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資源回復計画はなぜ失敗するのか?

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TACが意図的に骨抜きにされたことは、周知の事実である。
ただ、管理課@水産庁としても、資源管理が不要だと思っていたわけではない。
管理課は、TAC制度ではなく、資源回復計画を資源管理の中心と考えていた。
たしかに、資源回復計画で乱獲が回避できるなら、TACは骨抜きでも構わないだろうが、
資源回復計画は軒並み転けているのだから、お話にならない。

欧米の資源管理も、日本の資源回復計画も、
漁獲量を抑制しようという方向性は同じであるが、その中身は全く違う。
欧米の資源管理の基本は取り締まりであり、
日本の資源回復計画の基本は補助金ばらまきである。

欧米の資源管理
欧米の資源管理には、乱獲回避という明確なゴールがある。
そのゴールを実現できるように漁獲ルールを決定する。
そして違反は厳しく取り締まることでルールを徹底する。
故意の違反には、一発で免許剥奪、さらには牢屋行きもある。
ルール違反の抑止力となるような強力なペナルティーがあるのだ。

行政「違反をしたらタイホする」
漁業者「本当はもっと獲りたいけど、犯罪者にはなりたくないな」

日本の資源回復計画
補助金をばらまくから、有志が出来る範囲でベストをつくしなさい、というのが基本路線。
「有志が出来る範囲で頑張ればそれでよくて、具体的なゴールはない。
資源管理のためのルールは、行政と漁業者の間の協定であり、罰則規定がない。
管理責任を行政が負わないのである。
漁業者の相互監視が唯一の抑止力となる。
周囲と少し気まずくなることさえ我慢できれば、ルールを破ったもの勝ち。

行政「あめ玉を上げるから、獲るのを控えてください」
漁業者「休漁するから、保証金をくれ」

資源回復計画の正体は、合目性と強制力を欠いた補助金ばらまきであり、
乱獲を抑制するどころか、補助金によって過剰な漁獲能力が温存されるのがオチである。
現にマサバ回復計画では、サバの未成魚を守るために17億円も休漁補償金を払っておきながら、
一方では補助金を払ってサバの未成魚の輸出を振興しているのである。
わざわざ、税金を乱獲資金として提供しているようなものだ。

そもそも資源回復計画の前身である資源管理型漁業だって、
いくつかの卓越した例外を除けば、全く機能していなかった。
資源は減少したという厳しい現実は無かったことにして、
「やらないよりはマシだった」とか、
「意識は高まった」などと自画自賛をしていただけだ。
資源回復計画が失敗することはまず確実であろう。
管理課がTAC制度に強硬に反対し、資源回復計画にこだわる理由は、
あめ玉を配る側にも、あめ玉をもらう側にも痛みがないからだろう。
漁業者のご機嫌を損ねることなく、資源管理をしているポーズができる。
その代償として、資源と納税者の懐が痛むのである。

俺には、補助金ばらまきの資源回復計画には納得できない。
水産資源を排他的に利用する権利を得ておきながら、乱獲で資源を荒廃させたのは漁業者自身である。
なぜ資源を回復させるために、税金をばらまく必要があるのだろう?
むしろ、漁業者が乱獲によって未来の漁業に与えた損害を賠償すべきである。
ルールを破った人間に責任をとらせる欧米の管理の方がスジが通っている。

Comments:2

ある水産関係者 07-10-05 (金) 10:52

何だかんだ言っても、漁業者の権利のみ認めて、その見返りの義務を全く課していない「漁業法」と、消費者にまで注文をつけておきながら漁業者の一方的な保護を謳った「水産基本法」が存在する限り、国民のためになる資源管理は難しいでしょう。
これらの法律にぶら下がって、お役人など、甘い汁を吸う人々がガッチリガードしているからなかなか仕組みは変わりません。
今日の道新ネット版にも興味深い記事がありました。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/53240.html

勝川 07-10-05 (金) 17:18

これは面白いですね。
お手並み拝見と行きたいですが、
どうせ、高木委員提言のあら探しばかりで、まともな対案は示せないんだろうな。

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