マサバ Archive
マサバ貿易戦線異常あり
近年、世界のマサバ市場に変化が起こっている。
下の図はノルウェーから日本に輸出されたサバの重量だ。
1990-2004まで15万トン程度で安定して輸入されてきたのが、
ここ2年間で激減しているのがわかる。
2006年は5万トンを割っており、今年度もさらに低下しそうな見通しだ。
何でこんなに減ったかというと、値段が上がったからだ。
Kgあたり130円程度であった単価が、2005年から倍以上に跳ね上がっている。
値段が上昇したのは、日本以外の国もノルウェーのサバを輸入しだしたからだ。
90年代はほぼ全てが日本に輸出されていたのが、最近は中国や東欧諸国への輸出が増えている。
いわゆる買い負け現象である。
下の図はノルウェーの輸出統計。
日本と中国の輸出が半減しているのに対して、ウクライナとロシアの輸出が急激に増加している。
つまり、日本と中国がウクライナとロシアに買い負けているのだ。
サバの貿易をまとめると次のようになる。
1990年から2004年までは、ノルウェーから日本に年間15万トンのサバが安定して輸出されていた。
それが2006になると次のように様変わりをしている。
日本に流れていたサバが、中国や欧州に輸出されるようになった。
その一方で、日本のサバが大量に安い値段で中国・アフリカに輸出されている。
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おいしいサバ鮨を食べたい
連日、サバのことばかり考えていたら、サバを無性に食べたくなったので、今日の昼ご飯はこれ。
ノルウェー産でした。
ノルウェーのサバは、サバ鮨にするには脂っこすぎる。
最初の2きれはおいしく感じたが、終盤、少しつらかったです。
サバと酢飯の間にショウガや大葉を入れて、すっきりとした食感にしようという工夫は見られたのだが、
どうにもこうにもサバの脂が多すぎる。
やっぱり、ノルウェーのサバは塩焼きが合うと思う。
サバ鮨に関しては、日本のしまったサバの方が絶対に合うと思うのだが、
一定の品質のものを安定供給できるからノルウェー産になってしまうのだろうか?
ノルウェー産のサバ鮨は1000円だったが、隣にあった関サバのサバ鮨は2000円でした。
国産もない訳じゃないんだけど、高すぎて手が出ないですな。
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ノルウェーに日本のサバ市場を奪われた理由
日本のサバ市場は、完全にノルウェーに奪われたのだが、これには理由がある。
ノルウェーは、石油などの豊富な資源を持っているけれど、
エネルギー資源が無くなるのは時間の問題である。
そこで、国を挙げて、持続的な産業を育てようと考えた。
その一つの柱が漁業だった。
先日、このプロジェクトに関わった人から話を聞く機会があったのだが、とても勉強になった。
プロジェクトの根底には、合理的かつ、大局的な戦略があるのだ。
限りある生物資源を持続的に有効利用するためには、
一番高く売れる場所に、一番高く売れるものを計画的に出荷すべきである。
ノルウェーは、(当時は)世界で最も魚を高く買う日本人をターゲットに、
欧州ではあまり消費されていなかったサバを輸出することにした。
ノルウェーのサバ漁業は、最初から日本のサバ市場に最適化されているのだ。
サバの漁獲が日本人が好んで食べるサイズに集中しているのは、そういう訳。
日本市場での価値を高めるために、ポンプで漁獲をし、良い品質で輸出をする体制を整えた。
ノルウェーは、国を挙げて、日本のサバ市場を取りに来た。
そして、日本のサバ市場は、完全にもっていかれてしまった。
日本のサバ市場を巡る競争は、グランドデザインの部分で勝負は決まっていた。
日本市場に最適化されたノルウェー漁業と、行き当たりばったりの日本漁業の差は、
漁業者個人の努力でどうこうというレベルではない。
日本漁業は、負けるべくして、負けたのだ。
日本の漁業関係者は、ノルウェーに自国市場を奪われた理由を真剣に考える必要がある。
日本も、限られた生物資源の生産力を持続的に有効利用するためのグランドデザインを持たなくてはならない。
サバだったら、サバ漁業全体を長期的,総合的に見わたした構想を練るべきである。
獲る前に「どの大きさで獲って、どこに売るのが一番儲かるのか?」という視点を持たないといけない。
とにかく獲れるものを早い者勝ちで獲って、その後で「どうやって売ろう?」と悩んでいる現状が続く限り、
日本漁業は衰退の一途だろう。
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儲かる漁業はどっちかな?
サバの漁獲物の年齢組成を比較してみよう。
ノルウェーは、ICES各区IVのデータ
http://www.ices.dk/marineworld/fishmap/ices/pdf/mackerel.pdf
2歳以上が生鮮用として高価になるのだが、
ノルウェーは2歳以上が81%に対し、日本はたったの13%。
日本人が食べるサバの生産はノルウェー頼みなのだ。
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マサバは何歳で獲るべきか?
0歳の漁獲は資源の無駄遣いであり、絶対に辞めるべきだ。
では、何歳で獲るのがよいだろうか?
獲り方を変えたら、どのぐらい儲かるのだろうか?
今日は、これらの疑問に答えてみよう。
昨日のエントリーに書いたように、大きな魚ほど、高く売れる。
待てば待つほど、個体の価値は増加する。
しかし、自然死亡によって、個体数が減ってしまうので、
あんまり待ちすぎると獲るべき魚が居なくなるかもしれない。
どの年齢で獲るべきかは、「価値の上昇率」と「自然死亡率」のかねあいで決まる。
個体数の減少を補うだけの価値の上昇があれば待つべきだし、
そうでなければ早く獲った方がよい。
マサバの場合は、自然死亡係数は0.4と推定されている。
0歳で加入した個体は、漁業がなければ下の図のように減耗していく。
生残率と単価をかけると次のようになる。
自然死亡の減耗を考えても、成長させてから獲った方が儲かることがわかる。
4歳まではコンスタントに価値が上昇し、その後は頭打ちになる。
0歳から5歳まで生き残る確率は14%だが、個体の値段は235倍になる。
0歳、1歳の漁獲を辞めて、大型個体を獲った方が格段に儲かるのだ。
0歳のサバは、最近中国への輸出が伸びている。
国内で飼料だとkgあたり20円のところが、
中国輸出なら輸送費を引いて50円程度の値段がつく。
まあ、20円も50円も大差がないぐらい、0歳の漁獲は非効率的だ。
現在、体重200gの小サバが漁獲の中心である。
この小サバの漁獲を控えて、4歳で漁獲をするとどうなるかを試算してみた。
4歳まで待つと個体数は1/5になる。
しかし、体重が3倍以上になるので、トータルの重量は約2/3になる。
小サバ3箱が、4歳の大サバ2箱分に相当することになる。
小サバのkg単価は飼料で20円、中国に輸出で50円なので、
それぞれ3箱で900円と2250円になる。
一方、4歳のKg単価は600円なので、2箱で18000円になる。
体重 |
15Kg箱 |
個体数 |
重量 |
値段 |
|
小サバ |
200g |
3箱 |
225尾 |
45kg |
900円~2250円 |
4歳 |
684g |
2箱 |
45.4尾 |
31kg |
18640円 |
つまり、小サバの漁獲をやめて、4歳で獲れば、9~20倍も儲かる。
現在の小サバの漁獲は経済的にみて実に非合理的なのだ。
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獲り方を変えれば、魚の値段は上がる
1992、1996、2003と3回の当たり年があった。
にもかかわらず、未成魚の乱獲で資源増加の芽を摘んでしまい、
マサバ太平洋系群の資源量は今も地を這うような低水準だ。
普通に考えたら、大きくしてから獲った方が儲かるような気がするが、
なんで、未成魚で獲りきってしまうのだろう?
マサバの未成魚はそれほど儲かるものなのだろうか?
マサバの年齢別の体重はこんな感じ。
資源評価票に数値が記載されていなかったので、90年代のデータを引っ張り出してきた。
(図だけじゃなくて、数値も載せてください>担当者殿)
サバは大きさによって、名称と用途が違う。
200g以下は、ジャミと呼ばれて、飼料になる。
200~400gは、塩干し・節・缶詰になる。
400~600gは、生鮮、しめさば、フィーレになる。
600g以上の大サバは、生鮮の高級品だ。
年齢別の個体の値段はこんな感じになる。
小サバは1尾3円だが、6歳になれば1尾1000円になる。
マサバをどういう段階で利用しているかを見てみよう。
2000から2005年の漁獲量を年齢別にまとめると、次のようになる。
飼料・缶詰にしかならない小さいサイズで獲りすぎて、
値段が上がってくる3歳以上は殆ど居ないのだ。
さて、漁獲個体数に個体単価をかけると、年齢別の漁業収益を計算できる。
漁獲尾数と漁業収益を基準化して比較してみよう。
0歳は漁獲尾数はべらぼうだが、収益には殆ど結びついていない。
一方、尾数としては少ない大型個体が収益の大きな割合を占めている。
たとえ、天の恵みで、小サバが大量に発生しても、
食用として需要があるサイズになる前に獲られてしまう。
「サバが豊漁」なはずなのに、スーパーの鮮魚コーナーは
ノルウェー産のサバに席巻されている理由はここにある。
日本の漁業者は、生鮮用として価値が上がるまでの数年を待てないで、
飼料にしかならないような小型のサバを我先にと獲ってしまう。
結果として、消費者が高く買う大型個体は国内では供給できない。
魚離れ?冗談じゃない。
漁業者が乱獲で資源をつぶした結果として、消費者には輸入品に頼らざるを得ないのだ。
また、サバは2歳で一部が成熟し、完全に成熟するのは3歳からだ。
ということで、0歳、1歳で大半を獲り尽くしてしまう漁業をしている限り、
永遠に資源量は低水準のままだ。
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90年代のマサバ資源を振り返る
漁業がマサバ資源の増加の芽をどのように摘んだかを見ていこう。
下の図は、マサバの卵の生残率だ。
90年代以降、それまでよりも高い水準で推移している。
さらに、1992, 1996, 2004年と、加入に成功していることがわかる。
90年代以降、マサバの生産性は極めて高かったのだ。
下の図が毎年の加入資源量(1000トン)である。
加入の成功が起こった年は、周囲よりも飛び抜けているが、
親の量が少ないために、過去のピークには及ばない。
92年や96年のような加入の成功があっても、
未成熟のうちに獲りきっているから、資源の回復に結びつかない。
では、未成熟個体の漁獲を控えて、
92年の卓越年級群が96年の産卵に参加できたらどうなっていただろうか?
この試算を我々のグループが行い、論文として、公開している(俺はそんなに関わってないけど)。
Kawai H., Yatsu A., Watanabe C., Mitani T., Katsukawa T. and Matsuda H. (2002) Recovery policy for chub mackerel stock using recruitment-per-spawning. Fish. Sci. 68: 961-969.
この論文では以下の4つの漁獲シナリオを比較している。
シナリオ0:現状の漁獲
シナリオ1:加入の成功した年の未成魚を保護
シナリオ2:70年代と80年代の平均的な漁獲圧を維持
シナリオ3:シナリオ2より更に55%漁獲率を下げる
91年以降、それぞれのシナリオで漁獲をしていたら、下図のように資源は変動した。
資源管理シナリオ(1-3)は、全て増加している。
92年のまとまった加入(卓越年級群)を、次に加入が成功する96年まで残しておけば、
マサバ資源はかなり回復したのだ。
また、80年代以前の漁獲圧を続けるシナリオ2でも資源はかなり回復した。
90年代以降の早獲り競争を抑えておけば、マサバは高水準に回復している可能性が高い。
90年代以降の未成魚への高い漁獲圧が、資源増加の芽を摘み、資源を低迷させているのだ。
下の図は、資源管理をしたら、漁獲量がどうなったかを示している。
シナリオ0では、1992年のまとまった加入を1993年に獲り尽くした。
資源管理シナリオではここで未成魚を保護するので、漁獲量は上がらない。
その代わり、94年以降に成長させながら徐々に利用していくことが出来る。
そして、96年の加入の成功で、資源が増えると漁獲量は更に増える。
近年は、コンスタントに加入の成功が起こっている。
卓越年級群を次の加入の成功まで残しておけば、マサバ資源は回復するはずだ。
この論文が出る以前は、マサバの減少も全て海洋環境のせいにされていた。
「マサバが増えないのは、自然減少だからしょうがない」というわけだ。
要するに、今のマイワシと同じような状況だったわけだ。
この論文が漁業が資源回復の芽を摘んだことを示したことで、マサバ回復計画へと繋がっていった。
しかし、資源回復のためと称して、漁業者に給料補償金がばらまかれただけで、
現在まで、未成魚獲りきり漁法は以前として続いており、乱獲に歯止めはかかっていない。
マサバの増加に関して面白い現象がわかった。
加入の成功が連続することで、資源は階段状に増加していく。
現在の低水準から、高水準まで増やすには、3回の加入の成功が必要になる。
これをホップ・ステップ・ジャンプ仮説と呼ぶ(今思いついた)。
現在の漁業は、「ホップ」の段階で増加の芽を摘んでいるから、資源はいつまでも低水準だ。
マサバがホップできるうちに、ステップジャンプへとつなげていく必要があるだろう。
1996年は、黒潮が特異的に蛇行した年で、マイワシも大発生した。
マサバ、マイワシとダブルで、大発生したにもかかわらず、
どちらも未成魚のうちに獲ってしまった。
まき網の漁獲能力は驚異的だ。
高い漁獲能力をもつまき網は、しっかりとした管理が必要だろう。
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教科書に載せたい乱獲
さて、マサバの歴史に何が起こったかを振り返るために、
年代別の平均漁獲量とその組成をまとめてみた。
漁獲量が減少するのと並行して未成熟個体の割合が大きくなっている。
典型的な乱獲スパイラルだ。
- 資源が減少する
- 漁獲量を確保するためにより多く獲ろうとする
- 大型個体が獲り尽くされる
- 小型個体の割合が増えていく
- 単価の下落を漁で補うために、ますます多く獲ろうとする→1へ戻る
現在は乱獲が行き着くところまで進行してしまった状態。
卵の生き残りがよい年があると、「豊漁だ!豊漁だ!」と言って、
0歳、1歳の未成熟で根こそぎ獲ってしまう。
確かに、90年代以降のマサバの生産性には目を見張るものがあるのだが、
大中まき網の漁獲能力は桁違いであり、マサバ太平洋系群は完全にフタをされた状態だ。
乱獲によって、
①資源の低迷 ②漁獲組成の小型化 ③漁獲率の上昇
が同時進行し、漁業の生産性が失われる。
管理をしない漁業は生産性が下がるという良い見本だろう。
マサバ太平洋系群は、水産資源学の教科書に見本として載せたいような典型的な乱獲だ。
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さーて、いよいよマサバ太平洋系群ですよ!
ある水産関係者様からコメント欄で教えていただいたとおり、
ちゃっかり期中改定していたみたいですね。
サバ類TACは、58.8万トンから65.5万トンへ、6.8万トン増量
このうち、大臣承認の大中まき漁業は、29.6万トンから33
ただし、大中まきの漁獲量は、水増し後のTACも超過しているので引きつづき休漁中。
というような情勢です。
「サバは豊漁だから、獲っても良い」という意見もあるが、とんでもない。
今のマサバ資源は低水準であり、漁獲はできるだけ控えるべきです。
上の図はマサバ太平洋系群の資源量のトレンドだ。
1980年代から資源が減少し、90年代以降低水準で推移している。
この資源は高水準期には、400万トン程度の資源量があったわけだ。
60万トン程度で「豊漁だからいくら獲っても良い」とはならない。
「マサバ豊漁」というニュースをしばしば見かけるが、
それは近年の超低水準にあっては、例外的にまとまった漁獲があったということに過ぎない。
要するに、あまりに獲れないから、少し獲れるとニュースになるだけで、
本当に豊漁であった70年代と比べると雀の涙なのだ。
そして、注目して欲しいのは親魚の量だ。
近年、バイオマスはでこぼこと変動するが、親の量は安定して超低水準だ。
なぜかというと、まとまった加入があると成熟する前に根こそぎ獲ってしまうからだ。
上の図は年齢別漁獲重量(1000トン)である。
マサバは2歳で一部が成熟。3歳でほぼ全ての個体が成熟する。
90年代以降は、漁獲の大部分を0歳、1歳の未成熟個体が占めることがわかる。
マサバは90年代に2回まとまった加入があった。
92年と96年に親が殆ど居なかったにもかかわらず、大量の新規加入があったのだ。
しかし、「豊漁だ、豊漁だ」といって、0歳と1歳でほぼ獲りつくしてしまった。
マサバは近年増加傾向にあることは間違いない。
しかし、増えだしたらすぐにモグラ叩きように獲り尽くすから、増えようがない。
この漁業を続ける限り、マサバは永久に低水準のままだろう。
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水産物の輸出促進に異議あり
水産白書で一番あきれたのは、水産物の輸出促進。
ダイジェスト版の5,6ページを読んで、唖然としてしまったよ。
なんで、よりによって小サバなのか。
サバの資源回復のために休漁補償金をばらまいているのに・・・
低迷しているマサバ資源を完全にダメにする気なのか?
豊漁貧乏状態のサンマの輸出促進をするなら、大賛成だ。
しっかりとした規格に沿って船上冷凍をすれば、それなりの値段で売れるだろう。
サンマは、今の資源状態なら、当面はガンガン獲っても問題はないはずだ。
緊急提言
低水準資源の輸出は禁止して、高水準資源の成熟個体の輸出促進をすべきである
(小サバやスケソの輸出は禁止して、サンマの輸出促進をすべきである)
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