- 2006-09-20 (水) 17:58
- 研究
水産庁による「見直し案」を検証する
上の図を見ればわかるように、水産基本計画に於いて、
「今後10年間、漁獲量を増やします」という目標を立てた。
計画半ばの5年目にして、目標に近づくどころかますます遠ざかっている。
基本計画に何らかの問題があるのは間違いないだろう。
水産庁は、基本計画の見直しを行い、中間論点整理を公開した。
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/doc/180725.htm
いったい、どこがどう改善されるのだろうか?
水産庁による見直しの内容を検証してみよう。
目標達成度の検証
水産基本計画の変更についての中間論点整理
① 水産物(食用魚介類)の自給率の検証
ア我が国漁業の持続的生産目標
食用魚介類の生産量は、近年は下げ止まり傾向が見られるが、増加には 転じていない。現状のまま推移すれば持続的生産目標の達成は厳しい状況 にある。
生産量の変化を部門別にみると、沿岸漁業(養殖業含む)はほぼ横ばい、 遠洋・沖合漁業は減少が続いているが、生産量や資源の状況は漁業種類や 魚種によって異なることから、より詳細に、具体的には漁業種類や魚種に 着目して生産量の推移や生産目標との関係を分析することが必要である。
「減ったから、その内訳を分析してみよう」では、お話にならない。
詳細な分析をするのは当たり前で、その上で問題点を特定して、
改善案を出していかなければ、見直しとは言わない。
具体的に何をどう改善するかというビジョンが無い。
生産量は下げ止まりという認識は、甘すぎるだろう。
近年、減少率が緩やかになっているのは、
90年代に急激に減少したマイワシの漁獲が殆どゼロになっただけである。
マイワシを除く漁獲量のトレンドは、30年間殆ど変わっていない。
新たな対策は?
現状では目標達成は厳しい状況。
では、政策をどのように変更するかを見てみよう。
4.政策改革の方向性
(1) 水産資源の回復・管理の推進
科学的知見に基づく水産資源の保存・管理、回復を着実に実施するとともに、我が国の排他的経済水域等の水産資源の基礎生産力の向上に集中的に取り組むこと、藻場・干潟の減少や沿岸域の漂流・漂着ゴミ問題、磯焼け問題の深刻化に対応して、早急な対策を講ずることが必要である。① 我が国の排他的経済水域等における資源管理
我が国周辺水域の水産資源の多くが低位水準にある状況を踏まえ、種苗放流、休漁・漁獲制限や漁場環境の保全といった手法を活用した資源回復・資源管理の取組を積極的に推進していくことが必要である。併せて、漁船漁業の構造改革を進め、資源状況に見合った生産体制の再編を進めることが必要である。また、水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進することが必要であり、このような観点からできる限りわかりやすい形で情報提供を行うことが重要である。
どこかで読んだような文章が続き、どこがどう改善されたのか全くわからない。
こういう文章では、オリジナルにどういう問題点があって、
そこをどう変更したかを書く必要があると思うのだが。
仕方がないから、オリジナルの水産基本計画と中間論点整理の比較表を作ってみた。
オリジナル
- 漁獲量及び漁獲努力量の管理により資源の回復を図る
- 積極的な種苗放流の推進
- 魚礁の設置、増殖場の造成等により資源の培養を図る
- 漁場環境の改善を図る
見直し案
- 種苗放流
- 休漁・漁獲制限や漁場環境の保全といった手法を活用した資源回復・資源管理の取組
- 資源状況に見合った生産体制の再編
- 水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進する(情報提供)
あれ?どこが変わったの?
変更点の整理
種苗放流の順位が上がっている。
見直し案の2は、オリジナルの1と4を組み合わせたものである。
見直し案の3は、努力量の管理のことであり、オリジナルの1に含まれる。
順位や語句の入れ替えがメインであり、大きな変更は無い。
「魚礁の設置、増殖場の造成等により資源の培養を図る」が無くなった。
水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進する(情報提供)が増えた
見直し案 = 元の基本計画 - 資源の培養 + 情報公開
ということになる。
この変更によって、目標を達成できるかどうかを考えてみよう。
種苗放流の効果が限定的であることは、すでに述べた。
資源管理や努力量の削減は重要だが、まじめにやれば漁獲量は確実に下がる。
情報公開も重要なテーマだけど、漁業生産の増加には寄与しない。
ということで、見直し案を実行したら、漁獲量は減る。
当初の目標である682万トンなど、夢のまた夢だろう。
総評
「現状のまま推移すれば持続的生産目標の達成は厳しい状況にある」
という状況にもかかわらず、実効性のある対策は無きに等しい。
以前の基本計画と同じことを、表現を変えて書いてあるだけだ。
この見直し案は、期待できない。
恐らく今までと同じように資源も漁獲量もズルズルと減り続けるだろう。
水産行政の柱の基本計画が破綻しているのに、危機感が無さ過ぎる。
水産基本計画って、達成できても出来なくても、どうでも良いものなの?
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Comments:4
- 匿名で甘えさせてもらっているヒトです。 06-09-21 (木) 0:27
-
ここんトコの氏のブログは,近年の資源管理の問題点というか,水産行政の現況というか,それらが極めて分かりやすく整理されていて,思わず,うなずきながら読んでます。
いやぁ,1位に『種苗放流』とは,農林水産省もやりますねぇ・・・
私は,放流効果を調べる仕事もしていますが,あれは,ヤバイですよ・・・氏も指摘していた通り・・・というか,それ以上,問題アリアリです。
種苗放流の対象となる魚種は,種苗生産が可能となった魚種というのが現実であり,その放流結果は惨憺たる魚種もあります。また,長く放流事業を行っている魚種についても,じつは,ちゃんとした放流結果を把握していないで,だらだら撒き散らかしている感じの否めない魚種も・・・
そこには,『放流すれば増えるんだべ』と安直に考える(いや,そう思いこまされた)現場漁業関係者や箱物を作ったからには種苗生産しなければとする現場および行政・・・さらに始末が悪いのは,放流効果も定かではない状況でありながら,『行け行けバンバン!』で補助金漬けて,放流事業を推進させながら,最近は『受益者負担』のお題目で,無責任に目をそむけようとする国と都道府県・・・まるで,はしごをかけて登らせて,あがりきったところで外すかのごとくに・・・間違いなく儲かるのは,施設屋さんと餌料屋さんかしらん・・・資源管理も放流事業も,基本的には極めて単純なはずなんですよね。
科学的な数値に基づいた目標設定と達成努力。ダメなものはダメ・・・無い袖(資源)は振れない(増えない&獲れない)・・・しかしながら,そこに『生活』がかかっている以上,『ないからダメ』では終われないのが辛いところだったりするわけで,その上,その辛い立場の人たち(漁業者ら)に甘言を呈しちゃったりして(種苗放流かな?;まるで,闇金融みたい・・・言い過ぎ ^^;),また,対案がないので,海の中は見えないから(不確実性があるから),獲らせても何とかなるんじゃない,なんて,霞ヶ関のデスクで思っちゃったりして・・・任期中は何の問題もおこらないコトを祈念して・・・これまた言いすぎ (^。^;)
11月22日のシンポでは,『合意形成』が論点になるとか・・・以前,氏は,このブログで『漁業者と行政との合意形成は簡単でしょ』みたいな話をしてましたが,今回は,現実,どんな話へと展開していくのでしょうか?
ちなみに,ホントの意味で合意するって,すっごい,難しいですね。正確に言うと,『理解し,行動する』ってコトですけど(この場合は,無理やり数値目標を都合の良いように変更させるっていうことではなく,ちゃんと,現実を理解するってことですけど・・・多分ちゃんと・・・)。総論賛成なんだけど,いざ,ってなると,作った種苗は(変でも)放流したいし,魚がいれば獲りたいし・・・
本当の最前線の方々(漁業者と漁業協同組合)が,資源管理の基準となる科学的数値とか,放流事業のメリット・デメリットなんかを正しく認識できるようになる社会教育が必要なのだと,痛烈に感じる今日この頃です。 - オニダルマオコゼ 06-09-21 (木) 1:22
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このグラフの「すう勢値」の引き方も,なんか意図的に,できるだけ低くならないようにしているとしか思えないですね。何で平成10年と11年の2年だけのデータをつないで延ばしていくのでしょうか?直近の数年間の傾向を延ばすほうが,「すう勢値」としては自然でしょうに。
- オニダルマオコゼ 06-09-21 (木) 1:27
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具体策がなくて,単に抽象的な文章を羅列しただけのように見えますが,それに対しては以下のような説明が議事録にありますね。
「先ほど委員長から話がありましたように、この審議会、秋以降もまた行っていく、これまで御議論をいただいている目的は水産基本計画、新たな計画を来年3月につくるということで、そういった意味では水産施策全体の基本的な方針を定める計画ですので、やはりある程度抽象的な面がございます。もちろん、具体化できるところはできる限り基本計画の中でも具体的に書いていくということが必要ですし、そういった方向で御議論いただいて努力をしたいと思いますけれども、他方、具体的な個別の施策ということになりますと、これは毎年の予算要求で行っている予算でしたら施策になりますので、それはまた現在ですと19年度の予算に向けて検討しておりますので、そこはそういった予算を基本計画に書くということではございませんので、そういった意味では方向性をどうやって示していくかという議論が中心になってくるということで考えていただきたいと思います。」
- 勝川 06-09-21 (木) 15:25
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匿名で甘えさせてもらっているヒトさん
>このブログで『漁業者と行政との合意形成は簡単でしょ』みたいな話をしてましたが,
>今回は,現実,どんな話へと展開していくのでしょうか?「先のことを考えて、今は少し我慢をしよう」というような、
長期的視野をもった合意形成はとても難しいです。
でも、漁業者も行政官も目先のことしか考えない点で同じなんです。
漁業者は、その日の生活で手一杯で先を考える余裕がない。
行政官は、自分がそのポジションにいる数年の間だけ、
現状が維持できれば、それでよいと思っている。今の合意形成は、
管理課「お前ら好きなだけ獲って良いぞ」
漁業者「わーい、ありがとう」
という感じ。
実際に、TACは漁業の妨げにならない水準に設定されているし、
それでも枠が足りなくなれば簡単に期中改定をしてしまう。
これでは、資源管理にならんのですよ。オニダルマオコゼさん
確かに、すう勢値は不自然ですね。
目標値とすう勢値が大幅にずれると非現実的だと思われそうだから、
すう勢値を水増ししたのかな?
結果として、実績値がすう勢値を大幅に下回ることになり、
後々責任を問われかねないのですが、
10年後にはこれを作った人たちはいまのポジションにいないから安泰です。>具体策がなくて,単に抽象的な文章を羅列しただけのように見えますが,
>それに対しては以下のような説明が議事録にありますね。これは「漁業生産を増やす具体策を教えてください」という質問への回答ですね。
「今後どういう行動をとって、それによってどの程度の成果が期待できるか」
ということを答えないといけないのですよ。
基本計画は、すでに動きだして5年も経つのだから、
何の具体策も提示できませんでは、お話にならないでしょう。
別に予算配分の詳細を明らかにしろなんて誰も言っていないのに、
具体的なビジョンがないものだから、論点をずらして逃げている。
国会答弁的手法ですね。そもそも、水産基本法が抽象論で、
基本計画はアクションプランという位置づけなのだから、
具体的な方策を盛り込む必要があるでしょう。
抽象論だけで良いなら、基本計画など不要です。
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