- 2006-09-25 (月) 14:52
- 研究
水産基本計画にも、自給率を65%まで上げるという目標があるように、
計画というものは、なんらかの目標を達成するために存在します。
計画の中身を決めるに当たっては、目的達成に寄与する政策をリストアップし、
それぞれの政策にプライオリティーをつける必要があります。
その上で、重要度が高いものから実行していくのが普通のやり方です。
予算が不十分なら、プライオリティーが低い施策から切っていき、
目標達成に必須な施策を残すことになる。
限られた予算で目的達成率を最大にしようと思ったら必ずこうなります。
例えば、上図の例で行くと、
限られた予算で目的達成率を最大にするように、
予算が少なければ重要度が低い施策Eから切ります。
目的達成に必至な施策Aと施策Bはなんとしても死守します。
水産基本計画が、自給率を上げるためのプランであれば、
必ず、こういうスタイルになるはずなんです。
当ブログのコメント欄がきっかけで興味深い発言を見つけました。
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/minute/180629.htm
これは、水産政策審議会企画部会で、「具体策はないのか?」という質問への解答。
坂井企画課長 「先ほど委員長から話がありましたように、この審議会、秋以降もまた行っていく、これまで御議論をいただいている目的は水産基本計画、新たな計画を来年3月につくるということで、そういった意味では水産施策全体の基本的な方針を定める計画ですので、やはりある程度抽象的な面がございます。もちろん、具体化できるところはできる限り基本計画の中でも具体的に書いていくということが必要ですし、そういった方向で御議論いただいて努力をしたいと思いますけれども、他方、具体的な個別の施策ということになりますと、これは毎年の予算要求で行っている予算でしたら施策になりますので、それはまた現在ですと19年度の予算に向けて検討しておりますので、そこはそういった予算を基本計画に書くということではございませんので、そういった意味では方向性をどうやって示していくかという議論が中心になってくるということで考えていただきたいと思います。」
要するに「まだ来年の予算要求が通っていないから、
具体的な話はできないよ」ということなのです。
一般常識からすると、具体的な計画があって初めて、予算の見通しが立つはずです。
もし、基本計画が自給率改善のための計画であれば、
計画開始して5年目で、具体的な話ができないということはあり得ない。
この発言からも、自給率改善計画というより、
むしろ、庁内予算配分であることは明らかでしょう。
予算配分表を、自給率改善の計画書に変換するのは、大変な作業です。
そういう観点か見ると、「基本計画」は実に良く出来ています。
役人の文書作成能力の高さがうかがえます。
ただ、やはり自給率改善計画の皮をかぶった予算配分計画なので、
いろいろとボロが出ます。
最大の問題は具体的な話が出来ないことでしょう。
具体的なことを基本計画に記述すれば、
その施策には最低でもその分の予算を配らざるを得ない。
具体的な施策の話をするのは、予算につばをつける行為であり、
余所に先駆けて具体的な内容を発表するのはフライングなのです。
基本計画の目標が自給率になった理由はきわめて簡単です。
例えば、資源回復を目的にすると、特定の部の縄張りに業務が集中してしまい、
明らかに資源回復と関係のない事業の記述が難しくなる。
水産基本計画から、事業に関する記述が抜かれたら、
それは予算打ち切りを意味するわけで、死活問題です。
全ての既存事業を盛り込みやすいように自給率を目標にしたのでしょう。
これが、「玉虫色」という奴ですね。
基本計画が、縦割り組織の縄張り争いの産物である以上、
基本計画の内容は誰にも変えられないのです。
自分の縄張りの事業の作文を少し変えるぐらいがせいぜいでしょう。
変える権限など、誰にもないのだから、変わるはずがない。
漁業白書も、水産基本法も、水産基本計画も、
縄張り争いの結果の勢力地図としての側面があり、
同じような割合で、同じような施策が盛り込まれることになる。
水産庁の文章が、全部同じに見えるのは、そういう理由があるのです。
水産基本計画から事業に関する記述が抜かれたら、
それは予算打ち切りを意味するわけで、担当部局には死活問題です。
そういう部分には、水も漏らさぬ配慮がなされていることでしょう。
その一方で、数値目標が達成できるかどうかは、全く考慮されていない。
一応、自給率65%という目標を出したなら、
それにむけて努力をしているポーズぐらいはしてほしい。
ゴールがどんどん遠ざかるのは、まずいと思ってほしい。
少なくともまずいと思っているポーズぐらいしてほしい。
あまりにも危機感がないのです。
なぜ、危機感がないか?
誰もつっこみを入れないからでしょうね。
水産基本計画は、自給率向上計画としては破綻しています。
それは少し考えればわかるんです。
でも、だれもそのことにつっこみを入れない。
メディアも取り上げないし、漁業者はあめ玉的な政策を望むばかり。
こういう状況で「危機感を持て」という方が無理でしょう。
- Newer: 水産庁は風車であって、扇風機ではない
- Older: 水産基本計画(7) その正体は水産庁基本計画
Comments:0
Trackbacks:0
- Trackback URL for this entry
- http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=97
- Listed below are links to weblogs that reference
- 水産基本計画(8) 計画と勢力図の違い from 勝川俊雄公式サイト