼市で四日あったカツオ資源の研修会で、小倉未棊・水産総合研究センター遠洋水産研究所熱帯性まぐろ資源部長が講演後、私見とした上で、南方海域の大型巻網船の漁獲圧力増大は日本周辺に来遊するカツオ資源に影響は与えていないとの見方を示した。
小倉部長はその理由として南方海域(北緯5度ー南緯5度周辺)から日本近海までの距離を指摘。日本近海へ来遊してくる時間を逆算すれば、大型巻網船一の主漁場でない中南方海域(北緯15一25度周辺)が日本近海へ北上するカツオの供給源との考え方を示した。
みなと新聞(2010.2.18)

「中国がカツオを乱獲しているから、日本も税金で大型まき網船を造って、南方に送り込まなくてはならない」という今村-島コンビの言い分は、そもそもおかしいのです。カツオ資源が、中国の乱獲で危機に瀕しているのであれば、必要なのは国際機関による漁獲規制です。日本が、中国と一緒になって大型まき網船をつくっても、事態は悪化するだけでしょう。逆に、資源に余裕があるなら、日本近海に泳いでくるまで待ってから漁獲すれば良いだけの話でしょう。

「中国脅威論を振りかざして、税金で大型漁船を増やして、日本漁業が華やかだった時代よ、もう一度」という、前近代的なビジョンが透けて見えて、うんざりしますね。

The Coveの感想:これはやばい


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映画の感想

「かわいいイルカちゃんを殺す悪い奴らと闘う、僕ら正義の保護団体」というシンプルなメッセージ。「悪い奴は明らか、問題も明らか。あとは実力行使でやめさせるだけ」、ということだ。同じドキュメンタリーでも、食べることの意味を問いかけるOur daily bread(邦題:いのちの食べかた )と比較すると、メッセージの質は低い。しかし、わかりやすさという点では、良くできている。

エンターテイメントとしても、一級だ。世界一のビルを上る男とか、ジオラマ作成専門家とか、いろいろな特技を持った人間が協力してミッションを行うストーリーは単純明快でアメリカン。悪者にされた日本人にしてみれば、かなり不愉快な映画であります。この映画によって、日本人のイメージは確実に悪くなりますね。The Coveの内容についてはこちらのサイトが詳しいです

この映画の価値を決定づけるのは、画像のインパクト。海で大量のイルカを処理すると、湾は文字通り血の海になる。血の海のなかで、もがき苦しみ、息絶えるイルカの画像は、非常に印象的です。さらに、大声で怒鳴り立てながら、すごんでくる日本の漁師が、ヒールとしてツボにはまりすぎ。訳わからん外人が大挙してきて、仕事を邪魔するのだから、短気な漁師が腹をたてるのはわかるんだけど、これでは、「野蛮な日本人」を演じて、映画に協力しているようなものですね。

シンプルかつ、攻撃力のある映画です。見終わった感想としては、「これはやばい」でした。どこが「やばい」かというと、次の二点です。

1)保護団体が、日本の沿岸捕鯨をネタにお金を集める「集金スキーム」を完成させたこと
2)日本の捕鯨推進派は、保護団体の影響力や怖さを軽視して、火に油を注ぎそう

自然保護団体の影響力

保護団体の世界世論にあたえる影響力を、日本人は過小評価をしています。日本のNGO、環境保護団体は脆弱であり、日本国内しか知らない人は、「保護団体なんか、無視しておけば?」と思うのも無理はないでしょう。しかし、海外の保護団体は、資金力・行動力を持ち合わせ、実力で世の中を変えてきた実績がありま す。保護団体の得意技は、一般人の感情に訴えるネガティブキャンペーンです。彼らのネガキャンは強力ですから、保護団体ににらまれると、ネスルや、マクド ナルドのような大企業も、震え上がります。

保護団体の基本的な行動メカニズムは次のようになります。彼らが活動できるか否かは、大衆の感情に訴えかけて、寄付金を集められるかです。寄付金が集まればさらなる抗議行動を行い、更に感情に訴えていく。これが彼らの戦い方です。資金源があるから彼らは戦えるのだし、資金源になるなら彼らは幾らでも叩くのです。保護団体の集金スキームが軌道に乗れば、抗議行動はどんどん過激になっていきます。沿岸捕鯨については、大衆の感情に訴える映像という武器(金づる)を手に入れたことで、集金スキームが完成しました。我慢していれば、過ぎ去っていく一過性の嵐ではないのです。

もう一つ、抑えておくべき点があります。保護団体は、日本人を差別して、日本のみを攻撃しているわけではないです。彼らは、自国の様々な活動も、過激に攻撃してきました。たとえば、自国の動物実験も、激しく攻撃しています。カナダの大学では、環境テロリストの攻撃対象になるということで、動物実験をする建物は、大学の地図に載せていませんでした。15年も前の話です。当時学生だった、私は、恐ろしい人たちがいるものだと驚きました。

我々の感覚からすると、太地のように、わざわざ、見えづらいところで殺しているのを、わざわざ盗撮しにくるのはどうかと思います。でも、そういう理論が通じる相手ではないのです。新薬を開発するための動物実験は、明らかに人類の福祉につながります。実験動物は、実験のために育てられており、実験は大学の研究室のような密室で行われる。それでも、動物の権利を侵害するのは許し難いというのが彼らの理論です。

動物実験の場合、大学側は実験所を隠して、保護団体を排除しようとしたが、うまくいきませんでした。大学内部にも、保護団体のメンバーは大勢いるので、保護団体の情報網から、逃れるのは至難の業です。結局、動物実験については、厳しいガイドラインが整備されることになりました。実験がガイドラインに沿っていない論文は、一切受理されず、業績になりません。「人類の役に立つんだから、何をやっても良い」とは、もはや言えないのです。ガイドラインは、動物実験を行う側の自衛策です。こういった自衛をしないと、保護団体から、いくらでもつけ込まれる。良くも、悪くも、そういう過激な人たち・価値観とも折り合いをつけていかないとならない時代になったと言うことです。

保護団体の攻撃から、どうやって自衛すればよいのか?

欧米の企業・政府は、保護団体に散々叩かれてきたので、保護団体とのつきあい方を知っています。弱みを見せないように、先手を打って、ガイドラインを作ったりするわけです。例えば、マクドナルドでつかう白身魚は、すべてMSCのエコラベル認証漁業のものです。しかし、マクドナルドは、MSCロゴを表にはだしていません。米国の消費者にはMSCは浸透していないので、それほど売り上げには結びつかないのです。では、なぜ、割高のMSC製品を使うかというと、非MSC製品を使うと、「マクドナルドは、乱獲をサポートしている」と保護団体にいじめられるからです。MSC製品のみを使っておくというのは、企業としての自衛策なのです。

保護団体が影響力をもつ国と比べれば、日本はおおらかであり、保護団体に対して無防備でした。イルカの追い込み漁というのは、初めて見たのですが、ビジュ アル的に相当インパクトがありますね。これを映像としてとられてしまった時点で、勝負ありでしょう。わかりやすく言えば、やくざに目をつけられたばかりでなく、弱みまで握られた状態です。

感情的な反応は相手の思うつぼ

捕鯨と反捕鯨は戦争であり、戦争は軍資金がつきたら負けです。捕鯨サイドの兵站は、政府補助金と調査捕鯨の売り上げです。どちらも厳しい状態で、日本鯨類研究所は、鯨肉の在庫の山を眺めながら、爪に火をともして暮らしていたのです。金の切れ目がなんとやらで、「南氷洋から撤退し、沿岸捕鯨で」という方向を探っていました。そのタイミングで、沿岸捕鯨を攻撃して、退路を絶ちに来たわけです。嫌なタイミングで、一番嫌なところをついてきたのは、偶然ではないでしょう。「本当に、保護団体は喧嘩慣れしているなぁ」と感心してしまいます。

一方、日本の捕鯨推進派の行動は、戦略性を欠きます。保護団体を抑えるには、彼らの資金源を抑えること、つまり、大衆の感情を刺激するようなネタを与えないことが重要です。南氷洋のミンククジラは、かわいくないし、身近でもないので、それほど大衆の感情は動きません。これをネタにキャンペーンをしても、大した金は集められない。日本の調査捕鯨に対する保護団体の攻撃は、これまで決め手に欠いたわけです。

しかし、日本の捕鯨陣営は、わざわざ、ホエールウォッチングのシンボルのザトウクジラを調査捕鯨で獲ると宣言して、火に油を注いでしまった。ザトウ捕獲宣言によって、豪州・ニュージーランドでは、保護団体の集金力が大幅にアップして、抗議行動が活発化しました。保護団体は、諸手を挙げて喜んだでしょう。この間の上映抗議だって、やっている人間は映画館の支配人を締め上げて、大満足かもしれませんが、保護団体に「言論の自由もない野蛮な国」と日本を攻撃するための格好のネタを提供しているわけです。感情的な対応をすれば、百戦錬磨の保護団体は、それを逆手にとって攻撃をしてきます。

我々はどう対応すべきか?

この映画によって、日本人のイメージは確実に悪くなります。これを見て不愉快にならない日本人の方が少ないでしょう。しかし、「人種差別だ!!」と騒いで、日本での上映を禁止すればよいというものではありません。また、「おらが村のローカルのことだから、よそ者は口出しするな」というレベルの問題でもありません。日本の国家イメージに関わってくる国際問題です。貿易で成り立っている日本にとって、国家イメージは極めて重要です。国家イメージという、かけがえのない財産を守るためにも、彼らのメッセージを無視せず、感情的にならずに、戦略的に対応を考える必要があります。

日本が捕鯨を続けたいなら、保護団体に日本を攻撃するための材料を与えるないように、自衛策を講じるべきです。まず、種(個体群)、殺し方、利用方法などのガイドラインを作成し、徹底することも重要です。家畜のとさつ以下の苦痛にしたいところです。ビジュアル的に残酷な捕り方は、辞めた方がよいでしょう。また、反捕鯨のシンボルになり得るかわいいイルカは捕獲の対象から外すことも検討した方が良い。ただ、今からそういう自衛措置を講じても、沿岸捕鯨を守 れるかは微妙ですね。血の海でイルカが虐殺される写真は、それだけのインパクトがあります。

太地のイルカ漁は、9月に行われます。そのときに、保護団体がどのような抗議活動をするのか、それが海外メディアでどのように取り上げられるのか。そのあたりに注目したいと思います。

アイスランドの漁業者はなぜ減ったのか?


資源管理反対派は、「資源管理を導入すると、弱小漁業者が淘汰されてしまう」として、ITQ制度の導入に反対している。では、資源管理をしなければ、弱小漁業者は安泰なのかというと、そんなことはない。日本の漁業はベテラン漁師が食っていくのが精一杯であり、とても若者が参入できるような状況ではない。新規加入が途絶え、消滅は時間の問題だろう。

世界に先駆けて、ITQを導入したのはアイスランドとニュージーランドであった。ともに、生活水準の高い、先進国である。ニュージーランドについては、ITQの導入によって、魚を獲る人は減ったが、加工する人が増えいる。ITQ導入後、漁業全体の雇用は増加しているのはデータからも明らかである。また、NZではITQによって、離島の小規模漁業者が生存しているという現実もある。本人たちが言うんだから、間違いない

アイスランドの漁業就業者の人口をまとめると次のようになる。ITQ導入から、現在までをカバーする統計が見つからなかったので、2種類の異なるデータをまとめて表示した。数値自体は近いのである程度のトレンドはこれで追えるだろう。アイスランドの漁業者は、2000年までほぼ横ばいで、その後激減している。ITQを導入したのは80年代のことであり、ITQが原因であれば、もっと早く漁業者が減ってしかるべきだろう。2000年から近年まで、アイスランドは金融バブルにわいていた。漁業者の減少は、より利益が期待できる金融関係のサービス業に労働力が移動した結果である。

ITQ制度では、自らの漁獲枠を売却して、それを元手に事業を始めることが出来るから、労働力の移転のハードルを下げる効果はあるだろう。本人が望んで漁業を離れたのであり、それによって、過剰な漁獲能力が削減でき、社会の生産性が上がる。社会にとっても、漁業者にとっても、悪くない選択だ。日本の漁業者は、船の借金を抱えながら、生産性の低い漁業に縛り付けられて、最後は夜逃げや首つりを余儀なくされる。政府は、過剰な漁業者を維持するために、現金をばらまくようだが、そんな余力は日本の財政にあるんですか。そんな税金の使い方をして、納税者にいったい何のメリットがあるのかさっぱりわからない。

ITQの方が、漁業者にも納税者にも優しい、合理的な社会システムであると思う。

アイスランド漁業の歴史に関するメモ


アイスランドの資源管理の年表

1976より前 禁漁、禁漁区、禁漁期、漁具規制など、様々な規制の併用
1976 ニシン漁業に船別漁獲枠を導入(IQs)
1979 ニシンの船別漁獲枠が譲渡可能に(ITQs)
1980 カペリン(カラフトシシャモ)漁業に船別漁獲枠を導入(IQs)
1984 底魚漁業にITQが導入される。小型船(<6brl)は、ITQの適用除外。
1985 底魚漁業に努力量クオータ(effort quota option)が導入される
1986 カペリンの船別漁獲枠が譲渡可能に(ITQs)
1991 漁業全体が単一のITQシステムで統一される。小型船への適用除外は継続
1991-04 小型船への厳格な努力量規制が導入される
2004 小型船向けの独自のITQ制度が導入される

1976年より前は、今の日本と同じような状態であった。まず、大型船の主要漁業からIQを導入。それを譲渡可能にした。最初から、譲渡の自由度は極めて高かった。1984年に、全ての底魚にITQが導入された。底魚は、アイスランドの漁業生産の2/3を占めている。これによって、アイスランドの主要な漁業は網羅されたことになる。1991年には全ての大規模漁業の制度を統一した。

小型船へはITQの適用除外を行ってきたが、結果として小型船の漁獲能力が急増した。91-04年の間、非常に厳格な努力量規制を行ったが、過剰漁獲を抑えきれず、04年に小型船にもITQが導入された。

資源状態は良好で、漁業は利益を生んでいる。アイスランド人は、日本人以上に水産物を消費するのだが、水産物の自給率2500%である。

アイスランドの漁業制度についてしばしば批判されるのは、寡占化の問題である。これは、ほぼ無規制の売買を認めた結果である。社会的公平性の観点から、現在もITQを続けるかどうかについては議論が続いている。アイスランドの公平性の議論は、日本には当てはまらない。日本では漁業組合が沿岸の排他的独裁権を有しており、そもそも社会的な公平性が存在しないのである。

チャタム島 その3 ~ITQが離島漁村の多神教文化を支えている


では、ITQの具体的な運用について説明しよう。まず、政府研究機関が、資源の持続性を考慮して、商業漁獲枠(TACC)を決定する。TACCと等しい年間漁獲枠(ACE: Annual Catch Entitlement)が、漁獲枠に比例して配分される。ACEは自分で漁獲をしても良いし、他の漁業者に販売しても良い。

チャタム島では、先住民自らが財団(日本の漁業組合みたいな組織)をつくり、自分たちの漁獲枠を運用している。NZの漁獲枠は図のような流れで配分される。協会は、チャタム島海域のアワビの漁獲枠の25%とロブスターの漁獲枠の50%を保持しているので、毎年、アワビとロブスターのTACCのそれぞれ25%および50%のACEが配分される。協会は、島に定住している漁業者に、市価よりも2割ほど安い価格で、ACEの優先販売を行っている。島の漁業者に漁獲枠を販売した後に残ったACEは、外部の漁業者に市価で販売する。財団が島での雇用確保に一躍買っているのである。財団は、漁獲枠の運用益で、病院を建てたり、小学校を新築したりとインフラ整備も行っている。漁獲の利益で、島の生活が成り立っているのである。「資源管理をしなければ漁業が無くなる。漁業が無くなれば、島に人が住めなくなる。」というのは、本当だろう。

ちなみに、NZの先住民は多神教であり、厳しい離島で、昔ながらの伝統を守って、助け合って生活をしている。その生活を支えているのが漁業であり、その漁業の生産性を支えているのがITQなのだ。ITQを導入すると、地域を守ろうとする多神教的な団結心が破壊されてしまうという須能委員の主張は、全く事実に反している。魚や漁業権利権の奪い合いで、地域の団結が崩れ、漁村が崩壊しているのは、むしろ日本の方である。国の有識者代表として、政策を議論する以上、もう少し勉強をして、現実を知った上で、議論をしてもらいたいものである。また、反対する以上は、何らかの現実的な対案を示すべきだ。

もちろん、ITQを導入したら、全てがバラ色になるわけではない。ITQというシステムは、部族で素朴な生活をしてきた先住民にはすぐには理解できなかった。新しいシステムを理解できずに、失敗する生活の糧である漁獲枠を二束三文で手放してしまった者もいた。ITQ導入当初、アワビの漁獲枠のすべてが、島の漁業者に配分された。漁獲枠の大部分は、島外の企業に売却されてしまい、現在も島に残っている漁獲枠はたったの25%だ。漁獲枠の流出は、地域の雇用の観点から望ましいことではない。また、新しい管理システムが導入された当初は、戸惑いと抵抗が合ったようである。ITQ導入当時の政府の漁業視察官は、とても苦労したという話である。

他国の成功から学ぶのと同様に、失敗から学ぶことも重要である。地方の雇用確保のためには、個人ではなく、コミュニティーに漁獲枠を与えるのが良いだろう。また、漁獲枠の流出を予防するために、コミュニティーが所有する漁獲枠の譲渡は禁止し、漁獲枠の利用は、その土地の漁業者を優先すべきである。最初から、今のチャタム島のような形態にしてしまうのだ。その上で、個別漁獲枠制度は、早獲りでは大型船に劣る沿岸漁業が持続的に漁業から利益を出すために必要な制度であることを周知徹底させるべきであろう。

今回のチャタム島の訪問は、驚きの連続であった。いずれは、チャタム島の漁業者と日本の漁業者が、直接対話をする機会を設けたいものである。国や言葉は違えども、同じ漁業者同士なら、伝わることも多いはずだ。NZの制度にも問題は多く残されている。チャタム島の漁業者の口から、NZの漁業制度の良い面、悪い面を教わった上で、日本に何を取り入れ、何を取り入れないかを議論すべきだろう。チャタム島の漁業者たちは、「呼んでくれたらいつでも日本に行って、俺たちの経験を紹介するよ」と言ってくれている。あとは、先立つものが必要なんだが、どこかに旅費がおちていないかなぁ

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