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桜本文書を解読する その3

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致命的な「基本概念の誤り」
61 ページでは、「現行の我が国の水産資源の管理は、ABCを算定し、漁業の経営その他の事情を勘案してTACを決定している。しかしながら、科学的根拠に社会経済的要因を加味することは、科学的根拠をないがしろにし、それ故、水産資源の悪化と乱獲(過剰漁獲)の悪循環を助長しているといえる」と述べている。すなわち、上記の記述はTACが社会的・経済的要因を加味して決定されること自体を否定している。しかし、社会的・経済的要因を加味しTACを決定すべきことは、TAC法にも明記されており、漁業生物資源の管理を考える際の至極当然な考え方である。例えば、サンマ資源は資源量が極めて大きく、ABCは 200万トン近い。規制改革会議はサンマについても、社会的・経済的要因を加味することをよしとせず、TACャを200万トン近く(2008年TACの約 4.5倍)に設定すべきと主張するつもりだろうか?
サンマの例もさることながら、経済的要因を一切考慮することなく、生物学的に妥当と思われる ABCを計算し、その値をTAC とすることが、「科学的根拠に基づく資源管理の徹底になる」という考え方自体が、根本的に間違がえている。なぜなら、規制改革会議が「科学的根拠」として取り上げているABCの値自体がそもそも合意事項であって、科学的に1つの値が決定できるといった性質のものではないからである。実はこのことを正しく理解している研究者は意外と少なく、そのことが今日の混乱を助長させている大きな要因にもなっている。このことは極めて重要であるので、以下に簡単に説明しておこう。

この文章の是非を論じる前に、ABCの基本についておさらいをしておこう。
法定速度が60kmの道路は、60km以下で走れば良いわけで、
別に60kmぴったりで走らなければならないわけではない。
ABCは法定速度のようなものであり、必ずしもABCぴったりまで漁獲をする必要はない。
0~ABCの間で、社会経済的な要素を考慮してTACを決めればよいのである。
現に日本をのぞく世界中では、そのようになっている。

科学的根拠を遵守するというのは、TACをABC以下に抑えると言うことであり、
サンマのTACは、ABCを遵守しているので問題はない。
問題はサンマ以外の資源である。
水産庁は、サンマ以外の全ての資源に対して、ABCを上回る過剰なTACを設定してきた。
「社会的・経済的要因」を口実に、漁業者から言われるままに、
非持続的なTACを設定してきたのである。
特に、低水準資源ほどABCを過剰に上回るTACが設定されている。
たとえば、激減しているマイワシ太平洋系群には、
2001年、2002年とABCどころか資源量を上回る漁獲枠が設定されていた。
現在、資源崩壊に向かっているスケトウダラ日本海北部系群に関して、
今後15~20年にわたり現状の親魚量を維持する漁獲量が4.6千トンというアセスメントの結果が得られた。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests19/html/1910.html
それに対して、水産庁の設定したTACは18.0千トンである。
科学的アセスメントを無視して、資源量を現状維持できる漁獲量の何倍もの漁獲枠を、
まともな国ならとっくに禁漁をしているような低水準資源に対して設定しているのだ。

そもそもABCを大幅に上回るTACを設定するのは、TAC制度の根幹に関わる大問題である。
TAC制度のパンフレットには、「水産資源の適切な保存・管理を行うための制度です」とかいって、
過剰な漁獲枠を設定しているのは、納税者に対する裏切り行為だろう。
明らかに持続性に反するTAC設定をするならば、その理由をきちんと公開した上で、
国民の理解を求めるのが筋ではないだろうか?
水産庁および水産政策審議会は、社会的・経済的な要因を理由に、
ABCを遙かに上回る漁獲枠を設定している現状について、きちんと説明をする義務があるはずだ。
不都合な過剰漁獲には何もふれずに、例外的にABCを守れているサンマをとりあげて、
「ほら、どこに問題があるんだ」と居直るというのは、明らかに誠意に欠ける。

「漁業者が獲りたがっているから、明らかに非持続的なTACを設定することが至極当然だ」と主張するのが、
日本のお粗末な現状である。
社会経済的な要素を勘案したからといって、ABCを超えてTACを設定して良いことにはならない。
「遅刻しそうで、急いでいるから」などの理由で、制限速度を超えて良いことにしていたら、
実質的に速度規制が無いも同然だろう。
日本の水産資源も管理されていないも」同然なのだ。

規制改革会議はサンマについても、社会的・経済的要因を加味することをよしとせず、
TACャを200万トン近く(2008年TACの約4.5倍)に設定すべきと主張するつもりだろうか?

ABCは、社会経済的な要素を排除して、生物の持続性の観点から漁獲量の上限を定めたものである。
その定義に照らし合わせれば、200万トン獲っても資源の持続性に問題がないなら、
ABCは200万トンにするのが当然だろう。
ただ、ABCが200万トンだからといって、必ずしも200万トン獲る必要はない。
TACは社会経済的要素を加味して60万トンとしても、何も問題はないのである。
重要なことはABC≧TACであることなのだ。
問題なのは、本来のABCの定義を無視して、ABCをつかって出荷調整の道具にしていることだ。
値崩れを防ぐための出荷調整は、TACかもしくは業界団体の自主規制でやるべきである。


規制改革会議は、資源の低下に歯止めがかからない現状を問題視しているのだから、
ABCの倍以上のTACが設定されているスケトウダラ日本海北部系群や、
ABCはおろか資源量を超えるようなTACが設定されていたマイワシのことを批判しているのは自明だろう。
ただ、指摘されたように、規制改革の原文は、社会経済的な要素を考慮すること自体を否定しているように読める。
0~ABCの範囲で、社会的・経済的な要因を考慮してTACを設定することには問題はない。
ABCの超過を問題していることを明確にするように、文面を修正した方がよいだろう。

元の文章:
科学的根拠に社会経済的要因を加味することは、科学的根拠をないがしろにし、それ故、水産資源の悪化と乱獲(過剰漁獲)の悪循環を助長しているといえる

修正案:
社会経済的要因を理由に、科学的根拠をないがしろにした過剰な漁獲枠が設定され、それ故、水産資源の悪化と乱獲(過剰漁獲)の悪循環を助長しているといえる

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