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その他 Archive
みなと新聞をようやく読みました
- 2007-08-02 (木)
- その他
みなと新聞の実物が届いた。
連載が終わってから、ようやく現物を目にすることになった。
いきなり、1面に
今の政策では「漁業は廃れる!!」
とあって、その下の俺の顔写真。これは凄い。
やるなぁ、みなと新聞。
自分の文章を読み返してみると、やっぱり専門バカの硬い文章だと思った。
これじゃ、一般の人には伝わらないだろうなという箇所も多い。
まあ、原稿を落とさずに最後まで書ききるのが今の実力では精一杯だったわけだが、
今後の課題は多い。
俺が考える水産研究者の役割は、
「現在の漁業の問題点を明らかにして、打開策を論じること」。
ただ、これを実行するのは、並大抵のことではない。
漁業の問題点を指摘しようと思うと、きちんと勉強をした上で、
ロジックをしっかりと組み立てないとだめ。
反論を覚悟した上で、反論に耐えうるような文書を書く必要があるのだ。
一方、漁業を褒め称えるだけなら、どんないい加減なことを書いても、
どこからもクレームはつかない。楽な商売だ。
でも、それでは実学研究者としての義務を果たしているとは言えないだろう。
我々の役目は漁業者にこびへつらうことではなく、
漁業全体をよりよくしていくためのビジョンを提供することなのだ。
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小サバの輸出によって得たものと失ったもの
小サバの輸出によって短期的な収益は増えるのだが、
その代償として失われたものが2つある。
大きくしてから獲った場合に得られた収益と産卵である。
小サバ輸出の是非を問うために、これらの失われたファクターを定量的に評価してみよう。
2000から2006年までの漁獲を合計すると次のようになる。
漁獲尾数(10^5) | 個体単価(円) | 漁獲収益(億円) |
13026 | 4.2~6.9 | 54~90 |
9381 | 44.8 | 420 |
2004 | 131.2 | 263 |
696 | 217.4 | 151 |
406 | 410.3 | 167 |
106 | 650.6 | 69 |
53 | 967.1 | 51 |
ここから近年の漁獲パターンがわかる。
小サバ(0歳)を輸出すると、輸送量が20円かかるが、
KGあたり70円で売れるので、全体として50円の儲けになる。
一方、国内で餌料になると30円の儲けにしかならない。
国内餌料だと個体単価が4.2円のところが輸出をすれば6.9円に跳ね上がる。
6年間の漁獲金額としては54億円が90億円に増える計算になる。
小サバの輸出で、マサバの生産金額はこんなに増えました!!
もともとタダ同然の0歳魚の値段が少し上がったところで、大した儲けにはならない。
しかも行く先がアフリカと中国では、値段が上がりようがない。
それでも、獲った人と輸出をした人の手元にはなにがしかの金額が残る。
ただ、その代償として何が失われたかを考える必要がある。
現状と比較するために、次の2つの漁獲パターンを考えてみよう。
0歳禁漁シナリオ:現状の漁獲圧を維持したまま、0歳魚のみを禁漁にした場合
70-80年代シナリオ:70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけた場合
0歳禁漁シナリオは0歳魚の漁獲の影響を評価するためのシナリオであるが、
実際に0歳のみを完全に禁漁するのは技術的に不可能だ。
ということで、70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけたらどうなるかも合わせて計算した。
過去に実際にやっていた獲り方なら技術的にも可能だろう。
結果にはほとんど影響がないので、0歳はすべて中国に輸出するものとして計算をした。
国内で餌料として消費する場合は、0歳の収益が3/5になります。
細かい計算結果は、一番下の続きを読むをクリックしてください。
漁獲尾数はこんな感じになる。
現状では0歳の漁獲が突出しているが、それを無くすと1歳以降の漁獲尾数がまんべんなく増える。
また、70,80年代は1歳もそれほど獲っていなかったので、2歳以降の漁獲の割合が増える。
この場合の漁獲高はこんな感じになる。
殆ど利益にならない0歳の漁獲を控えると、漁獲高は1211億円から1726億円へと跳ね上がる。
0歳魚を1億円分漁獲すると、漁業全体の利益が5.7億円失われる計算になる。
利益率の低い1歳の漁獲も抑制することで、さらに漁獲高は増加する。
最近の早獲り競争が如何に資源の生産力を無駄にしているかが良くわかる。
次に再生産を見ていこう。
漁獲のタイミングを遅らせると、その分だけ産卵に関与できる個体数が増える。
0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍になる。
また、昔の漁獲だと、産卵量は倍以上に増えたのである。
以上の結果をまとめてみよう。
小サバ(0歳)は、国内で餌料になるとKGあたり30円にしかならない。
これを中国に輸出すれば、送料を引いてもKGあたり50円の売り上げになる。
輸出によって、6年間の売り上げが54億円から90億円へと利益が増える計算になる。
0歳魚の漁獲によって90億円を稼ぐ代償として、全体の利益が515億円失われた。
0歳魚を1億円輸出すると、マサバ漁業全体の利益が5.7億円失われるのだ。
また、0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍に、昔の獲り方をしたら2倍以上に増えたこともわかった。
つまり、小サバの輸出によって、特定の人間が短期的利益を得る代償として、
マサバ漁業全体の利益が大きく損なわれている。
さらに、未成魚の乱獲で資源の再生産能力を著しく損なうことで、
マサバ資源の回復の芽を摘み、漁業の未来を奪おうとしているのだ。
また、70年代、80年代には、かなりまともな漁業をしていたことがわかる。
後先考えずに獲れるものを獲れるだけ獲り尽くす漁業を続けた結果として、
資源も、漁業もここまで酷くなってしまったのだ。
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近年増加する小サバの輸出
ノルウェーのサバに関しては、ロシアウクライナへの買い負けが続いている。
値段が上がっている中で消費が伸びているので、今後もこの傾向は続くだろう。
また、中国も日本と同じ程度の購買力がありそうなので、
1990年代のようにノルウェーのサバを日本が独り占めできない状況だ
買い負け現象は、国内のサバ漁業が日本のサバ市場を取り返すための絶好のチャンスである。
しかし、サバは0歳1歳といった未成熟なうちに乱獲されているせいで、
日本の生鮮市場に十分な個体を提供できる状況にない。
このまま買い負けと国内資源の乱獲がつづけば、日本人はサバを食べられなくなる。
サバの供給がとぎれて、サバ食文化の壊滅するという最悪のシナリオは避けないといけない。
今後、中長期的な時間スケールで日本のサバ市場の空白化が進むはずであり、
この空白を日本のサバで埋められるように関係者は準備を始める必要があるのだが、
現状では正反対の方向に走っている。
この図は、日本のサバの輸出量である。近年、急速に伸びていることがわかる。
2006年には18万トン。これは国内の漁獲量の1/3程度を占める。
一方、Kg単価は次のようになる。
2002年までは、ノルウェーと大差がない単価がついていたが、
2003年以降は、小サバの輸出の増加により70円程度に低迷している。
世界的な値上がり傾向とは逆に、日本のサバの値段は下がっているのだ。
小型個体の価値は世界市場でも低く、飼料よりはましという値段しか付かないからだ。
現在低水準にある資源の未成魚を二束三文で輸出してよいのだろうか?
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第2日 おしょろまる
- 2007-06-15 (金)
- その他
太平洋学術会議というところで順応的管理に関する講演をした。
反応はなかなか良かった。
発表はうまくいったし、質疑応答も何とかこなしたのだが、
総合討論で話を振られて、ぐだぐだに・・・・
MSYにもいろんな定義があるから、そこをクリアにしないと議論がかみ合わないと言いたかったのだが、
どこまでつたわっただろうか?
http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/study/docs/msy/
世界中の資源関係者は同じようなことに悩まされているんだなと思った。
MSYへの批判が相次いだのだけど、資源管理の失敗をMSYのせいにするのはどうかと思う。
日本のTAC制度が破綻しているのは、ABCの推定制度の問題ではなく、
ABCを無視して過剰なTACが設定されているからである。
管理システムよりもむしろ制度の運用でつまずいている。
それは漁業者の管理に失敗しているからだ。
その後、北大のおしょろまるという船でレセプションがあり、
前所長の小池先生(現琉球大)と日本の研究の行く末について語り合った。
大学も変化の時代の中で難しい舵取りを迫られているようだ。
研究活動という本分も大切だが、研究をするための場所を良い状態に保つ努力も必要だ。
東大海洋研の研究環境は恵まれているのだが、それも先人の努力のたまもの。
俺も少しは組織のために自分に何ができるかを考えていく必要があると思った。
松田さんと、ネットに文章を公開することの難しさについて話す。
読者に不快感を与えないようにと諭される。
松田さんは、いろいろな場所でメッセージを発し続けている人だし、
俺の人となりも知っているので、このアドバイスは重要だ。
しかし、俺には読者の不快感というのがいまいちぴんとこない。(そこが問題なのか?)
俺は自分の信念に基づいて書くべきであり、
それをどう評価するのは読者次第だと思っている。
このブログの読者もいろいろいるのだが、
もっともアクセスが多いのがmaff.go.jpだったりする。
今の水産行政を見る限り、水産庁万歳とは書けないナリ。
しかし、15年で生産力が半減したことからもわかるように、
日本漁業は明らかにうまくいっていないのだ。
漁業にすり寄って、「日本漁業万歳」ということを言う研究者も多いが、
俺はそれには同調できない。
たしかに日本漁業独自のいい面もあるが、問題点も山積みだ。
現在の漁業の問題点を明確にした上で、
具体的な改善案を示していくのが研究者の義務だろう。
ただ、耳にいたいことを言う以上、表現にはもうちょっと気を遣うべきかもしれない。
うむ、そういうことだろうと解釈をしておこう。
「俺がこの世でただ一つ我慢できんのは―――鍵をかけ忘れた小型トランクだ!(ハートマン軍曹)」
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マサバ貿易戦線異常あり
近年、世界のマサバ市場に変化が起こっている。
下の図はノルウェーから日本に輸出されたサバの重量だ。
1990-2004まで15万トン程度で安定して輸入されてきたのが、
ここ2年間で激減しているのがわかる。
2006年は5万トンを割っており、今年度もさらに低下しそうな見通しだ。
何でこんなに減ったかというと、値段が上がったからだ。
Kgあたり130円程度であった単価が、2005年から倍以上に跳ね上がっている。
値段が上昇したのは、日本以外の国もノルウェーのサバを輸入しだしたからだ。
90年代はほぼ全てが日本に輸出されていたのが、最近は中国や東欧諸国への輸出が増えている。
いわゆる買い負け現象である。
下の図はノルウェーの輸出統計。
日本と中国の輸出が半減しているのに対して、ウクライナとロシアの輸出が急激に増加している。
つまり、日本と中国がウクライナとロシアに買い負けているのだ。
サバの貿易をまとめると次のようになる。
1990年から2004年までは、ノルウェーから日本に年間15万トンのサバが安定して輸出されていた。
それが2006になると次のように様変わりをしている。
日本に流れていたサバが、中国や欧州に輸出されるようになった。
その一方で、日本のサバが大量に安い値段で中国・アフリカに輸出されている。
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日はまた昇る?
- 2007-06-14 (木)
- その他
俺は海のそばで地先のサバを食べて育った人間であり、
旬のサバは相当においしい魚であることを知っている。
だから、日本のサバは、日本人がおいしくいただくのが筋だいう信念がある。
中国に二束三文で投げ売りすべき魚ではない。
実は、日本のサバ市場を取り返す千載一遇のチャンスが到来しているのだ。
おそらく5年以内に大きな動きがあり、10年後には結果が出るだろう。
しかし、今のままではそのチャンスを無駄にして、
日本のサバ漁業は沈没していくだろう。
どうすれば、このチャンスを活かすことができるのか?
関係者で知恵をしぼり、それを行動に移さないといけない。
日本のサバ市場を日本のサバが取り返すためのシナリオと、
そのために解決すべき課題について論じてみよう。
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第1日 まいっちんぐ
- 2007-06-13 (水)
- その他
そろそろプレゼンを始めた当初のような感性が薄くなってきた。
ということはどういうことかというと
「変な発表をしたらどうしよう?」という危機感にさいなまれなくなり、
とりあえず、ガツンとかましてみようと達観できるようになった
ということである。
言い換えると破れかぶれに慣れてしまったのかもしれない。
ちょうど10年目くらいか。
これは興味深い収穫^^
今日はホテルで明日のプレゼンの準備をしつつ、
そうだ、京都に行こう、などと考えていた。
「知者は惑わず仁者は憂えず勇者は懼れず(孔子)」
他人のブログを真似するのは難しい^^
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ノルウェーに日本のサバ市場を奪われた理由
日本のサバ市場は、完全にノルウェーに奪われたのだが、これには理由がある。
ノルウェーは、石油などの豊富な資源を持っているけれど、
エネルギー資源が無くなるのは時間の問題である。
そこで、国を挙げて、持続的な産業を育てようと考えた。
その一つの柱が漁業だった。
先日、このプロジェクトに関わった人から話を聞く機会があったのだが、とても勉強になった。
プロジェクトの根底には、合理的かつ、大局的な戦略があるのだ。
限りある生物資源を持続的に有効利用するためには、
一番高く売れる場所に、一番高く売れるものを計画的に出荷すべきである。
ノルウェーは、(当時は)世界で最も魚を高く買う日本人をターゲットに、
欧州ではあまり消費されていなかったサバを輸出することにした。
ノルウェーのサバ漁業は、最初から日本のサバ市場に最適化されているのだ。
サバの漁獲が日本人が好んで食べるサイズに集中しているのは、そういう訳。
日本市場での価値を高めるために、ポンプで漁獲をし、良い品質で輸出をする体制を整えた。
ノルウェーは、国を挙げて、日本のサバ市場を取りに来た。
そして、日本のサバ市場は、完全にもっていかれてしまった。
日本のサバ市場を巡る競争は、グランドデザインの部分で勝負は決まっていた。
日本市場に最適化されたノルウェー漁業と、行き当たりばったりの日本漁業の差は、
漁業者個人の努力でどうこうというレベルではない。
日本漁業は、負けるべくして、負けたのだ。
日本の漁業関係者は、ノルウェーに自国市場を奪われた理由を真剣に考える必要がある。
日本も、限られた生物資源の生産力を持続的に有効利用するためのグランドデザインを持たなくてはならない。
サバだったら、サバ漁業全体を長期的,総合的に見わたした構想を練るべきである。
獲る前に「どの大きさで獲って、どこに売るのが一番儲かるのか?」という視点を持たないといけない。
とにかく獲れるものを早い者勝ちで獲って、その後で「どうやって売ろう?」と悩んでいる現状が続く限り、
日本漁業は衰退の一途だろう。
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マサバは何歳で獲るべきか?
0歳の漁獲は資源の無駄遣いであり、絶対に辞めるべきだ。
では、何歳で獲るのがよいだろうか?
獲り方を変えたら、どのぐらい儲かるのだろうか?
今日は、これらの疑問に答えてみよう。
昨日のエントリーに書いたように、大きな魚ほど、高く売れる。
待てば待つほど、個体の価値は増加する。
しかし、自然死亡によって、個体数が減ってしまうので、
あんまり待ちすぎると獲るべき魚が居なくなるかもしれない。
どの年齢で獲るべきかは、「価値の上昇率」と「自然死亡率」のかねあいで決まる。
個体数の減少を補うだけの価値の上昇があれば待つべきだし、
そうでなければ早く獲った方がよい。
マサバの場合は、自然死亡係数は0.4と推定されている。
0歳で加入した個体は、漁業がなければ下の図のように減耗していく。
生残率と単価をかけると次のようになる。
自然死亡の減耗を考えても、成長させてから獲った方が儲かることがわかる。
4歳まではコンスタントに価値が上昇し、その後は頭打ちになる。
0歳から5歳まで生き残る確率は14%だが、個体の値段は235倍になる。
0歳、1歳の漁獲を辞めて、大型個体を獲った方が格段に儲かるのだ。
0歳のサバは、最近中国への輸出が伸びている。
国内で飼料だとkgあたり20円のところが、
中国輸出なら輸送費を引いて50円程度の値段がつく。
まあ、20円も50円も大差がないぐらい、0歳の漁獲は非効率的だ。
現在、体重200gの小サバが漁獲の中心である。
この小サバの漁獲を控えて、4歳で漁獲をするとどうなるかを試算してみた。
4歳まで待つと個体数は1/5になる。
しかし、体重が3倍以上になるので、トータルの重量は約2/3になる。
小サバ3箱が、4歳の大サバ2箱分に相当することになる。
小サバのkg単価は飼料で20円、中国に輸出で50円なので、
それぞれ3箱で900円と2250円になる。
一方、4歳のKg単価は600円なので、2箱で18000円になる。
体重 |
15Kg箱 |
個体数 |
重量 |
値段 |
|
小サバ |
200g |
3箱 |
225尾 |
45kg |
900円~2250円 |
4歳 |
684g |
2箱 |
45.4尾 |
31kg |
18640円 |
つまり、小サバの漁獲をやめて、4歳で獲れば、9~20倍も儲かる。
現在の小サバの漁獲は経済的にみて実に非合理的なのだ。
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