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桜本文書を解読する その1

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「科学的根拠に基づく資源管理」は科学的か?

東京海洋大学 海洋科学部教授
桜本和美

 規制改革会議の第3次中間とりまとめが公表された。その中の③「水産業分野」の水産資源管理に関連する部分には、「科学的根拠に基づく資源管理」の重要性が繰り返し強調して述べられている。しかし、その論理展開は極めて非科学的で、基本的な認識と概念において意図的とも思われる重大な誤りがある。紙面の関係もあるので、上記の事項に絞って意見を述べたい。

一部のデータから全体的な結論を導くことの非科学性
第 3次中間とりまとめ60ページ「図表2-(1)-④ 減少が著しい魚種別漁獲量の推移」では、漁獲量の減少が著しい例として、スケトウダラ、キチジ、アマダイ、タチウオ、マサバ、マダラの6種について 1971年から5年ごとの漁獲量の変遷を示し、「我が国の水産資源の状況は危機的状況であるといっても過言ではない。」と断言している。しかし、上記の表の引用元である「我が国周辺水域の漁業資源評価(平成19年度版)、水産庁」には、52魚種90系群にもおよぶ資源状態が記載されている。これをみると、確かに半数近い43系群が低水準にあり、決して好ましい状況ではないが、見方を変えれば、半数以上の系群が中位(32系群)または高位水準(15系群)にあり、決して危機的状況というわけではない。そもそも、高位の資源もあれば、低位の資源もあるという状態が自然界の常態であるともいえるので、すべての資源を中位または高位水準に維持しようとしてもそれは無理というものである。高位・中位・低位にある資源の割合がどの程度であれば、自然な状態かを判定することは容易ではないが、少なくとも、わずか6魚種の極めて低水準にある資源のみを示して「我が国の水産資源の状況は危機的状況である」という結論を導き出すという論法はどう見ても科学的ではないし、意図的な悪意すら感じられる。

昭和27年には、沿岸漁業で250万トンも獲っていたが、現在は150万トンまで落ち込んでる。
昔の統計は精度が低く、数えこぼしがあったことを加味すると、漁獲量はさらに減っているはずだ。
魚群探知機などの発達で、低水準の資源を効率的に獲れるようになったことを考慮すれば、
海の中の魚がどれほど減ってしまったのか想像もつかない。

残念ながら、日本で統計が整備されたのは1980年代以降であり、
それ以前のデータは精度に問題がある。
日本には、本当に魚が多かった時代のデータが無いのだ。

ただ、日本近海の魚が減っていることは、年配の漁師や釣り人を捕まえて、
昔話を聞いてみれば、明らかだろう。
彼らは誇張を交えながら、日本の沿岸がいかに豊かな海だったか、
そして、いかに魚が減ってしまったかを教えてくれるはずだ。
50年前と比べれば、比較しようがないほど、魚は数も減ったし、サイズも小さくなっている。
回復したと言われる京都のズワイガニにしても、
昔はいくらでも獲れたから、つぶして畑の肥料にしていたのである。
資源管理で多少回復したとはいえ、昔の水準にはほど遠いのだ。

水研センターは過去15年間の資源変動をつかって、水準の評価を行っている。
こんな感じで過去15年の資源量推定値の最大値と最小値を3等分し、
最近の資源量が高位、中位、低位のどこにくるかで、水準を判断している。
img08091204.png
15年前と言えば、すでに魚は減った後だ。
すでに魚が減ってからの水準で、高位とか、中位とか言っているのであり、
終戦直後の自然に近い水準と比較すれば、ほとんどの資源が低位といえるだろう。

また、この判断基準で低位が多いと言うことは、
過去15年程度のスケールで減少傾向にある魚が多いことを意味する。
減りきった上に、さらに減り続けているのである。
低位43,中位32,高位15種を図にしてみるとこうなる。

img08091202.png
もし、日本周辺の水産資源が全体として安定ならば、高位と低位は同じ割合になるはずだ。
低位と高位の頻度にこれだけ差があれば、
低位と高位の確率が等しいという仮説は容易に棄却できる。
日本近海資源が全体としての減少傾向にあることは明らかだ。

決して好ましい状況ではないが、見方を変えれば、半数以上の系群が中位(32系群)または高位水準(15系群)にあり、決して危機的状況というわけではない。

桜本氏は、「好ましい状況ではないが、危機的ではない」という認識のようだ。
すでに多くの漁業経営体は危機的な状況にある。
さらに資源が減ったら、漁業が産業として成り立たなくなるという可能性が高い。
現在、低水準にある、スケトウダラも、マイワシも、確かに種として絶滅はしないだろう。
しかし、漁業が成り立たなくなれば、水産資源とはもはや呼べないはずだ。
産業として成り立つかどうかの瀬戸際にある漁業がたくさんある。
魚が捕れなくなって、困っている漁業者がたくさんいる。
こういう状況を何とか打破したいと危機感を持つのは、水産研究者として当然だろう。

また、水準の定義から考えれば、高位と低位の比が重要であり、
高位と中位を合わせて半分あるから良いなどという理屈は成り立たない。
低位資源がその3倍もあることを無視して、「高位資源が存在するから問題ない」と主張するのは、
一部の例外から、全体の結論を導きだす非科学的な論法である。

すべての資源を中位または高位水準に維持しようとしてもそれは無理というものである
と指摘をしているが、そんなことは当たり前である。
そもそも、低水準資源を無くせという無茶な主張をしている人間などいない。
規制改革の文書のどこにも、そんなことは書いてないのである。
改革サイドは、低水準に大きく偏った現状に危機感を持っているのである。
改革サイドの発言をねじ曲げた上で反論する、という論旨のすり替えが、この後も繰り返されている。
「改革サイドは無茶な要求をしている」という印象を、読者に植え付けようという意図であろうか。

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業界紙速報 08-09-18 (木) 19:01

複数の漁獲シナリオに基づくABCを提示
 全国資源評価会議始まる、マサバ太平洋系群は3通り

来年のTAC魚種の資源評価に関する全国会議が17日、農水省講堂で始まった。水産庁の委託により水産総合センターがまとめた資源評価結果を水研の研究者が説明し、意見交換する場で、17日はマアジ、マサバ、ゴマサバ、マイワシが取り上げられた。今回の資源評価では、TAC制度に関する有識者懇談会の議論を踏まえ、複数の漁獲シナリオに基づくABC(生物学的許容漁獲量)が提示された。TACの設定に当たっては、資源状態、漁業の実情などを踏まえ適切なABCが選択される。
マサバ太平洋系群では、①漁獲圧を減らし親魚量増大②5年でB limit(親魚量45万トン)へ回復③10年でB limitへ回復(=現状の漁獲圧維持)の3つのシナリオに基づき、2009年のABCとして①9万5千トン②15万トン③18万6千トンが示された(2008年のABC12万3千トン)。マサバ太平洋系群の資源状態は低水準で横ばい。2004年級群の加入水準は高く、2004年~2007年の資源量は近年では高い値で推移した。2007年級群も加入尾数24億尾程度と、近年では高水準とみられるが、2008年級群は今のところ2005年並と判断され、あまり期待できないとされている。
質疑では、まき網業界代表から「北部まき網の7~8月のマサバの漁獲は休漁しながらでも過去5年の最高水準となっている」と2007、08年級群の資源量が過小評価されている可能性を指摘、水産庁に早期に評価の見直しを要望した。別のまき網業界代表からは「2007年級と2008年級の計算の仕方には一貫性がみられない。数字が大きくならないよう恣意的に操作しているとしか思えない」と研究サイドへの不信感が表明された。座長をつとめた香川水産庁漁場資源課長は「議論の積み重ねが必要」と指摘した。18日はスケトウダラ、スルメイカ、ズワイガニ、サンマが取り上げられる。

とある業界紙の本日付記事です。この会議については、水産庁のHPには載ってないんですね。しかし、TACの設定に当たっては諸般の事情を勘案して適切な(?)ABCを選択する、とはどういうことか、理解できません。マサバ太平洋系群は親魚量45万トンを目標に資源管理しているはずなのに、回復させる年限でABCを変化させるのは変だと思うけどなあ、小子の頭が悪いんでしょうね。燃油も高騰していることだし、ここはやっぱり18万トンは必要だ、ということになるんでしょうかね。
しかし、まき網業界代表さんのものの言い方はすごいなあ。やっぱり「漁獲を抑えてきたけど魚はいっぱいいるじゃねえか、もっと獲っていいだろう」という構図なのかなあ。計算の仕方に一貫性がみられない、というからには科学的に考えているってことでしょう、そのひとに「恣意的にデータ操作している」と言われて、研究者サイドは黙っていたんでしょうか。この会議もTACを設定するときにはリファーされるんでしょうね。寒い。
明日、サンマのことは記事になるかしら?

業界紙速報 08-09-19 (金) 19:32

きょうのみなと一面に『「マサバ07年級群資源再評価を」全まき、北まきが見直し求める』という記事が中心で、以下の記事が後に続いて載っています。まき網業界は、豊漁なんだからもっと獲りたい、という主張なんでしょうか?07年級群の当初の評価が外れたと認めろ、ということなんでしょうが、だからなんだと言うのでしょうか?現在のマサバ資源管理方策では親魚量を45万トンにすることを目標にしているのではないのでしょうか?それは合意されたものではないとでも言うのでしょうか?たくさん獲れているなら、管理措置に応じてもらっている補助金はどんな性格のお金なんでしょうか?まあ、いいや。次のくだりにサンマに関する記述があります:

マサバ太平洋系群 ABCに約12万トンの幅
TAC(漁獲可能量)制度の運用改善に向け、17、18日に農水省であった全国資源評価会議で、今年度から新たにTAC対象魚種に複数のABC(生物学的許容漁獲量)が提示された。マサバ太平洋系群では、4つのシナリオに基づき4つのABCを提示、最小値9万5千トンから最大値22万1000トンと大きな差が出た。
 それぞれのABCについて、5年後にB limit(資源回復措置の発動がなされる資源量あるいは産卵親魚量の閾値)へ回復するパーセンテージも併せて提示することで、関係者間の合意形成の促進を図っている。同会議で報告された主な魚種の漁獲シナリオとABCは次の通り。
…(中略)…
 ▼サンマ太平洋北西部系群①現状の漁獲圧を維持2009年ABC27万7000トン②親魚量の悪影響を与えないと考えられる漁獲圧・同60万3000トン③親魚量の悪影響を与えないと考えられる漁獲圧その2・同83万6000トン④親魚量の悪影響を与えないと考えられる漁獲圧その3・同110万7000トン。[原文ママ]

昨日の業界紙と異なり、マサバ太平洋系群のABCは4つ提示されたとしている。オリジナルを見たいものです。小子注目のサンマ。わけわからないです。①は生産調整の現状維持であってABCとは言えないのでは?むしろ、TACと言った方がわかりやすくないかしらん?そして、②以下の数字。どんな意味があるのでしょうか?「なんだ、青天井で獲っていいんだ」という声が聞こえてきそうな、嫌な感じ。

ところで、とある業界紙の本日版にはスケトウのことが載っています。スケトウは日本海北部、根室海峡、オホーツク海南部、太平洋の4系群で構成され、このうちオホーツク海南部と根室海峡については今年からABCの算定を中止するとのこと。この2系群は分布の主体がロシア水域にあり、ロシアの操業実態が不明で資源構造が十分解明されておらず、資源管理効果の判定ができないためと説明している、とあります。サンマはいかがなものなんでしょうか?

業界紙速報 08-09-22 (月) 18:43

全国資源評価会議について、きょうは水経と水産通信に記事があります。水経の扱いは小さく、「記者席」というコラムと同じくらいの分量です。しかし、記事の最後に『今回の漁獲シナリオを参考として、11月に21年度TACを設定する。』とあります。ほかの業界紙にはない記述ですが、水経の業界紙内における地位から察するに、限りなく事実に近いと思われます。
しかし、今回の漁獲シナリオったって複数提示してるんですけど、どのように「参考」とするのでしょうか、前々から気になっているので教えてほしいです。

きょうもオマケは、松田先生のブログです。『「漁協と漁業」誌に載る「TAC真理教」とは』です。http://d.hatena.ne.jp/hymatsuda/で読むことができます。小子がもっとも感心したくだりだけ抜粋させてもらうと;

マサバの資源管理の必要性は1992年と1996年のマサバ太平洋系群の卓越年級を過剰に漁獲したことの失敗を数字で示したことで*1、やっと、まき網の漁業者も認めだしたことだと思っています(それはたいへんよいことです)。しかし、彼らはまだマイワシの資源管理の必要性は認めていない。その理由がわかりかけてきました。TACを守らなかったせいとは思っていないということですね。

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