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豊進丸拿捕 ロシアに乗組員解放命令

  • 2007-08-09 (木) 14:46
  • 日記
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先月、ロシアに拿捕された日本漁業者の返還を求める裁判を日本政府が提起しました。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/07/post_162.htmlのコメントを参照)
判決が出たみたいなので、経緯をまとめてみました。


6月3日
「漁業規則違反で拿捕」 ロシア・メディア報じる
http://202.239.162.254/national/update/0603/TKY200706030079.html
http://www.kitanippon.co.jp/contents/knpnews/20070604/5155.html

申告はシロザケとし、実際にはより高価なベニザケを船倉に隠していたことなどによる漁業規則違反が容疑。同当局によると、ロシアのEEZ内で同船を検査したところ、ベニザケの違法な漁獲量は約14トンに上った。これを含め、半加工品の形で船内に保管していた違法な漁獲量は全体で約20トンに上るという。

7月5日
国際裁判所に提訴へ 豊進丸拿捕で政府、乗組員の解放要求
http://www.kitanippon.co.jp/contents/knpnews/20070706/5792.html

国連海洋法条約は拿捕された船舶・乗組員は「保証金が支払われた場合、速やかに釈放される」と規定。しかし、ロシア側は具体的な保証金額も示さないまま、操業違反事件として取り調べる方針。外務省幹部は「国際法のルールを守らない対応だ。裁判に勝つ自信はある」と強調する。

http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/070602.pdf
http://www.itlos.org/start2_en.html

8月6日
豊進丸拿捕 ロシアに乗組員解放命令
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2007080702039242.html

ロシア側の要求の四割減に当たる保証金一千万ルーブル(約四千八百万円)を船主が支払うことで日本側の求めに応じるようロシア側に命じる判決を下した。保証金の支払い後、乗組員らは解放される見通し。ロシア側が提示した保証金額の合理性が争われた裁判は、金額が大幅に圧縮されたことで実質的に日本の勝訴となった。

 同裁判に併せ、昨年十一月に拿捕された北海道の漁船「第53富丸」についても、日本は船体の返還を求めて提訴していたが、同裁判所は六日、すでにロシア側の没収手続きが完了しているとして訴えを退けた。

池田水産は、日本側の訴えが基本的に受け入れられたと評価。「ロシア側は手続きの引き延ばしをせず、速やかに解放してほしい」と話した。一方で、一千万ルーブルの保証金の支払い命令には「漁獲量の帳面を付け間違えただけで、密漁したわけではない」と反発。「密漁船でなくても、拿捕すれば保証金を取れる“お墨付き”をロシア側がもらったようなものだ」と憤った。


ある水産関係者さんの読み通り、「乗組員の早期釈放」は勝ち取りました。
保釈金は、池田水産が払うようです。
違法操業の保釈金が5千万というのは、日本側は想定の範囲だったのでしょうか?
第53富丸は船体が戻ってこないわけだし、「実質的に日本の勝訴」とは、ほど遠いように思うのですが。

しかし、池田水産のコメントはあんまりですね。
シロザケとベニザケは相場が全然違うんだから、間違えるはずがない。
そもそも北洋サケ・マス漁は、「違反しなければ採算に合わない漁業」らしいですが・・・
http://www.asahi-net.or.jp/~DU7K-MCZK/japan/200008.htm

「採算を合わせるためなら違法もやむなし」というのが、日本の一般的な漁業者の感覚だろう。
大中まきなんて、サバの漁獲量が6万トンもTACを超過しても、
水産庁からサバ類を目的とする操業の自主的な停止を求められるだけで、
実質的には、何のお咎めもなしでした。
これで、ルールを守れという方が無茶でしょう。
日本は、IUUに優しい国ですね (^o^

日本の海上保安庁が韓国漁船を拿捕した場合、保釈金はいくらになるんだろう?
相場を知っている人がいたら、教えてください。

Comments:2

ある水産関係者 07-08-09 (木) 22:22

日本政府が拿捕した韓国漁船に課している保釈金(正式には担保金)の相場は通常約50万円、無許可等のどんなに悪質なケースでも200万円程度みたいです(なおEEZ法の上限は1000万円)。
 豊進丸の担保金約5000万円は日本政府が「合理的」として適用している金額の数十倍ですね。さすがIUUに優しい日本、グローバルスタンダードとは大きく乖離。
 このような高額の判決にもかかわらず、「合理的」な担保金を要求してきた日本政府の主張が「ほぼ全面的に認められた」と公言する様は、正に21世紀の「大本営発表」ここに健在!?
 今回の判決について、日本政府は諸手を挙げて自画自賛、富山県知事もヨイショして「政府の真摯な取り組みに感謝」のコメントをしている一方、裁判の真の主役の池田水産からは判決への不満は聞こえても日本政府に対する感謝の言葉など一切無し。
 恐らく日本政府は、漁業者のためではなく自分のために裁判を始めたくて、漁業者に高額の担保金について十分説明することなく、裁判を起こすことに同意させたのだろう。

 今回のITLOSが公表した裁判記録を読めば、日本政府やマスコミが決して語らない「隠された」多くの真実が見えてきます。日本政府の訴状、ロシアの反論、裁判の議事録、判決文などの文書は、ITLOSのHP「http://www.itlos.org/start2_en.html」 の「Proceedings of Judgments」の「List of Cases」、Case No.14を開けば豊進丸関係の文書が見れます(富丸はNo.15)。
(つづく)

ある水産関係者 07-08-10 (金) 21:06

豊進丸の裁判記録から、マスコミや大本営発表によって「隠された真実」を幾つか拾ってみました。

 その1: 裁判記録によると、「ロシアEEZで操業していた豊進丸(割当量:シロザケ85.2トン、ベニザケ85.7トン、ほか)は、6月1日にロシア側から臨検を受け、45トンのベニザケのうち20トンをシロザケとして記録・報告していたために拿捕された。捜査の結果、ベニザケはシロザケの覆いの下に隠匿され、船舶日報の虚偽報告、意図的な虚偽の漁獲量情報の提供、意図的な操業日誌不実記載などが判明した。」となっている。
 日本政府は、国際海洋法裁判所の公判において、「豊進丸の違反は、操業を許可された2種類の魚について操業記録を不正確に書いたこと以外の何物でもない。違反の重大性は比較的限られたものである。参考までに申し上げると、日本政府はこの種の違反を悪質性の低いものとして取り扱っており、他の殆どの国々も同じ扱いをしていると思う。」と、如何にも「IUUに優しい国」日本の取締りがグローバルスタンダードであるかのように証言している。
 これに対し、ロシア側は「今回の違反事件は(単なる操業日誌の記入ミスではなく)、船長が綿密に証拠隠蔽を企てた、詐欺と事実歪曲による高度の計画的犯行である。」と、犯行の核心をつく厳しい証言で切り返している。
 これら日ロ両国の証言を受けた裁判の判決では、これは一切報道されなかったが、「ITLOSは、豊進丸の船長が犯した違反を、単に些細な違反や純粋な技術的ミスであるなどとは考えるべきではないとの見解にある。正確な報告が要求される漁獲量のモニタリングは、海洋生物資源の管理において最も重要な手段の一つである。そのようなモニタリングを実施することは、単にロシア連邦の権利としてではなく、適切な保存及び管理措置を通じてEEZの生物資源が過剰漁獲による危機に晒されないことを確保するための海洋法条約第61条第2項の規定も考慮されるべきである。」と、IUUに優しい日本の立場を断罪し、レポートシステムの重要性を指摘しつつ、資源管理に対する背信行為を厳しく非難している。
 ちなみに、今回の判決に対する大本営発表(http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/080601.pdf)では、例によって、自分たちに都合の良い判決文のみ抜き出し、勝手な解釈を加えて自らの活躍振りを自画自賛している一方、上記のような資源管理政策上、重要な意味を持つにもかかわらず「我が国の主張が全面的に否定された」判決文については、完全に“シカト”している。
 このほか、日本政府は、豊進丸の隠蔽行為を擁護するため、違法漁獲した20トンのベニザケが、当初の割当量の範囲内であったからロシアの資源には如何なるダメージも与えていない、などと証言している。言うまでもなく、これは拿捕されたことによる結果論に過ぎず、違反行為の本質を全く理解していない(出来ない?)詭弁以外の何者でもない。資源管理の総元締めである日本政府が、このような詭弁をITLOSの場で堂々と主張すること自体、もはや「お笑い」の世界であり、日本の資源管理の将来に暗い影を落とす汚点である。
 高価なミナミマグロが、安価なキハダやメバチとして報告されたとしても、日本政府にとっては、さほど重大な違反ではないのだ。こんな国の水産白書で「マグロの乱獲許しません~食卓のマグロを守るために日本がリーダーシップ~」なんて言ってみても、誰が信用するだろうか。

 その2: 実は、日本政府が釈放を要求していた船長以外の乗組員16名は、最初からロシア側に一切拘束されていなかったという。船長についても、7月16日には自由の身になっていた。この情報は、重大な人道上の問題を孕んでいるため、政府の不可解な対応について紹介しておく必要がある。「人道」を振りかざして乗組員の早期釈放を要求していた日本政府の本音とは一体何だったんだろうか。
 これらの情報は、7月15日付のロシア側提出文書や7月20日の公判におけるロシア側証言で明らかになった。日本政府もそれを受けて、ロシア側証言以降、乗組員の解放は要求しなくなった。また、7月23日の最終公判では、当初要求していた乗組員の釈放を完全に取り下げた。この場合、最終判決において、どうして乗組員の解放が謳われたのかという疑問が生じるが、その理由については明確にされていないものの、判決の時点において船長を含む乗組員が船と共にロシア国内に留まっていたため、その解放を確実にするためらしい。
 何れにせよ、もし日本政府のいう「人道」を最優先するのであれば、拘束されていない事実が判明した時点で乗組員の帰国手続きをとるべきであり、そうすれば乗組員全員はもっと早期に帰国できた可能性が高い。現に、ロシアは、船主が「一般的かつ単純な手続き」さえ行えば自由に帰国できるとも証言し、当然ながら日本政府もその話を面前で聞いている。仮に、船の保守・運行要員が必要であったとしても、乗組員17名全員がロシア国内に残る理由はない。日本政府は、公判において、乗組員の精神的ストレスや持病などの人道上の観点からも早期の解放を訴えていた。・にも関わらず、いざ拘束されていないことが判明しても、乗組員帰国のための「一般的かつ単純な手続き」に着手しなかったようだ。・だとすれば、日本政府が訴えた「人道」とは一体、何だったのだ。

 今回の裁判では、秘密でも何でもない情報、即ち、乗組員が拘束されていなかった事実をはじめ、裁判の要求から乗組員解放を外した事実など、全く国民に公表されていない。マスコミも「大本営発表」をそのまま横流ししただけで、裁判記録に踏み込んだ記事は一つたりとも見当たらなかった。
 日本政府がこれら事実関係の公表や解放手続きを怠った理由の背景には、判決直後の一方的な勝利宣言が頭をかすめてならない。この問題は、国民の安全保障にかかわる話でもあり、今後、事実関係と日本政府による対応の真意が明らかにされることを強く希望する。

 最後に、事件の今後の成り行きについて若干触れたい。今回のITLOSによる判決は、あくまでも船舶・乗組員の早期解放と、そのための担保金の金額を示したに過ぎない。判決に拘束力はないものの、ロシア側もこの判決には従うだろう。ただし、今後、ロシア側が国内で正式裁判(欠席裁判)を行うかどうかは、判決とは全く別の話である。
 仮に、ロシア国内で裁判が行われた場合、今回ロシアが担保金として要求した金額と同等の罰金や船体没収等の判決が下りる可能性が十分に考えられる。その場合、担保金との差額は、被告人(船長、船主)に請求されることになり、それが支払われない限り、「借金」の取り立てが続くと共に、被告人は永久にロシア水域で操業できないことになるだろう。

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