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漁業システム論 (2) 乱獲スパイラルと共有地の悲劇

  • 2006-10-07 (土) 20:50
  • 研究
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日本の漁業はシステムが破綻している。
システムとして破綻しているときに、
個々の漁業者がいくら頑張っても結果は出ない。
では、日本の漁業システムがどのように破綻しているかを見てみよう。

自由競争下の漁業は、必然的に乱獲になることが知られている。
システムとして、そういう傾向があるのだ。
自由競争下の漁業が破綻するメカニズムは、
「乱獲スパイラル」と「共有地の悲劇」の2つで説明できる。

乱獲スパイラル
ある漁業が、ひとたび乱獲状態に陥ると、そこから抜け出すのは至難の業だ。

  1. 資源が減少する
  2. 漁業者の収益が悪化する
  3. 利益を確保するために、漁獲率を上げる
  4. ますます、資源が減少する
  5. ますます、収益が悪化する
  6. ますます、漁獲率を上げる
  7. どうしようもなく、資源が減少する
  8. どうしようもなく、漁業者の収益が悪化する
  9. どうしようもなく、漁獲率を上げる

底なし沼のような乱獲スパイラルから抜け出すには、
資源が減ったときに漁獲圧を下げればよい。
この場合、収益がさらに悪化することになるため、
長期的なビジョンと、短期的な収益減少に耐える経営体力が必要となる。

乱獲スパイラルの地獄絵図

 漁獲率を上げて凌ぐしか、、、!
      ヽ(´Д`)ノ   \/\
       (   )        \/\
      /\< ヽ  \    /    \/\
    /    \  |  \  |\    /    \/\
    |\    /  .|       \  |\    /    \ /\ ますます資源枯渇
   / \ \/    |    ループ    \  |\   /    \/\
経営悪化  |    .|  して終らない       \|\    /    \/\
 |\    /|     |   ./(´Д`)               \|\    /    \
 |  \ //\      |\(∩∩)/|               \ /       \
 |   |/    \     |   \ /  .|    魚がいない!               >
 |   \    /|     |   |    |      ヽ(´Д`)ノ /  \        /  |
 |    \ /魚が捕れない・・        / (  ) \     \   /     |
 |      |/   \        /\ /    < ヽミ3\    /| /      |
 |      \    /ヽ(´Д`)ノ      \      \    /|/           |
 |        \ //\(  )  \     \     /|  /               |
 |         |/    < ヽ   \    / | /                  |
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共有地の悲劇
 生物学者ハーディンは、1968年に、「共有地の悲劇(tragedy of the commons)」というタイトルの論文を発表した。生産力が限られた生物資源が自由競争に晒されると、必ず乱獲が起こるという理論である。
 漁業者は漁獲量を増やすことで、収益を増加することが出来る。その代償として資源の枯渇だが、その損害は全ての漁業者が均等に被ることになる。他人が獲りひかえているときに、抜け駆けをして根こそぎ獲ってしまうのが最も合理的になる。真面目に資源を残そうとした正直者がバカを見るだけなのだ。こういう状況では、我先にと枯渇した資源を取り尽くしてしまうだろう。全体の長期的利益と引き替えに、個人が短期的利益を追求できる場合、自由競争は機能しない。抜け駆けを防止するような、強制力を持った規制が必要になる。

共有地の悲劇=囚人のジレンマ
二人の囚人がいるとしよう。
二人共が自白をしなければ、取り調べの後に二人とも出所できる。
自分だけが相手を売れば、自分はすぐに出所できるが、相手は刑務所送り。
二人とも自白をすれば、二人とも刑務所送り。
検察が二人の囚人を別々に取り調べをすると、
高い確率で二人とも自白して、二人とも刑務所送りになる。
それぞれの囚人の行動とスコアを考えてみよう。

囚人A
黙秘 自白
囚人B 黙秘 4\4 0\5
自白 5\0 1\1

お互いに黙秘をすれば、合計の利益は最大になる。
囚人Aの個人的な利益を考えると、
相手が黙秘をしている場合には、
自分だけ自白をして抜け駆けをした方が、
個人的な利益を増やすことが出来る。
また、相手が自白をした場合にも、
自分だけ黙秘するするよりも、自分も自白した方が利益は増える。
つまり、相手の出方がどうであれ、自分は自白をした方が得になる。
このことは囚人Bにも言えるわけだ。
二人の囚人は、自分個人の利益を考えて、自白をする。
その結果、二人の利益の合計が最低になるシナリオが選ばれてしまう。
これを囚人のジレンマという。
黙秘を資源管理、自白を乱獲と置き換えれば、共有地の悲劇も全く同じ構図になる。 

自由競争漁業のシステムとしての限界
ひとたび乱獲に陥ると、乱獲は加速度的に進行する(乱獲スパイラル)。
資源を利用する漁業者の間に利害の対立がある場合には、
乱獲状態から抜け出すのは不可能である(共有地の悲劇)。
今の日本のように漁業者の自由に任せておいたら、
資源が枯渇して産業が成り立たなくなるということは、
俺が産まれる前にわかっていたのだ。

Comments:4

beachmollusc 06-10-08 (日) 5:07

ずいぶん古典的・理論的なお話ですね。現場の漁業者が読んだらどのように反応するか、見たいものです。
共有の悲劇のもと自由競争で資源枯渇が起こることは経験済み・自明なので、昔から地域社会で相互規制、監視体制が作られたのが日本の漁村社会の特徴でした。

日本独自の悲劇は、私が見ている限りでは、沿岸水産資源の再生産の場である浅海域の徹底的な環境破壊です。

勝川 06-10-08 (日) 22:26

環境破壊が重要な問題であるというのは、その通りだと思います。
一方、日本の漁村社会では相互規制、監視体制があるので
資源の枯渇が起こりえないという説は、現実とかけ離れています。
むしろ、この説に対する現場の人間の反応をきいてみたいものです。

日本漁業はコミュニティーがあるから乱獲は起こらないという説は、
資源管理をしない言い訳として、大昔に利用されたものです。
水産庁は強制力をもつような管理をしたくなかったのです。
だから、漁業者の自主性に任せる資源管理型漁業を打ち出しました。
そのときの口実に使われたのが漁村コミュニティー万能神話です。
資源管理型漁業に効果がなかったことは、歴史が証明しています。

漁業者の自主性に任せれば上手くいくという神話は完全に廃れました。
私自身、最後にこの説を訊いたのは何時だか思い出せないぐらいです。
一時期はかなり広まった説ですので、今でも信じている一般の人はいるでしょうが、
研究者や漁業関係者でこの説を(本気で)支持する人はいないでしょう。

地域コミュニティーさえあれば、
過剰漁獲は起こらないというような単純なものではありませんが、
地域コミュニティーが資源管理において重要であることは確かです。
実際に機能している資源管理は、地域コミュニティーを上手く利用しています。
地域コミュニティーを利用した管理システムをつくるために、
現場系の研究者の活躍を期待したいところです。

匿名で甘えさせてもらっているヒト 06-10-10 (火) 23:05

自主的管理が間違いなく巧くいくのは,「お金になる魚種の資源が豊富にあり,漁業権によって自分たちだけが利益を享受できる」ことを漁業者がしっかりと認識している場合です。

とある漁協の例ですが,そこでは資源量調査もしっかり行っていて(ただし,我々のような者が入っていないと,なかなかちゃんとしたものはできないのですが・・・漁協も「技術者」を育て,雇うほどには,経営的に楽ではないみたいで),その数値を基に,自分たちで漁獲量の規制,漁場の選定,期間等々を決めて,確実に守ります。決まりを破ると,きっついペナルティーが科せられます。うっかりすると,年収の半分くらいは失いかねない程の罰則なので,これはもう,マジなのがよく分かります。
勉強会とかが開かれたりする場合も,少なくとも1~2割くらいは,一番前に陣取ってすっげぇマジメに話を聴いてくれる上,後ろで雑談している連中に「うるせぇーぞ!,お前ら!!!」くらいのコトは普通に言ってくれます。彼らが資源管理に取り組む強力な推進者,中心的存在となっているのでしょう。

ところが,面白いのは,同じ様な魚種が漁獲対象となっている隣の漁協は,結構,ちゃらんぽらんだったりするコトです。こういう所は,港湾整備等で漁業権が消失してしまっていたり(ちゃっかり,補償金は各人の懐に入ってる),何故か資源量が今一つパッとしなかったりするんです。一応,自主規制は敷いていても,まぁ,守らないですね。漁協の指導力もかなり低かったりもして,「あんまり強く言うと,水面下で取引されちゃうからさ」みたいな諦めモードです。
資源量が隣の浜に比べて少ないのは,明らかに乱獲状態にあるためですが,元々はあまり条件が変わらなかったりするはずなのに・・・そこいら辺,それぞれの浜々で,風土が違うんでしょうね・・・距離的には近いのに不思議です。

『運命共同体』『利益の享受』『明るい将来展望』・・・そして『危機意識』
このことが分かっているか,いないかが,決め手です。もちろん,その背景には,豊かな資源があることは言うまでもありません。

また,隣同士でも,上述のとおり,浜は様々です。一朝一夕に『コミュニティー』を活用するのは難しいものがあります。その上,コスト重視の漁協合併によって。一つの漁協の中に様々『コミュニティー』が混ざり合ってしまいました。それを漁協という組織がまとめあげるのは,さらに,困難になっていくのではないでしょうか。

勝川 06-10-13 (金) 1:29

最低限、必要な条件として、
1)収益が期待できる資源を自分たちだけで抱え込めていて、
2)漁業者の意識が高く、
3)漁業者から信頼されている有能な現場研究者
うーむ、コミュニティーベースの管理は、ハードルが高いですね。
ただ、そのハードルを跳ばない限り、現状では管理は無理っぽい。
沖合と沿岸の競合とかがある資源は国が絡まないとどうにもならないけど、
現在の国のTAC制度ではね・・・
結局、沿岸のごく一部の資源しか、管理できる状況にないのだろう。

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