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水産基本計画(4) 海の中は無視ですか、そうですか

  • 2006-09-18 (月) 17:25
  • 研究
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水産基本法は、漁業の現実を無視しており、実現性がないのは明らかだ。
なぜ、このように非現実的な計画が国策となったのか、その原因を探ってみよう。

水産業は、資源→漁獲→流通→消費というような流れ構造になっている。

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資源を漁獲して港に持ち帰るまでが海の中のプロセス。
港に水揚げされてから胃袋に収まるまでが陸上のプロセスとなる。
また、資源は生態系であり、漁業・加工・流通・需要は人間社会に属する。

さて、この一連の流れの中で、どこに問題があるかを整理してみよう。
現在、水産物に対して、大きな需要がある。
水産物に需要はあるが、生産が追いつかないので輸入に頼らざるを得ないのだ。
流通、加工、漁獲能力は充分にある。
現在の資源の生産力からすると、多すぎるぐらいだ。
強い需要を背景に、過剰な漁獲をかけ続けた結果、資源を枯渇させてしまった。
それが漁業が行き詰まった原因なのだ。
需要、加工、流通、漁獲ではなく、資源が漁業生産を制限する要因となっている。
漁業が衰退する根本原因は、海の中の生態系の問題である。

1)水産庁の資源軽視
水産基本計画は、すべて官僚が考えたものであるが、
基本的に水産庁の人は海の中のことを知らない。
ある程度は実務に関わっている資源管理課ですら
資源に対して無知な現状を考えれば、その他の部署の人も推して知るべしだ。
水産庁が発足した1948年当時は、資源はあるし、需要もあるが、
漁獲手段がないという状況であった。
水産庁は、漁業者が漁獲を増やすのを援護するために作られた組織である。
今でもそれが自分たちの役割だと思っている。
陸上の人間社会の利害関係を整理すること以外には関心が低い。
海の中の問題(資源の枯渇)を、人間社会の問題として捉えるところに、
水産庁の根本的な限界がある。

2)委員会の人選の偏り
水産基本計画には、当然ながら、外部の人間も関わっている。
外部の専門家で作る委員会が基本計画に関する審議を行っているのだ。
外部の委員には、基本計画の問題点を明らかにして、
方向修正をさせる役割があると思うのだが、
現状では充分に機能していないようだ。
その理由は、委員のメンツを見るとよくわかる。
人間の問題を扱う専門家ばかりで、海の中の問題をあつかう人がいないのだ。

水産基本計画の見直しに関する中間論点整理(案)の最後に委員名簿がある。
まず、小委員会が「経営」と「加工」しかないというところからして、ダメっぽい。
消費者団体代表、漁協の偉い人、さかなクン、および、大学関係者。
大学関係者は、経済学やコミュニティーが専門の文系ばかり。
唯一、海の中を専門とするのは長崎大の山口さん。
ただ、山口さんは鮫の生態が専門で、漁業とか資源管理の研究者ではない。

研究者としては一流の人ばかりだが、分野が偏りすぎているので、
専門分野外の資源枯渇や乱獲といった海の中の問題に対応しきれない。

資源は獲りきれないぐらいあって、漁獲能力も十分にある。
でも、魚が高く売れない。
そういう状況だったら、現在の人選は素晴らしいと思う。
そんな資源は、サンマぐらいだろう。

ちなみに、議事録はここで見ることができる。
案の定、海の中の資源の話は殆どなく、価格や消費の話に終始している。
このメンバーなら、そういう話題になるに決まっている。
そんな中で、漁業協同組合の矢野特別委員の発言はなかなか的を射ている。

多分、現場サイドから出ているのは私ぐらいじゃないですかね。
一応、漁業協同組合の組合長をやっております。 
その観点から言いますが、今の水産基本法というのは、
まるっきり基本からなっていませんね。

有効な手立てがあるかといったら何もやらないで生産量だけふやせと、
そんな虫のいい話はないですよ。

漁業の現場を知っている人に受け入れられるような代物ではないのだ。

3)人材はいないのか?
資源のことを理解できている人材が国内にいないわけではない。
議論に参加していないだけだ。
たとえば、水研センターの資源研究者は、
資源が低迷し、厳しさを増している現状を理解しているので、
さすがに漁獲量を増やせるとは思っていないだろう。
でも、彼らは基本法に関心がない。
「水産基本法?なにそれ」というノリだ。
無関心すぎるような気もするが、
委託された業務以外によけいな口出しはしないという処世術だろう。
本当のことを言うと、自分の立場が危うくなるので、お口にチャック。
君子危うきに近寄らずなのだ。
そういう文化が水研センターには蔓延していると思う。
そうやって組織にしがみついていても、
このまま漁業が衰退すれば組織自体が消滅するかもしれない。
そういう危機感はないのだろうか?

日本漁業では、太平洋戦争末期と同じことが起こっている。
どの戦場も戦況は悪く、戦線は着実に後退し続けている。
戦略に大きな誤りがあるのは、現場を知るものなら誰の目にも明らかだ。
しかし、現場で戦況の悪化を肌で感じている人間の意見は、
国策にフィードバックされないのだ。
戦況が厳しさを増す中で、大本営は非現実的な右肩上がりの政策を発表する。
高らかと鳴り響く進軍ラッパの音に、空虚さは隠しようもない。
こうして、軍の指導者たちは国を滅ぼしたのだ。

現在の日本漁業は、資源枯渇が原因で沈没しつつある。
それでも、生物資源の枯渇という根本的な問題に目を向けずに、
従来の人間社会の問題を扱う手法で何とかしようとあがいている。
経営とか、加工とかでなんとかしようという現在の水産庁の対応は、
沈みつつあるタイタニックでデッキチェアーを整えるようなものだ。
問題の本質から目をそらし、表面的に取り繕っているだけである。

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